ジャンセンは床に羊皮紙を置いて、腕組みをすると、ぶつぶつ言いながら考え込んでしまった。ジェシルはまたうんざりする。……こうなると、ジャンって動かなくなっちゃうのよねぇ。いいわ、放っておいて戻っちゃおう。お腹も空いちゃったしさ。ジャンはお弁当を持ってきているみたいだし…… ジェシルはそう決めると踵を返した。
「おい、ジェシル! どこへ行くんだ?」
ジャンセンが突然声をかけてきた。ジェシルは驚いて振り向く。
「あら! 随分と早いじゃない!」ジェシルは苦笑する。「ジャンってさ、考え事が始まると長くなるから、ランチにでもしようって思ったのよ」
「何を呑気な事を言っているんだよ!」ジャンセンがむっとした顔をする。迫力の無さに、ジェシルは鼻で笑う。「いいかい、これは歴史的な大矛盾であり、何とか解決しなければならない問題なんだよ!」
「ふう~ん……」ジェシルは気の無い返事をすると、左の頬をぽりぽりと掻いた。「それはあなたにとって解決しなければならない問題なんでしょ? 今のわたしは空腹を解決する事が問題だわ」
「あのなぁ……」ジャンセンは言いながら立ち上がる。「これらを収集したのは、ぼくらのご先祖だ。宇宙一古くて由緒がある貴族だ」
「そうらしいわね。わたしには興味も関心もないけど」
「茶化すなよ! いいかい、ぼくが言いたいのは、だ」
「何よう!」ジェシルはむっとする。「さっさと言えば良いじゃない!」
「……ジェシル、君はむっとすると、どうしてその膨れっ面をするんだ? ぼくの事を図体ばかりとか言っているけどさ、君だってそうじゃないか。その膨れっ面は子供の頃と全く変わっていない。まさか、未だにそんな顔を他にも見せ回っているんじゃないだろうな?」
「ふん! 大きなお世話だわ!」図星のジェシルはさらに膨れる。「それより、話って何よう!」
「ああ、そうだった……」ジャンセンは軽く咳払いをする。「歴史あるぼくたちのご先祖がまとめたにしては、あまりにも時代が散らかり過ぎているのが気になるんだよ」
ジャンセンは言うと周囲の壁を見回した。
「ぱっと見は、きちんの収納されているように見える。だけど、この資料一つ取っても、入れ物と羊皮紙と書かれている言葉とが全然歴史的につながらない」
「だからさ、ご先祖はそう言う点が好い加減だったのよ」ジェシルはため息交じりに言う。「この屋敷だって、いろんな時代の様式がごちゃごちゃに混じっているって話じゃない?」
「それはそうなんだけど、その点については、きちんと歴史的な順番で改築や増築がなされていて、全く問題はない」
ジャンセンは即答する。そのつらっとした答え方にジェシルはまたむっとする。
「じゃあ、これらの文献は、ご先祖が集めたものじゃなかったのよ」
「誰が集めたって言うんだ?」
今度はジャンセンがむっとした顔をする。
「きっと、雇われた人たちで、彼らには歴史的な知識が欠けていて、適当に書類入れに入れて、見た目だけはちゃんと収めた様にしたんだわ。そうよ、そうに決まったわ!」
「でもさ、羊皮紙よりもずっと後になってペトラン系の文字は知られたんだぜ? それがどうして、羊皮紙に書かれているんだよ?」
「それは、何も書かれていなかった羊皮紙が余っていたから使ったんじゃないの? わたしたちにだってそんな事あるじゃない? 去年のチラシの裏に今日の事を書いていくとか……」
ジャンセンはじっとジェシルを見つめる。ジェシルも負けじとジャンセンを見つめる。ふとジャンセンが視線を外した。
「……そうかぁ、それは考えられない事じゃないなぁ……」ジャンセンはうなずく。「傍系のぼくたちはともかく、直系のジェシルを見ていると、さもありなんって感じだよなぁ……」
「何よ! 失礼じゃないのよ!」ジェシルはますますむっとする。「もう良いわ! わたしは戻るから! あなたは好きなだけここで調査でも何でもしていると良いんだわ!」
「待てよ、ジェシル!」踵を返したジェシルにジャンセンが慌てて声をかけた。「地下にまだあと二階残っているんだ。そこにぼく一人で行けって言うのかい? どんな仕掛けがあるか、分かったもんじゃないって言うのに……」
「知った事じゃないわよ!」
「じゃあ、ぼくがどうなってもいいのかい?」
「そうなったらなったで、運命だわ! お葬式くらい手配してあげる」
「そんなぁ……」
ジャンセンは情けない顔になった。と、ふとある事を思い浮かべたように、笑みを浮かべた。
「……何よ」ジェシルは思い切りイヤな顔をして見せた。「恐怖で頭のネジが飛んじゃったの?」
「ふっふっふ、そうじゃないよ」ジャンセンは得意そうな顔になる。「ぼくの経験から言うとさ、フロアごとに収集している物を置いている事が多いんだ」
「どう言う事?」
「この地下一階には文献が収集されている…… まあ、ぐちゃぐちゃではあるけれど」ジャンセンは周囲の棚を見回してため息をつく。しかし、すぐに頭を左右に振って自分自身を鼓舞する。「でさ、続く地下二階や三階には、全く別のものが収められている可能性が非常に高い」
「言っている事がさっぱり分からないわ」
「つまりさ……」ジェシルの表情に好奇心が浮かんだのをジャンセンは見逃さなかった。……好奇心の塊な所は、子供の頃と全く変わってないな。ジャンセンは内心苦笑する。「地下二階と三階には、別のお宝、例えば財宝みたいなのがわんさかあるかもって事さ」
「そうなの?」
「ああ、今までの経験から、間違いないね」
「ふ~ん……」
「ジェシルだって、女の子だろう? きらきらと輝く宝石なんか好きなんじゃないか?」
「全然」ジェシルは即答する。「もしそう言うのがあれば、連邦評議員のタルメリック叔父様を通じて評議院に引き渡さなきゃいけないわね」
「何だよ、可愛げがないんだなぁ……」
「大きなお世話よ!」ジェシルは言うと、にやりと笑う。「まあ、もしそう言うのがあるとしたら、一つや二つはもらっておいても良いわよね?」
つづく
「おい、ジェシル! どこへ行くんだ?」
ジャンセンが突然声をかけてきた。ジェシルは驚いて振り向く。
「あら! 随分と早いじゃない!」ジェシルは苦笑する。「ジャンってさ、考え事が始まると長くなるから、ランチにでもしようって思ったのよ」
「何を呑気な事を言っているんだよ!」ジャンセンがむっとした顔をする。迫力の無さに、ジェシルは鼻で笑う。「いいかい、これは歴史的な大矛盾であり、何とか解決しなければならない問題なんだよ!」
「ふう~ん……」ジェシルは気の無い返事をすると、左の頬をぽりぽりと掻いた。「それはあなたにとって解決しなければならない問題なんでしょ? 今のわたしは空腹を解決する事が問題だわ」
「あのなぁ……」ジャンセンは言いながら立ち上がる。「これらを収集したのは、ぼくらのご先祖だ。宇宙一古くて由緒がある貴族だ」
「そうらしいわね。わたしには興味も関心もないけど」
「茶化すなよ! いいかい、ぼくが言いたいのは、だ」
「何よう!」ジェシルはむっとする。「さっさと言えば良いじゃない!」
「……ジェシル、君はむっとすると、どうしてその膨れっ面をするんだ? ぼくの事を図体ばかりとか言っているけどさ、君だってそうじゃないか。その膨れっ面は子供の頃と全く変わっていない。まさか、未だにそんな顔を他にも見せ回っているんじゃないだろうな?」
「ふん! 大きなお世話だわ!」図星のジェシルはさらに膨れる。「それより、話って何よう!」
「ああ、そうだった……」ジャンセンは軽く咳払いをする。「歴史あるぼくたちのご先祖がまとめたにしては、あまりにも時代が散らかり過ぎているのが気になるんだよ」
ジャンセンは言うと周囲の壁を見回した。
「ぱっと見は、きちんの収納されているように見える。だけど、この資料一つ取っても、入れ物と羊皮紙と書かれている言葉とが全然歴史的につながらない」
「だからさ、ご先祖はそう言う点が好い加減だったのよ」ジェシルはため息交じりに言う。「この屋敷だって、いろんな時代の様式がごちゃごちゃに混じっているって話じゃない?」
「それはそうなんだけど、その点については、きちんと歴史的な順番で改築や増築がなされていて、全く問題はない」
ジャンセンは即答する。そのつらっとした答え方にジェシルはまたむっとする。
「じゃあ、これらの文献は、ご先祖が集めたものじゃなかったのよ」
「誰が集めたって言うんだ?」
今度はジャンセンがむっとした顔をする。
「きっと、雇われた人たちで、彼らには歴史的な知識が欠けていて、適当に書類入れに入れて、見た目だけはちゃんと収めた様にしたんだわ。そうよ、そうに決まったわ!」
「でもさ、羊皮紙よりもずっと後になってペトラン系の文字は知られたんだぜ? それがどうして、羊皮紙に書かれているんだよ?」
「それは、何も書かれていなかった羊皮紙が余っていたから使ったんじゃないの? わたしたちにだってそんな事あるじゃない? 去年のチラシの裏に今日の事を書いていくとか……」
ジャンセンはじっとジェシルを見つめる。ジェシルも負けじとジャンセンを見つめる。ふとジャンセンが視線を外した。
「……そうかぁ、それは考えられない事じゃないなぁ……」ジャンセンはうなずく。「傍系のぼくたちはともかく、直系のジェシルを見ていると、さもありなんって感じだよなぁ……」
「何よ! 失礼じゃないのよ!」ジェシルはますますむっとする。「もう良いわ! わたしは戻るから! あなたは好きなだけここで調査でも何でもしていると良いんだわ!」
「待てよ、ジェシル!」踵を返したジェシルにジャンセンが慌てて声をかけた。「地下にまだあと二階残っているんだ。そこにぼく一人で行けって言うのかい? どんな仕掛けがあるか、分かったもんじゃないって言うのに……」
「知った事じゃないわよ!」
「じゃあ、ぼくがどうなってもいいのかい?」
「そうなったらなったで、運命だわ! お葬式くらい手配してあげる」
「そんなぁ……」
ジャンセンは情けない顔になった。と、ふとある事を思い浮かべたように、笑みを浮かべた。
「……何よ」ジェシルは思い切りイヤな顔をして見せた。「恐怖で頭のネジが飛んじゃったの?」
「ふっふっふ、そうじゃないよ」ジャンセンは得意そうな顔になる。「ぼくの経験から言うとさ、フロアごとに収集している物を置いている事が多いんだ」
「どう言う事?」
「この地下一階には文献が収集されている…… まあ、ぐちゃぐちゃではあるけれど」ジャンセンは周囲の棚を見回してため息をつく。しかし、すぐに頭を左右に振って自分自身を鼓舞する。「でさ、続く地下二階や三階には、全く別のものが収められている可能性が非常に高い」
「言っている事がさっぱり分からないわ」
「つまりさ……」ジェシルの表情に好奇心が浮かんだのをジャンセンは見逃さなかった。……好奇心の塊な所は、子供の頃と全く変わってないな。ジャンセンは内心苦笑する。「地下二階と三階には、別のお宝、例えば財宝みたいなのがわんさかあるかもって事さ」
「そうなの?」
「ああ、今までの経験から、間違いないね」
「ふ~ん……」
「ジェシルだって、女の子だろう? きらきらと輝く宝石なんか好きなんじゃないか?」
「全然」ジェシルは即答する。「もしそう言うのがあれば、連邦評議員のタルメリック叔父様を通じて評議院に引き渡さなきゃいけないわね」
「何だよ、可愛げがないんだなぁ……」
「大きなお世話よ!」ジェシルは言うと、にやりと笑う。「まあ、もしそう言うのがあるとしたら、一つや二つはもらっておいても良いわよね?」
つづく
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