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コーイチ物語 「秘密のノート」 132

2022年09月25日 | コーイチ物語 1 15) 二人の京子 
「そうだ!」
 ブロウが、ばっと顔を上げた。顔いっぱいに涙の跡が残っているが、その瞳は双方とも明るく輝いていた。
「そうよ、そうだわ、そうなのよ!」
 ブロウは右手をぐっと握り締めて顔の横に持って来て、すっくと立ち上がった。
「何とかなるかも知れないわ! コーイチ君! ……あれぇ?」
 ひとりで興奮していたブロウは、ようやくコーイチがおいおい泣いている事に気付いた。そのそばでシャンもしくしくと泣いていた。
「ねえ、コーイチ君! お姉様! 何で泣いているのよ! 泣いているヒマなんてないわ!」
 自分がわんわん泣いていた事など無かったかのように、ブロウは二人に声をかけた。
 コーイチがふらふらと顔を上げた。シャンも目を真っ赤にしたままの顔を上げた。
「二人とも、何て顔をしているのよ!」ブロウは呆れたと言った表情でコーイチとシャンの顔を見比べていた。「ひょっとしたら、上手く解決出来るかもしれないわ」
「えっ?」
 コーイチとシャンが声をそろえた。二人は顔を見合わせた。それから、得意げに胸を張っているブロウに顔を向けた。
「本当なの?」
 シャンが疑り深そうに声をかけた。
「本当よ! 魔女は嘘はつかないわ」
 ブロウが快活に答えた。見慣れた可愛い笑顔になっている。
「じゃあ、ボクは大丈夫なんだね」
 コーイチはほっと安堵の息をついた。
「そうね、これが上手く行けば、ね」
「……上手く行かないかも知れないんだ……」
 コーイチは不安そうな顔に戻ってしまった。ブロウは否定するように、両手を左右に振って見せた。
「そんな事ないわ。絶対大丈夫よ。……ただ……」
「ただ……?」
「ただ……」ブロウは胸に抱えたスミ子を優しく撫でた。「スミ子次第……かな?」
「スミ子次第……?」
 コーイチは不思議そうな目でスミ子を見た。なんとなく、本当の持ち主の所に居て、安心しているように見えた。
「スミ子が満足すれば、解決ね」
 ブロウが明るい口調で言った。
「じゃ、もし満足しなかったら?」
 シャンが口をはさんだ。ちょっと声にからかいの雰囲気が混じっていた。
「満足しなかったら……」ブロウは急に暗い顔になって、ぼそりと言った。「解決しないわ……」
「あ、あのさ」コーイチがあわてた口調で言った。「解決しないと、どうなるんだい?」
「……スミ子と同じタイプのペットノートに名前を書かれて赤くなった過去の有名人に、シーザー、マリー・アントワネット、この国の人だと織田信長、坂本竜馬、それから……」
 ブロウが指を折って数えながら言った。
「その人たちって、みんな悲しい結末を迎えた人たちじゃないか!」
 コーイチは叫んで、青い顔になってしまった。

       つづく

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