翌日の昼休み、いつものように『百合恵会』は、さとみの教室の外の廊下にたむろしている。麗子は体調がすぐれないとかで休んでいる(本当は昨夜の出来事を聞かされるのがイヤでズル休みをしているのだ。その事はさとみだけが知っている)。しかし、今日は皆の表情が暗く重々しい。
「会長、これからどうするんですか?」しのぶが言う。「お話だと、もう、わたしたちの手に負えないような……」
昨夜、帰る前に、さとみは皆に状況を話した。保母さんの春美と幼稚園児のまさきときりととまきの霊が体育館に囚われたような状態でいた事。それをあの影が行っていた事。護符の力と対決したが、影が勝った事。そして、春美と子供たちが消えた事。
「わたしとしては、春美さんと子供たちを何とか助けてあの世へ行ってもらいたいわ」さとみはしのぶに答える。「でも、危険でもあるわ。あの影、段々と力が強くなってきているみたいだし、春美さんたちもどこにいるのか分からないし……」
「会長……」朱音が言う。いつもは明るい朱音が今日は暗い。昨夜の事が余程衝撃だったのだろう。「わたし……」
「どうしたの?」さとみが訊く。「怖くなったのかしら?」
「……そうなんです」朱音はさとみを見つめる。「わたし『百合恵会』失格だと思うんです…… あれから家に帰っても、怖くってベッドの中でぶるぶる震えていました…… わたしには霊とか見えないけど、あの駈け回る音や子供たちの笑い声は聞こえました。体育館では怖くって悲鳴しか上げられませんでしたし……」
「朱音、しっかりしなよ」しのぶが言う。「同じ地球上の存在する者同士なんだから仲間だよって、いつもいっているじゃないの」
「朱音! 舎弟が勝手な事を言うもんじゃない!」アイが言って朱音の背中をばんと叩いた。朱音は短く悲鳴を上げた。「会長が何ておっしゃったか聞いていなかったのか? 何とか助けてやりたいっておっしゃってんだ。舎弟は会長に従うもんなんだ」
「でも…… 本当に怖くって……」朱音は泣き出そうな顔をしてアイを見る。「アイ先輩は、怖くないんですか?」
「わたしは!」アイは言葉に詰まった。じっと見つめてくる朱音を見つめ返している。しばらくして、観念したように目を閉じ、ふっとため息をついた。「怖くないと言えば嘘になるさ……」
「じゃあ、先輩も……?」
「何て言うのかなぁ、見える相手なら、殴る蹴る陥れるってのが出来るけど、見えない相手じゃ、どうして良いのか分からない。だから、見えない相手と言う意味では怖いさ。でもな、それ以上に、会長のお役に立てないって言う方が、わたしの中では大きいな」
「え?」朱音は驚く。「そうなんですか……」
「そりゃそうさ」アイはにやりと笑う。「百合恵姐さんが持っていた護符みたいな武器があれば、わたしは相手が凶悪な影だろうが何だろうが、斬り込んで行くよ。舎弟は会長を守るためなら命なんざ惜しかねぇんだ」
「アイ先輩……」朱音が涙をぽろぽろと流した。「わたし、間違っていました。舎弟なのに、自分を優先してしまいました……」
「恐怖ってのはな、誘惑以上に意気地をくじかせるものなんだ」アイが言う。「会長だって怖いはずさ。でも、それ以上に使命感に燃えていなさるんだ。そんな凄いお方を会長として担いで行けるわたしたちは幸せ者だ、そう思わないか?」
「はい! そうです! その通りですぅ!」朱音は言うと泣き出した。泣きながらさとみに振り返る。「会長! すみませんでしたぁ! わたし、間違っていましたぁ! これからも舎弟として尽力させて頂きますぅ!」
朱音は上半身を直角に曲げる。
「会長、ここは、わたしに免じて許してやってください!」
アイも直角に曲げる。
「会長、わたしからもお願いしますぅ!」
しのぶも直角になる。
傍を通る生徒たちは怪訝な表情で通り過ぎる。
「分かった、分かったわ。分かったから三人とも頭を上げて」さとみは言う。さとみに言葉に三人は同時に頭を上げた。「……みんな、わたしの大切な仲間よ。でも、無理はして欲しくないわ」
「会長……」アイの瞳がうっすらと潤む。「会長は、本当にお優しい方ですね」
「ははは……」
さとみは笑ってごまかした。
つづく
「会長、これからどうするんですか?」しのぶが言う。「お話だと、もう、わたしたちの手に負えないような……」
昨夜、帰る前に、さとみは皆に状況を話した。保母さんの春美と幼稚園児のまさきときりととまきの霊が体育館に囚われたような状態でいた事。それをあの影が行っていた事。護符の力と対決したが、影が勝った事。そして、春美と子供たちが消えた事。
「わたしとしては、春美さんと子供たちを何とか助けてあの世へ行ってもらいたいわ」さとみはしのぶに答える。「でも、危険でもあるわ。あの影、段々と力が強くなってきているみたいだし、春美さんたちもどこにいるのか分からないし……」
「会長……」朱音が言う。いつもは明るい朱音が今日は暗い。昨夜の事が余程衝撃だったのだろう。「わたし……」
「どうしたの?」さとみが訊く。「怖くなったのかしら?」
「……そうなんです」朱音はさとみを見つめる。「わたし『百合恵会』失格だと思うんです…… あれから家に帰っても、怖くってベッドの中でぶるぶる震えていました…… わたしには霊とか見えないけど、あの駈け回る音や子供たちの笑い声は聞こえました。体育館では怖くって悲鳴しか上げられませんでしたし……」
「朱音、しっかりしなよ」しのぶが言う。「同じ地球上の存在する者同士なんだから仲間だよって、いつもいっているじゃないの」
「朱音! 舎弟が勝手な事を言うもんじゃない!」アイが言って朱音の背中をばんと叩いた。朱音は短く悲鳴を上げた。「会長が何ておっしゃったか聞いていなかったのか? 何とか助けてやりたいっておっしゃってんだ。舎弟は会長に従うもんなんだ」
「でも…… 本当に怖くって……」朱音は泣き出そうな顔をしてアイを見る。「アイ先輩は、怖くないんですか?」
「わたしは!」アイは言葉に詰まった。じっと見つめてくる朱音を見つめ返している。しばらくして、観念したように目を閉じ、ふっとため息をついた。「怖くないと言えば嘘になるさ……」
「じゃあ、先輩も……?」
「何て言うのかなぁ、見える相手なら、殴る蹴る陥れるってのが出来るけど、見えない相手じゃ、どうして良いのか分からない。だから、見えない相手と言う意味では怖いさ。でもな、それ以上に、会長のお役に立てないって言う方が、わたしの中では大きいな」
「え?」朱音は驚く。「そうなんですか……」
「そりゃそうさ」アイはにやりと笑う。「百合恵姐さんが持っていた護符みたいな武器があれば、わたしは相手が凶悪な影だろうが何だろうが、斬り込んで行くよ。舎弟は会長を守るためなら命なんざ惜しかねぇんだ」
「アイ先輩……」朱音が涙をぽろぽろと流した。「わたし、間違っていました。舎弟なのに、自分を優先してしまいました……」
「恐怖ってのはな、誘惑以上に意気地をくじかせるものなんだ」アイが言う。「会長だって怖いはずさ。でも、それ以上に使命感に燃えていなさるんだ。そんな凄いお方を会長として担いで行けるわたしたちは幸せ者だ、そう思わないか?」
「はい! そうです! その通りですぅ!」朱音は言うと泣き出した。泣きながらさとみに振り返る。「会長! すみませんでしたぁ! わたし、間違っていましたぁ! これからも舎弟として尽力させて頂きますぅ!」
朱音は上半身を直角に曲げる。
「会長、ここは、わたしに免じて許してやってください!」
アイも直角に曲げる。
「会長、わたしからもお願いしますぅ!」
しのぶも直角になる。
傍を通る生徒たちは怪訝な表情で通り過ぎる。
「分かった、分かったわ。分かったから三人とも頭を上げて」さとみは言う。さとみに言葉に三人は同時に頭を上げた。「……みんな、わたしの大切な仲間よ。でも、無理はして欲しくないわ」
「会長……」アイの瞳がうっすらと潤む。「会長は、本当にお優しい方ですね」
「ははは……」
さとみは笑ってごまかした。
つづく
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