去年の十月、秋田県の田沢湖に一人で行った。
ほんの少し前のような気がしていたが、あれからもう一年たつ。
夏に妻の遺品を整理していると、すっかり忘れていたアルバムが出てきた。
新婚旅行で行った、田沢湖で撮った写真のアルバムだった。
ところどころに、妻の小さな字で簡単な説明が書いてあった。
私のそばで微笑んでいる写真、その背景が田沢湖のどこなのか、
知りたかった。 もう一度その場所に行ってみたかった。
仙台研修の帰り、田沢湖まで足をのばして泊った。
地元の人なら写真の場所を聞けば、きっとわかるだろうと思い、
泊ったのは田沢湖の民宿だった。 駅前でレンタカーを借り、
宿に着いたときはもう暗くなっていた。
宿は東北らしい素朴な民宿だった。
夕飯のとき、持っていった写真をおかみさんに見せてわけを話すと、
奥からお爺さんを呼んできてくれた。 都合がいいことに、
お爺さんは以前、田沢湖周辺の自然保護の仕事をしていたという。
「これはここから、こう撮った写真、これはこっちからこの方向に
撮ったものだな」
一緒にお酒を飲みながら、虫メガネ片手に、写真の背景の場所を
次々に特定して、地図に印をつけてくれた。
翌日、宿を出た私は湖をめぐり、地図に印された場所に
立ってみた。 あれから三十年の月日が流れている。
帰りに乳頭温泉のほうに車を走らせると、赤い花が一面に咲いて
いるところに通りかかった。 車を降りて花を見たが、なんの花か
わからなかった。 だが葉や全体の感じが、前に書いたタデ科の
溝蕎麦(ミゾソバ)に似ていた。 (溝蕎麦よりもっと大きく茎が太い。)
最近、植物を調べていて、偶然にこの植物の名前を知った。
赤蕎麦だった。 食用になり栽培している地方もあるという。
畑というには面積が小さかったが、道沿いに点在するペンションの
人が種を播いたのかもしれない。
形之医学・しんそう療方 東京小石川
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