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コーイチ物語 「秘密のノート」 127

2022年09月25日 | コーイチ物語 1 15) 二人の京子 
 閉まっているドアをすり抜けて入って来た。入って来たのは、赤いふわふわしたブラウスに赤いミニスカートの若い女性だった。長い髪が少し乱れ、ブラウスも少し汚れ、所々裂けていた。どこかから脱け出して来たばかりと言った様子だ。こわい顔をしている。
 ……あっ! これは! 
 コーイチは白いミニチャイナの京子に目を移した。
 ……同じ顔をしている! どう言う事なんだ……?
 コーイチが考えをまとめようとする前に闘いが始まった。
 赤いブラウスの京子は右手を左肩より高く振り上げ、手の平を白いミニチャイナの京子に向けるようにして、一気に振り下ろした。手の平からオレンジ色をした衝撃波が発せられた。
 白い京子は「チッ!」と舌打ちをして横へ飛び退き、同時に空いている左手で強く床を叩いた。
「うわわわわ……!」
 コーイチは思わず叫んだ。
 白い京子が床を叩いた途端、コーイチの部屋が消え失せ、真っ白なとてつもなく広い空間に変わってしまったからだった。しかも、その空間の中でふわふわと浮かび、さらに上下左右が不明瞭になったような感覚だった。あわてたコーイチが立ち上がって逃げ出そうとすると、その場で頭を中心にして爪先で円を描くように、ゆっくりとからだが回り始めた。
 赤い京子は何も無い空間にいきなり置かれたせいで体勢を崩し、発した衝撃波は白い京子から大きく逸れてしまった。
「あらあら、下手くそねぇ! こうやるのよ!」
 白い京子はからかうように言うと、スミ子を放り出し、赤い京子と同じく右手を振り上げ、手の平を向けるようにして振り下ろした。自分の生み出した空間故か、体勢を崩す事無く手の平から発せられた青白い衝撃波は、真正面から赤い京子に襲い掛かった。
 とっさに赤い京子は両手の平を衝撃波に向けて差し出した。衝撃波は手の平に吸収されて行った。
「まあ! 出来る……わね」
 白い京子は楽しそうに言って、くすくすと笑った。
「笑ってられるのも今だけよ!」
 赤い京子はそう言うと、勢い良く両手を左右に広げた。
 突然、白い空間が赤い空間に変わった。今度は白い京子が体勢を崩した。赤い京子は、その隙に白い京子の目の前まで飛び寄った。
「お姉様! いい加減にして!」
 赤い京子はそう言って、白い京子の顔に右の手の平をぴたっと当てた。白い京子はその手首を両手でつかんだ。
「いたたたた……」
 赤い京子はあまりの痛さにうめいた。……確かに、あの力は凄いものがあるよな。コーイチは回りながら思った。
 痛さにひるんだ赤い京子を白い京子が突き飛ばした。赤い京子は宙で一回転して、ふわりと足から降り立った。再びこわい顔で白い京子をにらみつける。
 コーイチはやっと回るのが治まり、今度は軽く左右にふわふわと揺れながら浮かんでいた。いつの間にかスミ子を胸元にしっかりと抱きかかえ、二人の京子を交互に見ている。
「お姉様! 悪ふざけにも程があるわ!」
 赤い京子は白い京子に右人差し指を突きつけて言った。
「うるさい娘ねぇ。あんたの代わりに落し物を見つけてあげたんじゃない。感謝して欲しいくらいなのに、一体何をするのよ!」
 白い京子も赤い京子に右人差し指を突きつけて言った。
「勝手な事言わないで! この性悪魔女!」
 赤い京子は手の平を白い京子に向けた。
「何だって! この私に向かって……」
 白い京子も手の平を赤い京子に向けた。
「はああああぁぁぁ!」
「ふううううぅぅぅ!」
 二人の京子の気合いが高まって行く。
「あ、あのう…… お取り込み中、申し訳ないんですが……」
 スミ子を抱きかかえたまま、コーイチがおずおずと言った。
 二人の京子がこわい顔のまま、同時に振り向いた。
「一体何がどうなっているのか、教えてもらえないかなぁ……」

       つづく

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