現場雑観
そこには家がある。
かつて新婚夫婦が暮らし、子どもたちが駆け回り、親と子ども、祖父や祖母が紡いだ家族がそこにある。庭には家族の誰かが育てた花が咲き、古びた縁側は日曜大工の風情を漂わせる。錆びた自転車が放置され、雨風に晒された表札が家族の年数を物語る。
家族の面影は、家に入ると顕著に表れる。色あせた家族の写真。埃を被った土産の置物。履きつぶされた靴の数々。家具の色合い、配置、そして匂い。そこにこの家で紡がれた家族の肖像がある。
その家を取り巻く地域を歩く。同じ形をした家々が並ぶ。建売された時代背景を思い描く。雑草が生い茂った公園の横を過ぎる。かつては多くの子どもで賑わっただろうに、と月日と共に移り変わった地域の変容を追体験する。個人は家族に、家族は地域に、地域は社会へと繋がっている。
そして、私たち支援者は思う。「なぜ、この家族は、この家族なんだろう」と。
・高齢福祉分野から事例提供を行った
・認知症高齢者とその家族三世代が紡ぐ問題に焦点を当てる
・ゲストである児童相談所 児童福祉司の視点から高齢福祉ケースを読み解いた
・高齢福祉分野では、介護保険制度施行以降、フォーマルサービスの充実化は進んだ
・利用者本人アプローチは進んだ一方で、家族支援アプローチは上手く行っていない
・そもそも、家族史や家族システムに関するアセスメントが弱い
・これは、家族支援が為されなくても、フォーマル資源で一定の成果があげられる、という弊害だと感じる
・一方で、児童福祉では逆転現象が生まれる
・フォーマルサービスが充実していないが故に、家族を資源の中心と捉え、家族にアプローチする視点が中心となる
・家族は悪ではない。課題を抱えた存在ではあるかもしれないが、家族にしかできないことがある
・だからこそ、家族をエンパワメントする視点が重要になる
・解決志向。ソリューションフォーカスアプローチ。
・何が課題かではなく、何が解決かを考える
・介護力が弱い家族ができた、小さな成果を称えよう
・児童相談所の現場でも、家族の在り方が大きく変わってきている。
・家族力の低下が言われている
・それは地域力の低下に重なる
・児童福祉の問題は、十数年後の高齢福祉の問題だ
・そう考えると、分野を越えて、家族の課題は繋がっている
古い日本映画の名作で「家族ゲーム」という作品があった。
(TVシリーズでは、長渕剛や、昨今では嵐の桜井主演でリメイク)
高圧的で家族を顧みない父親を伊丹十三が演じ、気弱で不満を抱えた妻を由紀さおりが演じた。年頃の息子が二人。いじめや、登校拒否、受験問題などなど。家族が抱えた問題は相互作用の中で維持連鎖されている(この連鎖維持関係を家族ゲームと言う)。物語後半、この家族の悪循環を断ち切ったのは、松田優作演じる家庭教師だった。すべてをぶち壊し、壊された家族は疲労困憊する。それでも、家族は自然に戻っていく。同じ家族でありながら、新しい相互作用を紡ぎ、新しい家族を築いていく。
私たちは、家族の力を信じ、その可能性に希望を持ちながら支援をしていきたい。
写真の中で、かつての家族はこんなに笑っているんだから。
2017.2.24 プレミアムなひと時を経て…