夫と出かけたバレンタインデーの日、帰りに100円ショップのダ○ソーに寄った。
人形の頭部を作ってみようと思い、粘土や頭部の土台になる発泡スチロールや粘土ベラを買い揃えた。
店内を見ているうちに、小さめのデッサン用人形を見つけた。ずっと欲しかったやつ。100円だったら迷わず直ぐに買ったと思う。
それは300円だった。

小学生の頃、“マンガ家になるためには”と言う類の本を買ってもらい、その中にマンガ家に必要な道具として、Gペンや丸ペンなどの筆記具の他にデッサン用人形が載っていた。
私が小学生の頃は、高価で簡単に手に入るものではなかった。いつも憧れていたデッサン用人形。それが100円ショップにある。300円で。すぐ買える値段なのに、何故か我慢した。夫がいたからかも。
夫はほとんどお金を使わない。
「欲しいもの、何か無い?」と聞いても、いつも答えは「無い」なのだ。毎日吸っていたタバコも、数年前に完全に辞めた。
私といえば、常に欲しい物だらけだ。
ブランド物の衣類や靴、バッグ、宝飾品などには全く興味はないが、主に書物など次から次へ欲しい物が出てくる。物欲の塊だ。
家に帰ると、スマートフォンのネットフリマからお知らせが届いていた。見ると、100円ショップで201円以上買うと、200ポイント還元されるというクーポンのお知らせだった。
じゃあ、あの300円のデッサン人形を実質100円で手に入れられる!あそこで我慢して良かったーと思った。
近くの店舗をネットで調べたら、30分程の所にある。早速行ってみたが、デッサン人形は置いてなかった。
家のもっと近くにもう1店舗あったことを後から思い出し、20分程歩いて行ってみたが、やはり無かった。
結局目的の物は、中心街の店にしか置いてないみたいだ。
それを買うためだけに街へ行けば、交通費が余計な出費となってしまう。本末転倒だ。
そこで変なチャレンジ精神が芽生える。どうしても、交通費をかけずに手に入れたい。歩いていくか。
調べてみると、最短コースで片道ほぼ1時間。往復2時間。大昔の人は歩いていたのだ。やってみるか。
12時半出発。お天気もまあまあ、気温も高め。汗ばむくらいだった。
本日最大のミッションはデッサン用人形を購入すること。あと、ついでに2、3の用足し。
ほぼ予定通りの所要時間、1時間程で目的の100円ショップに到着。
この間置いてあった場所に行ってみると、無い…。
そんなこともあると予想はしていた。
夫が「売り切れていたら無駄足になる」と言っていたけど、もしそうであっても、私は無駄足とは思わない。得られるものはある。
歩いて、足が鍛えられる。
コークオンの歩数が稼げる。
歩くことが嫌いじゃない。特に今の時期、真っ白な豊平川沿いを歩くのは好きだ。
店を出る前に、念の為もう一度画材コーナーを確認してみたら、最下段に置いてあった。あー、来たかいがあった。
強がってみても、やはり無駄足だったら悲しい。
セルフレジでスマホのクーポンを出しながら、店員さんにフォローしてもらい、支払いを済ませた。
リュックにデッサン人形を入れ、今度は往路。
いやその前に、せっかく街に出てきたのだ。新聞で知った、全国高校総合文化祭の絵画作品が銀行のロビーに展示されていることを思い出し、足を伸ばして見学することにした。
若いエネルギーを感じる作品4点。みんな上手いなー。
その中の1点。酪農実習のワンシーンを切り取ったものなのか、乳牛の乳搾りをする白いつなぎ姿の女子。生命力がみなぎる30号サイズのカンバス。
全ての作品から感じられる若い感性。
見ていると、こちらも若返るようだ。
元気をもらって、さて帰路。
気温が下がり始め、雪も降ってきた。歩いてきたコースと同じコースをたどって歩く。
足の披露がピーク。痛みも増してきた。最後まで歩けるかな。
子供の頃、冬道は足が冷たくて辛かった。底の薄っぺらいゴム長靴は地面の冷たさが直に伝わる。
防寒のための上着もぺらぺらで、子供の小さな体は直ぐに冷えた。
足も体も凍えて、父に泣き言を言いながら歩いた。そんな時代があった。
それが今はどうだ。
靴の底は厚く、地面の冷たさなど微塵も感じない。
上着はフカフカのダウンコート。風は通さず保温も抜群。この快適な完璧な状態で、足がちょっと痛いだけ。頑張れる。これで文句を言ったらバチが当たる。
家まであと半分の距離となった頃には、足の痛みが峠を越えたのか、楽になってきた。
ただ黙々と歩く。それが何故か心地良い。
コロナ禍になって辛い思いをしている人は沢山いる。コロナじゃなくても、みな悩みを抱えて、日々忙しく過ごしている。
そんな中、退職して働きもせず、好きな事をして楽に日々過ごしている自分は、世間の人に申し訳なく感じる。
せめて、長距離を歩くことで若干の痛みや辛さを自分に与え、世間で苦しんでいる人に申し訳するというか…。後付にすぎないか。
僧侶の修行の1つ、千日回峰行は一日に30キロ歩くそうだ。それに比べたら、ちっぽけな距離だ。
家の近辺まで来たが、ミッションはあと2つ。
コンビニへ行き、夫のポイントカードのポイント数を確認後、景品を申し込んで完了。
次、更に家を離れ、特売のきび砂糖を買いにスーパーへ。これこそ落とし穴。目玉商品だったので、売り切れてたー。
他に2、3商品を購入し、今度こそ家へ向かう。
帰宅後、コークオンで歩数を確認すると、“鬼歩き”記録更新。21,088歩。下2桁、末広がりで良い感じだ。
手に入れたデッサン人形を開けてみた。

身長20センチ

疾走!
満足満足。

疾走!
満足満足。