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読んだ小説の感想。辻村深月さんの小説「本日は大安なり」を読んだ。
今、一番気に入っている小説家です。等身大の心理描写に深く共感します。今回も楽しみにしながら読み進めました。
舞台は結婚式場があるホテル。主要な登場人物は、複数のカップルやその親族、およびホテルの従業員。4つの披露宴が開催される一日の物語。複数の主人公がいます。
面白いけど、なんだかなあ。非日常な日だから、どちらかというと日常の描写が読みたい。同じコミュニティで属している人たち同士のネットリとした人間関係というよりは、結婚式場という特別な場での一期一会。だから、人物の癖が出にくい気がする。
あたしは、ひょっとしたら普段のほうが好みかも、と思いながら読み進める。
ところが、真ん中あたりからぐいぐい引き込まれました。たまたま同じ場所に居合わせた人が以前からの絡みがあることがわかったり、共通の事件に巻き込まれたり、結婚式当日よりも前のエピソードが綴られたり、物語がどんどん立体的になっていく。
物語としての感想ではなく、実際の生活に絡めての感想としては、
ハレにかける気持ち、この結婚式を特別だと思う気持ちに共感しました。あたし自身は冠婚葬祭にかける気持ちがどちらかという薄い。父の影響が大きい気がする。
けれどもこういうのもいいなとおもったり、大切にされている方に敬意を示すと誓ったりしました。
この「本日は大安なり」に登場する何人かの人物は、辻村深月さんが書かれているほかの小説にも出ているようです。残念ながらあたしがまだ読んだことがない本のようです。辻村さんの小説は今後もいっぱい読みたいから、覚えているうちにまた同じ登場人物に巡り合えますように。
小説のエピローグにあたる部分で、主人公のひとりであるウェディングプランナーが
結婚式はたった一日のことで、そこで集められた人、かかわった人は、所詮、バスや電車で隣り合わせて座った程度の縁でしかないのかもしれない。だけど、その組み合わせが実現するのもまた、生涯でその日一日限りなのだ。
あの日、私が彼女の担当になったことに確かに意味はあった。
(407ページ)
と振り返る。この小説を象徴する述懐のような気がします。
最初のほうには、ホテルで結婚式を挙げる価値について「価値観は植え付けるもの」ということが書かれている。植え付ける価値観かもしれないけど、主役やプレーヤーは参加者であり、そこから唯一無二のものが生まれるんだな。そのことを読者が追体験するんだなとおもいました。
と教訓めいた解釈をしてしまいましたが、小説のなかに「いや、それはありえないでしょ」という設定がいくつか紛れており、だからこそ畏まらずにエンタメ小説として楽しめて、その匙加減というかバランス感覚がとても心地よかったのでした。
ちなみに今まで読んだことがある辻村深月さんの小説は「凍りのくじら」「太陽の座る場所」「僕のメジャースプーン」の3冊でした。
⇒辻村深月「凍りのくじら」小説、心のモヤモヤ、等身大のかっこ悪さに癒される
⇒辻村深月著「太陽の座る場所」/小説、女子高生と元女子高生の感情の動きに共感
⇒辻村深月「僕のメジャースプーン」、復讐・仕返したい気持ちを見つめる小説
新型コロナウイルスの影響でしばらくは冠婚葬祭ができない状態が続きそうですが、またいつの日か披露宴ができるようになりますように。
ではまた
東京都豊島区池袋で読書交換会を開催しております。人にあげても差支えがない本を持ち寄り交換する読書会です。
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