形之医学・しんそう療方 小石川院長 エッセー

昭和の頃、自然と野遊び、健康と医療のことなど。

谷津田(ヤツダ)

2012-06-29 17:15:40 | Weblog

東京から、千葉県佐倉に引っ越してきた頃、平地のわりに樹木の
豊かな丘陵がとても多いのに驚いた。  ところが、幾重にも重なる
帯状の丘陵と思っていたのが、ずっと後になって、北総台地が侵食
されて残った台地だったのを知った。 




台地や侵食されたこの谷のような低い地形を、谷津(やつ)、谷地(やち)と
いい、そこに作られた田んぼを谷津田という。(私の故郷、山形にも地名に
「谷地」がつくところがある。) この「津」という字はどういう意味なのか、
興味があって白川静の"字解"を調べてみた。 しみ出る、という意味がある
ようだ。 (他にも、渡し場、の意味がある。)

北総台地は、海底が隆起したところに、富士を起源とする火山灰が
積もり出来ているという。 赤土で有名な関東ローム層だ。 
この地層は保水性が高く、その下の谷津は台地からの湧水が豊富で、
谷津田はそれを利用している。

時折話題になる里山と同じく、多くの生物が豊かな生態系をつくり、
さまざまな生物を見ることができる。 この入江のような谷に沿って
小道があり、私もいろいろな野草や樹木、昆虫、そして幾度か親子
連れのキジやカルガモ、タヌキ、イタチなどを見ている。

ところがこの谷津田が、最近は荒廃が進んでいるそうだ。 
一つの大きな原因は、細長い入り江のような地形のために、
今の農業の大型機械が入らず、その維持は人手によるしかない。 
そのため、人手不足に悩む農家の手が回らなくなったためという。 
もう一つの原因は土地の開発による。 残念ながら佐倉でも、荒廃した
谷津田や、開発のために建設機械でつぶされた谷津田を見ることがある。 
最近はこうした豊かな生態系をもつ谷津が見直され、これを保存する
ために活動する人たちも増えてきているようだ。

                    
からだの形は、生命の器
形之医学・しんそう療方 東京小石川
http://www.shinso-tokyo-koisikawa.com/


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鉄葎(カナムグラ)

2012-06-20 16:24:50 | Weblog

カナムグラは雑草の多いところでよく見る野草。 
蔓性で、田んぼ近くのポンプ小屋などを覆うように茂っているのを見かける。

この草、衣服にザラザラと絡みつく。 カナムグラのある中を歩くと、いちいち
ズボンに引っかかって歩きにくい。 子どもの頃、カンシャクを起こしながら、
原っぱの中をけっ飛ばすようにして歩いていたのを思い出す。
これは茎や葉柄に、下向きの小さなトゲがたくさん出ているためだ。
カナムグラはこのトゲを引っかけながら、よじ登るように伸びていく。

家の裏に、毎夏、同じところにカナムグラが出て、近くにある小さな木を
小山のように覆う。 (1年草なので、冬には姿を消す)。 
そのそばに、いつも鉢の古土を捨てているところがある。 春先、ここの
まだ何も出ていない土に、縦に2、30本の小さな何かの芽が出ていた。 
刺すぞ刺すぞという感じの、なにか憎々しいような姿をしている芽だった。 
植物の芽で憎々しいなどと思ったことがなく、なんだろう、古土の中にこぼれた
花の種の芽かとしばらく様子をみていた。 だがだんだん育つにしたがい、
葉の形からカナムグラとわかった。 カナムグラの葉は成長すると、
八つ手のような葉をしているが、それとは全然違っていた。 





アサ科の植物。 蔓が絡み合うと強靭で、その様子から「鉄」、
葎(ムグラ)は、蔓が絡み合い生い茂る様子をいう。
葎草(リツソウ)という名の生薬として、健胃、解熱、利尿に用いられる。


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凍湖

2012-06-13 12:40:01 | Weblog
   

  湖 凍りつつある音よ 

  失いしわが日と木の葉とじこめながら


                       寺山修司(1935~1983)



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鬼の矢柄(オニノヤガラ)

2012-06-11 19:19:22 | Weblog

オニノヤガラ(鬼の矢柄)を、始めて見たのはかなり前のこと。
北総台地の高台にある城址公園の本丸跡を土堤が囲んでいる。 
ここは眼下に広がる田園風景が、遠くまで見渡せる散歩道になっている。

人がよく歩くので、小道にはあまり草が生えていない。
あるときその脇に、50センチほどの、まるで矢のような棒が突き刺さっていた。 
緑の葉もなく、誰かがイタズラで枯れ枝を刺したのだろうと思った。 
引き抜こうとして、はじめてそれが植物であることに気づいた。

調べてみると鬼の矢柄(オニノヤガラ)といい、ラン科の植物で、
名前はその矢のような姿からつけられたようだ。 先端にクリーム色の
花を咲かせ、それが矢羽に見えるからますます矢のようだ。 
緑の葉でもあれば植物らしいが、葉緑素をもたないので光合成が
できない。 なので自ら生きることができず菌と共生して生きる。 


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落とし穴

2012-06-08 16:07:49 | Weblog

小学校の頃、砂場に落とし穴を作るのが、男の子たちのあいだで流行った。
悪ガキのイタズラで、小さな穴を掘り、その上に落ちている小枝を組んで
新聞紙をのせ、砂をかけてわからなくする。 それから友だちを呼ぶ。 

呼ばれたほうは、笑いをこらえているような友達が、
どうも怪しく思われ、砂場に目を配り、用心しいしい近づいていく。
それでも落っこちると、ワーイ!ワーイ!とはやしたてて面白がった。

こういうのはたいていエスカレートする。 しまいには、犬のフンを
穴の底に入れるヤツが出る。 (私もその一人です。

その当時、東京の家々で飼っている犬は、たいてい放し飼いだった。
朝、エサをやると放し、犬はそこらじゅうをほっつき歩き、夕方もどると
また鎖につながれた。 だから犬のフンは町のどこにでも落ちていた。

落とし穴に入れておくのは、カラカラに干からびたやつである。 
それを鼻をつまんで、ひろった木の枝を箸のように使って穴の
底に仕掛けるのだ。 

穴に落っことしたほうは、サッと両手の親指と人指し指で輪っかを
作って鎖のように組み、「エンガチョ、鍵閉めた!」 と宣言する。
こうすると、犬のフンを踏んだほうから触られても、その汚いのが
乗り移らないのだ。 鍵を閉めそこなって触られると移される。 
考えるとおかしいが、悪ガキたちは慌てて鍵をかけていた。
中にはフン穴に落とされて、頭に血がのぼるやつがいた。 
仕返しにフンを棒で挟んで、投げつけようと振りかぶったら、
ちぎれたフンが頭に落ち、家に飛んで帰って頭を洗うのがいた。
 

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三重県桑名市・二本松

2012-06-07 16:19:17 | Weblog

小学校の夏休みには、母親の郷里、三重県桑名によく行った。
行くと一回り年上の従兄に、揖斐(イビ)川の河口に近い、二本松に
魚釣りによく連れていかれた。 自転車の後ろに、竹の一本竿を二本か
ついで乗せてもらい二本松に向かう。 二本松という地名が正式の名
なのかわからないが、大きな松の木が数本、堤防の草むらにポツンと立っ
ていた。 揖斐川の河口は広く、対岸が遠くに霞んで見えた。


釣れるのはほとんどハゼで、ダボハゼもときどき掛かった。
ダボハゼは黒っぽい色のハゼで、骨が硬くて食べにくいから釣ると逃がす。 
ヤツは岸近くの大きな石蔭を出たり入ったりしている。

この魚は餌をつけようと、糸を流して餌箱をいじっているうちに、餌のない
針にまでかかることがあった。 釣りに飽きると、餌をつけた糸を手に持って、
そばの石蔭でゆらゆらさせる。 やつはノコノコ出てきて食いつくから、
まるで縁日の金魚すくいをしているみたいだった。



ここで初めて釣りをしたとき驚いたのは、シジミがごっそりいたことだ。
浅い水辺のやわらかな砂の上で釣っていると、足裏に何かがゴツゴツと当たった。 
なんだろうと思い掘ると、シジミが敷きつめられたように砂の中にいて驚いた。 
小さなシジミだったが、従兄にシジミが沢山いるよ! と教えると、
放っとけと言われまたびっくりした。 誰一人獲っている人もいなかった。

一度竿に、ハゼとは比べものにならないほど引きの強い魚が掛かった。 
いったいなんだろうと釣り上げると、子どもの手のひらほどの小さな鯛だった。 
あの竿の感触は今も手に残る。

ある日の釣りの帰り道、私は行きと同じように自転車の荷台に乗っていた。 
そのとき、道沿いの幅10メートルほどの川の中に、丸太のような大きな雷魚が、
ボカッと浮いたのを見つけ、止めてくれと叫んだ。  
でも従兄は何ごともないように、自転車を走らせ続けた。 
自然はどこまでも豊かだった。

後に伊勢湾台風によって土手の堤防が決壊し、多くの被害を出してから、
堤防はコンクリートで新しくつくられた。 今はあの松も消えた。


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月光

2012-06-04 16:02:06 | Weblog


  月光の およぶかぎりの蕎麦の花



           柴田 白葉女(1906~1984)


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