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最後の課題
衝突から16時間が経過。
ロケットとケーブルが見事までに超高層ビルを支えている。
地下の基礎からビル全体、らせん状グルグルに巻き上げた超高度エレベータ用ケーブルをリユースロケットに繋ぎ、推進力と斜めの引張強度で自立できなくなったアジア超大国の新築超高層ビルを支える。ロケットとケーブルの接続も宇宙開発の規格に則って研究開発を進めているからアドリブにも関わらず上手くいった。
既に二つの重要な局面をクリアしている。
一つはビルの自立が保てなくなった時。最短の全員避難時間12時間に対して、衝突から8時間53分後に損傷箇所で奇妙な振動がはじまり、同9時間17分と21秒後で微妙なバランスは崩壊したがカウントダウン共にリユースロケットをメインエンジンを点火。フルスロットルの3割程度の噴射による推進力が伝わったケーブルはビルを揺らすことなく支え、宇宙飛行士の操縦技術に誰もが舌を巻いた。
ロケット+ケーブルにより倒壊を止めることが出来たので避難誘導のペースは落とされた。運び出すことが難しかったケガ人、病人もゆっくり安全安心に運べるペース。結果、もう一つの重要局面である全員避難完了時間は衝突から14時間と5分になってしまったが最早、悪いことではない。
それより、なぜ、その後もロケットは飛び続けているのか。
ビルの倒壊をロケットとケーブルで止めている今なら、衝突直後不可能と考えられた破損箇所のユニット交換を実行できる可能性が出てきたからだ。
とは申せ、ビルの柱を構成するユニット交換は通常のメンテナンスでも二、三日程度かかる。さらに激しく損傷・変形したリニア車両が挟まっている状態では何日かかるかは作業に取りかからないと分からない。
そうなるとユニット交換を実現するためにはパイロット交代、空中給油をしなければならない。最も確実なのは同じ燃料で高度2000m超など低い方の活動になる別のリユースロケットを用いることだがアジア超大国にあるリユースロケットは違うタイプ燃料のため・・・・・・・。それでも本質的には、このことは問題にならないこと。なぜなら、リユースロケットは世界中どこからでも1時間で駆けつけられるから。
しかし、宇宙空間を通る国境越えともなると大陸間ミサイルの迎撃システムなど、簡単に止められない。早く移動ができるのに国境をまたげないなんて。そもそも昨日の着陸も何ヶ月もかけて、両超大国のみならず、いくつかの国際機関を巻き込み、調整して叶ったのだ。
「星空がきれいだなあ」
宇宙飛行士の他愛のない独り言が1時間前から増えている。
「もう、避難は完了している。ビルは諦めよう。意識が確かな内に接続ジョイントをフリーにしてロケットからケーブルを外して、近くのどこかに着陸してくれ。」
一つ目の局面を乗り越えた段階で通信はオープンになっているので、もう一人の作戦提案者としてエレベータ研究者は席から叫んだ。
「何言ってるの。燃料はまだまだ残っているし、ララララぁ(♪~)」
宇宙飛行士がエンドレスなメロディを口ずさむ。
頑なな宇宙飛行士に対して、上層部はまたもや本人に無断でということになるが基礎に繋がれたジョイントを外すか、ヘリや戦闘機でできるだけリユースロケットに近い距離でケーブルを切断するという妥当な検討を始める。
「パイロットは限界まで、耐え忍んじゃいけないだぜぇ」
突如、オープンになっている回線に通信が飛び込んできたかと思ったら、ケーブルに繋がれたリユースロケットより何回りも大きい飛行物体が現れた。
火星往復用に開発されている最新型リユースロケットだ。
誰かが叫ぶ、
「大きな機体でどうやって、ここまできたんですか? というより、明後日に・・・・・・」
今度はオープンな回線ではなく一部限定のクローズドな回線を使って最新型大型リユースロケットを操っている声の主が、当たらなければ迎撃システムは作動しなかったことになるんだよ、と答えかけたが面倒くさくなったので、オープン回線のまま
「星空に花火はきれいだったぜ!」
後日談(当日含む)
先ずは、当日。
6つある接続ジョイントの最下部にある一つはケーブルに繋がっているのでロケット側面にある一つに大型リユースロケットが接続。ビルから飛び立ったリユースロケットは噴射を止め、大型リユースロケットの飛行姿勢の安定を確認すると宇宙飛行士は操縦席から脱出し、パラシュートで地上に降りる。
燃料は火星に行けるだけ積まれていたから空中給油の必要はなくなった。
パイロットの交代は大型リユースロケットに人が通れるドッキングジョイントが設けられているので2日目以降、ドッキングジョイントがある飛行艇で行われた。
衝突から252時間後、超高層ビルは自立を取り返した。そのまま、ケーブルと2台のリユースロケットも地上に降りてもよかったが再び、最初の二人の宇宙飛行士がそれぞれの操縦桿を握る。大きい方はジョイントを外し、一旦地上に降りた。小さい方はケーブルを繋げたまま再び超高層ビル屋上に戻った。
ビルはロケットとエレベータの宇宙開発のシンボルとして今も建っている。
おしまい
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