嫉妬する。
地下鉄で乗り合わせた、おそらく何かの運動部の学生だろう。
どやどやと乗り込んでくるなり、「ちぇっ」と舌打ちしたくなった。
別に彼らのマナーがどうだと問うているのではない。
彼らの体つきに対してなのである。
彼らのすごい体つきに対する、やっかみ、悔しさ故なのだ。
胸はTシャツがはち切れんばかりに盛り上がり、
腕は軽く曲げただけで見事な力こぶだ。
太腿、ふくらはぎのあたりは、むくっと盛り上がっている。
そんな3、4人のグループがあちこちで何か楽し気に話をしている。
そして、彼らは座席が空いていても決して座ろうとしない。
立ったまま談笑を続けるのだ。
座ると、誇るべき自慢の体を隠すことになってしまうとでも思っているのだろう。
そうに違いない。
僕だって、学生時代は鍛えに鍛え、彼らに劣らず筋肉に包まれた体だった。
そう思っているのだが、「えぇい、もう」今は、その面影の欠片もない。
悔しいではないか。あの筋肉はどこへ行ってしまったのか。
取り戻そうにも、もう無理な話と分かっている。
学生諸君、君たちを見ると忌々しくなるから、どこか見えないところへ行ってくれ。
思わず心中そうつぶやいた。
彼らの目の前の座席には、小腹が出っ張った50前後と思しき
サラリーマン3人組が、会社帰りの一杯に煽られ、周囲も憚らず賑やかに談笑していた。
「あの年の頃は、やはりそうだったな」自らを振り返ると、
何となく彼らに心が寄っていき、情けなくも親しみさえ感じるのである。
栄枯盛衰は世の常、人の常。あの学生たちもいずれ……意地悪くほくそ笑む。
そう言えば、
あの大谷翔平君、彼の体も見事だ。
でも、彼に対してはちっとも嫉妬心は起きない。
何せ彼はユニコーンなんだから……。