岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド
とりあえず過去執筆した作品、未完成も含めてここへ残しておく

生徒を殴れる先生がいた時代 〜28年ぶりの恩師との再会〜

2024年09月11日 14時24分21秒 | 小説系記事

2024/09/11 wed

 

 

1 鬼畜道~天使の羽を持つ子~(一章 幼少編) - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

鬼畜道~天使の羽を持つ子~(一章幼少編)2鬼畜道~天使の羽を持つ子~(一章幼少編)-岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)「おいおい、ちょっと酷くないか?」...

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【鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~】より一部抜粋

 

2010年02月23日00:36

【生徒を殴れる先生がいた時代】


 小学校一年生の龍也は、近所のパチンコ屋『ジェスコ』の息子と同級生でよく道端で遊んでいた。
 この子の家も僕らと同じ三兄弟で、龍也の同級生の吉岡は長男だった。

 顔立ちが特別格好いいという訳ではないが、映画館の『ホームラン』で見たジャッキーチェンに似た顔立ちをしていたので、とても強い奴だと僕は思っていた。


 よくパパに連れられ『ジェスコ』で床に落ちている球を拾い、台に設置されている手打ちのバネで弾いて遊んだ。

 当時『アレンジボール』というパチンコ台とは一風変わった台があって、百円玉を入れると「ガッガッ」とすごい音を出しながら二枚のコインが出てくる。内容は決まったパチンコ玉の数を手打ちで調整しながら打ち、画面に表示された数字のパネルをビンゴすればメダルが出てくるというもの。
 僕は、相撲取りが動く台のパチンコを好んでよくやった。


 強くなりと常に思っていた僕は、そのパチンコ屋の息子の吉岡の頭を叩いたり、蹴ったりするようになる。
 ジャッキーチェンに似た男をやっつける事で、強くなれると勘違いしていた訳だ。

 外見とは逆にすぐ泣き出してしまう吉岡。

 それでも僕は構わず叩いた。

 

 ある日、連繋寺の『ピープルランド』にパン屋の太郎ちゃんと遊びに行く約束をして、家の前の路地を歩いている時だった。
 道沿いにはパチンコ屋『ジェスコ』がある。

 電信柱があり、その陰に吉岡が隠れていた。
 僕からは見えないとでも思っているのだろうか?

 気付かないふりをしてそのまま歩くと、吉岡は絵の具で使うバケツを持っていて、僕目掛けて水を引っ掛けてきた。

 いたのは予測していたので水をかわすが、横っ腹に少しだけ掛かってしまう。


「この野郎っ!」
 僕は吉岡の髪の毛をつかみながら、グーでボコボコに殴りつけてやった。

 しかし彼は鼻血を出しながら、僕に掛けた水の染み付いた洋服を見ながら、「やった」と満足そうに笑っていた。

 薄気味悪さを感じた僕は、この日を境に吉岡を苛める事はしなくなった。


 それからしばらくしてパチンコ屋『ジェスコ』は潰れ、吉岡の家族はどこか別に場所にいってしまった。
 今ではもう二度と連絡すら取れない。

 


 僕はクラスの女子をよく苛めるようになった。

 男の子は好きな女の子を苛めるものだと、誰かが言っていたが、残念ながら僕には該当しなかった。
 ただ、苛めて困る顔を見るのが楽しかった。

 だから僕は無差別に女子を苛めた。


 男子の中では英雄扱いでも、女子には嫌われた。
 でも、全然へっちゃらだ。

 休み時間になると、数名で女子は固まり僕を警戒するようになった。

 比較的おとなしく苛めたらすぐ泣きそうな女の子は、苛めのリストから外していた。


 ある日、クラスの中で些細な事から男子対女子の対立が起きた。

 僕の前に座る隣同士の男女が口喧嘩から始まった。
 この時はまだ休み時間である。

「おまえって猿みたいだよな」と男子生徒の深沢が言った。
 この男、ひょろッとしているが、クラスでも頭一つ分つき抜けた身長がデカい男である。

「何よ、あんたなんてウドの大木じゃない」と女子生徒の益田清子が言い返す。

 後ろの席で、どうでもいいような言い合いを眺めていた。
 ただお互いを罵っているだけの言い合い。

 途中で益田が涙ぐんでいた。

「もうこんな奴の隣は嫌だ」

「俺だってごめんだよ。おまえがどっか行けよ」

 深沢の言葉に、その子は爪で腕を引っかきだした。

 益田は引っかき技が得意なせいか、あだ名は『キーちゃん』と呼ばれている。
 いや、名前が清子だから『キーちゃん』なのか分からない。
 でもすごい勢いで引っかいている。

 深沢は泣きながら髪の毛をつかみ出す始末。

 目の前で取っ組み合いの喧嘩に発展した。


 たまたま益田の振り回した腕が、僕の頭に当たる。
 僕はその中に飛び込み、戦火はどんどん拡大した。

 ただ見ている男子にどんどん号令を掛けた。

「おまえら、女どもをやっちゃいよ。男を舐めるんじゃねえ」

 僕の号令で面白いように喧嘩の輪があちこちで勃発する。

 男子の司令官はいつの間にか僕になっていた。
 この小さな戦争にクラスの半分以上は参加した。

 クラス内の男女戦争とも言うべき結末は惨めなものだった。
 ママから殴られ慣れていた僕は、同級生の攻撃が怖く感じなかった。

 隣の女子が泣き出すと、あちこちで悲鳴や鳴き声が聞こえ出した。
 授業が始まるチャイムが鳴り、自然とみんなの動きが止まった。

 みんな、地べたに座り込んでへとへとになっている。
 小さな戦争に参加した大部分の子が怪我をしていた。

 結果的には男子の優勢勝ちだったろう。
 でも、そんな事はどうでもよくなっていた。

 

「何をしてるんだ、おまえら」
 気がつくと、教室の入り口に福山先生が立っていた。

 驚いた表情で、教室の状態を見てから怒った顔に変化する。


 あれだけ騒がしかった教室は一気にシーンと静まりかえった。

 


「神威君が悪いんです」
 誰かが泣き叫んだ。

 僕は声をした方向を睨んだ。
 すると、女子が一斉に僕の名前を言い出した。

 見る見る内に先生の顔は赤くなり、僕だけを見ていた。


「神威が首謀者か?」
 先生は僕に真面目な顔で聞いてきた。

 緊張が走る。

「はい、クラスの女子が生意気だったんです。だから男子にやれって号令掛けました」

 僕がそう言うと、先生は近づいて腕をつかんだ。
 かなり怒っている、ヤバいなあ……。

 僕は内心とは裏腹に、みんなの見ている前だからと無理して強がった。

「神威、先生と来い」

 強引に立たされる僕。
 涙が出そうになるが、一生懸命こらえた。

「みんなも先生のあとをついてこい。いいか、全員だぞ」


 福山先生に腕をつかまれた状態で、僕は廊下を歩いている。
 クラスのみんなも無言であとからついてきた。

 体育の授業でもないのに、一クラスの生徒が一斉に廊下を歩く姿は、他のクラスにどのように見えたのだろうか。


 行き先を告げられないまま、着いた到着場所は体育館だった。
 僕の腕をつかむ先生の手が離れた。

 体育館の中にいるのは、僕と先生の二人のみで、残りの生徒は扉の外から様子を伺っている。

 先生は無言で用具室へ向かい、運動マットを引きずり出していた。
 そのままマットを横に三枚並べると、ちょうど正方形に近い形を作った。

「みんな、中へ入れ。早く入れ」
 先生の声は顔と同様に厳しかった。

 うな垂れながら重たそうな足取りで、体育館に入るクラスメートたち。
 僕一人だけが違う場所にいた。

「神威、上履きを脱いでマットの上にあがれ」
 先生に言われるまま、マットの上にあがる僕。

 僕にとって、目の前のマットはプロレスのリングのように見えた。


「クラスの女子に手を出したように、先生にも掛かって来い」

「……」
 いくらそう言われても、先生に突っ掛かるなんてできる訳がない。
 掛かったところで、コテンパンにやられるのが分かる。


「どうした、女とか弱いものには暴力を振るえても、先生にはかかって来れないのか?」

「くそぉー」
 僕はみんなの見ている前だというプライドもあり、先生に突進した。

 大きな手が頭を抑え、僕の突進は簡単に止まる。
 先生はそのまま力を入れて頭を強引に押した。

 僕はマットに転んだ。

 悔しい……。
 何で僕だけがこんな思いをしなきゃならないんだ。

「どうした、もう終わりか?」

「ちくしょ……」
 僕はそう言い掛けて慌ててやめた。
 ママがヒステリックな鬼の顔になった時の台詞をあれだけ怖がっていた僕が使おうとしている。

 やや、間があいて辺りはシーンと静まり返る。

 

「くっそー……」

 再び立ち上がり、僕は先生に向かっていった。

 結果は何度繰り返しても同じだった。
 何で僕はこんな事をやっているのだろう。
 体がクタクタだ。

 この場から逃げ出したかった。
 でも、何故か必死に突っ掛かっていった。

 

 

「がんばれ、龍ちゃん」
 誰かの声が聞こえた。

 純治君だった。
 隣の男子は焦った表情で見ている。

「馬鹿、ヤバいだろ。そんな事、言っちゃ……」

「うるせえ、龍ちゃんは何度も倒されたって、立ち上がってるじゃねえか」


「頑張れー、神威君」
 幼稚園の時からの同級生だった洋介君まで、僕に声援を送り出した。

 


「がんばれ……」

「がんばれっ、神威っ」

 この間、殴り合いの喧嘩をした神谷君の声まで聞こえた。

 

「頑張れよー」

 純治君や洋介君の声で触発されたかのように、あちこちで声援があがりだした。
 心の中に温かい何かが流れてきた。

 ママの打ち方に比べたら、先生は手加減してくれている。
 僕がここで投げ出したらどうするんだ?

 正しい、正しくないは別にして勇気が湧いてきた。

 何度も向かっていき、何度も倒された。
 クラスのみんな全員が真剣に注目していた。


 あれだけいがみ合っていた女子からも声援が起きだした。

 

 


「分かった。もういい」

 静かに福山先生は言った。
 僕は汗をぬぐいながら、先生の目を見た。

 

「みんな、ちゃんと見ていたか。先生は女に暴力を振るう男が大っ嫌いだ。神威は悪い事をしてしまった。ここにいるみんなもそうだ。神威は自分で率先してやった一番悪い奴だ。だから先生は神威を何度も倒したんだ。でもな、神威は諦めないで何度も先生に掛かってきた。悪い事は確かにした。でも、それからこいつは逃げなかったんだ。だからみんなも勝手に声援を送り出したんだろ? 仲良くしようとしれば、おまえらできるんじゃないか。先生が何も言わなくたって分かってるんじゃないか。今の気持ちを忘れないでほしい…。神威、よく頑張ったな……」

 


「ご、ごめんなさ……」
「もういいんだよ、神威。よくやった」


 今まで踏ん張っていた何かが、急になくなった。
 僕はみんなの前で泣いてしまった。

 そんな僕の姿を笑う人間は誰一人いなかった。
 代わりに全員が拍手をしてくれた。

 自然と起きた現象だった。
 今まで送られたどんな拍手よりも暖かい拍手だった。


 福山先生の顔は体育館に来てから、初めて笑顔を見せた。

 僕はこの件で、前よりも先生が大好きになった。

 


 

 上尾市平方にある八枝神社……


 小学三年生の頃、その神社の神主をやっていた人がクラスの担任だった
 当時テレビで放送された水谷豊主演の『熱中時代』を好きだった先生は、いつだって生徒に体当たりで接してくれた

 でも、先生は小学生ギャングと呼ばれる俺たちの時代に対し、頭を悩ませていたのだろう……

 小学四年生の一学期が終わると、先生は『家庭の事情で』と学校を辞めてしまった
 みんなほとんどの生徒が泣いている中、俺は我慢して、家に帰ってからワンワンと大泣きした

 

 


 そのあと担任に、お寺の住職をしている先生がなった
 その先生も負けないぐらい熱血でいい先生だった

 

 そんな事を思い出しながら、今の作品を必死に書いた

 

『鬼畜道 一章幼少編』を完成させた俺は、今の彷徨った教育方針に対し、どうしてもこの作品を教育委員会に見せたかった

 拙く未熟な文章ではあるが、想いだけは乗せられた
 教育というものの一環に役立てればと思ったのだ

 

 


 でも、その前にしなきゃいけない事がある

 小学三年生といえば、九歳か十歳ぐらい?
 今、38歳だから30年近く……

 

 


 どうしても先生に会い、『鬼畜道 一章幼少編』を自分で本にして、プレゼントしたくなった

 

 同級生に電話をして、先生の事を事情聴取を行う

 以前先生の神社の近くの高校へ通っていた同級生は、詳しく神社までの道のりを教えてくれる。だた神社の名前までは思い出せないようだ

 電話で話しながら、「待てよ? 今、こんなにネットが便利になった時代なんだから、上尾の平方にある神社を調べてみよう」とすぐに探ってみる

 


 その地域で神社は一つしかなかった。電話番号まで書いてある

 

 2010年3月4日 PM21:05
 俺はその電話番号に電話を掛けた

 

 

 

 

「はい……」
 男の人の声が聞こえる


「私、岩上と申しますが、福●●彦先生…、いえ、福●●彦先生さんという方は神社でいらっしゃいますでしょうか?」

 

「私ですが……」


 自分の耳を疑った
 あの時の先生が今、こうして……


「小学校三年桜組だった岩上です…。先生覚えてますか……」

「おお…、岩上か……。今、何をしてんだ?」

「一応…、小説家をしてます……」

 前回KDDIの『おあやの先生』に言った「プーです」なんて、とてもじゃないが、言えなかった

 


「おお、そうか…、本当に久しぶりだな……」


 俺は泣きそうになるのを堪えながら、今、ギネスへ挑戦している事。そしてその作品の『鬼畜道 一章幼少編』を書き終え、先生にどうしても会って作品を渡したかった事を伝えた


 15分ぐらいの会話の中、俺はこれまでの人生を簡単に説明した


 賞を一度獲った事。もう別の賞を獲ったところでそんな立ち位置など変わらないだろうから、ギネスブック公認されるような小説を書き進めて、世界一を目指す事

 全日本時代の事を言うと、先生は「マネージャーで行ったのか?」と言う。体の線が細かった俺の今の姿など、まるで想像もつかないのだろう。会って、ビックリさせようじゃないか

 そして浅草ビューホテルへ流れ、居場所を感じず歌舞伎町へ渡り裏稼業をした事。浄化作戦で捕まり、留置所へ入った事

 サラリーマン生活に馴染めないので『岩上整体』を開業した事


 手短にすべて説明した

 


 そして3月10日、午後2時。約一週間後……
 数十年ぶりに再会の約束をした

 ここに忘れずに道順を書いておこっと……
 氷川神社の前の道を真っ直ぐ。入間川を超えると、リバーサイドフェニックスゴルフ場があり、すぐそのそば

 皮肉な事にその道の通りに、先生が辞めたあと担任になったお寺の住職をしていた先生のお寺が、埼玉医大の手前にある……
 お寺の先生とは、俺が全日本を目指している時、幹事で小学校3、4年のクラス会をして呼んだ。神社の先生とは当時連絡が取れなかったのだ

『今だから言えるけど、俺は福●先生にはジェラシーを感じていた。あの先生のあとを継ぐ形で担任を受け持ったが、果たして俺で大丈夫なのか』と、21歳の時代にやったクラス会の時、静かに俺に言った事がある

 帰り道、この先生にも会いに行ってみるか……^^
 それじゃ、本を二冊作らなきゃいけねえじゃねえか、面倒だなあ……(笑)

 福●先生が『幼少編』を読んだら泣かす自信はある
 でも、逆に田●先生がこれを読んだら、嬉しくもあるだろうけど、寂しく感じさせちゃうかな……

 

 

 電話口の向こうで、福●先生は静かに言った

「おまえたちを教えてきた頃は、俺も27、8歳だったなあ。俺に会いに来てどうするんだ?」

 

 


「学びに……、そして今の俺を…、少しでも知ってもらいたくて……」

 自然と言葉が出た

 ずっと詰まっていたものが吹き出しそうになり、最後は涙声になってしまった

 

 小学校の時唄った『希望のボレロ』という歌を思い出した
 福●先生とはまるで関係ないのになあ……

「今も~僕の胸に響く~、僕たちの~愛のメロディ~……」

 寂びの部分だけ歌詞を思い出した
 今度同級生たちを集めて、みんなで唄ってみようかな(笑)

 


 このタイミングだったからこそ、やっと会えるんだろう
 俺は先ほどの同級生に電話をして、お礼を言う

 ずっと会いたいと思っていた
 でも、手掛かりが分からなくて会えずじまいだった

 本当にこのタイミングでこうなって事に対し、感謝を覚える

 


【一章 幼少編より一部抜粋】


 給食の時間がやってきた。
 今日は非常に楽しみだ。

 何故ならハンバーグが出るからである。
 ほとんどの人は好きなハンバーグ。
 みんな、この日を待っていた。

 ハンバーグを間に挟むパンが、二つくっついた状態で、みんなに配られる。
 大抵の人はハンバーグを半分にして、それぞれのパンに入れて食べた。

 全員に給食が配り終わり席に着くと、先生は教壇からみんなに向かって話し出した。

「今日はな、先生がこのパンの正しい食べ方を教えてやる」


「正しい?」
「何だろ?」
「いつも決まっているのに……」
「何ですか?」
「そんなのないよ」

 みんな好きな事を勝手に言い出した。

 それにしても正しいパンの食べ方とは何だろう。
 前にこの献立が出て時は先生、何も言わなかったのに……。

「はい、うるさいぞ。先生の話をちゃんと聞け」

「はーい」


「よーし、いいか。まずはみんな、ビニールに入った状態のパンを手に持って…。中から取り出して、くっついているパン同士を離してくれ」

 言われた通りにした。
 しかし言われるまでもなく、いつも普通にやっている行為だ。

「いつもみんなはハンバーグを半分にしてるだろ? 今日はそのまま、一つのパンに挟んでくれ」

「もう一つのパンはー?」
「先生、駄目だよ」
「何でー?」

 またクラスが騒々しくなった。
 僕は黙って聞いていたが、先生が何をしたいのか、何も分からなかった。

「うるさいぞ。いいから言われた通りにしろ」

 仕方なく言われた通りにする。
 隣の生徒は小さな声で、何かをブツブツ言っていた。

「もう一つのパンがあるだろう? 今日はそのパンの正しい食べ方をこれから教える」

 


 教室はシーンと静まり返った。

 


「まず、中にハンバーグを入れる前にやるように、中を開いてくれ。そしたらな……」

 言い掛けながら先生は、後ろを向いてゴソゴソしている。

 

 


 それから教壇の机に白い紙が掛かった灰色の箱を勢いよく置いた。

 先生は上に掛かる白い紙を取りながら、笑顔で大きく言った。

 

 

 

「あとのパンは、今日、先生が用意したこのコロッケを挟んで食べるんだ」


「わー」
「いぇー」
「ほんとかよ」
「やったー」
「先生最高」

 一気に教室の中は歓喜の声で充満した。

 先生は自腹でわざわざコロッケをクラスの人数分を買って、用意していてくれたのだ。
 喜ばない生徒など、誰一人もいなかった。

 こんな展開を誰も想像していなかったのだろう。
 その分、喜びは大きかった。

 先生は満面の笑みで教室を見回した。
 あまりのうるささに、隣のクラスの担任が僕らのクラスを見に来たほどであった。

 僕はこの福山先生が担任で本当に良かったと、心の底から感じた。


 こんなにおいしいコロッケは初めて食べたような気がした。


【鬼畜道 一章幼少編より】

 


 
2010年3月20日 PM6:00
場所:ぼだい樹

雀蜂の入った酒(ぼだい樹にて)




「分からない事は格好悪いと考えず、ハッキリ分からないでいい。地位や権力にしがみつかず、格好をつけない事。そして女性(奥さん)には触れ合いが大切だ」



 28年ぶりに再会した恩師の言葉……


 俺が小学3年生の時27、8歳だった先生は、57歳になっていた
 今は神社の神主をしている



 同級生を一人だけ呼んだ

『岩上整体』時代、顔を出してくれ、そのお母さんにも散々お世話になった同級生を俺は選んだ


 そのお母さんを見て、俺は『擬似母』という作品を思いつき、まだ執筆途中ではあるが、いずれプレゼントしたいと思っている

「私はねあんたが小さい時から、お母さんが家から出て行って
よく近所の人たちが噂してたのを知ってたんだよ。
うちの子と同じクラスだったし、心配してたけどさ
私が口を挟む問題じゃないしね。
そんなあんたが、駅前で整体を始めたって聞いてね。
私は頑張ってほしいなって素直に思ったの。
だから自然とここに来るようになってね。
ここが閉まっちゃうのは寂しいけど
試合で怪我とかしちゃ駄目だよ。
これからも頑張ってね。小説も何もかも……」


思わずジーンと来たけど、俺は笑顔で
心の底から「ありがとうございます」って言えた


後日、その同級生から電話が掛かってきて

「岩上、本当ありがとうね」

「え、何が?」

「お袋さ、岩上のところ行ってるの、とても楽しかったんだよ
いつも俺と会うと話題に出してさ。俺は結婚してお袋と一緒に
住んでいないし、自分の息子のように思ってたんだと思うんだ」

何だか心が温かくなり、素直に嬉しかった

もし、この人が俺のお袋だったらなあ……
そんな事も一瞬考えた

ありえない事なのに何馬鹿な事を考えているんだろうなと

 

同級生のお袋さんが当時岩上整体へ持ってきてくれたぬか床




その時、そうだ、俺、小説を書こう!

頭の中に閃いたのは……

擬似母でした

三ヶ月も執筆途中で未だ完成していませんが
これが完成したら、同級生のお袋さんへ
プレゼントしようと思ってます
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01 擬似母 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

擬似母母さん……。僕には、母さんと呼べる人間がいません。だから、あなたの事を心の中だけでいいので、「母さん」と呼ばせてもらっていいでしょうか?駄目だ...

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 優雅で有意義な時間は、本当に時間が経つのが早い
 夜中の1時過ぎまで夢中で話し、先生は二万近い金額の代金までご馳走してくれた


「先生、そんな訳いきませんよ!」

「馬鹿野郎、○○は妻子持ち、おまえは無職だろうが」と先生は笑いながら言った


 本当に昔と全然変わらないなあ……

 

 先生は昔と全然変わらず、そしてこんな俺に対し、男気があって先生は嬉しいと言ってくれた


「お袋が出て行って自由を履き違えていた俺に、それを教えてくれたのは先生です。その芽を大きくしてくれたのは、今は亡きジャンボ鶴田師匠であり、支えてくれているみんなです」


「そして師の教えを自己で消化し、発展させるのは弟子の役目です」


 先生は終始、目を細めながら笑顔で頷いてくれた




 駄目だな……
 どうもこういう記事書くと泣いてしまう自分がいる

 


28年ぶりに訪ねた恩師の神社

2010年04月01日21:53

 

 今日は先生の神社へ二度目の再会へ向かう
 しかも今日はノーアポイントw

 何故なら『鬼畜道 一章 幼少編』と『新宿クレッシェンド』をまだ先生と先日の2010年3月20日に28年ぶりの再会時、パソコンが壊れ、本をプレゼントできなかった

 今日は先生に渡すべく本をちゃんと準備して、いざ先生のいる神社へ!!!
 いなかったらサッと渡して、サッと帰るつもりだったのだ


 小学3年生だった俺は、クラスメイトと共に先生の神社へ遊びに行った
 もうあれから28年も経つのか


 鳥居を潜ると、脳の片隅にあった大きなけやきの木が


 思わず写真を撮ってしまう

 当然の訪問に先生も奥さんも、嫌な顔せず招き入れてくれ、昼の三時に行ったのが、結局夜の八時半頃までずっと話し続けた
 先生には近くの和食レストラン『そうま』で食事までご馳走になってしまう始末……

 何度も「俺が出します」と言ったのに、先生は「いいからいいから」と笑顔で会計を譲ってくれなかった

 

 先生の娘さんたちも懐いてくれたので、今度近い内料理を作って持ってくる事を約束し、俺は帰り道食材を買いに寄った

 

 まだまだ未熟者ですが、岩上智一郎頑張りますよ!!!

 


 

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