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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 7

2020年01月29日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「ふむ……」
 ケーイチはそう言うと、押入の前に座り込んだ。じっと押入を見つめている。
「ケーイチ兄さん……」コーイチが呼び掛ける。しかし、ケーイチは身じろぎ一つしない。「……やれやれ……」
「どうしたの?」逸子が小声でコーイチに聞いた。「お兄さん、座ったまま寝ちゃったの?」
「いや、そうじゃないんだ。兄さんは考え込むと、あんな風になっちゃうんだ」
 コーイチは困ったような顔で言った。逸子はそっとケーイチの隣に座り込んで、その姿を盗み見た。ケーイチは目を閉じていて、ゆっくりとした呼吸を繰り返してた。
「ねえ、コーイチさん……」逸子がコーイチのそばに戻って小声で言った。「やっぱり、お兄さん、寝ているみたいよ……」
「いや、そう見えているけど、じっと考えているんだ。さっきの連中のことをさ」
「さっきのねぇ……」逸子はつぶやく。「押入から出入りするんだから、当然、普通じゃないわね。それに、言葉もわかるから同じ日本人じゃない? さらに、わたしたちを下に見て偉そうにしていた。青いつなぎのような変な服を着ていた。そんなこんなを考え合わせると、あいつらは、未来人化、日本人の姿をして宇宙人ってところじゃないかしら?」
「そう言えば『烈風庵空手』とか言っていたのはアツコって名乗ってたなぁ……」
「まあ! コーイチさんは女の人の名前は覚えるのね!」
 逸子はぷっと頬を膨らませると、コーイチの右の二の腕をつねった。
「いたたたたた!」
 悲鳴を上げるコーイチだった。
 それが合図になったのか、ケーイチが突然立ち上がった。
「そうか! そうだったのか!」ケーイチは叫ぶと、得意げな表情でコーイチと逸子を見た。「分かった、分かったよ!」
「何がだい?」コーイチは腕をさすりながら言った。逸子は何もなかったように、にこにこしている。「兄さん、何が分かったんだい?」
「今の連中だよ」ケーイチは胸を張る。「押入から出入りする事、我々を見下している事、変な服を着ている事、言葉が通じる事、そして、女はアツコと言う日本名を名乗った事、それらを総合するとだ……」
「未来の日本人!」逸子が嬉しそうに言う。「あるいは、日本人の姿をした宇宙人!」
「……」ケーイチは両目をまん丸に見開いて逸子を見た。「……いやあ、こりゃあ、何とも…… その通りだよ、逸子さん。君は鋭いなあ!」
「へへへ……」逸子は照れくさそうに笑う。「いやですわ、お兄様、そんな、恥ずかしい……」
「だけどね、オレは未来人だと思っているんだ。ほら、変な電話があっただろう? その後、着信履歴を見たら、訳の分からない表示になっていた……」
「そうでしたわね」
「あの電話の内容は、タイムマシンに関することだった。トキタニとか言う人物からだった」
「そうおっしゃっていました」
「その直後、変な連中が現われて、コーイチは誰だって言ってきた」
「……と、言うことは……」
「そう言うことだよ、逸子さん……」
 二人はそろってコーイチの顔を見た。
「え? 何? え?」じっと見つめられて、コーイチはおろおろと戸惑っている。「何がどうだって言うんだい? え? 何だよう!」
「コーイチ、分からないのか?」
「コーイチさん、どう言う状況か分からないの?」
「え~と……」コーイチは考えてみるが、さっぱり分からない。「ごめん、全然だめだ……」
「いいか、コーイチ、とにかく座れ……」ケーイチが言いながら座った。コーイチはケーイチの前に座った。「あの電話は何でなのかは知らんが、混線したものだ。未来につながってしまったのだ。しかも、タイムマシンを研究しているトキタニって人とだ。オレもタイムマシンを研究している。そして、トキタニ氏の問題を解決してやった。と言う事はだ、未来でタイムマシンが完成したって事なのだよ。それで、タイムマシンの恩人を捜すことになった。電話はコーイチ、お萌のものだ。……どうだ、ここまで言ったら分かるだろう?」
「……じゃあ、ぼくがタイムマシンの問題を解決したって事になっているのかい?」
「そう言うことになるだろうなあ」
「じゃあさ、お礼を言いに来たって事なのかな?」
「あいつらの様子、そんな風に見えたか?」
「……いや、見えなかった……」
「そうだ、そこが問題なんだ」
 ケーイチは腕組みをして、じっとコーイチを見つめた。


つづく
 

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