♪話す相手が居れば、人生は天国!

 人は話し相手を求めている。だったら此処で思いっきり楽しみましょう! 悩み事でも何でも、話せば気が安らぐと思うよ。

小説らしき読み物(49)

2016年02月09日 16時13分15秒 | 暇つぶし
                  
 第4章  蘇る不死鳥

 爽やかな笑顔を取り戻した夕子……家に入り診察を終えた武が、夕子の部屋から出て囲炉裏の側に座った。
「優しい笑顔だなぁ、良い笑顔だ!……安心したよ和さん! 風邪も治ったし他に異常は無いよ! ただ、少し気に掛かる事が有るので、その内に血液検査をしょうと思っているんだ……」
 ほうじ茶を入れている和久に、含みのある事を言った武。
「気に掛かる事? 夕子の体で?……」
 思いも掛けない事を聞いた和久は、ほうじ茶を飲みながら考えている武に問い質した。
「いやぁ、大した事は無いと思うけど、念の為になっ……」
 話している最中、夕子の部屋のドアが開き、笑いながら夕子と加代が居間に来た……夕子と加代は、目が会った二人に微笑み掛けて、ほうじ茶が置かれている囲炉裏の側に腰を下ろした。
 囲炉裏の側で目を瞑っていたダイスケは、夕子が座るのを見て皆の顔を見回し、そろりと夕子の膝に上がり目を瞑っている……暫く話していた武夫妻を見送った和久と夕子は、初夏の太陽が照り付ける中、ダイスケを連れて山女の所に歩き出した。
 時折吹く風が夕子の黒髪を撫で、木々を揺らしている……何時もの様に山女に吠えるダイスケを見て、夕子が笑っている。
「夕子、何か食べたい物があるか?……」
 夕子の希望する料理を作ってやろうと、問い掛ける和久。
「何でも良いの?……」
 和久の問い掛けに、何か希望がある様に聞いて来た。
「うん、何でもええよ!……何か有るんか?」
「太閤楼のお料理が食べたい!」
 夕子は、懐かしそうに言った……3日後に迫った夕子の誕生日を前に、夕子の気持ちを確かめた和久である。
「そうか! そんなら、腕によりを掛けて最高の料理を作ってやるわ!……楽しみにしときや夕子……」
 自分の思いと同じであった事に喜んだ和久は、目を細めて夕子に告げた。
「本当! 和さん、嬉しい……」
 和久を見詰めて、満面の笑みで答えた夕子。
 七夕の早朝、朝食と昼食の支度を終えた和久は、伝言を書いた紙を囲炉裏の縁に置いて、食材の仕入れに向かった……和久が出掛けた後、起きて居間に来た夕子は囲炉裏の縁に置いて有る伝言を見ている。
 伝言の通り、ダイスケを連れて散歩から帰って来た夕子は、ダイスケに食事を与え、一人だけの朝食を済ませた……朝食を終えた夕子は部屋と居間の掃除をして、部屋のベランダの椅子に腰を下ろして、暫しの休息を取っている。
 初夏の爽やかな風が夕子の頬を撫で、小川のせせらぎが優しく夕子を包み慰めていた……そして一人に成って初めて、和久の存在の大きさに気付いた夕子である。
 自然と調和する夕子は、和久の居ない寂しさを紛らわす様に、自分の歌を小さな声で口ずさんでいる……少しの休息を取った夕子は、ダイスケを連れて外に出た。
 河原に降りて岩に座り、川面に流れる木の葉を見詰めている夕子……ダイスケは小魚を見つけ、水しぶきを立てて追い掛け出した……ダイスケの仕草を見て夕子が微笑んでいる。
 家に戻り早めの昼食を済ませた夕子は、和久の帰りを待ちながら、ダイスケに吠えられて泳ぎ回る山女の姿を楽しんでいる……山女を追い回していたダイスケは山女に飽きたのか、チラッチラッと夕子を見て小川の水を飲み始めた。
 つまらなさそうな表情に変わった夕子が、何げ無く朝霧の入り口に目を向けると、和久の車が入って来るのが見えた……その途端、喜びの表情に変わった夕子は、急いで駐車場に走って行く。
 小川の水を飲んでいたダイスケは夕子の様子を見て、慌てた様に土手を駆け上がって追い掛けて来た……車を降りた和久は、笑みを浮かべて夕子を見詰めている。
「お帰りなさい!」
 夕子は満面の笑みを浮かべて抱き付いて来た。
「ただいま! ごめんなぁ夕子……一緒に行こうと思ったんやけど、よう寝とったんで一人で行って来たのや!……昼飯食べたか?」
 抱いている夕子の黒髪を撫で、笑いながら言った和久。
「うん、食べたよ!……和さん、寂しかった……」
 抱き付いている手に力を込めて、喜びを隠す様に呟く夕子……一緒に走って来たダイスケは、和久の足下に来て和久を見詰めている……ダイスケを抱き上げて頬擦りをする和久。
「ダイ、ご苦労さん……夕子を守ってくれてたのやなぁ……」
 抱き上げた耳元で労うと、和久の頬をぺろりと舐めた。
 車から荷物を下ろして家に入り、急いで下準備に掛かる和久。
「和さん、何か手伝う事は無い?……」
 荷物を運んで来た夕子が、荷物を下ろして和久に問い掛けた。
「おう、ありがとう……それやったら、此の器を洗ってくれるか?……」
 出掛ける時に出していた、食器の洗いを頼んだ和久。
「はい! 和さん……」
 嬉しそうに返事をした夕子は、楽しそうに洗い出した……鼻歌交じりに食器を洗っている夕子は、今日が自分の誕生日である事を、すっかり忘れている様である。
 食器を洗い終えて、調理の様子をじっと見詰めている夕子。
「美味しそうだね、和さん……」

小説らしき読み物(48)

2016年02月09日 08時24分45秒 | 暇つぶし
                   
 食事が終り、和やかに話す夕子と和久を、月明かりが優しく照らしている。
「薬を飲んで寝たらええ……ぐっすり寝たら、明日には治るからなっ!」
 薬を飲んだ夕子は、ベッドに上がり布団に入った。
「また星が見たい……」
 布団に入った夕子は、和久と見た満天の星空を思い出している様に、小さな声で呟くように言った。
「うん、夕子が治ったらキャンプに行こう……星を見に行こうなっ、そやからゆっくり寝るのやでっ夕子……」
 優しく労わる様に言った和久。
「和さん、本当に嫌いになってない?」
 不安そうな眼差しで、再び問い掛けた夕子。
「嫌いになんか成る訳が無いやんか!……夕子が一番好きや、世の中で夕子が一番好きや!」
 夕子の不安を取り除く様に、優しい眼差しで見詰めて微笑んだ。
「本当? 和さん……」
 愛しげに和久を見詰めて、問い質す夕子。
「本当や! 夕子が好きや!……さあ、ゆっくり寝るんやでぇ夕子」
 夕子を見詰めて優しく言い、夕子の綺麗な黒髪を撫でる和久……和久の言葉に安心した夕子は、爽やかな笑顔を投げ掛けて目を瞑った……夕子の頬笑みと綺麗な寝顔を見た和久は、目を瞑っている夕子の唇にそっと唇を合わせる。
 夕子が眠るまで部屋に居た和久は、布団の上で目を瞑るダイスケを残して部屋を出た……早朝、目を覚ました和久は、静かに夕子の部屋に入って行く……夕子は良く眠っていた。 布団の上で眠っていたダイスケは和久の足音で目を開け、和久の姿を見てベッドから飛び降りてきた。
 梅雨が明け、初夏の太陽が燦々と降り注いでいる朝霧の里……生い茂った青葉が光を浴びて、一層の青さを見せ付けている。
 二、三日静養をした夕子は元気を取り戻し、散歩を兼ねて山女の所でダイスケと遊んでいる。
「おーい夕子! 昼飯の支度が出来たでっ!」
 遊んでいる夕子に、大声で知らせる和久……其の声を聞いた夕子は、和久に手を振って応え、ダイスケと一緒に駈け寄って来た。
「和さん! 止めて止めて!……」
 坂道で勢いが付き、大きな声で叫びながら手を広げた和久に抱き付いた……笑って抱き止めた和久は、爽やかな夕子の笑顔に、此れまでと違う感覚を覚えたのである。
 夕子と一緒に走って来たダイスケは、凄い勢いで和久の横を走り抜け、息を切らせて立ち止まった。
「ダイ、おいで!」
 足元に来たダイスケを抱き上げて、頬擦りをする和久。
「腹が減ったやろ? 昼飯にしようや!……後で武さんが診察に来てくれるから……」
 ダイスケを撫でながら、武と加代に見せるであろう夕子の笑顔に、淡い期待を抱いている和久である……そして、以前の笑顔が戻っていなくても、其れはそれで仕方の無い事だと思い始めた和久でもあった。
 昼食が済み、小川の側に有る大きめの石に腰を下ろして、せせらぎを聞いている和久と夕子……ダイスケは走り回った後、浅瀬に足を踏み入れて水を飲んでいる。
 時折聞こえて来る木の葉の擦れる音が、小川のせせらぎに調和して、二人の気持ちを和ませていた。
「静かだねぇ和さん……」
 感慨深げに、ぽつりと呟いた夕子。
「うん、静かやなぁ……此処に居ると時間が経つのも忘れるわっ! ええ所やろ夕子……源三さんと言う人が譲ってくれたのや……」
 和久は、懐かしそうに当時を思い出して経緯を聞かせた。
「そんなにお客さんが来たの?……」
 夕子は、綺麗な目を輝かせて驚いたように問い掛けてきた。
「そらぁ凄かったでっ! 口コミで来てくれだしてなっ……休日なんかは特に凄かった! 入り口近くまでお客さんが並んでたなぁ……源さんが喜んでくれてなあ、娘さんの所に行く時に、お礼や! と言うて、此処を譲ってくれたのや……源三さんのお陰で、武さんや加代さんとも知り合えたのや、ダイスケともなあ……」
 源三と過ごした半年余りの出来事を、懐かしそうに話す和久。
「良い人だもんねっ、先生も加代さんも……」
 話を聞いた夕子は、嬉しそうに言った。
「そうやっ、武さんのお陰で、夕子を此処に連れて来る事が出来たのや、大切な夕子をなあ……」
 和久は、夕子への思いを大事そうに語った……嬉しそうに話す和久を見詰めて、夕子は無言で頷いている。
「良かった! 此処に来れて、和さんに逢えて……」
 夕子は嬉しそうに和久を見詰め、微笑みながら小声で呟いた。
 初夏の日差しを避けて、せせらぎが聞こえる岩に座っている二人は、小川で遊んでいるダイスケを見て笑っている。
 暫くすると、浅瀬で遊んでいたダイスケが大きな声で吠え、土手を駆け上がって駐車場に走って行った……駐車場に武の車が停まるのを見た和久は、夕子の手を取って、小川の狭まった所を渡って駐車場に急いだ。
先に行ったダイスケは、車から降りた加代に抱かれてご機嫌である。
 車に近付き、武と加代に先日の礼を言った和久は、不安の中で夕子の顔に見入っている。
 夕子は、武と加代に礼を言った後、爽やかな笑顔を見せた……その笑顔は、此れまで見せた作り笑いでは無く、人を引き付け、人を和ませた天才茜 夕子の笑顔に違いが無かった……怒りを取り戻し、天性の笑顔を取り戻した夕子に言い様の無い喜びを感じた和久である。