鑑賞日時:2/11(日)14:15~95分
コルム・バレード監督
寡黙な少女はある事情で両親から一時離れ、親戚夫婦宅で夏休みを過ごす。そこには彼女が今まで経験したことのない、親戚夫婦からの無償の愛情で包まれる。無償の愛情とは何か?どうして親戚夫婦がここまでコットを大切にするのか?見返りを求めない心情のやり取りではあるけれど、それによって少女の中に漂っていた不協和音がいつしか解きほぐされてゆったりと調和に向かっていく。しかし夏休みが終わろうとしている。別れがやってくるかもしれない。ラストシーンを観た限り、原題は『The Quiet Girl』だが『コット、はじまりの夏』を邦題と決めた関係者に拍手を送りたい。それはラストにコットが思わず放ったひと言に思わず"もしかしてこれは、はじまり?"と感じさせてしまうような場面があるからだ。
叔母のアイリンに案内された井戸水を金柄杓で掬って飲む時のコットの表情が素晴らしい。コットが走る。夏の陽光が降り注ぐ田舎の並木道。いくつもの、水を使い、風景を切り取った詩的な映像が美しい。ただひとつひとつの場面には巧妙な意味づけがなされており、つい見過ごしてしまうともったない。すべてラストに繋がるといっても過言ではないからだ。そして迎えたラストシーンで、観客は作り手の思惑通りに表情が感動の涙で溢れてしまう。私がほとんどの映画館で最前列に座るのは、仮に後方に座って不意にも涙してしまったときに前列の観客が帰り際で振り返ったときその涙で崩れまくった表情を見られたくないからでもあるのだ。