ウチの祖母は明治27年生まれだから、今生きていれば国内最長寿者だろう。その彼女の好物が「大根の葉」のてんぷらだった。ところがどこにも売っていない。懇意の八百屋に頼んで、捨ててあるものを拾ってもらうのだが、昔は葉付きで出荷されていたものが、市場に出る前に選果場でカットされるようになってから、極端に入手が難しくなってしまった。ゴミとして処分されるだけで、誰も必要としている人が
いるなんて考えてもいないようだ。私は何度か付き合わされているうちに、味にはまってしまった。あれが捨てられるなんてもったいない。彼女の生家は超古い神社で、広大な畑を小作に出していたから、けして貧乏でそれしか食べられなかったというわけではなく、好みでわざわざ摘んできて食べていたという。農村では簡単に手に入るありふれた食材だ。東京暮らしが長かった彼女だが、戦時中の食糧難でも平気な顔をしていた。小さな庭に野菜の種を蒔いて自給自足。近所の玉川上水の土手からは、食べられる野草を片っ端からいただいてアク抜き。余ったら近所におすそ分けする余裕も。ところが隣家の主婦は、ある日大根をもらって驚いたと言う。配給でもめったに出ない貴重品。でも祖母は平然と、「大根の葉が食べたくて作ったので、大根はいらない」。本末転倒とはこのことか。先日、大根の選果場で作業を見ていて、不思議なことに気付いた。一般の大根は市場で高く売れるよう、平均的なサイズで姿の良いまっすぐなものを作って出荷する。ところがある農家は、極端に曲がったものばかり出して、全部はねられて失格に。
でも私には、はねられた大根がとても魅力的に見えた。一般の大根の茎はきれいに手で切られている。
もちろん葉などついていない。ところがはねられた大根は茎のギリギリのところまでびっしりと細かい葉が。何か生命力のように感じるのは私だけ? 食べ比べてみたいよね。まあ、こんな人もいるので、どこかで手に入るようにしてもらえるとうれしいな。(2012年記)
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