平らな深み、緩やかな時間

49.沖縄県立芸術大学に行ってきました②

前回の続きです。沖縄県立芸術大学での二日間の講義の、まず概要から紹介します。


<講義の予定>
・9月13日 「第二次世界大戦後の現代絵画の流れ」
「ポロックとグリーンバーグ」
・9月14日 「ポロックとグリーンバーグ」(続き)
「グリーンバーグ以降の絵画」

<講義の目標・ねらい>
・第二次世界大戦後の現代絵画の大まかな流れを理解する
・20世紀最大の美術評論家とも言われるグリーンバーグのテキストを読む
・ポロックとグリーンバーグの関係を通して、作品と批評のあり方について考察する
・グリーンバーグの理論をふまえて、現在の絵画について考察する

<配布テキスト資料>
・「モダニズムの絵画」 
『グリーンバーグ批評選集』より クレメント グリーンバーグ (著), 藤枝 晃雄 (訳)
・「グリーンバーグのポロック論集成」
 『ユリイカ 1993年2月号』より クレメント グリーンバーグ (著), 川田 都樹子 (編著/訳)
・「ポスト・ペインタリー・アブストラクション」
 『武蔵野美術 No.110』より クレメント グリーンバーグ (著), 川田 都樹子 (訳)

<巻末資料>
・「戦中から戦後へ」~ 
 『西洋美術史』より  高階秀爾(監修/美術出版社版)
・「グリーンバーグ」 尾崎信一郎(執筆)
 『20世紀の美術と思想』より  谷川渥(監修)
・「マイケル・フリード」 尾崎信一郎(執筆)
 『20世紀の美術と思想』より  谷川渥(監修)
・「ロザリンド・クラウス」 小西 信之(執筆)
 『20世紀の美術と思想』より  谷川渥(監修)


ということで、二日間で、かなり盛りだくさんの内容です。はじめに「第二次世界大戦後の現代絵画の流れ」という基本的な内容を入れたのは、沖縄芸大の学生さんと初めてお会いするので、現代絵画にあまりなじんでいない人がいても、戸惑わないように、と考えたのですが、杞憂でした。
特に、ジャクソン・ポロックについては、ほとんどの人がかなり詳しく知っていたようなので、振り返ってみれば、やや講義が退屈だったのかもしれません。しかし、それも後になって思うことで、当日は何もかも手探りです。私のへたな話を、休憩をはさむとはいえ一時間半も集中して聴いてもらえる、という日ごろにない状況の中で、私なりに会場の雰囲気を感じ取りながら、懸命に話しました。
それでは、講義の内容に入りましょう。


講 義  9月13日

1.第二次世界大戦後の現代美術、現代絵画の流れ
 第二次世界大戦後の現代絵画の流れについて、美術史資料から大雑把につかむ。

 <講義資料参照>
「戦中から戦後へ」~  
 
上記の資料は高階秀爾監修の美術出版社『西洋美術史』より、最後の方の数ページをコピーした資料です。そこで学生の皆さんに「図版の中で、皆さんの知っている作品は何点ぐらいありますか?」と問いかけてみました。先ほども書いたように、沖縄芸大の皆さんは、かなりの割合で現代美術について、しっかりと学習していました。しかし、本物の作品を見た経験となると、当然のことながら、それほど数多くの学生さんが本物を見ているわけではありません。
それは、若いのだから仕方がない、という面があります。これからさまざまなことを経験する時間がたっぷりあるわけですから、展覧会や美術館だってたくさん見る機会ができるでしょう。それから、沖縄という地理的な条件も関係しているのかもしれません。相変わらず展覧会の企画と言えば大都市中心だし、見たい展覧会を飛行機で思いのままに見に行けるほど、航空運賃は安くありません。何事においても費用対効果が問われる傾向が強まっているので、展覧会も観客動員数を考慮して、ますます大都市圏に集中してくるのかもしれませんね。
しかし、関東圏に住みながら、そしてそれなりの年齢を重ねてきた私にしたところで、どれほどの作品を見てきたのだろうか、と自問いしてしまうようなことが、最近ありました。例えば、次の展覧会の謳い文句を読んでみてください。

「戦後のフランス絵画を切り拓いた男 日本初の回顧展
ジャン・フォートリエ(1898-1964)は20世紀フランスを代表する画家の一人です。第二次世界大戦の戦時下に描かれた「人質」連作の激しく歪んだ半ば抽象的な人物像は人類の暴力を告発する20世紀絵画の証言者として位置づけられています。そこでの絵具の素材感もあらわな独自の表現方法は、絵画の役割を外界の描写から解放し、画家の行為の場へと、そして絵具という物質とイメージとが混交し詩情を醸し出す場へと転じました。この転換は同時代の抽象絵画の運動とも呼応し、フォートリエはヨーロッパにおける「アンフォルメル」の先駆けと評されることになります。そうしたフォートリエの作品は、1959年の作家の来日をハイライトに20世紀後半の本邦の美術界にも多大な影響を与えました。
本展は、日本でははじめてとなる画家没後の回顧展として、彫刻や版画なども含めた約90点でフォートリエの魅力を余すとことなく紹介するものです。20世紀美術に偉大な足跡を残した画家の全体像をとおして、時代の証言に耳を傾けていただけますと幸いです。」

これは、今年の『ジャン・フォートリエ展』(東京、名古屋、大阪)のホームページから抜粋した文章です。フォートリエと言えば、アンフォルメルの先駆けとしておなじみの作家ですし、有名な『人質』シリーズのうちの作品のひとつは、日本の美術館(大原美術館)にも所蔵されています。私も何だか、フォートリエについてよく知っているような気がしていたのですが、実は今年になって開催されたフォートリエ展が、「日本でははじめてとなる画家没後の回顧展」になるのです。画家が没したのが1964年ですから、私が小学校に上がる前から、この画家の回顧展は開かれていないことになります。つまり、私はこの画家の作品をまとまって見たことがないし、実はよく知らなかったのです。
意外と、というべきか、やはり、というべきか、とにかく、私たちは現代美術について知った気になっていて、実は知らないこと、見てないことが多いと思います。沖縄芸大の皆さんと50歩100歩、といったところです。美術館がいろんなところに建ち、展覧会もひっきりなしに開催されていますが、実は内容的に同傾向のものを繰り返していることが多いと思います。だから、フォートリエという現代美術史の本を見ればどこにでも出てくる作家であっても、本格的に紹介されるのは50年ぶり、ということになってしまうのです。
この展覧会については、6月のこの欄に投稿したので、よかったらご覧ください。
学生の皆さんには、若いということ、沖縄という地理的条件がデメリットではないこと、そして、結局のところ、個人、あるいは私たちの意識の持ち方の問題が大きいことを知ってもらいたくて、フォートリエの例をお話ししました。

ところで、この段階で本当に確認したかったのは、現代絵画の大きな流れです。絵画は平面化の傾向を示し、それはやがて物質化、とでもいうべき表現へと変わってきます。今回の講義では、その平面化、つまり絵画の平面性の強調について、どのような過程があり、そこにはどのような理由があると解釈できるのか、ということについて、学生さんたちと一緒に考えたかったのです。
それが、次の講義につながります。
この続きは、また次回に・・・・。

 
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