【高校の彼女との結末】
高校の頃の話。
「あなた、大矢方の人だったんですね?」
「は?何それ?」
当時、付き合っていた後輩の彼女に、喫茶店(まあ、モスバーガーとも言うが)いきなりそう言われた。
何のことか判らない。
「ごめんなさい。私、そっちの人とは付き合えない」
「あの、訳わかんないんですけど」
「私達、敵だから…」
すみません。敵ってなに?何言ってるんですか?
「だから…昔、敵同士だったって話。私の家、そういうのダメなの…」
冗談だろ?山口生まれと福島生まれの二人は、会えば必ず喧嘩になると言われているが、それも今ではおフザケでの話だ。いまさらマジに喧嘩する奴なんて見たことないぞ。
ましてや、ここは北海道だ。昔からの家柄を気にする連中が拓いた場所じゃない。
「本当にごめんなさい。さよなら」
ねぇ、ちょっと待って。本当に洒落になってませんよ、これ。
この間、まさに5分。スピード失恋の新記録だ。当時の再俊足、カール=ルイス並だった。
そして、おいらが部長をやっていたその部活も、彼女は翌日には辞めてしまった。
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以前、部員を自宅に集めて、部活の合宿をやった夜。
クモ膜でボケて死んだばあちゃんが、彼女の布団の上に正座していて、凄く怖い顔でじーっと、彼女の寝顔を見つめていたことがある。
ばあちゃんは消える直前、こちらを振り向いて何か言いたげな顔をしていたが、彼女の話と何か関係があるのか?
彼女と、その家と、死んだばあちゃんの関係が、おいらの知らないところで絡んでいるというのか?
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彼女がおいらを拒んだ理由は是非知りたかったが、ネットなんて便利なものが無かったあの頃、そう簡単に調べものなんてできる環境ではなかった。家系の問題だとも思えたので、図書館に行ったが、何から調べればいいのか皆目見当も付かない。
そのうちに、なんか馬鹿らしくなって結局止めた。
そもそもの話、おいらの姓は大矢ではない。
「ウチの親戚に大矢って苗字いる?」お袋にも尋ねたが、そんな親戚は居ないと言ってた。
当然、それ以来彼女とは音信不通だ。本来、家系なんて気にする家の子には見えなかった。
親がそうなのだ。こちらの家の系譜すら調べ上げて、いろいろ、ネチネチ誰何するような。
そんな家の子だったのだ。きっと。
まあ、振られた方の言い分なんて、こんなもんだ。
-終-