平らな深み、緩やかな時間

48.沖縄県立芸術大学に行ってきました①

沖縄県立芸術大学に行ってきました。
http://www.okigei.ac.jp/
ありがたいことに、非常勤講師として大学で二日間にわたり話をさせていただく機会を得ました。といっても夏休みも終わり、こちらも仕事が真っ盛りの時期だったので、休日の9月13日と14日に講義を行い、15日には飛行機で帰ってくる、というあわただしいスケジュールでした。担当の講座は『絵画特論Ⅱ』で、これは『絵画特論Ⅰ』に続く、美術工芸学部・絵画専攻2年生を対象とした授業です。もちろん、私の講義だけで完結する授業ではなく、専任の先生や、非常勤講師などがさまざまなアプローチで授業を行うもので、私の授業はそのほんの一部です。
さて、何を話したものか、といろいろ考えたのですが、何ら誇らしい業績もない私が、自分自身のことを話してみても仕方がありません。できれば学生のみなさんと一緒に、何か価値のあるテキストを読みたいと思い、20世紀最大の美術評論家といわれる、グリーンバークのテキストを読むことにしました。決して読みやすい文章ではありませんが、私のようなものでも折に触れてそれなりに参照しているわけですから、若い人たちならば、きっかけがあればきっと読みこなしていける、と思いました。そして絵画専攻の学生さんたちですから、頭で考えるのではなくて、グリーンバークを読む必然性を肌で感じてもらうことが肝心です。その船頭役ならば、私でもできそうな気がしました。つまらないことで躓いて、思い迷ったことを、実感を込めて話せばよいのですから・・・・。
ということで、次回以降、沖縄県立芸術大学で話したことを、すこし文章でまとめて綴ってみたいと思います。

今回は、講義の内容ではなくて、沖縄県立芸術大学に行って感じたことを、すこし書いておこうと思います。
まずは、偶然に見ることができた展覧会のことです。
私が滞在中に、『女子美術大学 × 沖縄県立芸術大学  教育・学術交流締結記念 大学院作品展』という展覧会が、大学の芸術資料館で開催されていました。これは《両大学院における「教育・学術交流協定」締結に伴い》開催された展覧会で、展覧会の開催そのものが目的の事業ではなかったようです。しかし、大学院の一部の学生の作品とはいえ、両大学のカラーの違いが何となく読み取れて、興味深い展覧会でした。
沖縄芸大のカラーはどんな色かと言えば、私の講義を聞きに来てくれた二人の大学院生の作品が、象徴的に表していたと思います。一人は現代絵画の流れを正統的にくみ取りながら、カラー・フィールド・ペインティングの延長にあるような絵を描いていました。もう一人は、新聞紙をちぎってボンドで固める、という独自の素材を使って、大きな平面作品を作っていました。どちらも画面に触れている実感が伝わってくる、気持ちの良い作品でした。ただ、それを個性として主張する姿勢のようなものは、まだそれほど意識されていない感じで、良くも悪くも学生らしさの残る作品でした。東京の画廊では、中身の充実よりも個性的な見せ方に意識が傾いている作品をよく見かけるので、この二人の作品は、そうした未熟な面も含めて(エラそうな書き方ですみません)、好感をもって見ることができました。講義の後で、この二人のアトリエを見せていただきましたが、作品の印象のとおり、よく勉強しているし、自分自身ともしっかりと向き合って仕事をしているように感じました。
そんな作品展の印象は、2年生のアトリエの印象とも共通していました。また、私の大学2年生の時と比較すると、作品の水準が高くてびっくりしました。そういえば、自分が2年生の時には、裸婦ばかり描かされて、うんざりして学校をさぼっていたことを、久しぶりに思い出しました。昔とは時代が違うとはいえ、沖縄芸大の先生方はまじめに学生のことを考えて、課題を出していますね。少人数制でアトリエも広く使えるし、ここの学生たちは恵まれています。(美大志望の方で、じっくりと絵を描きたい方は、ねらい目の大学だとおもいますよ。)

講義初日の夜、絵画専攻の先生方と食事をしながら、お話をしました。私には身分不相応な歓待を受けたみたいで、恐縮してしまいましたが、話の中身は芸術大学が存在することの意味について、それも沖縄という場所にそれがあることについて、日ごろから真剣に考えていることを聞くことができて、とても有意義でした。非常勤という、通りすがりのよそ者に協力できることは何もありませんが、それでも話に引き込まれてしまいました。
二日程度の滞在では詳細は分かりませんが、絵画専攻としてのチームワークもとてもよい感じで、うらやましい職場だと思いました。
悩みと言えば、学生たちの就職、進路のことでしょうか。しかしこれは、日本全国、すべての大学にかかわることですし、ましてやファイン・アートの学科と言えば、なかなか解消しない悩みでもあります。それでも、経済活動の膨張に限界が見えてきた時代だからこそ、芸術の存在意義、芸術大学の存在意義があるのだと私は思うのですが、政治家はなかなかそう考えないでしょうね・・・。短絡的にお金になるような大学、学生ばかり増やしていると、日本の将来は真っ暗だと私は思います。

沖縄に行くと、短い滞在でも、いろいろと考えさせられることがありますが、とりあえず今回はこんなところで・・・・。
次回から、講義内容にからめながら、思い出したことを書いていきたいと思います。

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