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ヒーロー「スペシャルマン」・11

2010年02月28日 | スペシャルマン
 オレは「スペシャルマン」と呼ばれる正義のヒーローだ。常人の及ばない様々な特殊能力を秘めている。この力で悪を倒し続けているのだ。
 さて、ヒーローの条件の一つとして認識されているものに、気は優しくて力持ちと言うのがある。
 気は優しくて力持ち――こりゃあ、一体どう言う意味だあ?
 力持ちって言うのはわかる。しかし、問題は「気は優しい」と言う言葉だ。
 辞書(岩波書店の広辞苑第四版)で調べてみると、「気」は「心の動き、状態」とあり、「優しい」は「周囲に気を使って控え目である、穏やかである、情け深い」と言った意味がある。つまり、お人好しと言う奴の事か? ちなみに「お人好し」は「善良すぎて、人のあなどられやすい事、また、そう言う人」なんてある。「あなどる」は「相手を軽く見て馬鹿にする」とあるから、「あなどられやすい」は「軽く見られて馬鹿にされやすい」と言う事だ。なんて事だ! 良いように利用されるだけの存在じゃないか! 
 だが、正義には、そう言う面がある事は否定できない。大体、一般大衆は困ったり、手に負えないことが起こると、すぐに他人に頼ってしまう。自分で何とかしようなどとは思わない。それはそれで良いかもしれない。最近の分業と先鋭化の中では、素人考えで行なってはならない事が増えてはいる。が、どう考えても自分で解決できそうな事まで、人任せにしようとしている。
 この前も、現われた「ブラックシャドウ」と戦うために変身したオレを呼び止める若い奴がいやがった。
「どうしましたか?」
 仕方なくオレが聞くと、そいつはこう言い出しやがった。
「向こうでおじいさんが転んで倒れているから起こしてやってくれ」
 そいつは平然とぬかしやがった。
「その場にいて、あなたは助け起こそうとはしなかったんですか?」
「イヤ、だって、そうして良いものかどうか、わかんないからさ・・・」
 そいつは戸惑いを隠せない顔をしやがる。
「他にも人がいたんじゃないですか?」
「みんなスタスタと通り過ぎちゃってさ」
 さも、そんな中で立ち止まった自分は聖人君子だと言わんばかりに胸を張る。
「そこまでの親切心があるんなら、もう一歩踏み出してみれば良いでしょう?」
「はあ?」そいつは驚いた顔をしやがった。「何で俺がそんなことをしなきゃならねえんだよ? あんたに教えただけで、充分じゃねえか! 正義のヒーローなんだろう? 困ってる人を助けるのが仕事だろう? ゴチャゴチャ言わねえで、さっさと行けよなあ!」
 そいつは踵を返すと立ち去った。オレは仕方なく爺さんのところへ向かった。
 人だかりが出来ている。倒れている爺さんを遠巻きにして、ボソボソとささやき合っている。
「気の毒ねぇ・・・」
「頭から血を流してるじゃねえか!」
「誰か助けてあげれば良いのに・・・」
「私はこれから行く所があるから、ちょっと無理だけど、誰かいないのかしらねえ・・・」 
 誰も手を出そうとしない。オレは人垣を分けて爺さんを抱き起こした。
「あ、スペシャルマンだぜ!」
「もう安心だわ」
「正義のヒーローが来たから、もう心配無しね」
「さ、もう行きましょ!」
 あっと言う間に人垣は無くなり、誰も振り返りもせずに、足早に通り過ぎて行く。
 オレは気を失った爺さんを抱えて途方に暮れていた。「ブラックシャドウ」の「アーマーメカ」が暴れまわっている音がする。一刻も早くそっちへ行きたいのに・・・
 爺さんを抱えて近くの病院へ向かおうとしているオレに、息を切らせて駆け寄ってくる親父がいた。息を整えて親父はぬかしやがった。
「あっちで迷子になった女の子がワンワン泣いているんだ。親を探してやってくれないか。正義のヒーローさん・・・」
 結局オレは、オレに何かされたんじゃないかと思われそうな血まみれで気を失っている爺さんを抱え、オレがさらったと思われるんじゃないかと思われるくらい泣き叫ぶ迷子女の子を連れ、爺さんを病院に、迷子を警察に届けた。届け終わって現場に駆けつけると、既に破壊の跡しか残っていなかった。
 迂闊だった。「気は優しい」なんて、時代遅れなんじゃないのか。「正義」と名のつくものをなんでもかんでも受け付けていては、逆に何もできなくなる。正義も分業化すべき時なのだ。こんなんじゃ、オレが悪のヒーローになってしまうかもしれない。




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