福島原発事故被災者が出した告発は、すべてが起訴に至らないと検察が判断した。ここで問題となるのが予見可能性である。
予見可能な問題点について、適切な対応をしなかった、いわば未必の故意による業務上傷害致死などを、実は検察は予見性が無いと門前払いにしたのである。
イタリアでは地震が来ないと断言した科学者が、その責任をとらされて収監される。この違いは何か。
地震や津波などのフィールドワークを行った学者は、その多くが貞観大地震による津波の危険性を、前もって指摘していた。政府の防災対策指針でも、福島沖でM8.2クラスの地震の可能性に触れ、東電も、その可能性による津波の高さを15メートルを越えると予想していた。
こうしたフィールドワークの調査結果や、東電自身が行ったシミュレーションがあってもなお、予見可能性が無いと検察は言う。
オレなんかは、こうしたシミュレーションを行うこと事態が、予見可能性があった証明だと思うのだが、どうやらこの国の検察は、勝手に司法判断して裁判所が無罪とするであろう事例を事前に察知するようである。
このふざけた対応は、相手が治外法権の東電だからなのか。東電本店に捜査が入り、あのおなじみの証拠品を大量のダンボールで運び出すという姿は、発災以降、残念ながら見にしてもいないし、メディアが報じたという記憶もない。
単に検察や警察が捜査せず、証拠保全を怠った結果の不起訴としか思えないのである。でもね、被災者は山のように現存していて、その被災者が東電や政府の言う「原発は安全です」「地震や津波では壊れません」という御神託を信じていたわけである。そうした言葉に騙される方が悪いとなると、こうした原発安全詐欺は、日本全国に跳梁跋扈することとなるわけだ。いや、跳梁跋扈しているけどね。
予見可能性が無い、本当にあったかどうかも分からぬ小沢一郎の括弧付き「犯罪容疑」は、その元秘書の自供そのものが捏造だったという事実からも、自白強要していて、それでも口を割らぬ相手には、調書捏造までして「犯人」を作りだすのに、相手が東電とか経産省だと尻尾を巻いて逃げるわけだ。
水に落ちた犬だけを叩いていて「巨悪は眠らせない」なんてえ大口を、よく叩けたものだと思うわけですよ。
この東電の不作為については、発災以前の政府機関と東電との会議でも話題になっていて、議事録まで残っているし、実際に東電はシミュレーションまでしていたわけだ。それなのに「そんな地震は起きない」と断言してしまう。まるで東電=神様のような振る舞いであるし、そうした知見を無視して放置してきたことにこそ、最大の問題、安全を蔑ろにしたということだ。その安全軽視が「福島第一原発事故」として顕在化したわけである。
つまり、安全を担保するという文化が東電には無いのだ。
今回の汚染水問題も然りである。小出裕章さんなどが地下遮水壁に言及していたのは、発災直後からではないか。しかも、発災直後の汚染水をタンカーで柏崎・刈羽の原発に運び、そこで稼動している多核種除去装置によって何とかしろ、とまで言っていた。仮設で間に合わせの現地の機器では、早晩破綻するのは目に見えていたし、同時に地下遮水壁による地下水の原発への浸潤を避けろとも言っていた。
そのためには莫大な金がかかるのだが、実は現在の場当たり的、ツギハギ膏薬処置では、その莫大な費用が永続的に必要となる。目先の金を惜しんで、禍根を残すことになったわけだ。
そもそも東電の「経営」は、「経営」の名に値しない。殆どの企業、特に中小企業や零細企業の経営は、運転資金の調達と、財務関連の処理ばかりである。経営者の仕事の大半は、事実上帳簿と睨めっこなのだ。総括原価方式という、コストをかければ掛けるほど、その割合に応じて儲けることが出来るという、殆ど経営能力など必要ない、単に関係官庁との根回しだけが仕事である経営者とは、根本的に違うのである。「これだけ発電所建設にかかりました」「はい、電力料金に上乗せしましょう」ということで、話が付いてしまう経営なのである。
東電などの電力会社が、各地の経済団体で経営能力も不要なのに、大きな顔をしているのは、そうした電力設備の多くが、東芝や日立、三菱などの大手に発注され、それが下請けや孫請けにまで仕事を回すからである。でも、その金の元は、電力利用者が支払う電気料金なのである。つまり、電気を使うひとが居る限り、取りっぱぐれが無いわけだ。だから、どんなにポンスケが経営者になっても、原発事故などを引き起こさなければ潰れることは無い。高をくくっていたのである。
しかし、ある種天罰である原発事故は、この東電などの電力会社のダメ経営体質をそのままに、原発立地地域である福島に災禍をもたらした。この不公正さはなんだろう。その不公正さを糾すという意味で、今回の告発の多くはなされているのに、司直はそれに蓋をし、不公正な状態を助長する。不公正さは益々この国の深部を歪めるわけだ。