こんにちは!公認会計士の青山です

パブリックセクターを中心に会計その他のお手伝いをしています。徒然なるままに仕事やプライベートについて紹介します。

大学はトイレで選んでいいんです。

2019-12-09 | 公会計

母と娘の会話

(母)入学金の支払いがあるから、そろそろ大学どこにするか決めて!

(娘)A大学も良かったけど、B大学はトイレがきれいで仕切られた化粧台もあるし、良かったな。

(母)大事な大学選びをトイレで決めていいの??

(娘)・・・

お母さん、大学は、トイレで決めていいんです。

少子化が進み、将来の大学経営が不安定なこの時代では、今後、大学の執行部の裁量がますます問われます。そして、執行部の裁量つまりセンスは、トイレを見ればわかる!少し言い過ぎかもしれませんが。でも、学生にとって、特に女子学生にとって、教場と同じくらいトイレは大事な空間ですよね。学生をファーストを掲げているのであれば、まずトイレの整備を進めてほしいですね。この気持ちがわからない執行部は将来不安です。言いすぎかな?


プレミアムフライデー

2019-04-17 | 公会計

以前、私の知り合いが、上司1人、自分1人の計2人の海外駐在所に赴任していた時のことを思い出して、次のような話をしていました。

「当時、仕事以上に上司との波長が合わなくて大変だった。上司は週明けが一番元気で週末に近くなるほど疲れてくるけど、自分は逆で週末に近づくほど仕事に精が出る。仕事の歩調が全然合わなかったんだ。」

たぶん、上司の疲れは「肉体的な」疲れであり、一方彼の疲れは「精神的」疲れなのです。知り合いは、当時まだ若かったので、肉体的にはバリバリ働く体力を持っていたけれど、精神的には上司と2人だけというのもあって、きつかったのでしょう。きっと、彼は金曜の午後が一番仕事に精が出たことでしょう。なぜなら、今頑張れば、明日気持ちよく休めるのだから。 

経済産業省等が、毎月末の金曜日を「プレミアムフライデー」とする取り組みを開始してから、20192月で2年が経ちました。月末の金曜日に少し早めに仕事を終えて、豊かな週末を楽しもうという試みは、消費喚起には少しずつ効果が出てきているとの評価がある一方、日本経済に劇的な効果をもたらしているかというと疑問も生じます。では、今後何が必要なのでしょうか。

その答えは、前述した私の知り合いの言葉にあるような気がします。毎月末の金曜日に早めに仕事を切り上げ豊かな週末を過ごすという発想は、明らかに金曜日に疲れている「おじさん」の発想です。一方、「若者」には響かないでしょう。「若者」は残業をしてでも、金曜日中に仕事を終わらせたいと思うはずだからです。そう、金曜日だから頑張れるのです。

では、「プレミアムフライデー」が全く意味のないものかというとそうではありません。なぜなら、若者も「プレミアム」な「フライデー」にしたい気持ちは、おじさんと変わらないからです。但し、一工夫必要なのかもしれません。若者は、一生懸命仕事を頑張った週の終わりには、気の合った仲間と飲みたい。たとえ、それが遅い時間であっても。そのために、せめて金曜だけはオールナイトで電車を動かす、せめて終電の時間を遅らせるなどの工夫は必要ではないでしょうか。そうすれば、「金曜22時開始翌日2時終了」の食事会も普通にできるかもしれませんね。


「研究大学強化促進事業」について

2017-12-09 | 公会計

 平成2911月、文科省は、「研究大学強化促進事業」の中間評価結果を公表しました。「研究大学強化促進事業」とは、日本の論文数等の国際的シェアの相対的低下を踏まえ、世界水準の優れた研究活動を行う大学群を増強し、日本全体の研究力の強化を図るため、大学等による、研究マネジメント人材群の確保や集中的な研究環境改革等の研究力強化の取組を支援するというもので、平成25年度から10年間の支援を行うものです。配分額は、22の各大学等に約2億円から4億円となっています。

 ここで、この度公表した、中間評価結果では、

S評価が、東北大学/京都大学/大阪大学/早稲田大学/自然科学研究機構

A評価が、北海道大学/筑波大学/東京大学/東京医科歯科大学/電気通信大学/名古屋大学/神戸大学/広島大/熊本大学/ 奈良先端科学技術大学院大学

Aマイナス評価が、東京工業大学/豊橋技術科学大学/九州大学/ 高エネルギー加速器研究機構/ 情報・システム研究機構

B評価が、岡山大学/慶應義塾大学、となっています。

 ところで、この約2億円から4億円の配分額は、研究への支援としては少ないと思う人もいるかと思いますが、これは、あくまで研究マネジメント人材群の確保や集中的な研究環境改革等への支援なのです。私は、大学の監事をしていて、ある優秀な先生から、「研究をしていて一番うれしかったことは、助教になったときです。なぜなら、これで20年、30年研究に集中できるから。」とおっしゃっていたことが印象に残っています。大事なのは、膨大な研究費を拠出する前に、優秀な研究者が安心して研究に没頭する環境を整備することではないでしょうか。日本の論文数等の国際的シェアの相対的低下を食い止めるために、本事業は有効になり得るものと思っています。但し、大学の取組み次第ですが。


国立大学と私立大学の会計について

2017-10-23 | 公会計

 国立大学と私立大学は同じ大学ではありますが、会計処理や計算書類の内容は全く異なります。

 まず、私立大学の会計である学校法人会計の特徴の1つは、基本金の処理があることです。そもそも基本金とはなんでしょうか。学校法人は、その本来の目的である教育活動や研究活動を円滑に行うため、必要な資金を継続的に保持することが必要です。その資金を留保したものが基本金です。

 一方、同じ大学でも国立大学にはこのような基本金の考え方はありません。国立大学の場合、教育研究活動を行うための基礎となる施設・設備の整備及び不動産の購入に要する経費は、当初から国からの施設整備費補助金として補助されることが想定されているためです。

 私立大学と国立大学の会計処理の違いは基本金だけではありません。主要な財源が授業料収入や入学検定料収入である私立大学と、財源の多くを国からの運営費交付金や施設整備費補助金で賄う国立大学では、おのずと会計処理も異なるのです。しかし考えてみてください。財源が異なるといっても、同じ大学であり教育研究活動を行うことに違いはありません。組織の活動を資金の調達とその運用とすると、違うのは半分(調達)だけで、残りの半分(運用)は同じなのです。

 私立大学と国立大学の連携が進んでいる現状においては、両大学を比較する機会も増えています。将来的には、会計面においても両者を接近させる試みが必要となってくるでしょう。


地方の大学が生き残るには

2017-09-26 | 公会計

 東京都の小池知事は、人気が高い秋田の国際教養大学の例をあげ、大学が抱えている問題と一極集中の問題は次元が異なると述べています。確かに地方大学の苦悩を一極集中だけの問題にすることはできないでしょう。しかしながら、普通の努力でも学生が集まる都市部の大学がある一方、努力をしても学生が集まらない地方大学も多いのです。高等学校を卒業してさらに大学で4年間一般教養を学ぶことに価値を見出していない家庭は、都市部より地方の方が多いと想定すると、地方大学の問題は一極集中の問題以上に深刻かもしれません。

 言えるのは、地方大学は都市部の大学とは違う工夫が必要ということです。たとえば、一般教養以外の知識、技能を身に着けることができるとか、資格を獲得できるなどです。また、都市部の大学と比べて就職活動に不利にならないような工夫も必要でしょう。国立、私立を問わず、地方の大学は、広い土地など都会にはない魅力も多いのです。工夫の仕方によっては、都市の若者にとっても4年間過ごしたいと思うことでしょう。

 現在、地方の国立大学の文系を再編する動きがありますが、地方創成には大学の存在は欠かせません。私が関わっていた山梨県の公立大学は、町に学生がいるだけで活気が生まれていました。地方創成を進めていくためにも、地方の大学が生き残る工夫を真剣に検討することが必要です。

 


都市部の大学は何を行えばよいのか?

2017-09-06 | 公会計

 先日、文部科学省による東京23区の定員抑制の問題に触れました。また、東京一極集中の問題と大学の問題は関係していることも触れました。現状においては、一極集中が学生の都市部の大学への集中を生み、それがまた次世代の一極集中を増長しています。都市部の大学はそのスパイラルを切る必要があります。

 ただし、東京23区の定員抑制策は、都市部と地方の大学格差及び東京一極集中の問題を解決するための根本的な解決策にはなっていません。では、一極集中のスパイラルを切るために、大学、特に都市部の大学は何をすれば良いのでしょう。

  まず地方自治体と組み、地方創成の一翼を担うことも必要でしょう。たとえば、都市部の大学が地方の自治体と協定等で手を組み、大学は地場産業の活性化や産業創出に貢献するとともに、地方の自治体は都市部の大学の学生の就職支援に協力するのです。地方を離れる学生の多くは地元に戻りたいけれども戻れないのが実情です。学生にとっても進学した大学が、自分の地元と密接な関係があればうれしいでしょう。また、地元の地方創成に参加する機会があるかもしれません。さらに、それが縁で地元に就職できるかもしれません。すでに、自治体と積極的に協定を締結している大学もあります。また、私立大学連盟の調査(「私立大学の地方創生の取組」)では、加盟大学の約7割がすでに地方創生に向けた取組を行っているというデータもあります。ただ、インパクトのある取組という点では、まだまだこれからでしょうか。今後も継続することが重要です。

 なお、都市部の有力大学の合格者の割合のうち都市部の学生割合が増えている現象(東京ローカル化)が生じており、これをもって一極集中に歯止めがかかっていると考える人もいます。しかし、実際にはこの現象は一極集中の進んでいる結果であり、ただ単に地域の学生が経済的な面等で都市部に来るハードルが高くなっているためと思われます。

 いずれにしても、一極集中の恩恵を受けている都市部の大学が、一極集中のスパイラルを断ち切るべく地域貢献に積極的に乗り出すことは意義があることだと思います。


23区内大学定員増抑制について

2017-09-05 | 公会計

 現在、国は東京23区の定員抑制策を推進しています。

 但し、東京23区内の収容定員増抑制の問題については、一般財団法人日本私立大学連盟が、「私立大学の定員や学部・学科の新設等を規制する立法等による措置を講ずることは、学問の自由や教育を受ける権利に対する重大な制約となり得る」との声明を5月に公表しています。

 また、東京都の小池知事も、7月の全国知事会議などで、大学が抱えている問題と一極集中の問題は次元が異なり、混同して東京23区内の収容定員増抑制を行っても大学問題、特に地方の大学が抱える問題の解決にはならない旨の発言としています。

 いずれの意見もそのとおりです。ただ、日本が抱える一極集中の問題と大学の問題は密接に関係していることも事実です。多くの企業が首都圏に集中していれば就職活動に有利な首都圏の大学に学生が集まることも道理にかなっています。

 東京23区内の収容定員増抑制は暫定的な措置としては有効ですが、根本的な解決のためには、地方の大学、首都圏の大学、そして国が、それぞれしっかりと問題解決のための検討を行うことが必要です。

 


オフ

2017-07-28 | 公会計

 秋田に仕事で来ており今日7月28日に帰る予定でしたが、止まっていた秋田新幹線が明日29日に全面復旧することがわかり、帰京を明日朝に変えることに。

 思はぬ時間ができたので、駅近くの居酒屋で一杯。思えば、ここ2週間あまり休みがなかくずっとオンの状態だったので、久々にオフの瞬間のような気がします。

 ちなみに、この居酒屋よねしろは、ドラマIRISのロケ地として有名だそうです。


指定国立大学法人その2

2017-07-01 | 公会計

 文部科学省は、平成29年6月30日、東北大学東京大学及び京都大学の3法人を指定国立大学法人に指定しました。結局、国立研究開発法人と同じ3法人です。ちなみに、特定国立研究開発法人は、物質・材料研究機構産業技術総合研究所及び理化学研究所です。

 今後、これら3法人は、研究成果の活用促進のための出資対象範囲の拡大や国際的に卓越した人材確保のために職員の報酬・給与等の基準の特例など、さまざまな特権が認められます。 ただし、特定国立研究開発法人指定の際にも言いましたが、特権が認めらるということは一方で高い水準の管理運営体制いわゆるガバナンスも求めらることになります。指定国立大学法人がただのランク分けに終わらぬよう、3法人には他の大学の模範となりつつけん引して欲しいものです。

 なお、申請はしたが今回の指定からは外れた東京工業大学、一橋大学、名古屋大学及び大阪大学は、今後指定候補として再度の審査を行うようです。


国立大学の土地の貸し付け

2017-05-07 | 公会計

 「国立大学法人等は、(中略)文部科学大臣の認可を受けて、当該国立大学法人等の所有に属する土地等であって、当該業務のために現に使用されておらず、かつ、当面これらのために使用されることが予定されていないものを貸しつけることができる。」

 これは、平成29年4月の改正法で、国立大学法人法に新たに加わった条文です(国立大学法人法第34条の2)。

 簡単に言うと、国立大学で今まで認められていなかった大学の土地等の第3者への貸し付けを認めるというものです。

 国立大学は、今までも改革が行われてきました。国立大学法人化、3分類で評価した上での運営費交付金の配分、指定国立大学法人の指定(これも今回の改正法。)など。ただし、なかなか成果が発現しません。運営費交付金が削減される中、世界ランキングでも苦戦が続いています。

 そのような中、土地等の貸し付けが認められることの可能性は大きいと感じています。国立大学の多くは、土地は広くてもその一部が遊休土地となっていたりします。特に、都市部にある国立大学は、そのような土地が活用されないことの機会費用は大きいのです。今後、そのような土地の有効活用、たとえば民間企業との共同利用施設の構築、民間ディベロッパーと共同での宿舎や寮の建築など、可能性は広がります。もちろん、大学の収益源としても期待できます。各大学の土地等の有効活用に向けた取り組みに期待します。

 なお、今回の改正は国立大学の会計にも影響するでしょう。現状の会計基準では、固定資産について当初予定していた使用目的で使用しない決定、つまり用途変更の決定をした場合にも減損処理すなわち資産の価値をさげなければなりません。しかしながら、実際には用途変更を行っても資産の有効活用を行っている場合もあります。今後会計基準の見直しが必要かもしれませんね。


ハーフパイプとフリーキャッシュフロー

2017-02-03 | 公会計

 ウィンタースポーツ真っ盛りですね。フィギュアスケートにジャンプ。スノボ・ハーフパイプもその1つです。ハーフパイプとは、技を決めながら緩い斜面に作られた長いハーフパイプを往復しながら徐々に下っていく競技です。技を失敗すると、速度を維持できず次の演技に影響してしまいます。難しい競技ですね。

 私は、このハーフパイプが、会社の事業活動に似ていると思うのです。会社では、毎年度最善のパフォーマンスが求められます。一度でも営業判断を間違うと推進力を失い、翌年度以降の会社運営に影響するでしょう。

 つまり、両者とも一度でも演技(会社では営業判断)を失敗すると、その演技の評価(その年度の業績)だけではなく次の演技(翌年度の業績)にも影響する点です。

 私は、両者の関係を理解するために、「フリーキャッシュフロー」という言葉が良いのではと思っています。「フリーキャッシュフロー」とは、会社が事業活動から獲得したお金のうち自由に使うことができるお金です。会社では、毎年度のパフォーマンスが「フリーキャッシュフロー」を生み、それが翌年度の事業活動に繋がります。経営者は、常に「フリーキャッシュフロー」を意識して経営しなければなりません。「フリーキャッシュフロー」は、ハーフパイプでは「エアーの高さ」といったところでしょうか。どちらも、次の演技に繋がる役割を担っています。

 こんなことを考えながらハープパイプの競技を見るのは私だけでしょうね。でも、会社経営が如何に難しいかは理解できると思います。

 


有明アリーナ

2016-12-16 | 公会計

 東京都の小池知事は、東京オリンピック・パラリンピックのバレーボール会場について、有明アリーナの新設を表明することになったようです。また、コスト削減(初期投資額)だけではなく、将来の成長戦略や維持費(毎年度の維持経費)の抑制など、投資の観点も踏まえたアリーナの整備方針も公表するようです。

 運営の方法としては、「コンセッション方式」が有力です。この方式は、平成23年のPFI法改正によって可能となった管理方法で、事業者に独占的な運営権(公共施設等運営権)を与え、事業を行わせる方式となります。コンセッション方式では、インフラ等の事業権(事業運営・開発に関する権利)を長期間にわたって第三者に付与することになりますが、公共施設の所有権は自治体に残ったままであり、また施設の性格によって料金設定の決定権限も留保することが可能なので、この点で民営化とは大きく異なっています。

 いずれにしても、将来の成長戦略や維持費(毎年度の維持経費)の抑制は重要な観点なので、地域の発展に加え、都内にある他の類似施設との競合問題なども考慮した上で、「コンセッション方式」「指定管理者制度」など慎重に検討していただきたいですね。


バレー会場(有明アリーナ)の費用試算

2016-12-01 | 公会計

 先日バレー会場(有明アリーナ)を新設した場合の費用の試算が明らかになりました。初期投資(つまり建設費)約340億円、年間の収支差額プラス2.5億円、65年間の修繕費約294億円です。年間の収支差額とは、施設利用収入から人件費や水道光熱費など施設維持費を差し引いた差額です。

 民間の考え方では、毎年の減価償却費が約5.2億円(耐用年数を65年とした場合、340億円÷65年)、毎年の平均修繕費4.5億円(294億円÷65年)かかるので、毎年7.2億円(2.5-5.2-4.5)の赤字となります。

 ただし、前にも述べましたが、公共施設では、赤字は覚悟の上で、せめて年間の維持費だけは回収しようという考えはありなので、収支差額プラス2.5億円というのは決して悪くはありません。本当にそれだけの収入が見込めるのであれば、、、の話ですが。

 また、公共施設で導入されている「指定管理者制度」を導入し、費用対効果も高めなければなりません。

 いずれにしても、前にも言いましたが、初期投資(つまり資本的支出)及び修繕費(つまり建物の価値を高めない修繕、収益的支出)について、都民のコンセンサスを得ることが必要です。

 私は、中学1年生の時からバレーボールをしているので、このニュースはちょっと気になります。ただ、有明アリーナに固執することはないと思うのですが。それより、日本バレーもっと強くなってほしいですね。

 


オリンピック・レガシーと施設の有効性、効率性について その3

2016-10-19 | 公会計

 最後に、運動施設と「スポーツ文化」について考えてみることにします。

 自治体が運営する運動施設、たとえば東京体育館や市民プールは、公共性のある施設として維持費の一部に税金が投入されています。これは前述のとおりです。では、税金が投入されることは当然なのでしょうか。私は違うと思います。本来は運動施設でも採算がとれる施設であるべきです。民間が運営している施設なら、様々なイベント等を行うことによって赤字にならないようにするでしょう。自治体が運営する運動施設で、税金の投入が許される条件、言い換えると公共的施設になり得る条件はただ1つ、その地域に「スポーツ文化」が熟成していて、競技会場がそのための施設かどうかだと思います。

 では、「スポーツ文化」とは何でしょうか。「文化」と言っても、下町文化や江戸文化など地域や歴史のまとまりを指すものや、食文化と言った人の活動を指すものなど様々で、一言で定義するのは難しい概念です。しかしながら、あえて定義すると、「人間が有史以来獲得してきた能力や慣習、さらにそれから発達した芸能、宗教、政治、経済・・・・そしてスポーツなどなど」でしょうか。

 人間は、進化してきた過程で自然環境に適応する身体的特徴を失ってきました。たとえば、寒冷地に生息する動物は毛皮や厚い皮下脂肪があるなど身体的特徴がありますし、肉食動物は鋭い牙を持っています。逆に人間は、身体的特徴を切り落としてきており、その代わりに道具を用いたり服装や住居を工夫したりしてきました。これらが能力や慣習となり、結果として文化を生み出してきたと思われます。スポーツについても同じです。

 人は生きていく上で「心と体のバランス」が重要となります。つまり、健全な心を維持するためには健全な体が必要になります。また、健全な体は健全な心が支えます。人は生きていく手段として体を酷使しなくなった後でも健全な体を維持するために体を動かす慣習を保持し、それが各種のスポーツとして発達してきました。そして、これらスポーツが地域の人々に慣習として根付いている状況こそが、「スポーツ文化」の熟成ということができるのではないでしょうか。

 運動施設に税金の投入が許されるには、「スポーツ文化」の熟成、つまりスポーツが地域の人々に慣習として根付いており、さらに施設が、1)地域の人々に対して、生涯を通じてスポーツに参加(する、見る、支える)する機会を提供し(これは、たとえ参加していなくてもスポーツを身近に感じることを含む)、2)年齢を重ねてもその世代に応じて活動を継続できる環境を提供し、3)さらには、生涯を通じてスポーツが必要不可欠なものとして生活の一部を占める環境を提供できる機能を備えていることが必要です。

 最初に戻ります。3競技会場が「負の遺産」にならないためには、東京において「スポーツ文化」が熟成しており、さらに自治体が有効性、効率性の高い施設として維持できるかです。まずは、その判断のための情報、たとえば初期投資額(建築費)及び毎年度どの程度の維持費がかかるかについて、東京都は都民に公表すすることも必要だと思います。


オリンピック・レガシーと施設の有効性、効率性について その2

2016-10-18 | 公会計

 施設の有効性と効率性について、もう少し考えてみましょう。

 実は、オリンピックの遺産は競技会場だけではありません。1964年の東京オリンピックでは、東海道新幹線の整備も代表的なオリンピックの遺産です。ご承知のとおり東海道新幹線は、その後の日本経済に計り知れない効果をもたらしています。また、社会への経済的効果だけではなく、財務的にも十分採算が取れる遺産となっています。一方、競技会場などの運動施設はどうでしょうか。私の知る限り自治体が運営する運動施設で採算がとれる施設はありません。但し、運動施設の場合、採算が取れる施設である必要はありません。採算が取れる施設なら、民間に任せれば良いのです。どういうことでしょうか。ここで問題となるのが「施設の公共性」と「受益者負担」です。

 たとえば、ある自治体が運営する運動施設の維持費用が1,000円であるとします。この施設は地域住民であれば誰でも使える施設であり、そのために税金が800円投入されています。これが「施設の公共性」です。但し、地域住民によっても利用頻度は異なります。この不公平性を解消するために、実際に利用する場合には一部負担させるべきです。そのため、利用には200円を徴収することにします。これが「受益者負担」です。つまり、結果的に施設は800円の赤字となりますが、これは最初から想定されていることです。

 では、もともと採算が取れない施設でどのようにして「有効な遺産」か「負の遺産」なのかを判断するのでしょう。これが、有効性、効率性です。たとえば、住民満足度が高い施設は有効性が高い施設でしょう。また、稼働率が高い施設も同様です。ただし、ある程度の稼働率は維持していても莫大な維持費がかかる施設は効率性が低いことになり「負の施設」と判断されるかもしれません。

 なお、これらの判断は、自治体自らが行いますので、住民はしっかり自治体が行う判断の妥当性を見ている必要があります。