「と言うわけで、はい!」
ブロウは、スミ子を賞状を授与する時のような恭しい仕草で、コーイチの前に差し出した。
「えっ? は、はあ……」
コーイチは、差し出されたスミ子と可愛く微笑んでいるブロウとを交互に見た。
「大変名誉なものを頂いたって言う表情じゃないわねぇ……」
からかうようにブロウが言った。
「いや、そうじゃなくて、今すぐ始めるのかい?」
「コーイチ君……」ブロウはやれやれと言うように溜息をついた。「吉田って言う人、課長から部長になるまで、どれくらい掛かったかしら?」
「えっと…… 書いた翌日だった」
「そうね、つまり……」
「つまり」含み笑いをしながらシャンが割って入って来た。「書いてから、一日で効果が出るって事なのよぉ」
「えええっ!」コーイチは驚いて叫んでしまった。「じゃあ、明日になると……」
「そうよぉ」シャンが楽しそうに言った。「でも、それくらいの事、課長が部長になった時点で気付かなくちゃ、いけないわぁ」
「明日って事は、明日までの命って事か……」
コーイチは頭を抱えて座り込んでしまった。……シーザーの最期、マリー・アントワネットの最期、信長、竜馬…… あああ、ボクもそんな最期を迎えてしまうのか! 誰だ! 誰がボクに仕掛けて来るんだ!
「コーイチ君! コーイチ君ってば!」
コーイチは謎の暗殺集団の攻撃をかわしつつ、ついにそれらを全滅させ、最後にその集団の首領と対決し、持てる武器を全て使い果たし、進退窮まった状態に陥っている所だった。
ブロウの声で我れに返ったコーイチは、ぼっとした顔でブロウを見つめた。
「……また行き過ぎた……」
コーイチは妄想から覚めてつぶやいた。
「大丈夫? 顔色が良くないけど……」
ブロウが心配そうにコーイチの顔をのぞき込んだ。コーイチにはシャンが化けていた時よりも数倍可愛く見えた。……きっとシャンが少しレベルを落として化けて、ブロウはこんな程度って思わせたかったのかな。やきもちか対抗心かは分からないけど、女の人の心って言うのは人間も魔女も複雑なんだなぁ……
「さあさあ、そんなのん気な事じゃ、明日なんてすぐに来ちゃうわよ」シャンが言った。そして、からかうような口調で続けた。「一分一秒が貴重なのよぉ……」
「んもう、いやなお姉様!」ブロウはシャンをにらみつけて黙らせると、笑顔をコーイチに向けた。「まだまだ平気よ。さ、名前書きに取り掛かりましょ!」
ブロウはスミ子をコーイチの胸へ押し付けた。コーイチが受け取ったとたん、スミ子が全身を激しく動かし始めた。コーイチは思わず落としそうになった。
「スミ子、今コーイチ君が、大好物をくれるわよ。だから、大人しくしてちょうだい」
ブロウが優しく声をかけると、スミ子の動きがぴたりと止まった。
「さ、今がチャンスよ!」
コーイチはスミ子を座卓の上にそっと置いた。表紙が勝手に開いた。続いて、吉田部長の名前を書いたページが勝手にめくれ、次のページになった。
「さ、書いてちょうだい……」ブロウが小声で言って、コーイチに右手を伸ばした。いつの間にかそこには金色のペンが握られていた。コーイチはそれを受け取った。「がんばって!」
「ファイト!」
シャンが楽しそうに言った。
そして、戦いが始まった。
つづく
ブロウは、スミ子を賞状を授与する時のような恭しい仕草で、コーイチの前に差し出した。
「えっ? は、はあ……」
コーイチは、差し出されたスミ子と可愛く微笑んでいるブロウとを交互に見た。
「大変名誉なものを頂いたって言う表情じゃないわねぇ……」
からかうようにブロウが言った。
「いや、そうじゃなくて、今すぐ始めるのかい?」
「コーイチ君……」ブロウはやれやれと言うように溜息をついた。「吉田って言う人、課長から部長になるまで、どれくらい掛かったかしら?」
「えっと…… 書いた翌日だった」
「そうね、つまり……」
「つまり」含み笑いをしながらシャンが割って入って来た。「書いてから、一日で効果が出るって事なのよぉ」
「えええっ!」コーイチは驚いて叫んでしまった。「じゃあ、明日になると……」
「そうよぉ」シャンが楽しそうに言った。「でも、それくらいの事、課長が部長になった時点で気付かなくちゃ、いけないわぁ」
「明日って事は、明日までの命って事か……」
コーイチは頭を抱えて座り込んでしまった。……シーザーの最期、マリー・アントワネットの最期、信長、竜馬…… あああ、ボクもそんな最期を迎えてしまうのか! 誰だ! 誰がボクに仕掛けて来るんだ!
「コーイチ君! コーイチ君ってば!」
コーイチは謎の暗殺集団の攻撃をかわしつつ、ついにそれらを全滅させ、最後にその集団の首領と対決し、持てる武器を全て使い果たし、進退窮まった状態に陥っている所だった。
ブロウの声で我れに返ったコーイチは、ぼっとした顔でブロウを見つめた。
「……また行き過ぎた……」
コーイチは妄想から覚めてつぶやいた。
「大丈夫? 顔色が良くないけど……」
ブロウが心配そうにコーイチの顔をのぞき込んだ。コーイチにはシャンが化けていた時よりも数倍可愛く見えた。……きっとシャンが少しレベルを落として化けて、ブロウはこんな程度って思わせたかったのかな。やきもちか対抗心かは分からないけど、女の人の心って言うのは人間も魔女も複雑なんだなぁ……
「さあさあ、そんなのん気な事じゃ、明日なんてすぐに来ちゃうわよ」シャンが言った。そして、からかうような口調で続けた。「一分一秒が貴重なのよぉ……」
「んもう、いやなお姉様!」ブロウはシャンをにらみつけて黙らせると、笑顔をコーイチに向けた。「まだまだ平気よ。さ、名前書きに取り掛かりましょ!」
ブロウはスミ子をコーイチの胸へ押し付けた。コーイチが受け取ったとたん、スミ子が全身を激しく動かし始めた。コーイチは思わず落としそうになった。
「スミ子、今コーイチ君が、大好物をくれるわよ。だから、大人しくしてちょうだい」
ブロウが優しく声をかけると、スミ子の動きがぴたりと止まった。
「さ、今がチャンスよ!」
コーイチはスミ子を座卓の上にそっと置いた。表紙が勝手に開いた。続いて、吉田部長の名前を書いたページが勝手にめくれ、次のページになった。
「さ、書いてちょうだい……」ブロウが小声で言って、コーイチに右手を伸ばした。いつの間にかそこには金色のペンが握られていた。コーイチはそれを受け取った。「がんばって!」
「ファイト!」
シャンが楽しそうに言った。
そして、戦いが始まった。
つづく
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