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ポジティブな私 ポジ人

思いがけない出来事

出社最後の日の朝、更衣室へ入るとお掃除のおばさんがいた。
毎日お世話になっているにもかかわらず、私はおばさんの名前も知らなかった。
今日で最後だと思ったら、自然におばさんに挨拶していた。

「おはようございます。私、今日で会社を退職する事になりまして…。」と伝えるとおばさんは
「お若いのにどうして…」と言った。

おばさんと私はおそらくそんなに変わらない年齢だと思う。
その日私の服装は、ピンクのスリムジーンズに真っ白なカットソー、その上に娘が着なくなったベージュのカーディガンを羽織っていた。
服装から若いと思われたようだった。

「いや、もう還暦も過ぎているので…」と言って苦笑いした。

その日はバタバタと忙しく、お昼ごろ昨日頼んであった荷物が届いたと連絡を受け、社の入り口で受け取るためカウンターへ移動した。
荷物を受け取ると、配達員の後ろに仕事を終えたお掃除のおばさんが待っていた。
おばさんは私の方へ歩み寄り、
「今日が最後と伺ったので…」と言って、私に包みを差し出した。どうやら包みの形から察すると、小さな花束のようだった。

私が余計な事を言ってしまった為に、名前も知らないお掃除のおばさんに散財させてしまった。私は挨拶した事を後悔した。
しかし、おばさんのご好意は嬉しくお受けして、「何か私もお返しを…」と思った時に、今しがた受け取った荷物の中身に思い至った。

荷物の中身は、今日社内の人に配るお菓子であり、幸い人数より余分に買ってあった。それで、そこから一つ取り出し、遠慮するおばさんに押し付ける様に渡した。
おばさんは恐縮しながら受け取り、「どうぞお元気で」と言って、帰って行った。

更衣室へ行って確認すると、やはり薔薇の花束だった。おばさんのお心遣いにとても感動した。

もし、私とおばさんが逆の立場だったら、私はどうしていただろうか。
毎日顔を合わせているとはいえ、名前すらも知らない人だ。仕事上の接点もない。挨拶されたとしても、花束の用意など私にはきっと思いつきもしなかったことだろう。
そう思えば尚更の事、お掃除のおばさんの私に対する行為が尊く思われてならなかった。

家に帰り、早速花束を花瓶に生けた。


あまり見たことの無い薔薇の色。いつまで見ていても飽きない。
「花を長生きさせる液」が付いていたので、花瓶の水に加えた。

それから毎日花を眺めた。
さすが「長生きさせる液」だ。薔薇は開花したまま長らく咲き続けた。

けれども、その内に花びらの縁に陰りが見え始めた。
ああ、散ってしまう。花びらが散るところは見たくない。おばさんの思いを消え去らせてなるものか。そして思い付いたのが、ドライフラワーにする事だった。

善は急げ。早速花瓶から花束を抜き取り、そのまま逆さまにして出窓のあたりにぶら下げておいた。


乾燥する時期だったので、どんどん花は乾燥し、花びらが散ることなくドライフラワーが出来上がっていった。


散らなくて良かった。

今は、ホコリが付かないよう透明なセロファンの袋に入れて玄関に飾ってある。

あの日、社内で配ったお菓子の数。しっかり社員の人数を数え、その数にプラス2個で用意してあったはずだったが、結局最初から数的には1こ足りず、おばさんにあげたことで、2個足りずにお店に買いに走るハメとなった。
いつもどこか抜けている。
良くも悪くもこれが私なのだと事あるごとに思い知らされる。
三つ子の魂百まで。雀百まで踊り忘れず。
この先もずっと…。










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