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本の感想を書く。貫井徳郎さんの小説「失踪症候群」。
「失踪症候群」「誘拐症候群」「殺人症候群」。症候群シリーズ3部作の1作目。
すでに最終作「殺人症候群」読んでいます。
⇒貫井徳郎「殺人症候群」、どっぷり小説世界に浸りたくなったので読んだ
「殺人症候群」から読んでも面白かった。面白かったけれど、「殺人症候群」で解説を書かれていた方もおっしゃっていたように、やっぱり1冊目の「失踪症候群」から読むのがお勧め。
3冊とも、警察庁で特別な任務を担う環氏が、元警察官の男性3人とチームを組んで秘密裏に事件に挑むという内容です。環氏は年齢不詳の男性で、決して感情的になることがない冷静な人というキャラです。
一方、警察官をやめたちょっと曲者キャラの3人。そのひとりひとりに1冊の主人公が充てられている。「失踪症候群」では探偵で、女子高生の娘がいる男性が主人公でした。
今回のテーマは失踪。失踪事件を調査しておもわぬことを発見します。失踪のテクニックそのものは、日本では違法にならないというか取り締まる方法がないようです。そこに殺人事件が登場し、そっちはもちろん違法です。
ネタバレですが書きます。
失踪のテクニックは、戸籍の交換でした。自分のしがらみを消したいと思っている人同士が、お互いの戸籍を交換して、まったくの別人として生きる。戸籍がないと何もできません。健康保険、免許、家を借りる、あらゆることが妨げられる。だから生きていくために戸籍を交換する、そんな話でした。
毎日、新型コロナウイルスに感染したというニュースをみていると、年齢、職業、居住地が公開されていて、「あーあたしたちってこういう括られ方をするのだなぁ」とおもっていたところなので、なんだか身につまされた。
「失踪症候群」の解説を書かれている佳多山大地さんによると
貫井徳郎が執拗に描き出す"自閉する若者たち"の身ぶりは、最終的にふたつしかない。自閉的な小さな共同体を守るために命懸けの行動に走るか、あるいは危機から退却することで、忌避したはずの社会の似姿としてより大きな物語に回収されるかだ。(文庫版「失踪症候群」349ページ)
うん、確かにそんな気がする。そしてあたし自身もそんなことしてきたなあと。でもってあたしはどっちにつかずな半端な形で、何度もこういうことを振り子のように繰り返してきたかも。そして若者ではなくなり・・・。
貫井徳郎さんの本が好きなのは、どこかが自分と共鳴するからなのかもしれない。
⇒貫井徳郎著「神のふたつの貌」(文春文庫)、読書感想 見上げれば必ず見下ろす
⇒貫井徳郎著「悪党たちは千里を走る」(幻冬舎文庫) 意外なテイスト 読書感想
⇒貫井徳郎著「愚行録」 (創元推理文庫) 本の感想☆記憶を見つめさせてくれる淡い毒
今の若者はどうなんだろうな。ヒカキンさんと小池百合子都知事のユーチューブ対談をみていて、きっと今の若者はいまの時代だからこその考え方があるんだろうなとおもったのでした。
ではまた
東京都豊島区池袋で読書交換会を開催しております。人にあげても差支えがない本を持ち寄り交換する読書会です。
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