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コーイチ物語 「秘密のノート」 37

2022年08月29日 | コーイチ物語 1 4) コーイチとゆかいな仲間たち 2  
 コーイチはとぼとぼと四人の後についてビルに入って行った。
 ここまで来たら、もうあれこれ悩んでいても仕方がないじゃあないか! ……とは言うものの、やはり何かイヤな事が待っていそうで重い気分が拭い去れない。
 もし、吉田課長に何かあっても、だあれもボクが関わっているなんて知らないじゃあないか! ……とは言うものの、このままじゃ、ボクは一生、人に語れず逃れられない十字架を背負っていかなければならない。
 コーイチは大きくため息をついた。
「今日はため息ばっかりねぇ……」
 清水が心配そうな顔でコーイチを見た。
「何があったのか話してみないか?」
 林谷も心配そうな顔で聞く。
「そうそう、一人で悩むのは良くないな」
 印旛沼もコーイチの肩をぽんぽんと叩きながら言う。
「同じ営業四課の仲間じゃないか! 水くさいぞ!」
 西川も加わる。
 何だ、みんな良い人たちじゃないか。こんなボクを心配してくれるなんて…… コーイチは思わず涙ぐんでしまった。よし、この人たちになら話してもかまわないだろう。ひょっとしたら、助けてくれるかもしれないぞ!
 コーイチは深呼吸をし、口を開いた。
「おーい、あなた達! 何をしてるんだ!」
 コーイチが声を発するのをわざと遮るように、大きな声が一階ロビーに響いた。
 一階ロビー受付カウンターに座っている、いつもの無愛想な守衛の横に、同じ営業四課の丸い顔の目立つ岡島和利が、腕組みをしてコーイチたちを見ていた。
 岡島はコーイチと同い年だが、営業四課内では誰よりも吉田課長一番のお気に入りだった。お気に入りなのは自分が一番優秀だからだと思っているらしく、他の連中を上から目線で見下す所がある。だから、諸先輩に対しても横柄な態度に出る。だが、岡島のお気に入りは、実の所は天性の立ち回りの上手さに起因しているだけである事は諸先輩に見抜かれていた。悲劇であり喜劇であるのは、それに気が付いていないのは岡島本人だけと言う事だった。
「こんな時間だよ! 遅刻じゃないか!」
 岡島がロビーのデジタル時計を指差す。
「それに、コーイチ。新人のオレたちが一番に来てなきゃダメだろう? 全く自覚のないヤツだな」
 岡島はコーイチに言った。岡島は優秀な自分より人気のあるコーイチが気に入らないらしい。
「なんだい、それを言うためにここまで迎えに来たのか?」
 西川が呆れた様な声で答えた。
「そんな暇があったら、今日の我慢会の準備を手伝ったら良いんじゃない?」
「黒ミサでしょ!」
「朗読会だよ!」
 林谷清水印旛沼がふざけた口調で言った。
 コーイチは話すタイミングを逸してしまい、困ったような顔を岡島に向けていた。
「別にあなた達を迎えに来たわけじゃない。それに、今日の会議は無しだ」
「どう言う事だ?」
 西川が一歩前に出た。
「実は、吉田課長が……」
 岡島の言葉に、コーイチは目を見開き息を呑んだ。

       つづく

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