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ジェシル、ボディガードになる 118

2021年05月19日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「里心? 冗談じゃないわ!」ジェシルは声を荒げる。「一刻も早くあなたとお別れがしたいだけよ!」
「ははは、相変わらず気が強いな」
「それで、リタおばあちゃんの様子はどうだったの?」オーランド・ゼムが続けて何か言おうとしたのを遮るように、ジェシルが言う。「あなたみたいな人でも、喜んでくれる人がいるんだから感謝しなきゃあね」
「厳しい事を言うねぇ……」オーランド・ゼムは楽しそうだ。「まあ、わたしが行った時には眠っていたよ。ミュウミュウが言うには、これほど安心した表情で眠っているのを見た事が無い、と言っていたよ」
「色々とプレッシャーがあったのね……」
「そうなのだろうな」オーランド・ゼムが静かにうなずく。「わたしのように自由気儘な生き方が出来なかったのだからな」
「あなたは自由気儘過ぎよ!」ジェシルは相変わらずむっとしながら言う。「振り回されるこっちの身になってよね!」
「まあ、今はゆっくり眠ってもらおう……」オーランド・ゼムはジェシルの嫌味を受け付けない。「後でもう一度行ってみるよ。起きていたら、昔話でもしよう」
「そうね。お年寄り同士、気が合うんじゃない?」
「そうかも知れないな」オーランド・ゼムは言う。「リタには、わたしたちへの協力が終わったら、どこか静かな所に移ってもらうよ」
「でも、協力のメインはミュウミュウなんでしょ?」ジェシルは首をかしげる。「そこまでしておばあちゃんを大事にするなんて……」
「いけないかね?」
「ふふふ……」ジェシルはしたり顔になる。「やっぱり、あなたも好意を持っているのかしら?」
「いや、そうではない」オーランド・ゼムは無表情で答える。「ミュウミュウの協力への見返りと言う所かな」
「あら、そうなんだ……」ジェシルはふと心配そうな顔をする。「……まだ若いのに、ずっとおばあちゃんに付き添う気なのかしら?」
「さあねぇ……」オーランド・ゼムは他人事のよう答える。「なんだか真面目そうな娘だから、付き添うんじゃないかな?」
「ふ~ん…… わたしには出来ないわ」
「そうだろうな」オーランド・ゼムは大きくうなずく。「君が甲斐甲斐しく付き添いをするなど考えられないからね」
「ふん!」
 ジェシルは鼻を鳴らす。オーランド・ゼムは笑う。
「ところで、あと一人って言っていたけど、どこのおじいちゃん? それとも、おばあちゃんかしら?」
「ああ、そうだったね」オーランド・ゼムは、たった今、気が付いたと言うような顔をする。「最後の人物は年寄りではないよ」
「じゃあ、おじさんか、おばさんって所かしら?」
「いやいや……」
「じゃあ、まさか……」
「若者だよ。……ジェシルと歳が近いんじゃないかな?」
「どうしてそんな人が?」
「ふむ……」オーランド・ゼムは咳払いをする。「シンジケートは、今は、わたしのような年配の連中が仕切っている。若い連中はそれが面白くない。同じシンジケート内でも、世代による対立が、最近では増えている。その中には、今のシンジケートの全てを潰し、新しい組織作りを考えている若者たちもいる。その筆頭が彼だ」
「何だ、結局は自分に都合の良いシンジケートを作りたいだけじゃない」
「いや、そこは頭の良い所なのだがね、合法的な組織を作ろうと言うのだよ」
「そんなの無理よ! 絶対に無理!」ジェシルは言い切る。「かつて、そんな事に挑んだ連中もいたけど、出来なかったわ!」
「それは、利権まみれの古い連中がはびこっているからさ」オーランド・ゼムはうんざりした顔をする。「そいつらを悉く一掃するつもりのようだ」
「どうやって?」
「それは教えてくれない。ははは。わたしも、その彼からは信用されていないと言う事なのだろう」
「あなたは、これ以上無いって言う程のおじいちゃんだからじゃない? 利権と権力をしっかり握っているんだから、嫌われているのよ」
「いや、わたしはそんなシンジケートに嫌気がさして、潰したいと思っているのだよ。むしろ、彼の味方だ」
「……まあ、良いわ」ジェシルは急に面倒くさくなってしまった。「そんな話って、宇宙パトロールにもあるわ。業務はそこそこ以下の癖に、利権と権力には執着するのよねぇ…… もちろん、全員がそうじゃないけど」
「組織と言うヤツは、大きくなると、そう言う面が芽生えてしまうのだね。善だ悪だと言う組織の体質には関係無いって事だ」オーランド・ゼムは言って、にやりと笑う。「だから、わたしたちが手を組むのも有りってわけだ」
「あなたのご高説を聞く気はないわ」ジェシルはむっとして言う。シンジケートの大ボスと一緒くたにされて嬉しいはずがない。「それで、その人って、どこの誰なの?」
「今はムレイバ星に住む、マハンマイドだ。数年前、宇宙で一、二を争う大天才と騒がれた若者だ」
「そんな人が、どうして?」
「彼の父親が、あるシンジケートの大ボスなのさ。幼い頃から父親を見て育ち、嫌悪感を抱いたようだ」
「親を反面教師にしたってわけね」ジェシルはうなずく。「それは良いわね。見所がありそうだわ」


つづく

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