誰かの生き方と似て、なんとまあ適当な楽器なことか──
楽器と名の付くものは、まったくダメだ。弾けない、吹けない。
ヴォーカルのレッスンに通うミュージックスクールの先生が、
「ギターもやってみませんか」と持たせてくれたものの、
5分もしないうちに「まあ、ボチボチやりましょうか」と、
あっさり諦めてしまった。
そして、次に先生が勧めたのがハーモニカだった。
これが僕にとっては〝適当な楽器〟だったのだ。
正確に音符通り吹かなくとも、
そのあたりを吹いていると何とか様になっている。
だから、覚え方にしてもどの穴がドなのか、レなのか、あるいはミなのか、
それを覚えることなく、
先生が「4番目の穴を吹いて、5を吸う。そして、また4を吹いて」
などと言ってくれる通りにやっていけば、それでOK。
だから、何番目の穴がドなのかいまだによく分かっていない。
もっとも、前奏、あるいは間奏にちょっと入れるだけだから、
それで通用するのだろうが、本格的だともちろんそうはいかない。
ほとんど先生のギター1本の伴奏で歌っているのだが、
確かにハーモニカをちょっと入れるだけで、なかなかよろしくなる。
この小さなハーモニカの、大きな役割に感じ入ることしばしばだ。
お断りしておくが、これはあくまで10ホールズハーモニカの話だ。
10穴しかないもので、ドイツのホーナー社製だとブルースハープ、
普通にはブルースハーモニカという。
ロックやフォーク、それにブルースなどでよく使われる。
フォーク歌手がよくギターを弾きながら、
首に固定具をつけ吹いている、あのハーモニカだ。
そういうことでホーナー社製1本とトンボ社製2本を持っている。
ただ気の毒なことに、この3本のハーモニカが、
書棚の飾り物同然にほこりをかぶっている。
たまに、ほこりを払ってやりはするが吹くことはない。
このところ、ハーモニカを入れる曲を歌っていないのだ。
いちばん最初に買ったホーナーのブルースハープ、その蓋をそっと開け手にしてみた。
「吹いてみてよ」──なんだか誘っているように思えてくる。
そして、やっと出番がやってきた。
レッスンで歌っていた曲に「これにハーモニカを入れましょうか」
先生がそう言ってくれたのだ。
ハーモニカを入れたその曲は、何ともナイスな響きとなり歌声を引き立たせてくれる。
82歳の誕生日が間もなく。
適当に生きてきた人生をハーモニカで祝ってみようか。