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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 26

2020年02月24日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
 逸子はあるビルの壁面に設置されているデジタル式の時計を見た。「8:55」と表示されている。
「間に合いそうよ」逸子がナナに言う。「あの横断歩道を渡って会社に行くのよ」
 逸子の指差す方を見るナナに笑顔が浮かんだ。
「勝ちましたね」
「そのようね」逸子も笑む。「後は、コーイチさんが向こうからくるのを待つだけね」
 逸子の視線に合わせてナナもそちらへ顔を向ける。地下鉄の昇降口があった。人々がまだ集団になって昇ってくる。
「こんなに大人数じゃ、見つけられないんじゃ……」ナナが心配そうに言う。「わたし、コーイチさんの顔は知らないし……」
「コーイチさんたちは遅刻しているから、きっと見分けがつくわ。心配しないで」
 しばらくすると、昇ってくる人数がまばらになった。
「そろそろね……」逸子が言う。「ナナさん、タイムマシンの準備をしておいた方が良いわ」
「そうですね」ナナはタイムマシンを取り出し、操作した。「……いつでも大丈夫です」
「じゃ、昇降口まで行きましょう。昇ってきたところを捕まえれば、邪魔も出来ないはずだわ」
「そうしましょう! 連中は横断歩道のあたりに現われるはずですからね!」
 二人は昇降口へ走ろうとした時、わいわいとした集団が昇ってきた。
 コーイチたちだった。
「コーイチさん!」逸子が手を振る。「こっちよ! 走って!」
「え? あ? は? ……逸子さん……?」
 突然の事にコーイチの動きが止まった。
「あれ? 逸子、さっきまで家にいたじゃないか? どうしてここに?」父である印旛沼が言う。「そうか、新しい手品なのかい?」
「それとも、黒魔術?」清水が楽しそうに言う。「逸子ちゃん、やっぱりわたしの仲間だったのね」
「まさか、瞬間移動装置とか?」メカ好きの林谷が言う。「ぼくも欲しいなあ……」
「とにかく、コーイチさん! こっちに走って!」逸子は言うとナナに振り返る。「コーイチさんの事だから、おろおろして動けないはずよ。やっぱりこっちから走って行きましょう!」
 ナナはうなずいて逸子と走った。思った通り、コーイチは足踏みしながらおろおろしている。
 と、二人の行く手を阻むように光が現われた。逸子とナナはその光にぶつかると、弾き返されて路面に座り込んでしまった。
 光の中から、青いつなぎのような服を着た若い女が現われた。
「あ! あなたはアツコ!」逸子は叫ぶと立ち上がり、素早く身構えた。「何しに来たの?」
「未来のタイムパトロールさん」アツコは生意気そうな顔をナナに向けた。「邪魔しようったって無理ね。こうなることを教えてくれた人がいたのよ。だから、ここで、コーイチって人をもらって行くわね。……あ、何度試しても無駄よ。あなたの行動は筒抜けなの」
 光の中から、青いつなぎの男たちがわらわらと現われた。おろおろしているコーイチの手足をつかむと、引きずるようにして光の中へと戻って行った。
「タイムパトロールねぇ……」アツコは言って笑う。「その中に我が『ブラックタイマー』を支持している連中がいるのよね。時を超えて、わたしたちに協力してくれているのよ。やっぱり人は未来を見たいし、自分の理想の形に変えたいじゃない?」
 アツコは言うと光に中に消えた。
「待てえっ!」ナナは立ち上がって光に飛び込もうとした。しかし、光はすっと消えた。「あ~ん! くやし~っ!」
 ナナは地団太を踏み続けた。


つづく

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