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妖魔始末人 朧 妖介  15

2008年06月28日 | 朧 妖介(全87話完結)
 妖介は『斬鬼丸』を無造作に横に払い、飛び掛って来た妖魔の幾匹かの胴を二つに切り離した。
 切り離されたそれらは、射し込んでいる陽光に滲み込んで行くように霧散する。
 妖魔はひるむ事なく飛び掛って来る。妖介はさらに『斬鬼丸』を振るい、切り刻み、霧散させた。
 その中の一匹が妖介の『斬鬼丸』をかわし、座り込んでいる葉子の前の床に、にちゃっと粘着質な音を立てて這いつくばった。
 葉子は放心したような眼差しで、そのぶよぶよで紫色の妖魔を見下ろしていた。
 妖魔はゆっくりと顔を上げ、白濁の目をぐるぐると回しながら葉子を見返し、大きく裂けた口の両端を吊り上げ、まるで葉子に笑いかけているような表情を作った。三又に分かれた舌を伸ばし大きく左右に振り始めた。と、突然、葉子に飛び付いて来た。その勢いで仰向けに倒された。
「きゃあああ!」
 葉子が叫んだ。しかし、妖介は気付いていないのか、振り返りもせず、飛び掛って来る妖魔に『斬鬼丸』を走られていた。
 妖魔は葉子の腹の上に馬乗りになった。意外な重さと熱い体温を腹部に感じ、葉子は妖魔を実体として捉えた。・・・喰われる! そう思った途端、葉子は恐ろしくなり、体が動かなくなってしまった。
 べたべたした体液が絶えず全身から滲み出していて、葉子のTシャツの腹の部分を濁った紫色に染めた。強烈な生臭さが立ち昇り、葉子はまた息を詰めて吐きそうに口を開けた。が、もう出て来るものは無かった。
 ふいに妖魔が、赤ん坊の手のように小さく短い両腕を上げた。それは徐々に大きさと長さとを増し、大人の男のような腕に変わった。その腕を下ろし、葉子の両方の乳房を鷲づかみにした。
「あうっ!」
 乳房をむしり取りそうな力で握り締められた葉子は痛みに喘いだ。妖魔の爪が喰い込み、胸元から滲み出した葉子の血がTシャツを赤く染め始めた。妖魔は舌を長く伸ばし、その血の上に何度も這わせた。
「いやっ! いやっ! いやあああ・・・!」
 叫ぶだけで精一杯だった。意識が遠退き始めた。痛みが薄れて行った。乳房を掴まれている感触だけが残った。それは葉子に幸久の荒々しい行為を思い出させた。握り締めるようにしながら手の平を微妙に動かし乳首に甘い刺激を与える、苦痛と快感を一緒にもたらす幸久の手・・・
「馬鹿女! 淫乱女! 死にたいのか!」
 口汚く罵る妖介の声に、はっと葉子は我に返った。急に体が軽くなった。体を起こして見ると、葉子の上にいた妖魔が真っ二つにされて霧散している所だった。
 その向こうで、青白い刀身を光らせた『斬鬼丸』を握った妖介が、葉子を見下ろしていた。葉子も妖介を見上げた。視線が重なった。
「この馬鹿が! 淫乱が! オレが妖魔を切り刻んでいる間に何をしてやがった!」突然、妖介が怒鳴った。「殺されかけながら、昔の男を思い出して股間を濡らしているヤツがどこに居やがる!」
 言い返せなかった。葉子の目から涙が溢れた。

      つづく



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