治しやすいところから治す--発達障害への提言

花風社・浅見淳子のブログ
発達障害の人たちが
少しでもラクになる方法を考える場です。

パラサイト・シングルからの脱出

2010-02-16 10:40:38 | 日記
肝心の講演内容だが、事前に主催者様からご要望があった。
基本的には、「どうやったら心身が安定したか」。
そして客層を考えて、柱は三つ。子ども時代の乗り切り方、身体感覚、そして就労だ。
二時間でこれだけの内容をこなすのはかなり綿密に進め方を立てておく必要があった。
私は前日、三時間しか眠れなかった。なんだか脳が色々シミュレーションしてしまったのだ。

でもその甲斐あってうまくいったと思う。
なぜ花風社が、就労を大事に思っているか。
それは、この人たちヒマが苦手だからだ。そしてこの世で最高の暇つぶしは仕事だから。
ニキさんの名言に「自閉っ子、閑居して不善を為す」というのがある。
ちゅん平も、カウンセリングだけではパラサイト・シングルから抜け出せなかった。
ちゅん平の心身が安定するには「通う場所」と「やること」が絶対に必要だった。

ちゅん平のように二次障害や引きこもりを経験した人がそこから抜け出すのは結構難しいらしい。
それが私には不思議だった。
私の知る限り、ASDの人はそろって年々生きやすくなっている。
でもそうじゃない人もいるらしい。ていうか多いらしい。
私の知っている自閉症の人は、本を書いたりとか、就職したりとか、多少の自己実現をする人たちだから立ち直るのかな、と私は考えていた。講演でもそれをしゃべった。
そうしたらちゅん平さんはそれだけじゃないと言った。
花風社自体は小さな小さな存在だ。
でも私との出会いは、大都会の真ん中で現実の商売をしている人との初めての出会いだったという。それはそうだろう。
そういう人と接することによって、「社会」というものの経験値が上がったのだという。

なるほど。
そういうこともあるんだね。
それは私にはわからなかった。

たとえ鳩山家のようなおうちに生まれて、働かなくても贅沢に暮らせるほど仕送りしてもらえたとしても、
自閉っ子はどこか通うところがあったほうが幸せだと思う。それが一般就労でなくてもまったくかまわない。年金+福祉就労だって自立は自立。それで足りなければ仕送りだっていいだろうよ。
でもヒマはだめ。
ヒマが一番心を不安定にする。まあ、われわれ定型発達者だってそうだよね。
だから、働ける場所をたくさん作ってほしい。

土曜日に講演をしたちゅん平は、その日のうちに佐賀に帰った。彼氏も早く帰ってきてというんだってさ。
帰ってから、無事に家に着いたとメールがあった。日曜日一日休んで、月曜日からはまた作業所でのお仕事に戻るという。
なんだか仕事がいっぱい来ているようで、納期を前に燃えていた。休む暇などないのだと張り切っている。
この時代に仕事を取るのは大変なこと。優秀な事業所なんだろう。ありがたいことだ。
商売人である私と一緒に仕事をしてきたちゅん平は、そのありがたさに気がついている。

それにしても
以前のちゅん平さんなら、講演みたいな大仕事のあとは数日寝込んだだろう。
丈夫になったことは
充実した生活を送っていることは、間違いないようだ。