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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 27

2022年07月30日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
 しのぶが持って来た懐中電灯で先を照らし、皆で廊下をぺたぺたとスリッパの音も高く歩いている途中だった。屋上で履き替えられるようにと、各自靴を手にして歩いている。スリッパで戦うわけにはいかない。
「……片岡さん、おからだは大丈夫ですか?」
 さとみが片岡に声をかける。笑顔を見せている片岡だったが、言葉を発していなかったので、さとみは心配していた。
「大丈夫ですよ」片岡は相変わらずの穏やかな笑みをさとみに返した。「さとみさんは、良く気がつくお嬢さんですね」
「いえ、そんな事、無いです……」まともに褒められて、さとみは照れてしまう。「……でも、ずっと大変だったって聞いたものですから……」
「いえいえ、さとみさんのお仲間の皆さんが助けてくれましたから、思ったほどではありません」
 片岡は、豆蔵たちの事を言っている。
「豆蔵から聞きました」さとみは答える。「豆蔵たちも良い修練になったって」
「じゃあ、お互いにウィンウィンですね」片岡の言葉に、さとみはくすっと笑う。「おや? 何かおかしな事を言いましたか?」
「いえ…… ごめんなさい」さとみは頭を下げた。「片岡さんがウィンウィンなんて事おっしゃるから、ちょっと驚いて、それと、ちょっと可愛かったから……」
「ははは。この歳で可愛いと言われるなんてねぇ」片岡は楽しそうに言う。「まあ、良いんじゃないでしょうか」
「すみません、危険な事が待っているって言うのに……」
「大丈夫ですよ。準備も万端ですから。それに、皆さん、良い意味でリラックスっしている。碌で無しどもが付け入る隙は無いようです」
 さとみは周囲を見る。たむろっている碌で無しの霊体たちは、さとみたちの醸し出す明るい気を忌々しそうに見ているだけで、手を出す事は出来ないでいる。たむろっているある一団に、さとみはあっかんべえをしてやった。
「ははは、さとみさん、頼もしいですね」
 片岡が笑う。さとみもつられて笑った。
 階段を上る。松原先生は階段の照明スイッチを入れた。それ程の明るさでは無かったが、闇に慣れた目にはまぶしい。碌で無しの霊体たちも驚いて姿を消した。
 妨害も無く、皆は屋上の出入り扉のひとつ手前の踊り場に来た。
「今日は特別だ。ここで靴を履きかえよう」
 松原先生が言う。皆は手にした靴を踊り場に置いて履き替える。ブーツの百合恵はちょっと履きにくそうだ。
「百合恵さん、肩を貸しましょうか?」松原先生がすっと百合恵の隣に来た。「「本当にどこかのアニメキャラですねぇ。いや、そのキャラより、良いですねぇ……」
「あら、お世辞でも嬉しいですわ」百合恵が、松原先生に優しく笑む。「でも、肩は結構ですわ。階段の手すりに寄りかかれば足りますので……」
「そうですか……」
 松原先生は残念そうな顔をする。しのぶと朱音は互いを肘で突き合いながら、にやにやしている。
「では、皆さん」片岡が皆を見回す。「いよいよですけど、決して恐れてはいけません。恐れは相手に付け入る隙を与えてしまいます。今の通り、気持ちを穏やかに保ってください」
 片岡は笑みながら麗子の前に立った。麗子は緊張の面持ちだ。
「麗子さんは幽霊などがお嫌いだと伺いました」片岡は優しい声で言う。麗子は大きくうなずく。「ですが、そうでありながら、ここまでいらした。立派な勇気ですよ」
「そうよ、麗子」さとみが言う。「今までの麗子だったら、お腹が痛いとか何とか言って絶対来なかったわ」
「そう、かしら……?」麗子が戸惑い気味に言う。「……確かに、今までは避けていたけど、今回はそれじゃいけないって気になったわ。……もちろん、怖いんだけど……」
「麗子!」アイは言うと、麗子を後ろから抱きしめた。「大丈夫だ。わたしが守る。何も心配するな!」
「……うん」麗子は、お腹に回っているアイの手に自分の手を重ねた。「任せたわ……」
 その様子を見た朱音としのぶは、きゃあきゃあ言いながら飛び跳ね始めた。
「じゃあ、もう大丈夫ですね?」片岡は再度皆を見回した。それから、さとみを見る。「さとみさん、頑張りましょう」
「はい!」
 さとみは力強く返事をする。

 屋上の出入り扉をさとみは開けた。
 ひんやりとした空気が漂っている。さとみは片岡に振り返る。片岡も察しているようで、真顔になっている。百合恵も同様だ。その雰囲気が皆にも伝わったようで、さっきまではしゃいでいた朱音としのぶも真剣な表情になり、麗子は強くアイの手を握っている。松原先生はうっすらと額に汗を浮かべている。
「さとみちゃん」百合恵がさとみに呼びかける。「みんなも来てくれたわよ」
 百合恵の指差す方に、豆蔵たちがそろって立っていた。豆蔵たちはさとみにうなずいて見せた。
「『ふるめんばあ』ね……」さとみはつぶやくと、大きく息を吸い込んで、叫んだ。「や~い! こっちから来てやったぞお! さゆり! 姿を見せろお!」
 しばしの沈黙。何も起こらない。碌で無しの霊体どももいない。
「片岡さん……」さとみが言う。「ひょっとして、さゆりたち、いなくなったんじゃないでしょうか……?」
「たしかに、気配が全くありませんね……」片岡も怪訝そうだ。「いなくなったのか、それとも、何かを企んでいるのか……」
「きゃははははは!」
 と、突然、けたたましい女の笑い声がした。どこから聞こえるのかと、皆が周囲を見回す。
 豆蔵が、さとみたちの斜め上の背後を指差し、何かを言っている。他の皆も口々に言っている。声の聞こえる片岡と百合恵が振り返った。さとみも振り返る。
 出入り扉のある搭屋の上に、人影が見えた。
「え? 誰?」
 さとみの様子を見た皆も振り返る。
「谷山先生!」松原先生が驚いたように大きな声で言う。「そんな所で何をやっているんですか!」
 余所行きの高価そうなスラックスにブラウス姿の谷山先生だった。
「違うわ」百合恵が言う。「あれは、ユリアが憑いているのよ」
 さとみは豆蔵を見る。豆蔵がうなずく。みつが百合恵に何か言っている。
「ユリアって、さゆりの側近ですって。みつさんが一度戦ったって」
 みつが麗子に憑いて、アイに憑いたユリアと戦った。その時はユリアが負けて逃げ出した。
「綾部さとみ!」谷山先生が、いや、ユリアがさとみを指差して言う。しかし、その声はきいきい声ではなかった。「あんたのせいで、わたしはさゆりに、弱いんだねぇなんて馬鹿にされちまったんだ! 少しは償ってもらうよ!」
 さとみは困惑する。逆恨みだったが、そんな事を言っても聞く耳は無いだろう。しかも、生身なのだから、豆蔵たちも手が出せない。さらに、みつが憑きやすい麗子もアイも気を失っていない。
「なんだ? 谷山先生、声や喋り方が違っている……」松原先生が戸惑っている。「どうしたんだ?」
「谷山先生は、悪い霊に憑かれているのです」
「ええええっ!」
 片岡の説明に皆は驚いた。
「そして、ちょっと自暴自棄な感じがしますね」
「えええええええっ!」
 片岡の追加の説明にさらに驚く。
「それって、危険って事じゃないですか?」松原先生が言う。「どうしたら良いんですか?」
「そうですね……」
 片岡が話そうとした時、ユリアは搭屋の上から飛び降りた。屋上の床に立つと、じっとさとみを見つめている。
「谷山先生、運動は全くダメだって言っていたのに、あんな無茶して……」
 松原先生が驚いたようにつぶやく。
「だからさ、あれは谷山先生のようでそうじゃないんだろ?」アイが言って、片岡を見る。「片岡さん、違うのかい?」
「そうですね……」片岡は答える。「意識は谷山さんじゃありません」
「じゃあ、ちょうど良いや!」アイがずいっと前に出る。「締めてやっても覚えてないって事だろう? ずっと気に入らなかった先生を思いっきりぶん殴れるなんて、滅多にないからな!」
 アイは言うと、両手に握り拳を作る。  


つづく

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