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コーイチ物語 「秘密のノート」 30

2022年08月29日 | コーイチ物語 1 4) コーイチとゆかいな仲間たち 2  
「おやおや、こんな所で何をしてるのかな、コーイチ君!」
 別方向から声がかけられた。コーイチはそちらを見た。
 都心方面から来たガラガラに空いている車両から降りて来たのは、時々キラキラと光る青いスーツを着込んだ林谷晋吾と、足元までもある黒いトレンチコートを着込み、鍔広で頭頂部がやや尖り気味の黒い帽子を目深に被り、両手をコートのポケットに突っ込ん大柄な男だった。
 コーイチは「うわっ!」と一声叫んで、柱の陰に身を隠した。
「おやおや、人見知りかい、コーイチ君?」
 林谷がふざけた口調で尋ねた。
「こちらはボクの知り合いのテーラーだよ。ちょっとハードボイルド好きだが、腕は良いよ」
 テーラーがにこっと笑う。可愛らしい笑顔で、全く殺し屋には見えない。安心し、コーイチは柱を離れる。
「実は彼が、シルクに純金をまぶした珍しい生地を入手してね、それでスーツを仕立ててくれたのさ。どうしても着てみたくて、無理を言って朝から押しかけて着て来たってわけなんだよ」
 林谷はそう言うと、その場で一回りして見せた。ホームの蛍光灯がスーツにまぶしく反射する。
「そうですか、面白いスーツですねぇ。さすが、珍し物好きな林谷さんです!」
 コーイチはヘンな褒め方をした。しかし、林谷は満足そうに頷く。
「そうだろう? こんなスーツを着られるのはボクくらいなもんさ!」
「でも、今日はどうして地下鉄なんですの? 何か霊感でも働いたのかしら」
 なんでもそっち方面に話を向けたがる清水が言う。
「そうじゃなくて、彼がこっち方面に用事があるって言うから、じゃぁ、人生初の体験にと、一緒に地下鉄に乗ってみたってわけさ。ま、感想としては、進行方向に対して横向きに座ると言うのが、なんとも新鮮だね!」
 林谷はそう言うと「わっはっは」と笑った。

       つづく

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