不意にくぐもったようなブザー音が聞こえた。同じ間隔で鳴り続けている。ミュウミュウが、はっとしてスラックスのポケットから小さな装置を取り出した。ブザー音が大きくなった。ジェシルは怪訝そうな顔をミュウミュウに向ける。
「……ああ、これは呼び出しの装置です。リタ様からの」ミュウミュウは言うと音を止める。「目が覚めたようですね……」
ミュウミュウは足早に出入り口へと向かう。
「わたしも行こう」オーランド・ゼムが言う。「目覚めたのなら、リタの傍に居てやろうと思う。昔話でもしよう」
「リタ様、きっとお喜びになりますわ」ミュウミュウが答える。「では、ご一緒に……」
オーランド・ゼムとミュウミュウはコックピットを出て行った。
「……やれやれ……」ジェシルはふっと息をつく。「リタもミュウミュウも、いつの間にか互いが付き添いあっているって感じねぇ……」
「そうなのか?」ハービィがぎぎぎと音を立てながら頭をジェシルに向ける。「付き添う者と付き添われる者ではないのか?」
「人って、面倒なものなのよ」ジェシルは言うと、ふっと笑む。「でも、そう言う所が人なんだと思うけどね」
「人ってそう言うものなのか、ハニー?」ハービィはそう言うと動きが止まった。壊れたのかと不安になってきた頃に、やっと動き出した。「……色々と計算してみたが、わがはいには全く理解が出来ない」
「ま、そこがわたしとあなたとの微妙な違いなのよ」
「人とアンドロイドの違い…… やはり、理解が出来ない……」
ハービィは言うと頭を戻した。理解できないものは理解できないものとして納得したのだろう。ハービィは黙って宇宙船を操縦している。
ジェシルはハービィのすぐ後ろの席に座ったが、後ろの席で寝ているアーセルのいびきと酒臭さに居たたまれなくなってきた。
「……アーセルって、いつまで寝ているつもりなのかしらね」
「わがはいが覚えている限りでは、酒を飲む時以外は寝ているな」ハービィは操縦しながら答える。「年を取ると、皆そうなるのか?」
「人それぞれなんじゃない? オーランド・ゼムは違うでしょ?」
「なるほどな」ハービィは納得する。「ハニーはどっちのタイプだろうな? アーセルタイプか、オーランド・ゼムタイプか……」
ハービィの動きが止まった。ジェシルは椅子から立ち上がり、ハービィの肩をぽんと叩いた。ハービィはぐぎぎと音を立てて動き出した。
「あのね、そんなつまらない、無駄な事は考えないで、ちゃんと操縦してよね」ジェシルは口を尖らせる。「それに、わたしにはまだまだ先の話だわ」
「わがはいの感覚からすれば、ほんの一瞬なのだよ、ハニー」
「……まあ、良いわ」ジェシルは溜め息をつく。ハービィと話していても埒が明きそうにない。「わたし、この制服を洗って来るわ」
「そうかい、ハニー」急な話題転換にも何も疑問を持たないハービィだった。「それならば、キャビネットの中の宇宙一優秀なベスマル社製の高級洗剤『スマリアン』を持って行くと良い」
「あなた、ベスマル社の回し者なの?」
「どうしてそんな事を聞くのだ?」
「宣伝みたいな言い方をするからよ」
「そうではない。実際に汚れが良く落ちるのだ、ハニー」
「分かった、分かったわ」……やっぱり話していても埒が明かないわ。ジェシルは苦笑する。「洗濯機の場所は分かっているから」
「乾燥機付きだから便利だよ、ハニー。仕上げの終わった頃にはムレイバ星に着いているだろう」
「あら、意外と近いんじゃない!」
「超高速で進むのだよ。通常だと五年は掛かる」
「そう…… でも、超高速に絶えられるの? 年季の入った宇宙船だけど?」
「安心しろ、ハニー。わがはいはハニーを守るのだ」
「じゃあ、お任せするわ」
ジェシルは言うと、キャビネットから洗剤を取り出し、コックピットを出た。そのまま格納庫へと向かう。
「……たしか、格納庫のすぐ近くに、おばあちゃんの部屋があったのよねぇ」
ジェシルは独り言を言って、ドアの前で足を止めた。ドア越しに何やら話している声が聞こえる。声の感じから、オーランド・ゼムとミュウミュウ、リタたちと知れた。時折、笑い声がする。昔話でもして、昔を懐かしんでいるのだろう。ジェシルは優しく微笑むと、ドアの前から離れて格納庫へと向かった。
つづく
「……ああ、これは呼び出しの装置です。リタ様からの」ミュウミュウは言うと音を止める。「目が覚めたようですね……」
ミュウミュウは足早に出入り口へと向かう。
「わたしも行こう」オーランド・ゼムが言う。「目覚めたのなら、リタの傍に居てやろうと思う。昔話でもしよう」
「リタ様、きっとお喜びになりますわ」ミュウミュウが答える。「では、ご一緒に……」
オーランド・ゼムとミュウミュウはコックピットを出て行った。
「……やれやれ……」ジェシルはふっと息をつく。「リタもミュウミュウも、いつの間にか互いが付き添いあっているって感じねぇ……」
「そうなのか?」ハービィがぎぎぎと音を立てながら頭をジェシルに向ける。「付き添う者と付き添われる者ではないのか?」
「人って、面倒なものなのよ」ジェシルは言うと、ふっと笑む。「でも、そう言う所が人なんだと思うけどね」
「人ってそう言うものなのか、ハニー?」ハービィはそう言うと動きが止まった。壊れたのかと不安になってきた頃に、やっと動き出した。「……色々と計算してみたが、わがはいには全く理解が出来ない」
「ま、そこがわたしとあなたとの微妙な違いなのよ」
「人とアンドロイドの違い…… やはり、理解が出来ない……」
ハービィは言うと頭を戻した。理解できないものは理解できないものとして納得したのだろう。ハービィは黙って宇宙船を操縦している。
ジェシルはハービィのすぐ後ろの席に座ったが、後ろの席で寝ているアーセルのいびきと酒臭さに居たたまれなくなってきた。
「……アーセルって、いつまで寝ているつもりなのかしらね」
「わがはいが覚えている限りでは、酒を飲む時以外は寝ているな」ハービィは操縦しながら答える。「年を取ると、皆そうなるのか?」
「人それぞれなんじゃない? オーランド・ゼムは違うでしょ?」
「なるほどな」ハービィは納得する。「ハニーはどっちのタイプだろうな? アーセルタイプか、オーランド・ゼムタイプか……」
ハービィの動きが止まった。ジェシルは椅子から立ち上がり、ハービィの肩をぽんと叩いた。ハービィはぐぎぎと音を立てて動き出した。
「あのね、そんなつまらない、無駄な事は考えないで、ちゃんと操縦してよね」ジェシルは口を尖らせる。「それに、わたしにはまだまだ先の話だわ」
「わがはいの感覚からすれば、ほんの一瞬なのだよ、ハニー」
「……まあ、良いわ」ジェシルは溜め息をつく。ハービィと話していても埒が明きそうにない。「わたし、この制服を洗って来るわ」
「そうかい、ハニー」急な話題転換にも何も疑問を持たないハービィだった。「それならば、キャビネットの中の宇宙一優秀なベスマル社製の高級洗剤『スマリアン』を持って行くと良い」
「あなた、ベスマル社の回し者なの?」
「どうしてそんな事を聞くのだ?」
「宣伝みたいな言い方をするからよ」
「そうではない。実際に汚れが良く落ちるのだ、ハニー」
「分かった、分かったわ」……やっぱり話していても埒が明かないわ。ジェシルは苦笑する。「洗濯機の場所は分かっているから」
「乾燥機付きだから便利だよ、ハニー。仕上げの終わった頃にはムレイバ星に着いているだろう」
「あら、意外と近いんじゃない!」
「超高速で進むのだよ。通常だと五年は掛かる」
「そう…… でも、超高速に絶えられるの? 年季の入った宇宙船だけど?」
「安心しろ、ハニー。わがはいはハニーを守るのだ」
「じゃあ、お任せするわ」
ジェシルは言うと、キャビネットから洗剤を取り出し、コックピットを出た。そのまま格納庫へと向かう。
「……たしか、格納庫のすぐ近くに、おばあちゃんの部屋があったのよねぇ」
ジェシルは独り言を言って、ドアの前で足を止めた。ドア越しに何やら話している声が聞こえる。声の感じから、オーランド・ゼムとミュウミュウ、リタたちと知れた。時折、笑い声がする。昔話でもして、昔を懐かしんでいるのだろう。ジェシルは優しく微笑むと、ドアの前から離れて格納庫へと向かった。
つづく
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