話の種

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失われた30年

2023-08-17 21:35:32 | 話の種

「失われた30年」

日本経済はバブルの崩壊により長期低迷、デフレに陥ってしまい、失われた20年と言われていたものが今や30年になってしまっている。
バブルは金融緩和によって引き起こされたものだが、現在も金融緩和は行われているにもかかわらずデフレから脱却出来ないでいる。この違いは何だろうか。

まず言えるのは、低金利により得られる資金の使い方が違うということ。
バブル時代は企業は(個人も)不動産投資や株式投資などを活発に行い、経済は過熱し、インフレになった。
商社で言えば伊藤忠商事は不動産投資、丸紅は株式投資で大きな利益を上げた。
三菱地所は米国のロックフェラーセンターの買収で話題になった。
この頃は企業も利益を従業員に還元し、賃上げ交渉で組合要求よりも会社回答の方が多かったという笑い話のような話もある。従って個人の購買意欲も旺盛で、需要が供給を上回る状況が続いた。
一方、現在はと言えばバブルの崩壊やリーマンショックなどにより、経営者は保守的になり、低金利とは言えども銀行からの借り入れはあまりせず、設備投資にも慎重で、得た利益は内部留保として貯め込むばかりで、従業員の賃金などは押さえつけられたままである。これでは個人消費も伸びない。最近になって企業も政府からの要請もあり、従業員の給料を上げるようになってきたが、インフレによる物価高には追いついていない。従って消費者も先行きが見えないことより依然として慎重で、給料の一部は細々ながら貯蓄しておこうということになる。

昨日(8/15)、本年4-6月期のGDPが発表されたが、実質で前期(1-3月期)より1.5%増、年率換算で6.0%増だった。実質GDPの実額は560兆円で過去最高。これを牽引したのは円安による自動車などの輸出及び訪日客の増加だった。一方設備投資はほぼ横ばい、GDPの半分以上を占める個人消費は0.5%減で、内訳は非耐久財(食料など)が1.9%減、耐久財(白物家電など)が3.3%減となっており、家計支出への慎重さが伺える。これについて朝日新聞の記事は、「この成長率の伸びは海外の景気に左右される外需頼みのもので、賃金上昇が物価高を上回る環境をつくらなければ持続的な成長にはつながらない」と述べている。

つまり企業業績は概ね好調(主体は上場企業だが)であるにもかかわらず、景気が低迷しデフレを脱却できないでいる主な要因は、個人消費が上向かないからであり、その原因は実質賃金が増えていないということにある。(米国は逆に金利が矢継ぎ早に上がっても、それと同時に賃金も上がっており、個人消費支出は引き続き堅調で、不安視されていた景気の下振れなど感じられない。)
昔は日本は賃金が良いということで海外からの出稼ぎも多く、日本の物価は高いとも言われていたが、今はその逆で、日本への出稼ぎは敬遠され、訪日外国人も日本は物価が安いと言って日本での観光旅行を満喫している。
日本の最低賃金は先進国内では今や最低で韓国にも抜かれており、消費者物価もほぼ最低水準にある。
賃金で特に安いのは第三次産業の労働集約型であるサービス業や流通業で、GDPに大きな比重を占める個人消費を増やすには、これらの人たちの賃金の底上げを早急にしないとデフレ脱却は難しく失われた40年になりかねない。

(補足)

ここで忘れてはならないのは失業率で、日本の失業率は他国と比べてかなり低い。
これは終身雇用と定年延長の影響もある。
(現状、失業率は賃金水準とは相反関係にあると見てよい。つまり他国の場合は賃金水準は高いが失業率も高く韓国も例外ではない。)
また日本の場合、終身雇用ではなくても従業員の雇用を大切にするマインドがある(そうでない企業もあるが)。従って、雇用を維持するために賃金水準を犠牲にして来たと言えなくもない。
「どちらを選ぶか」と二者択一を迫られたら困るが、幸い今日本の上場企業には内部留保と言う打ち出の小槌がある(中小企業は難しいだろうが)。企業業績は今でも堅調なことだし、「どっちも」と言えるのではないだろうか。
従業員の賃金が上がれば、消費も増えるだろうし(日本人が好きな貯蓄に回してはだめだが)、そうすれば企業業績も上がる、そしてまた賃金を上げることができるという、念願だった景気の好循環に持っていく事が出来る、今がチャンスかと思う。(世界経済の落ち込みと言う不安材料は未だに残っているが。)

*失業率(OECD, 2020年)
日本2.8%、米国8.1%、英国4.5%、フランス8.0%、ドイツ4.2%、イタリア9.1%、韓国3.9%

*最低賃金(OECD, 2020年)米ドル
日本8.43、米国7.25、英国11.01、フランス11.59、ドイツ10.67、カナダ10.18、韓国7.27

(最近の物価上昇により各国は最低賃金を引き上げており、今年で言うと一番高い国はオーストラリアで$14.54(¥2,040)(Ex.¥140)で日本の2倍、米国は連邦政府レベルでは$7.25だが各州や市が独自の最低賃金を設定しており、最高額のワシントン州では$15.74、最も低いモンタナ州でも$9.95となっている。
日本も先月最低賃金の引き上げを行い¥1,002としたが、円安が進んでいることよりドル換算すると$7.15(Ex.¥140)、韓国はW9,620(¥1,060)(Ex.¥0.11)で日本を上回ることになった。)

(参考)
*人事コンサルタントの城繁幸氏は次のように述べている。

「経営側は既存の事業と人員を維持することを最優先してリスクをとらず、労働組合は賃上げ要求を封じてそれに協力する。それが全てとまではいわないが、そうした労使の保守的スタンスこそが日本に「失われた30年」をもたらした大きな要因の一つだというのが筆者のスタンスだ。」

(補足)

(第三次産業の内、サービス業や流通業の人達の賃金が安く抑えられていたのは、それでも人を集めることができたから。(謂わば日本人の真面目さや勤勉さに乗じてきた。)
しかし少子高齢化や出稼ぎ減などの労働力の減少により、これら業態の企業も従業員の勤務形態の改善や賃上げに踏み切らざるを得なくなったが、賃金は他業種とはまだかなりの差がある。賃金が低いということは労働集約型産業の宿命かも知れないが、最低賃金が相変わらず先進国内では最低と言うことは、これを決める政府の姿勢に問題があると言える。)

(第二次産業の製造業の内、消費者に近い商品を生産している企業は、賃金を上げたらそれを商品価格に反映せざるを得ず、そうしたら消費者がついてこなくなるという。
しかしエネルギー価格の上昇や円安による原材料の仕入れコストの上昇により、これら企業もついに商品価格の値上げをせざるを得なくなった。確かに消費者の購買意欲はやや低下しているが、良いものであれば少しぐらい高くても買うという消費者の声もある。従って企業努力により従業員の賃金を上げることもそんなに難しいことではないだろう。)

(第二次産業の製造業や建設業でも、消費者にさほど近くない商品を生産している中小企業は、従業員の賃金を上げるだけの余裕がないという。確かに下請け企業だと、元請け企業の値下げ圧力により利益はほとんど出なくなっているのだろう。)
この値下げ圧力を回避し利益を確保するには価格競争力をつけることが必要。そのためには製造技術を向上させる必要がある。これには製造コストを下げる方法と、より良い製品を作るという2つの道がある。それでも現在の元請けが納得しなければ、別の販路を見つけることで、これには中間を排して自身で直接需要先に売るという方法も含まれる。
(価格競争力をつけるということは、他業種・企業でも共通して言えることだが。)

 


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