【映画・DVD】ノスタルジア(1983年)
5月4日夜、『ノスタルジア』をDVDで観る。
もう何度も繰り返し観てきた自分の中の映画オールタイムベスト5に入る好きな作品だ。
有名な作品でもあるので詳細なストーリーの説明は割愛する。この映画を体験することは私にとっては既に、日常体験から遠く離れた癒しの拠り所となっていることを唐突に披歴してしまおう。
何度も何度も観ていると、この映画の一つのモチーフである作曲家サスノフスキーの軌跡がどうだとか、世界救済を唱えてローマで演説のすぐ後に焼身自殺を遂げるドメニコがどうだとか、エウジニア演ずるドミツィアーナ・ジョルダーノの美貌だとかがどうでもよくなってくる。
私にとってはゴルチャコフ役のオレグ・ヤンコフスキーの寡黙な身振りを眺めているだけでも爽快な気分になってくるのだ。
静かに周囲への鋭い視線のみで演技をする。咥える煙草の仕草のみで演技をする。火が灯るロウソクを見つめる佇まい。ノスタルジアを初めて観た時から、気になり、のめり込んでいった名優である。
そうなると勝手気ままな私見が許されるならば、この映画の見どころは間違いなくオレグが突如饒舌になる場面ということになる。足元を水辺に浸せながら、詩人の詩を朗読し、やがて「イタリア語は苦手だ。私の母語であるロシア語で話させてくれ。」と作為的に前置きのように呟きながら、少女アンジェラの前で笑い話を披露する。ロシア語が理解できないイタリア人は笑うべくもないだろう。ここが実はタルコフスキーのこの映画に対しての想いの核心部分だと思っている。
際限なく表現される映像美の最高峰の作品として評価される『ノスタルジア』ではある。しかし私はどうしてもオレグ・ヤンコフスキーの冷たく、ほの暗い佇まいに惹かれてしまうのである。