お話

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シュタークスミス博士の大発明 19 ―産めよ、殖やせよ―

2008年10月30日 | シュタークスミス博士(一話完結連載中)
「大発明だ!」シュタークスミス博士は叫んだ。「これで少子化問題は解決だぞ!」
 博士の発明したものは、巨大な加湿器のようなものだった。しかし、噴霧口からは水蒸気ではない。博士が様々なブレンドを繰り返して完成した香りが流れるのだ。
「これは愛情と言う感情と、子孫繁栄と言う本能とを同時に刺激する香りを醸し出す機械なのだ。この香りで鼻腔をくすぐられた男女は、たちどころに恋をし結ばれる。そして、結果として子供が産まれる事となる。なんとも素晴らしい話ではないか!」
 博士は研究室の窓を開け、戸外に噴霧口を向けて機械を作動させた。低い振動音を立てながら、甘く柔らかな香りが漂い始めた。
 道行く男女は立ち止まり、互いを微笑みながら見つめ合った。そして、寄り添い合いながら何処ともなく去って行く。そんな風に幾組ものカップルが誕生した。
「うんうん、これは来年が楽しみだ」博士は大きくうなずいた。「ベビーカーが行ったり来たりする光景が今から目に浮かぶぞ」
 年が明けた。博士は、そろそろのはずと窓の外を見続けていたが、一向にベビーカーは通らない。市役所に問い合わせると、犬や猫の子は増えたが、新生児が目立って増えてもいないと言う返事だった。
「うーん、犬や猫にしか効かないんじゃ、実験は失敗か・・・」
 博士はつぶやいた。
 実を言えば、香りは効き目があったのだ。しかし、子供を取り巻く現在の環境、子供の将来への不安、成長までにかかるお金など、色々な問題が、睦まじくなったカップルをおそったのだ。
 香りは感情と本能に働きかけたが、理性までは届かなかったのだ。それほど、今の世の中は、子供には厳しいものなのだ。


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