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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 170

2020年10月29日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「で、話って何だね?」ケーイチは面倒くさそうに言う。「さっきも言ったが、オレは忙しいんだ」
「ケーイチ博士は、タイムマシンの実際の生みの親だ」支持者は言う。「トキタニ博士では無い」
「そんな事はどうでも良いんだよ」ケーイチが言う。「それにな、オレもトキタニ博士も同じ方向を向いてタイムマシンの事を考えていたんだ。コーイチの携帯に何故か博士から間違い電話がかかって来たが、あの電話が無かったとしても、遅かれ早かれ、博士がタイムマシンを作っていたよ。それにな、いくらオレが正しかったとしてもだ、オレの時代ではタイムマシンは作り出せなかった。道具や他にも色々と未発達だったからな」
「……それで今、トキタニ博士の残したもので研究をしているわけか」
「そう言う事だ。ここで研究をしているとな、トキタニ博士がどれだけ偉い人物だったのかが、良~く分かるよ。オレなんざ、足元にも及ばない」
「それはそれは、謙遜な態度だな」
「事実だよ。お前さんの事は全く分からないが、トキタニ博士の事は良く分かる」
「そうか……」声はしばし沈黙した。「……一つ提案がある」
「ふん!」チトセが鼻を鳴らす。「な~にが提案だよ! 偉そうに! お前なんか、大っ嫌いだ!」
 チトセは光に向かって、べえと舌を出して見せた。
「ほう……」声は呆れたような声を出す。「それが女の子の取る態度かな? もっとも、自分を『オレ』などと言うのだから、すでに女の子を捨てたのかな?」
「何おう!」
 チトセは光に向かって飛び掛かろうと身構えた。
「チトセ、落ち着け!」ケーイチはチトセの肩をつかむ。むっとした顔で振り返るチトセに、ケーイチはにやりと笑った。「まあ、話だけでも聞いてやろうではないか」
「そんな事する必要なんかないやい! 兄者、こんなヤツの言う事なんか聞くことないよ!」
「話を聞かなきゃ、判断が出来ないだろう? お前もオレの助手をしているんだから、それくらいの事は分かるはずだ。科学だよ科学」
「でもさあ!」チトセは光をにらむ。「あの中のヤツは、絶対悪いヤツだよう!」
「それを判断するんだよ」ケーイチは言う。「……まあ、オレもあの中の人物は良くないヤツだとは思っているけどな」
「おい! 聞いたか!」チトセは光に向かって言う。「お前の負けだ! や~いのやい、だ!」
 チトセは再び、舌をべえと突き出した。
「そうか……」声はチトセの挑発には乗らず、落ち着いている。「ならば、これはどうだ?」
 光の中から物差し状のものが四つ投げ出され、チトセの足元に転がった。
「あっ! これって……」チトセはそれらを見て言い、光をにらむ。「これ、オバさんたちのタイムマシン……」
「そうだ、連中のタイムマシンだ」声は笑う。「倒れている連中からタイムマシンを取り上げるのは簡単な事だったよ」
「そんな事をしたら……」
「その通りだ、子供でも分かる事だ」声は冷たく言う。「連中はエデンの園でずっと暮らすことになる。二度と会う事はないだろう」
 声は笑う。チトセは反対に怒りに燃えた顔になる。
「……お前は、ずるくて、卑怯なヤツだ……」チトセの声が怒りで震えている。心底、腹を立てているようだ。「山賊の兄者は悪いヤツだったかもしれないけど、お前みたいな、ずるくて卑怯な事はしなかったぞ!」
「ははは、それはお前が知らないだけだ」声は小馬鹿にしたように言う。「山賊など、盗みや殺しを平気でやる、悪の限りを尽くすどうしようもない連中だ。……お前の前ではどうだったのかは知らないがな」
「うるさい!」
 チトセは叫ぶと、傍らにあった金属製の細長いパイプを手にした。それを刀のように上段に構えると、光にめがけて突進した。
「あっ! チトセ! 止せ!」
 ケーイチが声をかけたが、チトセに耳には入らなかった。
「とああああああっ!」
 チトセは裂ぱくの気合いと共にパイプを振り下ろしながら、光に中に飛び込んで行った。
 光が消えた。それと共にチトセも消えた。いきなり、しんとなった。
「チトセ……」ケーイチは光のあった場所を見ながらつぶやく。「……無茶しやがって……」
 ケーイチが呆然としていると、再び光が生じた。
 しかし、誰も出て来ない。
「……チトセ……?」ケーイチは光に声をかけた。返事はない。「おい、チトセ……」
「ケーイチ博士……」光の中から聞こえたのは支持者の声だった。「あのチトセと言う娘、思った以上に元気だったよ」
「おい、チトセに何をしたんだ?」ケーイチが言う。「あの子はな、オレの助手兼まかない兼話し相手兼世話係なんだぞ!」
「それに用心棒も兼ねているようだな」声は言うと笑う。「だが、いくら強がっても所詮は子供だ。当て身一発で気を失ったよ」
「じゃあ、チトセを返せ」
「それは出来ない」
「出来ないだって?」ケーイチは光をじっと見つめる。それから、はっと気が付いたような表情になる。「……まさか、お前さん……」
「そう、さすがケーイチ博士だ、察しが良い」声は満足そうだ。「あの子は話の邪魔になる……」
「お前さん、チトセに何をしたんだ!」
「心配はしなくて良いよ。あの子が居ただろう時代に戻って、道端に置いて来ただけだ」声は冷たく言う。「その時代のものは、その時代で生きて行くのが、一番相応しいと思っているのでね」
「なんとまあ、ひどいことを……」
 ケーイチは思わず、拳を強く握りしめた。


つづく

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