「女性はしたたか」
先日(2024/06/01)の朝日新聞の「折々のことば」(鷲田清一著)に次のような記事があった。
「完璧な選択なんてない だからとりあえず選ぶ とりあえず選ばない それでいいんじゃないか」
(山口雅俊〈脚本〉)
人生の岐路に立つ娘らを前に、父が恒例の大演説をぶつ。
何を選んでも、それが正しかったか後で不安になる。
正解を求めるより、選んだものを正解にしてゆく方が大事だと。
虚をつかれるも、まずは聞き置くに止(とど)めるところが、娘たち、父よりしたたかかも。
(フジテレビ系のドラマ「おいハンサム2」(原作・伊藤理佐)の最終話から。)
今回なぜこれを取り上げたかというと、「娘たち」「したたか」という言葉が目に付いたから。
この「したたか」という言葉は近年は女性に対して多く使われ、男性に対してはあまり使われない。
当方以前より、人が生き抜いていくためには、女性によく見られるようなしたたかさが重要かつ必要不可欠と思っており、興味を持っていたので、調べてみた。
(このコラムの選者の意図は違うところにあったかと思うが。)
(*男は「いさぎよさ」が求められることが多いが(武士道の影響だろうか)、これだと生き抜いていくことは難しい。)
[「したたか」の意味]
漢字で書くと:「強か」(精神的な強さ)、「健か」(身体的な強さ)
本来の意味(いい意味で使われる):「粘り強い」「強い」「しぶとい」「しっかりしている」
(自分の意志を貫く強さや粘り強さを表現した言葉)
近年の使われ方(少し悪い意味で使われる):「計算高い」「ずる賢い」
(使われ方が少しずつ変わってきて、「狡猾」「あざとい」「腹黒い」などのニュアンスで使われることも増えてきた。)
*「したたか」の対義語は「神経質」「脆弱」「ひ弱」「打たれ弱い」「脆い」など。
[「したたか」という言葉が女性に対してよく使われる訳]
私見だが、この言葉は良い意味でも悪い意味でも女性の特徴をよくつかんでいるので、使われる頻度が高くなったからと思われる。
・腕力、瞬発力は男の方が強いが、持久力、粘り強さでは女性の方が勝る。
・男は何かと理想論に走るが、女性の方は現実的に物事を見ている。
・男は自尊心が強いだけに打たれ弱いが、女性の方はこんなものは何の役にも立たないとして、どうでもよいことは意に介さず平気である。
Yahoo知恵袋には次のようなコメントも載っていた。
「したたかは、物理的に強靭という意味があるが、一方で精神の粘り強さ、叩かれても蘇ってくるような図太さを表わしてると思う。
しなやか、たおやか、とか、一見その女性的な優しい表現も実はしたたかさの一部だと思う。というのも、したたかさという強さは、攻撃的な強さではなく、受身の強さだと思うから。」
また、したたかな女性の特徴として次の3例を挙げている人もいた。
・計算高い
・周りに甘えるのが上手い
・世渡り上手
[「したたか」に悪い意味が加わってしまった理由]
(*前田めぐるさんという文章術講師をしている人の説明)
「本来「したたか」とは、「強か」と書き、「強く、簡単に屈しない」という良い意味を持つ言葉です。
本来、良い意味であった「したたか」がネガティブなニュアンスも加わってしまったのは、なぜでしょうか?
理由はさまざまですが、1つには私たちの使う言葉が、昨今では他者との関係性によって判断されることが多いからだと考えられます。
ある人が「したたか」であるという事実以上に、その「したたかさ」が周囲にどう受け止められるかが、言葉の意味にかなり影響してしまうようです。
元来、人が強く生き抜くためには、単純に気の強さだけではなく、聡明さや計算、洞察も必要です。
しかし、そうしたことが、周囲には「かけひき上手、ずるがしこく、計算高い」と見られてしまうことがあるのでしょう。
窮屈な気がするでしょうが、これもまた言葉の持つ一面です。」
以上述べてきたことを振り返ってみると、「したたか」という言葉を端的に表しているのが、良い意味も悪い意味も両方含んでいる「ずる賢い」という言葉ではないかと思う。
「したたか」という言葉があまり悪い印象を与えないのは、この言葉には賞賛する意味も含まれているからだろう。
(*「ずる賢い」の「ずるい」という言葉も、「上手くやりやがったな」というニュアンスがある。)
世界に目を向けてみると、中国やインドの外交はしたたかと言われることが多い。
欧米のような自国の一方的な主張だけでは衝突を生むだけである。(一神教国とアジアという仏教圏国の考え方の違いということもあるのだろうか。)双方の顔を立てて上手く妥協していく。
人生もこれと同じで、この柔軟性が軋轢を避ける世渡りの「こつ」かもしれない。
(余談)
男「釣った魚に餌はやらない」
女「食いついた餌は離さない」
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