「ホームズ様・・・」
その若い、いかにも名門出身の身なりの依頼主はわたしが勧めた椅子に掛ける事なく話し出した。
「昨夜、我が屋敷に物盗りが入りました。建物の被害も無く、盗られた額も大した事が無かったので、父は警察沙汰にすることは無いと申しております」
「ほほう」ホームズは驚きを交えた笑顔をその娘に向けた。「それは寛大な御父上ですな」
「世間体を第一に考えたのだろうと思いますが・・・」娘は急に声を低めて続けた。「実は私、物盗りが逃げ出すところを目撃しましたの・・・」
「ほう!」ホームズが口笛を吹いた。「で、どんな様子でした?」
「夜中でしたからはっきりとは申せませんが、二人組みの男性だったのは確かです。警察沙汰を父が禁じましたが、心に留めておくのも恐ろしくて・・・」
「よく分かりますよ、お嬢さん」
「そこで、私の独断で、ホームズ様にお話しておこう、お知恵を拝借しようと、家には行き先を告げず、一人で参りました」
「そうですか。いや、大変良い結論をお出しになられましたね」ホームズは言いながら、目でわたしに合図を送った。「あなたの勇気と、同時にわたしとワトソンの幸運を、神に感謝しましょうか」
何かを察した娘が振り向き、背後から忍び寄ったわたしに気づき叫ぼうとしたが、それより早く、エーテルをたっぷり含ませたハンカチを娘の口にあてがった。娘は少し抵抗したが、すぐにぐったりと気を失った。
「ホームズ、危ないところだったな」わたしはハンカチを仕舞いながら言った。「まさか昨日の泥棒が見られていたとは・・・」
金銭にうといホームズだったが、さすがに文無しになると困るので、たまにこうした「稼ぎ方」をする。
「目撃者がこうして勝手に来てくれたんだから、本当に神の奇跡があるのかもしれないな。無神論は撤回するか」
ホームズは楽しそうに笑った。
翌日、テームズ川に若い名門出身の女性の遺体が浮かんでいた事は、言うまでもない。
いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ
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「昨夜、我が屋敷に物盗りが入りました。建物の被害も無く、盗られた額も大した事が無かったので、父は警察沙汰にすることは無いと申しております」
「ほほう」ホームズは驚きを交えた笑顔をその娘に向けた。「それは寛大な御父上ですな」
「世間体を第一に考えたのだろうと思いますが・・・」娘は急に声を低めて続けた。「実は私、物盗りが逃げ出すところを目撃しましたの・・・」
「ほう!」ホームズが口笛を吹いた。「で、どんな様子でした?」
「夜中でしたからはっきりとは申せませんが、二人組みの男性だったのは確かです。警察沙汰を父が禁じましたが、心に留めておくのも恐ろしくて・・・」
「よく分かりますよ、お嬢さん」
「そこで、私の独断で、ホームズ様にお話しておこう、お知恵を拝借しようと、家には行き先を告げず、一人で参りました」
「そうですか。いや、大変良い結論をお出しになられましたね」ホームズは言いながら、目でわたしに合図を送った。「あなたの勇気と、同時にわたしとワトソンの幸運を、神に感謝しましょうか」
何かを察した娘が振り向き、背後から忍び寄ったわたしに気づき叫ぼうとしたが、それより早く、エーテルをたっぷり含ませたハンカチを娘の口にあてがった。娘は少し抵抗したが、すぐにぐったりと気を失った。
「ホームズ、危ないところだったな」わたしはハンカチを仕舞いながら言った。「まさか昨日の泥棒が見られていたとは・・・」
金銭にうといホームズだったが、さすがに文無しになると困るので、たまにこうした「稼ぎ方」をする。
「目撃者がこうして勝手に来てくれたんだから、本当に神の奇跡があるのかもしれないな。無神論は撤回するか」
ホームズは楽しそうに笑った。
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