【ML251 (Marketing Lab 251)】文化マーケティング・トレンド分析

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『ネット帝国主義と日本の敗北 搾取されるカネと文化』

2010年02月20日 | 書評
2月に入ってすぐ、HMVの実質的な音楽配信撤退が報じられました。
「実質的」というのは、正確には「iTunes」との提携ということだからです。
従来の音楽配信サービス「HMV DIGITAL」は2010年2月28日をもってサービス終了
ということだそうです。

2007年、ライブドアさんとコラボして私が書いた
「音楽配信サービス利用実態調査レポート2006」の結果では、
“一人勝ち”の「iTunes」に対して「HMV DIGITAL」は、
アクセス経験、購入経験、CD購入枚数別・有料配信購入曲数別の購入経験、
どれをとっても厳しい状況で、旧「ORICON STYLE」とほぼ同様のスコアでした。

オリコンさんが賢明にも早々の撤退を決められたことと対照的に、
HMVさんが今まで健闘されたのは小売業態であるゆえと推察します。

音楽配信サービスにおける「iTunes」の“一人勝ち”。
“Winner Takes All” というやつですね。
ユーザーにとっての利便性、がキーとなりますが。

今回の事例は、“垂直的”には小売業態内の勢力図の塗り替えですが、
“水平的”には日本企業が米国企業に取り込まれた、ということになるでしょう。
(当事者の皆さんは、「何を言う!、あくまでも win winの提携だ!」と仰せでしょうが)

本題に入ります。

『ネット帝国主義と日本の敗北 搾取されるカネと文化』



著者の岸博幸氏は通産省(現経産省)入省されて以来、多彩な経歴をお持ちです。
(詳しくは、amazonのデータを、いや、本書をお読みになって下さい)
著者が政策の企画・実行担当者であるだけに本書では、
国益という視点から、コンテンツ政策のグランドデザインにとって、
文化資本がいかに危機的な現状であるかということを、
要点をよくまとめて述べられています。
“警鐘を乱打”されている、と言っていい。

基本的には、まずネット上のビジネスの構造を押さえておく必要があります。



最も重要な論点は、

①「コンテンツ・レイヤー」に位置するメディアやコンテンツ企業が、
 「プラットフォーム・レイヤー」のネット企業に搾取される。

②同時に「プラットフォーム・レイヤー」上は米国のネット企業の帝国主義的な
 世界展開による一人勝ち状態。

③米国ネット企業による世界のマスメディアやコンテンツ企業の搾取の結果として、
 ジャーナリズムや文化が衰退している。

ということです。

“縦への展開”としては、「プラットフォーム」による上位の「コンテンツ」の取り込み。
“横への展開”としては、「プラットフォーム」のグローバル展開。
(同書132ページより)

利益という観点では、
「プラットフォーム・レイヤー」のみを活動領域とするネット企業に、
流通独占と超過利潤がシフトして、「コンテンツ・レイヤー」に超過利潤が還元されず、
ジャーナリズムと文化の衰退に至る、ということ。(同書193ページより)

読者数ではネットのほうが50倍もいる「ニューヨーク・タイムズ」紙は、
ネットからの広告収入は紙の10分の1程度。
ネットからの広告収入だけでは、同紙の社員数の20%しか養えない。(同書64ページより)

このあたりの詳細は、佐々木俊尚氏の『2011年 新聞・テレビ消滅』に詳しいですが。



コンテンツ(=楽曲)の単価を押し下げた「iTunes」が儲かっても、
コンテンツを創るメーカーの利益は下がる一方。
(そのうちアップルさん、M&Aによる「コンテンツ・レイヤー」企業の垂直統合を試みちゃったりして・・・)

岸氏は、50ページで以下のように述べています。

「低下したのは“ユーザにとってのコンテンツの価値”であり、“社会にとってのコンテンツの価値”は変わっていない、ということです」

「コンテンツは文化を形成するものであり、社会にとっての文化の重要性が不変である以上、特にプロが制作するコンテンツの社会にとっての価値も変わっていないはずです。」

「つまり、ネットの普及によって、コンテンツの“ユーザーにとっての価値”と“社会にとっての価値”の間に大きな乖離が発生してしまったのです。」

私の基本的なスタンスは“ユーザーオリエンテッド”です。
但し、“ユーザーオリエンテッド”は、「プラットフォーム・レイヤー」企業が、
徒にコンテンツの単価を押し下げて、(結果的に)質の“劣化”を正統化する“言い訳”にさせてはならない、と考えます。
それに、“ユーザーオリエンテッド”とは、表面的なユーザーの声に盲目的に従う、ということではありませんからね・・・。

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