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コーイチ物語 「秘密のノート」 124

2022年09月24日 | コーイチ物語 1 14) スミ子 
 京子はスミ子を持った右手を布団の上に置き、横座りになった。左手で自分の右の二の腕をつかみ、潤んだ瞳でコーイチを見つめた。ミニのチャイナ服のスリットが大きく割れ、白いすらっとした二本の脚がコーイチの方に伸ばされた。コーイチの視線は京子の顔と脚とを行ったり来たりした。
「コーイチ君……」京子が甘えた声でささやいた。「……こっちに来て……」
 しゃがんでいたコーイチは思わず立ち膝になった。横座りしている京子を少し見下ろす感じになった。
 胸の高鳴りの繰り返しが早まる。鼓膜がびんびんと痛くなる。高鳴りは繰り返すうちに胸から耳元へ移動したようだった。この音、聞こえてしまうんじゃないか。それくらいコーイチの中で大きく高鳴っていた。
「い、いいのかい……」真顔でコーイチは言った。胸の高鳴りのせいか、声が震えている。「ボ、ボクは普通の、ただの、平凡な人間だよ……」
「そんな事はどうでも良い……」京子は恥ずかしそうに頬を染め、俯きながらささやいた。「そんな事はどうでも良い……」
 コーイチの喉がゴクリと鳴った。……なんと言うのか「推薦受けぬは男の恥」って言うよな。ここはあれこれ考えないで、一と思いに…… それに、もうすぐ居なくなっちゃうんだよな。そうさ、ボクだって思い出をしっかりと残したいんだ。
 コーイチは京子の両肩を優しくつかんだ。京子は逆らわなかった。真顔だった。コーイチは顔を近付けた。ぷっくりと形の良い唇を見据えていた。目を閉じた。……ぷっくりとした唇の柔らかな感触がコーイチの唇に伝わる。……
 あれ? なんだぁ? このごわごわしたイヤな感触とつんと鼻をつくイヤな臭いは?
 目を開けた。目の前が真っ暗だった。
「うわっ! うわわわわ!」
 あわてて顔を離す。
 京子の顔のある場所に黒い長方形のものがあった。その下の部分を支えるようにして、八本の白い指と、二つの手の甲が見えた。
「スミ子!」
 コーイチは叫んだ。スミ子の横から、京子がいたずらっぽい笑みを浮かべた可愛い顔をのぞかせた。
「えへへ…… びっくりした?」
「いや、あの、その……」
 コーイチはしどろもどろな答え方をした。京子はそんなコーイチを不思議そうな顔で見ている。
「どうしたの?」
「い、いや、別になんでもないよ……」
 ……なんでもないわけないじゃないか! すっかりその気にさせておいて、相手がスミ子だったんだぞ! 待てよぉ、ひょっとして最初からからかっていたんじゃないのかぁ? この娘なら、十分あり得る話だよな。コーイチは可愛く微笑んでいる京子を疑わしそうに見た。……でも、可愛いから許す。許そう!
「それで、思い出を残す事とスミ子と、どう関係があるんだい」
 コーイチは努めて平静な、しかし、どこかしらわざとらしい口調で聞いた。
「あのね……」
 京子はスミ子の最後のページを開いた。……暴れるぞ! コーイチは逃げ腰になった。しかし、スミ子は大人しくしていた。
「ここに、コーイチ君の名前を書いてほしいの……」

       つづく

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