北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その3)
―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー
「まえがき
北朝鮮は、2月7日午前、地球観測用との名目で長距離ロケット(光明星4号」)を発射した。このロケットには‘衛星’が搭載されているが、核などの兵器を搭載すれば大陸間「弾道ミサイル」にも転用出来る。今回のロケット(テポドン2改良型)飛行距離が12,000-13,000キロと見られており、米国本土の東海岸にも到達するものと見られている。
今回の発射は国際海事機関(IMO)他、関係国際専門機関に通告されていたが、北朝鮮が1月6日に水爆とされている爆発実験を行っており、核と運搬手段であるロケットの軍事開発を目的としていると見られることから、米国、韓国や中国など世界各国が東アジアの不安定化につながり、これまでの国連安保理決議に反するなどとして強く非難し、また国連安保理が全会一致で非難決議を採択し、新たな制裁措置を検討している。米国では北朝鮮制裁法案が上下両院で採択され、大統領が署名(2月18日)して成立し、日本は北朝鮮のミサイル開発は‘認められない’などとして北朝鮮船舶の日本寄港の禁止や人的交流の制限など‘独自の制裁’を決定した。また韓国も開城工業団地よりの引き上げを行うなど制裁を強化している。
北朝鮮の核兵器開発やミサイル開発は、東アジアのみならず国際の平和と安全に対する脅威であると共に、核不拡散体制の形骸化を加速することになるので、国際社会が重大な関心を持ち批判、非難すべきことである。しかし残念ながらこのような批判、非難にも拘わらず、北朝鮮が5回の核爆発実験を重ねて10年、長距離弾道ミサイルに転用出来るテポドン2改良型の発射実験を3回重ねて6年余となるが、ある程度の抑止効果はあったとしても結果として阻止は出来ていない。逆に、開発の時間を北朝鮮に与えた結果となっていることは否めない。
日本独自の制裁強化については、北朝鮮による同国内日本人の特別調査委員会の‘解体’を呼ぶ結果となり、被害者家族の悲痛な期待に反し、拉致問題はまたも振り出しに戻る結果となっている。朝総連の解体を含む、新たな対応と発想の転換が不可欠になって来ているように見える。
北朝鮮の核、ミサイル開発は思った以上に進んでいるのが実態だ。一連の制裁により一定の抑止効果はあるとしても、これまでの制裁の繰り返しでは、北朝鮮の核、ミサイルの開発を‘認めない’どころか、その実用化、配備の阻止も困難とも映る。この問題のカギを握っているのは、地域の核兵器国である米国と中国、ロシアと言えようが、これまでの‘制裁’を超える対応と発想の転換が迫られていると言えよう。
このような観点から、本稿を継続掲載したい。」
2015年8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。
これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。
韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。
しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。
これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。
1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発 (その1で掲載)
2、 密かに進められる核とミサイル開発 (その2で掲載)
3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要
北朝鮮を含め、新たな核保有国を容認することは出来ないが、北朝鮮が‘核保有国’を宣言している以上、容認出来ないと言い続けていても事態は深刻化するばかりであろう。北朝鮮の核問題を解決するため、現実を客観的に把握することが不可欠で、その上で新たな方途と関連国首脳の決意が必要になって来ているように見える。南北朝鮮の統一についても、核問題の解決無しには不可能であろう。
北朝鮮が核保有を主張する一方、在韓米軍の核攻撃を脅威とし、北の核抑止力を正当化しようとしていることを勘案すると、南北とも朝鮮半島から核兵器を排除し、非核地帯として双方の安全を保障する朝鮮半島非核地帯を創設することが効果的な選択肢となろう。
‘朝鮮半島の非核化’の概念については、6か国協議が2005年9月19日に出した “共同声明”において、“6か国協議の目標は、検証可能な朝鮮半島の非核化である”ことが再確認され、2007年2月に初期段階の行動計画に合意されたが、北朝鮮の核開発の放棄には至っていない。
米国は、戦後通常兵器と核抑止で安全保障を維持して来ているので、元々非核地帯構想や核不使用には反対であったが、地域的な非核地帯は容認するようになっている。
中国は、本来米国の核兵器が韓国に存在することは自国の安全保障への脅威となるので反対であると共に、北朝鮮が核兵器を持つことも容認していない。中国の胡錦濤主席(当時)は、2009年9月に北朝鮮に特使(戴国務委員)を送り、当時の金正日総書記に親書を渡しているが、その中で‘隣国として、朝鮮半島の非核化の目標実現に強い関心を持っている’とし、北朝鮮と共に努力したいとの意向を伝えている。これに対し金正日総書記は、主権と安全の維持の必要性に言及する一方、‘非核化の目標を保持し、朝鮮半島の平和と安定の維持に努める’との趣旨を伝えたとされる。
ロシアも中国同様、朝鮮半島の非核化を支持している。また核兵器の使用については、2015年8月5日、プーチン大統領にも近いと言われるロシア連邦議会のナルイシキン下院議長が、自らが主催する広島・長崎への原爆投下70周年をテーマとする知識人会議で、‘あの原爆投下は非人道的で均等性を欠く’とすると共に、‘人道に対する罪に時効はない’として核の使用について批判している。この批判は、米国をけん制するためのものであろうが、ロシアとしては朝鮮半島での核の交戦は望んでいないであろう。
米国、中国、ロシアと韓国、北朝鮮がまず朝鮮半島非核地帯の設立に向けて真剣に協議することを期待する。基本的には、韓国、北朝鮮双方から核施設を撤去或いは封鎖・凍結する一方、米、中、ロ3国が核を朝鮮半島持ち込まず、また核による攻撃を行わないことを誓約し、これを国連が確認することを骨子として、速やかに朝鮮半島非核地帯の設立を実現することが望まれる。但し、原子力の平和利用については、IAEAによる厳格かつ定期的な査察を条件として認める。もっとも国連事務総長は、対立当事者の一方である韓国出身であるため、南北朝鮮問題における役割は極めて限定的と見られる。その上シリアの調停を途中で放棄し、IS問題やウクライナ問題等においても見るべき役割を果たしておらず、またシリア難民問題でさえ有効な措置を講じていないなど、国連の役割が問われるところであろう。
なお核拡散防止条約(NPT)については、インドやパキスタン、及びイスラエルなど、NPT枠外の核兵器保有国が出現していることから形骸化が懸念されるが、南アジア非核地帯や中東非核地帯など、地域的な非核地帯の設立により核拡散防止の枠組みを補強する措置が、地域的な安全を高める上でも効果的な選択肢となろう。そのためにも、5核兵器国がNPT上の義務(6条)に従い、抜本的な核軍縮を実現することが核拡散への信頼性と真剣性を高めることになろう。
いずれにしても、南北朝鮮の将来的な統一のためにも、またこの地域の安全を確保する上でも、朝鮮半島非核地帯の実現が望まれる。
(2015.10.11.)(All Rights Reserved.)
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