国際司法裁判所のロヒンギャ虐待への対応を評価 (その2 )
―国際難民問題に一石を投じる―
ミャンマーのバングラデシュ国境付近に居住するイスラム系少数民族ロヒンギャの抑圧問題について、国際司法裁判所(ICJ、本部オランダ)は1月23日、少数民族ロヒンギャに対するミャンマー軍による集団虐殺(ジェノサイド)が存在したとして、ミャンマー政府に対し、「迫害を防ぐあらゆる手段を講じる」よう指示する仮保全措置命令を出した。
この問題は、ガンビア政府がイスラム諸国で構成されるイスラム協力機構を代表してICJに提訴したものだ。国際司法裁判所は「ロヒンギャは依然として危険にさらされている状況にある」と認定し、ミャンマー政府に対し、「対策」の実施状況を4ヶ月以内に報告するよう命じた。
1、難民排出国・源泉国の責任が問われ、改善措置が求められた意義は大きい (その1で掲載)
2、今後難民問題解決には排出国・源泉国の責任と負担の明確化が不可欠
国連傘下の専門機関である難民高等弁務官事務所が対象としている内戦や迫害、地域紛争から逃れた難民や避難民は、2018年、世界中で約7,080万人に達している。このうち、国内避難民が4,130万人であるが、国外に避難した難民が2,590万人、庇護申請者が350万人となっている。戦後、内戦や武力紛争、政治的迫害、地域紛争などが世界各地で発生している一方、難民排出の根源となっているこれら紛争等が長期化し、解決のめどが立たないケースが多いことから、避難民・難民の数はこの20年間で2倍を超え、激増している。難民キャンプが長期に維持されるとキャンプ内で自然増が起こり、規模の問題だけではなく、子供の教育やキャンプ内での閉鎖された将来という人権上の問題も生ずる。
因みに難民全体の3分の2以上の67%が、シリア(670万人)、アフガニスタン(270万人)、南スーダン(230万人)、ミャンマー(110万人)、ソマリア(90万人)などの発展途上国で発生しており、その内難民申請で許可され第3国定住となったのは902,400人に過ぎない。難民排出国が途上国に集中しているため、世界の難民の84%が途上国で受け入れているが、先進国も全体16%を受け入れている。
多くの場合、難民等は難民キャンプに収容され不自由な生活を強いられるため、シェルターや食料、衣料、薬品などの必需品は主に難民高等弁務官事務所が支援しており、年間予算額は約80億ドル(2018年、8,800億円規模)にも及び、これらは日本を含む国連加盟国による拠出金(各国の税金)や寄付金等で賄われている。更に、長期に亘る中東紛争の根源となっているパレスチナ難民を含めると、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA) の年間予算7.5億ドル(2018年、825億円規模)、その他世界食糧計画(WFO)による食糧支援などの国連機関によるによる支援を加えると、年間1兆円内外の支援を続けていることになる。
難民の根源である武力紛争や内戦、地域紛争を解決して行かなければ、難民問題は解決せず、コストは増加し、これを各国の税金で支えて行かなくてはならない。人道上仕方がない面があるが、このようなことを何時までも長期間続ければ、難民総数は膨らみ、世界の負担が増え続ける一方であり、また難民の環境に置かれている人々にとっても自由な生活は奪われ、長期化は不幸であろう。
難民の根源である内戦や紛争を解決する努力を優先すべきだ。その上でも、難民の源泉国、排出国に費用分担や国連の保護下に置く区域の提供などを義務付けると共に、国内抗争や地域紛争の平和的解決を強く求めるべきであろう。それを怠る場合は、人道援助を除く、国連や2国間の援助の削減を行うと共に、大量虐殺(ジェノサイド)や迫害等については近隣国や域内組織、或いは国連が国際司法裁判所に提訴し、関係国に公正な措置を求めるなどすべきであろう。
現在の状況は、難民の源泉国、排出国のフリーライドとなっており、これがまた抗争や紛争の早期解決へのインセンテイブを失わせているのではないか。(2020.2.17.)
国際司法裁判所のロヒンギャ虐待への対応を評価 (その1)
―国際難民問題に一石を投じる―
ミャンマーのバングラデシュ国境付近に居住するイスラム系少数民族ロヒンギャの抑圧問題について、国際司法裁判所(ICJ、本部オランダ)は1月23日、少数民族ロヒンギャに対するミャンマー軍による集団虐殺(ジェノサイド)が存在したとして、ミャンマー政府に対し、「迫害を防ぐあらゆる手段を講じる」よう指示する仮保全措置命令を出した。
この問題は、ガンビア政府がイスラム諸国で構成されるイスラム協力機構を代表してICJに提訴したものだ。国際司法裁判所は「ロヒンギャは依然として危険にさらされている状況にある」と認定し、ミャンマー政府に対し、「対策」の実施状況を4ヶ月以内に報告するよう命じた。
1、難民排出国・源泉国の責任が問われ、改善措置が求められた意義は大きい
ミャンマー政府はこの決定を不服としており、また「ジェノサイド条約」に基づき禁止されている特定集団の抹殺行為、ジェノサイドの有無をめぐるICJの最終的な判決までには数年掛かるとも見られており、今後も紆余曲折が予想される。しかし国際司法裁判所が、仮保全措置命令としても、ロヒンギャ迫害、難民流出の源泉であるミャンマー政府の責任を認め、状況改善のためあらゆる措置をとることを命じた意義は大きく、難民問題解決に向けて一石を投じたと言えよう。
なおロヒンギャは、もともとバングラデシュ地域等にいたイスラム系少数民族で、ブッダ教徒が支配的なミャンマーの国境付近に住みついたもので、国籍も認めたれず、厳しい生活を強いられていた。特に2016、17年にロヒンギャ系武装集団がミャンマー治安施設を襲撃したのを契機に、ミャンマーの治安部隊が村落への掃討作戦が活発化し、70万人以上が隣国バングラデシュに逃げるなど、難民が増加した。2019年9月、国連人権理事会の調査団は多数の住民が殺害されたり村が焼かれたりした旨報告している。
2、今後難民問題解決には排出国・源泉国の責任と負担の明確化が不可欠 (その2に掲載)
(2020.2.17.)
求められる「等級制」終身雇用形態の転換 (その2)(再掲))
総務省は、2013年2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。
また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。
被雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は 2014年には37.4%に達し、若干の上下動はあるものの、その後も37%台の高水準にある。
雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになる。日本の雇用慣行においては、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制がなお一般的であるため、中間的な本採用は少数であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があるため、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。
このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、非正規就労者は、自由な生活スタイルが可能となる一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。
その上、環太平洋経済連携(TPP)やEU等との経済連携により物・サービスの自由化が進み、労働力交流や対日投資も増加する中で、日本の労働生産性は先進工業国中最下位の状態が続いており、今後外国企業や外国人就業者に市場機会を奪われ、日本の産業が停滞して行くことが財界自身により危惧され始めている。日本の終身雇用制とそれに付随する新卒至上主義や定年制という雇用制度は、戦後の産業保護と円安為替レートにも支えられ、産業の安定的発展には寄与してきたものの、労働生産性は低迷しており、複雑多岐に亘る規制、規則、通達や労働慣行などによる労働生産性抑制要因と共に、「非正規就労者」が全体の平均賃金レベルを下げる結果を招いているのではないかとみられる。国際的競争がますます熾烈になると予想される今日、深刻な課題となっている。
1、望まれる職種・技能・技術を基準とした職階制雇用形態の普及 (その1 で掲載)
(1)閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態
(2)職種・技能を基準とした職能制雇用形態への転換、普及が不可欠
(3)定年制は各種の弊害を生んでいる
2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠
地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象とし、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。
このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わることを希望する国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。
従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提し、年功序列に基づく「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置く、「国民参加型」行政組織とすることが望ましい。
(1) 幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」
職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。
日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、官職の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。しかし「職階制」は、日本において旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正で職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。
(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)
(職階制の確立)
第29条 職階制は、法律でこれを定める。
2 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、
分類整理しなければならない。
3 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に
ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者
に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ
ばならない。
4 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。
5 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定
による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であって、かつ、
この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧
告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。
(職階制の実施)
第30条 職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。
2 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事
院規則でこれを定める。
(官職の格付)
第31条 職階制を実施するに当たっては、人事院は、人事院規則の定めるところに
より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。
2 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再
審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。
(職階制によらない官職の分類の禁止)
第32条 一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること
はできない。
昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は‘国民に開かれた公務’を遂行する上でデメリットも多い。
(2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」
雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうである。
政策レベルの問題以外でも、公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、政党間の政権交代にしても、与党内での首班交代にしても、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。逆に、公務員だけが「職階制」でも、民間で職階制が普及しない場合は、公務員が辞めたくても行き場がないので、「職階制」は維持できなくなる。恐らく、過去に公務員の職階制がいつの間にか排除されたのも、民間での「職階制」導入が進まなかったからではなかろうか。また米欧からの人材が日本の労働市場に参入しにくくするとの意図もあったのかもしれない。いずれにせよ、公務員を職種・技能に基づく「職階制」とすれば、配転はより容易かつ円滑に行われるであろう。国家公務員については日本国民であることが原則になっている。
このような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよ
う閉鎖的で硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべき時期なのであろう。
また企業、団体も二流の就労者とも見られている「非正規雇用」形態をなくすため、また低迷する労働生産性を高め、世界の多国籍企業との競争力を回復するためにも、職階制に転換、普及することが望まれる。
(2020.1.7.)(不許無断転載)(All Rights Reserved)
求められる「等級制」終身雇用形態の転換 (その1)<再掲>
2020年1月下旬より武漢発のコロナウイルス禍の拡大、継続により、解雇者や雇い止め、新規卒業者の就職難や内定取り消しなど、就労市場はまさに冬の時代となっている。2008年のリーマン・ショックにより解雇された正規就労者も、新卒優先の定年制に基づく「正規社員」としての再就職の機会はなく、多くは契約社員やアルバイトなどの「非正規社員」の地位を強いられている。今日、コロナウイルス禍の影響はリーマン・ショックを上回る状況となっており、これらの失職者を受け入れる就労市場の転換が迫られている。他方、65歳以上の年長者は人口の28.7%を占め、100歳以上が8万人を超えており、もはや新卒優先の終身雇用制、これに基づく等級・職階制は過去のものとなっており、これらの就労者を公正に受け入れることは困難になっている。
本稿は、このような新たな状況に鑑み、再掲するものである。
総務省は、2013年2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。
また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。
被雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は 2014年には37.4%に達し、若干の上下動はあるものの、その後も37%台の高水準にある。
雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになる。日本の雇用慣行においては、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制がなお一般的であるため、中間的な本採用は少数であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があるため、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。
このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、非正規就労者は、自由な生活スタイルが可能となる一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。
その上、環太平洋経済連携(TPP)やEU等との経済連携により物・サービスの自由化が進み、労働力交流や対日投資も増加する中で、日本の労働生産性は先進工業国中最下位の状態が続いており、今後外国企業や外国人就業者に市場機会を奪われ、日本の産業が停滞して行くことが財界自身により危惧され始めている。日本の終身雇用制とそれに付随する新卒至上主義や定年制という雇用制度は、戦後の産業保護と円安為替レートにも支えられ、産業の安定的発展には寄与してきたものの、労働生産性は低迷しており、複雑多岐に亘る規制、規則、通達や労働慣行などによる労働生産性抑制要因と共に、「非正規就労者」が全体の平均賃金レベルを下げる結果を招いているのではないかとみられる。国際的競争がますます熾烈になると予想される今日、深刻な課題となっている。
1、望まれる職種・技能・技術を基準とした職階制雇用形態の普及
3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」
に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。
その解決策の1つが職種・技能・技術を基準とした職能制雇用形態への転換、普及である。
(1)閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態
現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。
終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。
職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。
(2)職種・技能を基準とした職能制雇用形態への転換、普及が不可欠
職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。欧米諸国で広く採用されている。
現在就労者の35%以上を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般職」「職能技術職」とすれば足りることであろう。
無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職能制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般職」と「職能技術職」に移行させることが望ましい。
(3)定年制は各種の弊害を生んでいる
正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になると共に、年金財源を圧迫する主要因にもなっている。
平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。長寿化を前提とすると、定年後の期間が従来よりも著しく長くなっているので、現在では「定年制度」は事実上の‘年限解雇’の制度となっているとも言える。
このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。
「正規就労者」もいずれは定年となるが、職能職階制を導入すれば、一定年齢以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となるため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっていると言えよう。
女性の社会進出の促進にしても、いろいろな問題が議論されているが、終身雇用の下での年功序列的な等級制度が続く限り、現実問題としてはなかなか進まないと見られている。多くの場合、出産や子育などで、一定期間年功序列のエスカレーターから外れてしまうからだ。女性の社会進出の促進のためにも、職種・技能に基づく職階制への転換が望まれる。
2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠 (その2に掲載)
(1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」
(2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」
(2020.1.7.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)
国勢調査2020、1票の格差解消に反映されるか!
5年に1度の「国勢調査」が実施されている。特に2020年は10の倍数の年で、本格的な国政調査となっている。国勢調査は統計法に基づき実施される国の最も重要な調査とされ、60~70万人の調査員を雇い、多額の予算を割いて実施される。重要な国の調査であるから、その結果が行政や政治に有効に活用、反映されることが期待される。
2016年2月、安倍晋三首相(当時)は衆院総務委員会において、衆議院議員選挙における「一票の格差」是正をめぐる質疑において、「県を越える大規模な定数是正は、10年ごとの国勢調査で行うべきだ。2015年の調査は簡易調査であって、5年後には大規模国勢調査の数字が出る。・・・」などとして、抜本的な格差是正を先送った経緯がある。
1、国民の平等を形にするものとして、「一票の格差」是正が必要
2019年7月の参院選において、選挙区で最大3倍の「一票の格差」があったことに対し、弁護士など市民グループが全国14の裁判所に違憲として訴えていた。高松高裁は、10月16日、国民の平等を定めた憲法に違反するとして「違憲状態」と判決した。
「違憲状態」との表現は、事実上「違憲」の意味であることには変わりがない。高松高裁は、香川、愛媛、徳島・高知(合区)の3選挙区の選挙無効の訴えは棄却したが、無効とすると社会的な混乱を起こすことが懸念され、3権の一つである国会の権限を尊重し国会に対応を委ねたのであろう。しかし「違憲」は「違憲」である。裁判制度は、3権分立の中で独立の機能を持つので、本来であれば、違憲と判断するのであれば、違憲状態として対応を国会に委ねるのではなく、司法の立場から違憲は違憲とすべきであり、その上で国会の対応に委ねるべきなのであろう。
いすれにしても、国会は3権の一つであり、同等の重みを有する司法(裁判所)の判断を厳正に受け止め、抜本的解決策を次の選挙までに出すべきであろう。これは国民の平等に立脚する基本的な権利である投票権に関するであり、基本的な政治制度であるので、衆・参両院ともに最優先事項として取り組むことが望まれる。
国勢調査2020の調査結果が公正、適正に活用されることが望まれる。それは、与党だけの責任ではなく、野党各党の責任とも言えよう。また国勢調査は今後の日本の方向性を示す指標となるので、政府としても、その結果を内閣が一丸となって評価、共有し、就労制度、年金・医療などの福祉政策、地域行政制度、交通を含む町造、都市造りなど、行政各部の政策に反映して行くことが望ましい。
2、国民の平等を前提とする民主主義、男女平等などが遅れている日本
ところで、「平等」とは基本的には1対1の関係に近づけることが期待されるが、選挙区割り等の技術的な制約から若干の幅は仕方ないものの、原則として1.5倍以下で極力1.0に近い数値に収まるよう努力すべきだろう。1.9倍なら良い、1.6倍ならよいなど、恣意的に判断されるべきことではない。特定の選挙区が4捨5入で2倍以上の格差となることは平等概念に反すると言えよう。人口の多い地域の1票の重みが半人前になるようではもはや平等などとは言えない。また人口の少ない地方の有権者がいつまでも投票権において過度に保護される状態では、地方はいつまで経っても自立できないのではなかろうか。また議員の質を維持する上でも公正、公平な競争を確保することが望ましい。いずれにしても人口の少ない地域への若干の上乗せは残り、配慮されるが、地方の自立があってこそ発展があり、それを支援することによる効果も大きい。
裁判所は、これまで選挙毎に争われてきている1票の格差問題で、衆議院では2倍以上、参議院では3倍以上(つい最近まで5倍以上)を違憲、違憲状態として来ているが、格差を原則1対1に近づけてこそ平等と言える。
世界の政治民主化度 国別ランキング(出典:世銀2018年)では、世界204国・地域中で日本は41位、G-7(主要先進工業国)中最下位となっている。因みに、世界の「男女平等ランキング2020(2019年時点の数値)」では日本は121位で史上最低となっている。また2019年の労働生産性ランキングは、「経済大国」と言われながら世界187国・地域中で36位、世界の報道の自由2020では、世界187国・地域中で66位でしかない。
世界でこのように見られていることは残念だが、戦後75年、視野を広げ、公正、公平な民主主義の構築に向けて一層の努力が必要なのだろう。(2020/10/1)
アジア地域包括的経済連携(RCEP)、中国への条件付与が不可欠 (再掲)
2011年11月にASEAN諸国の提唱により協議が始まったアジア地域包括的経済連携(RCEP)は、2019年11月4日、バンコクで開催され首脳会議において、インドを除く15カ国が2020年中の協定署名に向けた手続きを進めることで合意した。
アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、ASEAN10カ国に加え、日本、韓国中国、インドとオーストラリア、ニュージランドの16カ国を対象として関税の自由化、サービス分野における規制緩和や投資障壁の撤廃を目的として協議が行われて来た。しかしインドは、中国の市場アクセスへの懸念につき対応されておらず、自国の農業・酪農、消費部門が影響を受けるとして参加を見送った。インドのモディ首相は、今回のRCEP合意について、関税の違いや貿易赤字、非関税障壁など、「インド国民の利益に照らし合わせ、肯定的な答えは得られなかった」との考えと伝えられている。
中国、インドを含むRCEPが実現すれば、世界の人口の約半分に当たる34億人、世界のGDPの約3割の20兆ドル、世界の貿易総額の約3割10兆ドルを占めるメガ地域経済圏となる。
インドを除く15カ国は、インドの参加を期待しつつも、2020年中の15カ国での発足を模索しているが、基本的に次の問題が内在しており、慎重な対応が求められる。
1、「社会主義市場経済」を標榜する中国との差は埋められるか
中国は「社会主義市場経済」を標榜しており、自由主義市場経済と異なり、基本的に中央統制経済を維持している。従って石油ガス、銀行その他の戦略性や公共性のある多数の基幹産業が政府(国務院)か共産党管理下の「国有企業」であり、補助金を含め政府や党からの実質的な支援を受けている。政府や党が100%株式を所有する中央企業などのように、その下に中央企業が持ち株会社として管理監督する子会社が多数存在する。従って表面上‘株式会社’となっていても国が保有或いは統制している企業体が存在する。
このように国家や共産党に補助金や直接管理で保護されている企業や産業が存在し、国内産業は保護、規制しつつ、海外市場や海外投資については自由貿易、多国間主義を求めるのは、衡平を著しく失する。このような企業、産業からの輸出については、輸入国側、投資受け入れ国が、輸出国側の補助金等の保護の度合いにより相応の関税を課す事を含め、一定の防護措置をとることを認めるべきであろう。そうでなければフェアーな競争とは言えない。スポーツに例えれば、筋肉増強剤を使用している選手と競争しているようなものだ。
この観点からすると、米国による中国に対する関税措置や貿易交渉姿勢は‘保護主義’などではなく、公正な要請と言えよう。
1990年代に入り急速に経済成長した中国は、2001年12月、世界貿易機関(WTO)に加入した。当時のおおよその見方は、13億人の巨大市場である中国貿易が自由化され、世界市場が拡大する一方、中国経済自体も国際経済秩序に組み込まれ、市場経済化を加速させるものと期待された。
その期待の一部は達成されたが、WTOへの加入により最も利益を得たのが中国であり、いわば独り勝ちの状況となっている。
中国は、WTO加入に際し金融の自由化、諸法制の整備などの是正が求められ、若干の改善は見られている。しかし中国は、体制上『社会主義市場経済』を標榜しそれを堅持しているので、先進工業諸国が採用している‘自由主義経済’や‘市場経済’とは異なり、上記の通り、国営基幹産業を含め、基本的に国家統制経済であり、国家の統制や国家補助、国家管理が強い。また実体上、元の為替レートや株価への統制や管理も行われ得る体制となっている。中国は、米国の通商交渉姿勢について、国際会議や記者会見等において、‘米国は保護主義的であり、自由貿易を支持する’などとしているが、国内で中央統制経済を維持しつつ、世界では自由貿易とは身勝手と言える。ASEAN諸国も、当面は中国経済の恩恵を受けているが、RCEPが発足すると国内産業が圧迫され、不利益の方が際立つ可能性がある。現在、世界貿易機関(WTO)の改革が検討されているが、国家補助を受けている企業や産業が世界市場に参入する場合の条件、外国為替や株式市場への直接的国家介入の節度、技術や特許など知的財産の国際的保護などが課題と言えよう。
中国は、国民総生産(GDP)において、既に米国に次ぐ世界第2位の経済大国となり、成長率が低下したと言っても年率6~7%の成長を維持し、2019年の世界経済成長率3.2%(OECD予測)の倍以上の成長率が予想されている。しかし中国は、国内で中央統制経済を維持する一方、世界での自由貿易を主張している。第2次世界戦争後の世界経済は、米国の経済力を軸とするものであり、70年代後半以降多極化の動きが見られるものの、基本的には米国経済が牽引力となって来た。しかしこのままでは、『社会主義市場経済』を採用している中国が、相対的に高い成長率を維持し続け、世界第1の経済大国となり、世界経済の中心となる可能性が高い。米国を中心とする国際経済秩序に、異質の経済体制を採る中国が加わり、単純化すれば、中国と米国という2つの経済圏による秩序に変容することになろう。
トランプ政権はその変化を認識し、経済分野のみならず、‘安全保障と外交政策’上の脅威ともなるとして、目に見える短期的な利益を模索しつつも、中・長期の国際経済秩序を見据えて中国に対応し始めていると言えよう。日本を含め世界は、この流れを見逃してはならない。
アジア地域の自由貿易地域となろうとしているRCEPを発足させるためには、本来であれば社会主義市場経済という特異な体制をとっている中国に対する参加条件を検討することが不可欠のようだ。中国を国際社会につなぎ止めて置くことは必要だが、WTOの過ちを繰り返してはならない。
2、インド不参加のRCEPは‘閉ざされた地域グループ’を生む
インドのモディ首相は、RCEP合意について、関税の相違や貿易赤字、非関税障壁などへの対応において「肯定的な答えは得られなかった」とし、合意出来ないとの姿勢である。特に、中国の安価な製品のほか、オーストラリアやニュージランドからの安価な農産品などが国内産業を圧迫することを懸念している。
中国への懸念は、補助金を含む産業保護という中央統制経済から発生することであるので、体制上の変化が無い限り、インドはRCEPに参加することはないであろう。RCEPがインド抜きで発足すると‘排他的な地域グループ’を生むこととなるので好ましくない。
他方インドの参加を促すためには、中国の補助金その他の産業保護の状況に応じて関税や投資規制等と設けることを認めることとするか、それとも中国が自由主義市場経済への転換を図るかあろう。それ無くしてRCEPを発足させることは時期尚早と言えよう。(2019/12/23)
台湾の独立実現に転換すべき時
1月末以来、中国武漢から世界に拡大したコロナウイルスは、既に680万人以上の感染者、40万人近くの死者を出し、世界レベルでの感染は未だに収まっていない。
このような中、5月18日、世界保健機関(WHO)の年次総会を開かれ、焦点に1つであった非加盟の台湾のオブザーバー参加について、中国が「1つに中国」を主張して反対したため、見送りとなり、年内にも開かれる次回総会で協議されることになった。
米国は、台湾のオブザーバー参加を支持する一方、WHOは中国寄りであり、改革を求めると共に、改革されなければ脱退も辞さないとした。
1、コロナウイルス問題は世界77億人の健康、存続に関する問題
コロナウイルス問題は、単に2,700万人の台湾の人々の健康、安全の問題ではなく、世界の77億人の健康、安全の問題であると共に、世界の健全な経済・社会・文化活動の回復、維持に影響する問題であり、いわば人類全体の健全な存続に関する問題である。
武漢型コロナウイルスは、その発生源については別として、武漢から世界に拡散し、40万人を超える死者を出す拡散源となったことは確かである。習近平中国主席は、武漢を中心とする中国国内で感染が拡大したことを詫びたが、世界に対してはそのようなお詫びをしていない。確かに中国も新型コロナウイルスの被害者であるが、世界に拡散させた責任の一端はあり、世界に何らかの言葉があっても良いのではなかろうか。それどころか、世界が密接に協力してコロナウイルスを克服していかなくてはならない時期にWHO年次総会への台湾のオブザーバー参加を阻み、コロナウイルス克服へ向けての世界的努力から除外し、空白地帯を造っているに等しい。世界のどこかに空白地帯があれば、この問題の中・長期的な解決は難しい。
2、台湾の独立を推進する時
次のWHO総会でも、中国はかたくなに台湾が中国に帰属するとの原則を主張し、台湾の参加に反対するか、厳しい条件を課すであろう。台湾について中国が何かできるわけでもなく、台湾は国際的なコロナウイルス撲滅努力の外に置かれる。
領土問題については、香港の問題がある。1997年6月に英国の99年間香港租借が終了し、50年間は香港の「高度の自治」が認められる1国2制度に移った。領土としては中国であり、香港での民主化運動の激化に対し、中国は香港に「国家安全法」を適用することを2020年5月の全人代で決めた。
米国等は香港の自由と民主主義を抑圧するものとして強く反発している。しかし中国は、香港は中国の一部であり、内政干渉として取り合う姿勢を示していない。中国は「領土」という原則は曲げないであろう。現在の国境を前提とする国家関係ではやむを得ないことだろう。そのことは香港を去った英国が一番よく知っている。
台湾については、戦後中華民国として中国共産党下の中華人民共和国とそれぞれが中国を代表するものとして対峙していたが、東西冷戦下の1971年に、アメリカ合衆国をはじめとする西側諸国と、ソビエト連邦(当時)をはじめとする東側諸国との間で政治的妥協が計られた結果、国際連合における「中国代表権」が中華人民共和国に移され、中華民国(台湾)は国連とその関連機関から脱退を余儀なくされ、「地域」として扱われてきた。
台湾と外交関係を有する国も現在中南米、カリブ諸国を中心として15カ国に減少している。日本も外交関係を持っていない。
台湾が国連を脱退して50年ほどになるが、中国は「1つの中国」を主張し、台湾をその1地域としている。台湾においては、台湾独立派と中国大陸派とが存在するが、自由と民主主義は根付いており、同じ中華系も多いが、高雄系などの台湾独自の人口も多いので、中国共産党とは相容れない社会経済体制となっている。双方とも、それぞれが中心となって中国統一を願っているようであり、それが双方国民の選択であれば良いが、差が縮まるどころか広がっている。
これ以上待っても物事は動かないし、武漢型コロナウイルス問題など地球規模の問題への対応、健全な人類の存続を考えると、台湾を国連の外に置いておくことは望ましくない。今や東西冷戦はなくなっており、その時の東西両陣営の妥協の産物である中国の代表権問題はその役割を終えたと考えられるので、今や台湾の独立を推進すべき時代になっていると言えよう。台湾独立後、双方の国民が統一中国を希望するのであれば、それは双方の国民の選択に委ねれば良いことであろう。
(2020.6.8.All Rights Reserved.)
Remarks by U.N.S.G. Guterres on the online Conference with Chinese President Xi are questionable!
October 7th, 2020
Celebrating the 75th Anniversary of the United Nations, United Nations Secretary-General Antonio Guterres had an online conference with Chinese President Xi Jinping on September 23, 2020.
- The remarks by Chinese President Xi show marked differences between its external posture and the actual domestic reality in China
President Xi Jinping of People's Republic of China (PRC) expressed the following points during the on-line meeting with UNSG, based on the report by Chinese News Xinhua:
- He reaffirms to the international community to uphold multilateralism and abide by the commitments to the UN Charter.
- Noting that COVID-19 is still rampant in the world, China firmly supports the key initiatives of the UN system, especially the World Health Organization. China also firmly supports the UN system in strengthening international cooperation in COVID-19 prevention and containment. It will make COVID-19 vaccines a global public good after putting them into use, and also contribute to the vaccine accessibility and affordability in developing countries.
(3)Noting the emergence of many new problems amid the pandemic, these problems are related to peace and development in one way or another.
In this regard, the UN Security Council should play the role of a collective security mechanism, and the Security Council permanent members should play an exemplary role.
Pursuing unilateralism and seeking hegemony are unpopular and will surely be rejected.
The COVID-19 pandemic has magnified the problems of maladaptation and mismatch in the global governance system.
There is only one system in the world, namely the UN-centered international system, and only one set of rules — the basic norms of international relations based on the UN Charter.
China never pursues ideological confrontation, advocates 'decoupling' or seeks hegemony.
- China will not sit idly by and allow its national sovereignty, dignity and development space to be undermined. Instead, China will firmly safeguard its legitimate rights and interests and uphold international equity and justice.
All countries are called on to rise above differences between countries, nationalities, cultures and ideologies so as to promote efforts in building a community with a shared future for humanity.
Although his remarks may be well received basically by the international community including the United Nations, most of them sound to be quite different from the actual situation inside China, which adopts One-Party Democracy and a Socialism Market Economy among other things.
2、Courteous yet accommodating response by UN Secretary-General Guterres
United Nations Secretary-General Antonio Guterres, while listening cheerfully to Chinese President Xi, stressed the importance of multilateralism, international cooperation, and a powerful United Nations as the world faces challenges, including the COVID-19 pandemic and climate change.
He expressed his gratitude to China's consistent and firm support for multilateralism. And he welcomed a series of important initiatives and measures President Xi announced at the UN General Assembly in September, 2020, in such spheres as the practice of multilateralism, coping with climate change and promoting sustainable development.
He also expressed his support for China's efforts to promote jointly in building ‘a Silk Road of Green Development’.
He highly appreciated China's role in safeguarding the world peace.
UN Secretary-General Guterres said that the United Nations would support China in deepening cooperation with Africa and other developing countries, and expressed the UN’s willingness to strengthen cooperation with China and he expected that China would play a leading role.
It is quite natural for the UN Secretary-General to appreciate China’s role and his willingness to strengthen relations and cooperate with China, especially when the United Nations celebrates the 75th anniversary. But if we realize the clear differences between what Chinese President Xi was telling to the World and what the Chinese Government is actually doing inside China, including Tibet and Xinjiang Uygur, some of the remarks made by UN Secretary General Guterres are questionable and inappropriate. Or a lack of knowledge about actual China.
3、China’s external posture differs from its reality inside China
Although most of the remarks above made by Chinese President Xi are appreciated from the widely-shared international standard based on democracy, freedom, human rights, and free market economy, what he is saying to the World is different from what China has been doing inside China, including Tibet and Xinjiang Uygur, and, in part, Hong Kong.
- Delay of China’s detailed notice to the World, in particular, WHO on the Buhan-originated Corona Virus
While Chinese President Xi said that China would support the UN system in strengthening international cooperation in COVID-19 prevention and containment, it failed to provide to WHO accurate information immediately after the detection of Corona Virus in Buhan in January, 2020. Also it failed to stop the outgoing of foreign nationals and Chinese people from China, while it quickly restricted the movement of Chinese people from Buhan. Such delayed measures on the part of China let the Corona Virus spread outside China, and prevented WHO to recommend the World to take preventive measures as quick as possible, especially the closure of airports and others, and declare it as COVID-19 Pandemic.
The very swift and world-wide spread outside China of the Buhan-originated Corona Virus itself proves that there was certainly such a delay. In fact, President Xi apologized to the people in Buhan for the delay of prompt measures after the Chinese Government imposed the lockdown there. It seems, to a greater degree, that he owes an apology to the rest of the World for causing the worldwide spread of Buhan-originated corona virus, instead of denying it and criticizing other country.
The World community wants to know the fact first so that we could take measures as quick as possible. Denying it only magnifies doubt and distrust over the Chinese sincerity.
- China’s governing system is based on One-Party (Communist Party) Democracy and the Socialism Market Economy
Although we welcome China’s external posture to uphold multilateralism and abide by the commitments to the UN Charter, it firmly adopts One-Party- Democracy and the Socialism Market Economy internally. We don’t call One-Party -Democracy based on Communist Party a Democracy. Because it denies plural political parties and freedom of belief and speech, We don’t call the Socialism Market Economy, which is centrally managed and restricted, a Free Market Economy.
Therefore, the movement and activities inside China by not only Chinese people themselves but also foreign nationals are restricted in one way or another, while Chinese people are permitted free access to the international market and free movements within any countries in the world.
If China wants to keep such freedom of activities and movement externally, it should allow foreign people similar freedom in the spirit of reciprocity. If not, it is fair to say that all countries have the right to take similar restrictive measures to Chinese activities there to the extent their nationals’ activities are restricted in China.
While we certainly welcome China to be a member of the international community in principle, UN Secretary-General Guterres should also have invited China to accord to foreign nationals inside Chine similar freedom of activities and movement in the spirit of reciprocity and fairness.
- China’s massive military buildup and accelerated military activities especially in the East China Sea
Chinese President Xi claimed that “the UN Security Council should play the role of a collective security mechanism, and the Security Council permanent members should play an exemplary role.”
We are puzzled. Isn’t it China who made difficult for the Security Council to take prompt security measures by vetoing on many cases?
Isn’t it China who occupies the Spratly and Paracel Islands by force, whose territorial rights are claimed by as many as 6 neighboring countries, and were building militarily usable facilities on those islands? Isn’t it China who rejected the ruling of the Permanent Court of Arbitration (PCA) in 2016 that “there was no evidence that China had historically exercised exclusive control over the waters or resources, hence there was no legal basis for China to claim historic rights over the nine-dash line (the Spratly Islands area),” advocating unanimously the claim made by the Philippines. The tribunal also criticized China's land reclamation projects and construction of artificial islands in the Spratly Islands, destroying the vast coral reef. We don’t call such acts “exemplary.” On the contrary.
President Xi also urged that “pursuing unilateralism and seeking hegemony are unpopular and will surely be rejected.” If he really thinks so, he is invited to show a good example by accepting the ruling and settling other disputes with the countries concerned.
In this regard, I should like to propose a negotiation on Disarmament and Confidence Building in East Asia.
UN Secretary General should have asked Chinese President to settle those issues as quick as possible, while appreciating China’s positive role to be played on other issues as well. And he should not have expressed his support for China's efforts to build ‘a Silk Road of Green Development,’ which is in line with China’s recent strategy of “One Belt One Road,” stretching from China to Europe on the Eurasian Continent and the Sea, because it appears to be somewhat expansionistic and hegemonistic.
(4) China’s bothering human rights records and oppression of self-determination
Chinese President Xi called on all countries “to overcome differences between countries, nationalities, cultures and ideologies so as to promote efforts in building a community with a shared future for humanity”. We agree what he was saying in principle, but we are largely puzzled. We are largely puzzled because China has notorious records contrary to human rights and self-determination in Tibet and Xinjiang Uygur, and, in part, Hong Kong. There is a clear disparity in words and deeds.
Secretary General Guterres of the United Nations should have drawn President Xi’s attention that the United Nations was worried about the human rights situation in those areas. Without saying any of these, he must have given a wrong message to Chinese President Xi. (2020/10/07 M.K.)
Global Policy Group
バイデン米民主党新政権で円高ドル安再燃か!?
米国の大統領選2020は2期目を目指すトランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領との間で州毎の熾烈な選挙人争奪戦を展開し、ペンシルベニア、ジョージアなど残された4州の郵便投票数の票読みに絞られた。郵便投票の開票が進むにつれ、バイデン候補が2016年にトランプ側に制されたウイスコンシンとミシガン両州を制し、更に残る4州でも僅差ではあるが優勢が伝えられ、ペンシルベニア州を制し、過半数を超える279の選挙人を獲得したことから、2020年11月7日夜、地元デラウエア州において勝利宣言を行った。
トランプ大統領は、落胆の色は隠せず、共和党支持者からの支援も受け、投票、特に約6,500万票に及ぶ郵便投票に不正があったとして裁判で争うことを表明している。この点は今後法廷で争われることになろうが、2021年1月20日にはバイデン新大統領のもとで民主党政権が発足する見通しとなった。
1、オバマ民主党政権時代の政策への回帰
バイデン新大統領が就任すれば、29歳から上院議員として活動し、オバマ大統領の下で8年間副大統領を務め、国際的にも各国要人に幅広い知己を持つベテラン政治家として、安定した政策運営を行うものと予想される。国内的には、当面コロナウイルス対策と経済の維持が最大の課題となり、国内融和と共和党との協調を念頭に置きつつ、オバマケアーや環境重視の‘グリーン経済’政策などオバマ政権時代の政策が進められると共に、経済活力維持の軸として、脱温暖化効果ガス削減を目指すグリーン経の済推進(グリーン・ニューデイール)と1929年の世界大恐慌対策として進められたニューデイールで建設された米国全土のインフラ施設の更新などが進められ、経済の牽引を推し進めるものと予想される。しかしこれらに必要な予算措置は、米国議会、特に共和党勢力が強い上院の承認を必要とするため、調整が必要となろう。
また外交面では、対立から国際協調路線に回帰することが予想され、既に新政権発足後に世界保健機構(WHO)に復帰する方針が示唆されており、気候変動に関するパリ条約やイランとの核合意への復帰などが検討されることになろう。しかし一旦国家、行政府として脱退等したものであり、また上院との関係もあるので、復帰に当たり何らかの注文を付ける場合もあろう。
主要国・地域との関係においては、特に中国、ロシア、そして中東、北朝鮮などとの関係、特に中国とロシアとの関係修復が当面の外交上の最大の課題となろうが、国際協調路線が事なかれ主義に陥れば、問題解決にはならず、米国のリーダーシップを発揮することにはならない可能性がある。
2、日米関係は経済分野では利害調整の必要性
日米2国間関係において、外交・安保分野での同盟関係は基本的に良好に維持されよう。民主党は自由、民主主義、人権においてリベラルな立場であり、多くのアフリカ系、ヒスパニック、アジア系の支持を得ており、日本人にとってはなじみやすい政党であるが、台湾問題、対中、対ロ関係のほか、特に貿易分野や温暖化ガス削減等の経済関係では利害の調整が必要になる可能性が高い。
オバマ前民主党政権のもとでは、次の通り1ドル80円を割る大幅で急激な円高となり、日本経済を圧迫した。
オバマ政権時代(2008年―2016年)の円/ドル為替相場の推移
2008年 |
2009年 |
2010年 |
2011年 |
2012年 |
2013年 |
2014年 |
2015年 |
2016年 |
2017年 |
103.36
単位円 |
93.57 |
87.78 |
79.81 |
79.79 |
97.60 |
105.94 |
121.04 |
108.79 |
112.17 |
(各年中央値 出典:IMF)
同時期の人民元/ドル為替相場の推移
2008年 |
2009年 |
2010年 |
2011年 |
2012年 |
2013年 |
2014年 |
2015年 |
2016年 |
2017年 |
0.1440 単位元 |
0.1464 |
0.1477 |
0.1548 |
0.1584 |
0.1614 |
0.1628 |
0.1606 |
0.1506 |
0.1480 |
(各年中央値 出典:IMF)
円/ドル レートは、当時やや円高傾向にあったが、208年1月にオバマ大統領が就任後、急速に円高が進み、2011年及び2012年秋には1ドル80円を割る大幅な円高となった。日本は、2011年3月11日に東日本大地震とそれに伴う巨大津波により東北地方に甚大な被害があり、加えて福島原発の爆発、炉心融解によって大きな被害が出て、この地方からの部品、物資供給が途絶えるなど、日本経済に大きな影響を与えていた時期であっただけに、この時期の急激な円高は輸出に大きく影響し、日本経済の停滞に拍車を掛けた。この円高は翌2012年秋頃まで2年間続いた。因みに、中国の人民元はこの間、対ドルでやや元安になっており、円の独歩高の様相を呈していたと言えそうだ。
そしてこの間、中国の対米輸出、米国の対中直接投資は増加し、中国経済の成長を加速させる一方、米国市場には中国製品が溢れ、難民や移民の受け入れ増と相まって、米国労働者層の職の機会を縮小させ、このような背景がトランプ共和党政権を生み、対中貿易抑制策や国境管理強化等を推進した要因となった。しかし大統領選挙の年、2020年1月、中国武漢発のコロナウイルスが米国を含む世界各国に伝染し、米国で3千万人を超える罹患者を出し、経済活動を大幅に阻害し、トランプ大統領敗退の大きな要因となったことは皮肉とは言える。もっともトランプ大統領は、約7,100万票(バイデン候補約7,400万票、郵便票集計中にて暫定値)を得ており、拮抗した根強い支持を得ていると言えよう。バイデン新大統領の下で厳しい政策運営が予想される。
東日本大地震後、バイデン副大統領(当時)や米軍が東北地方を訪問し、復旧支援活動を行い、‘トモダチ作戦’として称えられ、心温まる日米友好の表明として記憶に残っている。しかしそれは軍事的政治的判断からであり、経済が疲弊した日本にとっては急速な円高は望ましくなかった。2012年10月に筆者は急激な円高は日本の経済には望ましく無く、早急に是正すべきことを指摘した。同年11月よりやや円安傾向とはなったが、目に見える円安は2012年1月から日銀が「異次元の金融緩和」策を実施して後であり、2013年には1ドル97.6円に回復した。
その後トランプ政権の下では、ほぼ1ドル100円から115円の間で推移しているが、米大統領選でバイデン候補優勢との情報が流れると1ドル104円台の円高に振れる場面もあり、104、5円台で推移している。
2021年1月にバイデン民主党政権が発足すると、コロナウイルス対策と併行して経済活動の維持・回復、雇用の確保が最大の課題となろうが、日本も程度の差こそあれ同様であり、経済問題で調整を要する局面があることを認識しつつ対応することが必要となろう。(2020.11.12.All Rights Reserved.)
グローバル・ポリシー・グループ
新型コロナウイルス克服には検査と医療体制の拡充・整備が基本
現在世界で猛威を振るっている新型コロナウイルス肺炎は、感染力と致死率が高く、世界の感染者総数は215万人超、死亡者は14万人超(4月17日現在)に達している。日本も、国内感染者9,297人、死亡者136人(同日現在)となっている。
このような伝染病を克服するためには、2つの対応が必要だ。
1つは、伝染病の罹患者(陽性者)を早期に特定した上、隔離し、治療することが基本であろう。
第2は、伝染病が急速に広がり、罹患者が急増し、死者が増えることにより、社会活動、経済活動全般が停滞し、国民生活に大きな影響を与えるので、そのための救済、救援処置が必要となることである。
1、新型コロナウイルス肺炎の封じ込めに何が必要か
(1)早期発見と情報の迅速な伝達、共有
新型コロナウイルス肺炎は、中国武漢市で発生が確認され伝染が拡大したが、武漢市を初めとする中国の対応と情報の内外への発信の遅れが、中国国内での対応ばかりではなく、世界への伝染拡大を招いたと言えよう。
また国連の専門機関である世界保健機関(WHO)の世界的伝染病(パンデミック)とする宣言が遅かったと言えよう。
今回のコロナウイルス肺炎は、「新型」であったので未知なことも多く、対応が遅れたとしても誰の責任でもなく、仕方が無いことと思われる。しかし中国の地方組織を含め、情報統制を行っていることが遅れの一因であり、遺憾であるが、中国が猛省し、今後発生源の特定や何故対応が遅れたかの検証、病原菌の特性などにつき、国連はじめ関係各国への迅速な情報や資料の提供を望みたい。
(2)検査の充実と罹患者(陽性者)の特定、隔離、治療が対応の基本
このような感染力の強い伝染病への対応については、速やかに罹患者を特定し、隔離、治療するのが基本中の基本であろう。少なくてもそのように学んだ。
今回の場合、新型であったため、検査キットの準備がなく、1月下旬の初期段階では1日800件程度しか検査できない状況であったので、武漢等への渡航経験者などを除き、検査は受けられず、‘自宅療養’の状態となったことは仕方なかったとしても、その後迅速に検査体制の拡充・整備、陽性者を症状を選別した上で隔離・治療体制の拡充、整備を優先的に進めるべきであった。そのために予備費などを含め予算を優先的に充てるべきであったと思われる。
一部に、検査して陽性患者が増えると病院が受け入れられないようになり、イタリアなどのように「医療崩壊」を起こすとの意見があった。何もしなければそうであろう。検査を前提として、陽性者の症状に応じ、症状がないか軽微な者の隔離場所(第1次隔離)、重度でないが治療を要する患者(第2次隔離)、及び重度者(第3次隔離)などに分けて、収容場所を新・増設する。場所は、廃校となった学校や施設や場合により適当場所に簡易施設を建設するなど対応は出来るはずだ。また医療用マスク、防護着衣や人工呼吸器類を拡充・整備すると共に、検査キットやワクチン、治療薬等の開発を図る。そのために予算を優先的に使用すべきだ。
医師、看護師等の人材については、まず医療従事者が感染しないよう配慮する一方、OBの再リクルート、研修医の動員や、必要に応じ医大生をボランテイアー・ベースで募り、緊急・危険手当を含め然るべく報酬を支給して手当てするなど、対応は可能であろう。予備費を当てると共に予算手当を優先的に行うべきであろう。
現在のように、無症状の保菌者が自由に行動できる状態ではコロナウイルスの伝染を克服することは出来ない。コロナウイルス禍は長期に残存する可能性が高いが、将来、緊急事態宣言を解除、緩和する時には、無症状の保菌者への対応が必要となろう。そのためにも検査の充実は不可欠だ。
2、経済社会活動、国民生活への影響をどう緩和、救済するか
経済的被害については、個人にせよ企業・団体にせよ、誰もが被害者であるので、まずはそれぞれの経済的能力に従って耐え、対応し克服する努力が必要だろう。そのような個々の意識と努力がなければ克服は難しい。財源が限られている以上、政府や地方自治体が行えることには限度がある。
公的な経済的支援を必要とするのは、職業が安定していない人や解雇される人であり、企業・団体では中小零細企業・団体や観光・飲食・娯楽・サービス業などの分野で、コロナウイルス禍で著しく影響、被害を受けるところが中心となろう。仕事を失った者に対しては、雇用保険によるセーフテイーネットがあるものの、その対象となっていない人々や地域、分野によって被害は一律ではない。重要なことは、経済・社会活動が制限、縮小され、生活が困窮し、被害を受けている人々に支援が迅速に届くような措置が望まれる。
(2020.4.17.)
地球温暖化ー融ける氷海、氷河と荒れる気候変動は止められるか <その2 再掲 >
2015年3月14日から18日まで、第3回国連防災世界会議が仙台で開催された。東北大地震・大津波から5年目を迎えるこの時期に、大震災の経験と教訓をこの地から世界へ伝え、対応を考えることは大変意義があったと言えよう。他方、折しも南太平洋のバヌアツを大型サイクロン「パム」が襲い大きな被害を出していたが、根本的な原因の一つである荒れる気候変動、温暖化への対応については、途上国側は先進工業国の責任を強調し、国際的な対応を主張する先進工業国と対立し、抜本的な対応については平行線のままで終わった。しかしその間にも海水温は上がり、海流は変化し、地球の気候は悪化している。地殻変動は止められず、被害を防ぐしかないが、気候の劣化については世界が協力すれば止められる。気候の劣化に大きく影響する海や海流の温度や流れは、温度差に敏感な漁業資源にも影響する。何時までも平行線の議論をしている時ではなく、世界が具体的に行動する時期ではないのだろうか。世界のリーダーがこの問題に真剣に向き合うべき時のようだ。
国連の「気象変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第2作業部会は、横浜で地球温暖化の影響を検討し、2014年3月31日、報告書を取りまとめた。その中で「全ての大陸と海洋で、温暖化の重要な影響が観測されている」との認識の下で、“北極海の海氷や世界各地域における珊瑚礁は後戻り困難な影響を既に受けている”などとして生態系や人間社会への影響を指摘している。そして温暖化が進むリスクとして、世界的な気温の上昇、干ばつなどによる食糧生産の減少、大都市部での洪水、異常気象によるインフラ機能の停止などを盛り込んでいる。当コラムも、北極海の海氷の融解と縮小ブログでもこのような状況を2008年頃から指摘して来ているが、それが国際的に理解され始めたと言えよう。
日本の地球温暖化への取り組みについては、環境省は、日本の温室効果ガスの削減目標を2020年度までに2005年度比で3.8%減とする方針である。温室効果ガスの削減目標については、民主党政権が2020年度までに“1990年度比で25%削減”との目標を提示し、国連総会でも表明している。環境省の上記の目標は、基準年を2005年としているが、1990年度比で換算すると逆に約3%増となるとされており、後退感が否めない。政府当局は、‘原子力発電が再稼働されれば高い目標に修正する’としている趣であるが、果たして原子力発電頼みで良いのであろうか。
1、意見が分かれる地球温暖化の原因 <その1で掲載>
2、荒れる世界の気候 <その1で掲載>
3、国際的な保護を必要とする北極圏と南極大陸 <その1で掲載>
4、必要とされる政府レベルの対応と生活スタイルの転換
それ以上に、地球温暖化の進行や気候変動の激化を食い止め、地球環境を保護、改善する必要性に今一度目を向けることが緊要ではないだろうか。それはこの地球自体を人類共通の遺産として保全することを意味する。
地球環境は、政府に委ねておけば良いというものではなく、家庭や産業自体が工夫、努力しなくては改善できない。比喩的に言うと、家庭で使用する電球を10個から7個にすれば日常生活にそれほど不自由することなく節電できる。企業やオフィスビルなどについても同様で、節電を図ればコスト削減にもなり、企業利益にもプラスとなる。レジ袋や必要以上の過剰な食物などを少なくして行けば生産に要するエネルギーの節約となる。また日本が環境技術先進国と言うのであれば、自然エネルギーの組織的な開発、活用や節エネ技術の更なる開発などで温室効果ガスの削減にそれぞれの立場から努力、貢献することが出来るのではないだろうか。またそのような努力から、地球環境にもプラスとなる生活スタイルやビジネスチャンスが生まれることが期待される。
しかし、政府や産業レベルでの対応は不可欠であろう。経済成長についても、温室効果ガスの減少を目標とし、再生可能エネルギーに重点を当てた成長モデルを構築する事が望まれる。原子力発電については、段階的に廃止することを明確にすると共に、再稼働に関しては、施設の安全性を確保する一方、各種の膨大な原子力廃棄物の最終的な処理方法を確立することがまず必要であろう。
その上でリーダーシップが期待されるのは、環境問題に関心が強い欧州諸国であるが、温暖化ガス排出量が世界の1位、2位を占める中国と米国の積極的な姿勢と取り組みが不可欠である。特に2期目を目指すトランプ米大統領が、地球環境問題について具体的な取り組み姿勢を示すべきと言えよう。
5、途上国開発援助の在り方の抜本的見直しの必要性
また途上国援助においても、従来型の重厚長大なインフラ開発・整備ではなく、再生可能エネルギーを使用するなど、温室効果ガスの排出が少ない経済社会の構築を目標とする開発モデルや政府開発援助(ODA)モデルとして行くことが望まれる。
国連自体も、経済社会理事会を中心として、アフリカ諸国の安定を含め必ずしも成功とは言えない「開発の10年」の見直しなど、途上国援助の在り方を抜本的に見直すと共の、世界食糧計画や難民高等弁務官など各種の専門機関を通じて相対的に潤沢に行われて来た人道援助や食糧援助についても、人口抑制の側面を含め抜本的、総合的に再検討する必要がありそうだ。そもそも援助する側もこれまでの高成長の維持は困難であり、経済的体力が低下しているので、これまでのような援助を継続して行くことは困難であろう。それに加え、温暖化問題への対応が必要となるので、国際的な調整が必要になっている。
各国ごとの援助姿勢についても、現在中国が、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が設立され、中国主導の「一帯一路」政策が推進される体制が整った。それが途上国における従来型の長大重工型、大量のエネルギー消費型のインフラ建設に投資されていくとすると地球環境の悪化に繋がることになるので、温室効果ガスの減少につながる環境改善インフラへの投資促進となることが望ましい。「一帯一路」政策もその在り方が再検討される必要があろう。中国自体も、これまでのような高成長、高エネルギー消費の経済成長を継続すれば、いずれ住めない大陸となる恐れもある。(2014.3.31./15.4.3.改定/19. 6.12.再改定)(All Rights Reserved.)
地球温暖化ー融ける氷海、氷河と荒れる気候変動は止められるか <その1 再掲>
2015年3月14日から18日まで、第3回国連防災世界会議が仙台で開催された。東北大地震・大津波から5年目を迎えるこの時期に、大震災の経験と教訓をこの地から世界へ伝え、対応を考えることは大変意義があったと言えよう。他方、折しも南太平洋のバヌアツを大型サイクロン「パム」が襲い大きな被害を出していたが、根本的な原因の一つである荒れる気候変動、温暖化への対応については、途上国側は先進工業国の責任を強調し、国際的な対応を主張する先進工業国と対立し、抜本的な対応については平行線のままで終わった。しかしその間にも海水温は上がり、海流は変化し、地球の気候は悪化している。地殻変動は止められず、被害を防ぐしかないが、気候の劣化については世界が協力すれば止められる。気候の劣化に大きく影響する海や海流の温度や流れは、温度差に敏感な漁業資源にも影響する。何時までも平行線の議論をしている時ではなく、世界が具体的に行動する時期ではないのだろうか。世界のリーダーがこの問題に真剣に向き合うべき時のようだ。
国連の「気象変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第2作業部会は、横浜で地球温暖化の影響を検討し、2014年3月31日、報告書を取りまとめた。その中で「全ての大陸と海洋で、温暖化の重要な影響が観測されている」との認識の下で、“北極海の海氷や世界各地域における珊瑚礁は後戻り困難な影響を既に受けている”などとして生態系や人間社会への影響を指摘している。そして温暖化が進むリスクとして、世界的な気温の上昇、干ばつなどによる食糧生産の減少、大都市部での洪水、異常気象によるインフラ機能の停止などを盛り込んでいる。当コラムも、北極海の海氷の融解と縮小ブログでもこのような状況を2008年頃から指摘して来ているが、それが国際的に理解され始めたと言えよう。
日本の地球温暖化への取り組みについては、環境省は、日本の温室効果ガスの削減目標を2020年度までに2005年度比で3.8%減とする方針である。温室効果ガスの削減目標については、民主党政権が2020年度までに“1990年度比で25%削減”との目標を提示し、国連総会でも表明している。環境省の上記の目標は、基準年を2005年としているが、1990年度比で換算すると逆に約3%増となるとされており、後退感が否めない。政府当局は、‘原子力発電が再稼働されれば高い目標に修正する’としている趣であるが、果たして原子力発電頼みで良いのであろうか。
1、意見が分かれる地球温暖化の原因
温暖化の速度、原因などについては議論が分かれている。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。国連の「気候変動に関する政府間パネル」が出した07年の第4次評価報告書でも、“ヒマラヤの氷河は2035年までに解けてなくなる可能性が強い”と指摘している。同グループはゴア米元副大統領と共にノーベル賞を受賞したが、氷河学者からは300mもの厚さの氷河がそんなに早くは融けないとの疑問が呈され、同グループがそれを認めるなど、信憑性が疑われている。地球がミニ氷河期に入っているとの説もある。
2、荒れる世界の気候
どの説を取るかは別として、着実に進んでいる事実がある。北極海の氷原が夏期に融けて縮小していることだ。衛星写真でも、08年においては6月末頃までは陸地まで氷海で覆われていたが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能となる。その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。6、7年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。また南極大陸などでは氷原がとけ、南極海に流れ出し海洋の水位を上げている。
これは今起きている現実である。短期的には夏の一定期間航行が可能になり、商業航路や観光、北極圏開発のビジネスチャンスが広がる。
他方それは温暖化への警告でもある。北極の氷海縮小は、気流や海流による冷却効果を失わせ、地球温暖化を早め、海流や気流が激変し気候変動を激化させる恐れがある。氷海が融ければ白熊や微生物などの希少生物も死滅して行く。取り戻すことは出来ない。北極圏の環境悪化は、米、露など沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えている。
現在、日本はもとより世界各地で気流や海流の動きや温度がこれまでのパターンでは予測できない荒々しい動きを示しており、局地的な豪雨や突風・竜巻、日照りや干ばつ、豪雪や吹雪などにより従来の想定を越えた被害を出している。それが世界各地で今起こっている。地球環境は、近年経験したことがない局面に入っていると言えよう。
3、国際的な保護を必要とする北極圏と南極大陸
同時に忘れてはならないのは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。またヒマラヤやアルプス、キリマンジェロ等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
北極圏も南極同様、人類の共通の資産と位置付け、大陸棚の領有権や「線引き」の凍結や北極圏の一定の範囲を世界遺産に指定するなど、国際的な保護が必要だ。
4、必要とされる政府レベルの対応と生活スタイルの転換 <その2 に掲載>
5、途上国開発援助の在り方の抜本的見直しの必要性 <その2 に掲載>
(2014.3.31./15.4.3.改定/19. 6.12.再改定)(All Rights Reserved.)
地球環境保護、日本の真価が問われる
10月26日開催された臨時国会において、菅義偉首相は就任後初めての所信表明を行い、「温室効果ガスの排出量を2050年までに全体としてゼロにする」との目標を表明した。そして「グリーン社会の実現」を成長戦略の柱と位置付けた。
「温室効果ガス排出量の2050年までの実質ゼロ」目標は、前政権当時の「50年までに80%削減」を一歩進めたもので、管政権の温室効果ガス削減の促進を期待したい。
しかし、その目標は30年も先のものである上、EUな主要各国が2030年までの目標を設定しており、これに比して削減速度が遅い。
1、温室効果ガス実質ゼロ目標に向け2030年、2040年の中間目標設定が必要
(1)不可欠な温室効果ガス削減と激甚化する気候変動への対応
地球温暖化により、北極圏の氷海や南極を覆う氷原・氷河、ヒマラヤやアルプスなどの氷河が融け、海温と共に大気温が上がり、大量の水蒸気を空中に巻き上げ、地球温暖化が進み、世界各地で今までにはないような荒々しい気候変動に見舞われている。更にこのまま温暖化が進み臨界点に達すれば、止めることの出来ない極限的な激しい気候に見舞われる恐れがある。これは理論でも学説でもなく、現実に体験している現実なのである。
それを止めるためには、産業革命以来増え続けている温室効果ガスを削減し、地球温暖化を止めなくてはならない。
30年先は長すぎる。加速努力が必要のようだ。地球が壊れてからでは遅い。
(2)具体的な中間目標設定とそれぞれの指針が不可欠
温暖化効果ガスについては、世界の主要国が2030年までの削減目標を設定している。EUは40%削減(1990年比)、インド33~35%削減(GDP当たりのCo2排出、2005年比)、中国60~65%削減(同、2005年比)と具体的な目標を設定している。特にEUは1990年比での削減目標であり、今日に比べて炭酸ガスなどの排出量の少ない時代との比較であり、問題意識の高さを示している。中国についても目標達成を期待したい。
これに対し日本は、これまで2030年までの削減目標を26%としており、その上2013年比と問題が深刻化し始めてからの基準で、基準年自体を甘くしており、2005年比では25.4%削減となる。この目標も断念されている。因みに、米国はオバマ政権時代に2025年までに26~28%削減(2005年比)として行政府の目標を設定しており、バイデン候補が新大統領となり民主党政権となれば、このラインで推進されるであろう。またロシアは同年までに70~75%抑制(25~30%削減、1990年比)としている。
日本は2050年までの実質ゼロが表明され、その実現に期待したいが、2030年、2040年の中間目標が具体的に示されると共に、どの分野でどのように進めるかの指針が示されることが期待される。
2、福島原発解体処理による放射能汚染水の海洋放流は望ましくない
2011年3月に発生した東北大地震の津波により炉心融解を含む爆発事故を起こした福島原発の解体処理が長期化する中、放射能汚染水が貯水槽に大量に貯蔵され、限界を迎えていることから、その放出が検討されている。放射能はほぼ取り除かれ、濃度の薄いトリウム残っているものの放射線レベルは低いので、海洋への放水が検討されている。放射能は「飲んでも健康に影響はない」とされているが、福島の漁業関係者は風評被害などを懸念し、海洋投棄反対を表明している。
これに対し行政当局は、賠償等を検討するなどとしているが、この問題は賠償や風評被害だけの問題ではない。国際的信頼、国家としての信用の問題となろう。
日本は、国際環境グループに毎年のように「化石賞」を受けている。発電等に石炭、石油などの化石燃料が使われているからだ。失礼な話ではあるが、不名誉なことだ。韓国が、福島産の野菜や魚類を放射能汚染の恐れありとの風評を流し続けたが、今回は国全体に関わることになる。
もしこの放射線汚染水が処理をされ「飲んでも大丈夫」なレベルとなっているのであれば、日本国内で処理できるし、そうすべきであろう。
確かに海洋は広い。だから海洋投棄も良いということにはならない。領海内でも海は続いており外洋に広がる。現在、海洋のプラステイックごみの問題が深刻化している。世界中で投棄されてきたプラステイックごみは、毎年増えると共に、風化し微粒子化し世界の海洋を漂い、海底に蓄積し続けており、それを魚類が食べ、人間の口にも入るようになる。十分希釈されたとしても放射線汚染水が放流され、これが世界で常態化する恐れもあり、その悪影響は計り知れない。
放射線汚染水の処分は、日本国内で行うことを前提として真剣に検討されるべきであろう。例えば、国立公園内の人里離れた場所や硫黄島などの離島に貯水池を作り、適正に管理するなどを検討してはどうだろうか。それが国家としての責任ではなかろうか。(2020.11.4.)
Remarks by U.N.S.G. Guterres on the online Conference with Chinese President Xi are questionable!
October 7th, 2020
Celebrating the 75th Anniversary of the United Nations, United Nations Secretary-General Antonio Guterres had an online conference with Chinese President Xi Jinping on September 23, 2020.
- The remarks by Chinese President Xi show marked differences between its external posture and the actual domestic reality in China
President Xi Jinping of People's Republic of China (PRC) expressed the following points during the on-line meeting with UNSG, based on the report by Chinese News Xinhua:
- He reaffirms to the international community to uphold multilateralism and abide by the commitments to the UN Charter.
- Noting that COVID-19 is still rampant in the world, China firmly supports the key initiatives of the UN system, especially the World Health Organization. China also firmly supports the UN system in strengthening international cooperation in COVID-19 prevention and containment. It will make COVID-19 vaccines a global public good after putting them into use, and also contribute to the vaccine accessibility and affordability in developing countries.
(3)Noting the emergence of many new problems amid the pandemic, these problems are related to peace and development in one way or another.
In this regard, the UN Security Council should play the role of a collective security mechanism, and the Security Council permanent members should play an exemplary role.
Pursuing unilateralism and seeking hegemony are unpopular and will surely be rejected.
The COVID-19 pandemic has magnified the problems of maladaptation and mismatch in the global governance system.
There is only one system in the world, namely the UN-centered international system, and only one set of rules — the basic norms of international relations based on the UN Charter.
China never pursues ideological confrontation, advocates 'decoupling' or seeks hegemony.
- China will not sit idly by and allow its national sovereignty, dignity and development space to be undermined. Instead, China will firmly safeguard its legitimate rights and interests and uphold international equity and justice.
All countries are called on to rise above differences between countries, nationalities, cultures and ideologies so as to promote efforts in building a community with a shared future for humanity.
Although his remarks may be well received basically by the international community including the United Nations, most of them sound to be quite different from the actual situation inside China, which adopts One-Party Democracy and a Socialism Market Economy among other things.
2、Courteous yet accommodating response by UN Secretary-General Guterres
United Nations Secretary-General Antonio Guterres, while listening cheerfully to Chinese President Xi, stressed the importance of multilateralism, international cooperation, and a powerful United Nations as the world faces challenges, including the COVID-19 pandemic and climate change.
He expressed his gratitude to China's consistent and firm support for multilateralism. And he welcomed a series of important initiatives and measures President Xi announced at the UN General Assembly in September, 2020, in such spheres as the practice of multilateralism, coping with climate change and promoting sustainable development.
He also expressed his support for China's efforts to promote jointly in building ‘a Silk Road of Green Development’.
He highly appreciated China's role in safeguarding the world peace.
UN Secretary-General Guterres said that the United Nations would support China in deepening cooperation with Africa and other developing countries, and expressed the UN’s willingness to strengthen cooperation with China and he expected that China would play a leading role.
It is quite natural for the UN Secretary-General to appreciate China’s role and his willingness to strengthen relations and cooperate with China, especially when the United Nations celebrates the 75th anniversary. But if we realize the clear differences between what Chinese President Xi was telling to the World and what the Chinese Government is actually doing inside China, including Tibet and Xinjiang Uygur, some of the remarks made by UN Secretary General Guterres are questionable and inappropriate. Or a lack of knowledge about actual China.
3、China’s external posture differs from its reality inside China
Although most of the remarks above made by Chinese President Xi are appreciated from the widely-shared international standard based on democracy, freedom, human rights, and free market economy, what he is saying to the World is different from what China has been doing inside China, including Tibet and Xinjiang Uygur, and, in part, Hong Kong.
- Delay of China’s detailed notice to the World, in particular, WHO on the Buhan-originated Corona Virus
While Chinese President Xi said that China would support the UN system in strengthening international cooperation in COVID-19 prevention and containment, it failed to provide to WHO accurate information immediately after the detection of Corona Virus in Buhan in January, 2020. Also it failed to stop the outgoing of foreign nationals and Chinese people from China, while it quickly restricted the movement of Chinese people from Buhan. Such delayed measures on the part of China let the Corona Virus spread outside China, and prevented WHO to recommend the World to take preventive measures as quick as possible, especially the closure of airports and others, and declare it as COVID-19 Pandemic.
The very swift and world-wide spread outside China of the Buhan-originated Corona Virus itself proves that there was certainly such a delay. In fact, President Xi apologized to the people in Buhan for the delay of prompt measures after the Chinese Government imposed the lockdown there. It seems, to a greater degree, that he owes an apology to the rest of the World for causing the worldwide spread of Buhan-originated corona virus, instead of denying it and criticizing other country.
The World community wants to know the fact first so that we could take measures as quick as possible. Denying it only magnifies doubt and distrust over the Chinese sincerity.
- China’s governing system is based on One-Party (Communist Party) Democracy and the Socialism Market Economy
Although we welcome China’s external posture to uphold multilateralism and abide by the commitments to the UN Charter, it firmly adopts One-Party- Democracy and the Socialism Market Economy internally. We don’t call One-Party -Democracy based on Communist Party a Democracy. Because it denies plural political parties and freedom of belief and speech, We don’t call the Socialism Market Economy, which is centrally managed and restricted, a Free Market Economy.
Therefore, the movement and activities inside China by not only Chinese people themselves but also foreign nationals are restricted in one way or another, while Chinese people are permitted free access to the international market and free movements within any countries in the world.
If China wants to keep such freedom of activities and movement externally, it should allow foreign people similar freedom in the spirit of reciprocity. If not, it is fair to say that all countries have the right to take similar restrictive measures to Chinese activities there to the extent their nationals’ activities are restricted in China.
While we certainly welcome China to be a member of the international community in principle, UN Secretary-General Guterres should also have invited China to accord to foreign nationals inside Chine similar freedom of activities and movement in the spirit of reciprocity and fairness.
- China’s massive military buildup and accelerated military activities especially in the East China Sea
Chinese President Xi claimed that “the UN Security Council should play the role of a collective security mechanism, and the Security Council permanent members should play an exemplary role.”
We are puzzled. Isn’t it China who made difficult for the Security Council to take prompt security measures by vetoing on many cases?
Isn’t it China who occupies the Spratly and Paracel Islands by force, whose territorial rights are claimed by as many as 6 neighboring countries, and were building militarily usable facilities on those islands? Isn’t it China who rejected the ruling of the Permanent Court of Arbitration (PCA) in 2016 that “there was no evidence that China had historically exercised exclusive control over the waters or resources, hence there was no legal basis for China to claim historic rights over the nine-dash line (the Spratly Islands area),” advocating unanimously the claim made by the Philippines. The tribunal also criticized China's land reclamation projects and construction of artificial islands in the Spratly Islands, destroying the vast coral reef. We don’t call such acts “exemplary.” On the contrary.
President Xi also urged that “pursuing unilateralism and seeking hegemony are unpopular and will surely be rejected.” If he really thinks so, he is invited to show a good example by accepting the ruling and settling other disputes with the countries concerned.
In this regard, I should like to propose a negotiation on Disarmament and Confidence Building in East Asia.
UN Secretary General should have asked Chinese President to settle those issues as quick as possible, while appreciating China’s positive role to be played on other issues as well. And he should not have expressed his support for China's efforts to build ‘a Silk Road of Green Development,’ which is in line with China’s recent strategy of “One Belt One Road,” stretching from China to Europe on the Eurasian Continent and the Sea, because it appears to be somewhat expansionistic and hegemonistic.
(4) China’s bothering human rights records and oppression of self-determination
Chinese President Xi called on all countries “to overcome differences between countries, nationalities, cultures and ideologies so as to promote efforts in building a community with a shared future for humanity”. We agree what he was saying in principle, but we are largely puzzled. We are largely puzzled because China has notorious records contrary to human rights and self-determination in Tibet and Xinjiang Uygur, and, in part, Hong Kong. There is a clear disparity in words and deeds.
Secretary General Guterres of the United Nations should have drawn President Xi’s attention that the United Nations was worried about the human rights situation in those areas. Without saying any of these, he must have given a wrong message to Chinese President Xi. (2020/10/07 M.K.)
Global Policy Group
アジア地域包括的経済連携(RCEP)、中国への条件付与が不可欠 (再掲)
2011年11月にASEAN諸国の提唱により協議が始まったアジア地域包括的経済連携(RCEP)は、2019年11月4日、バンコクで開催され首脳会議において、インドを除く15カ国が2020年中の協定署名に向けた手続きを進めることで合意した。
アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、ASEAN10カ国に加え、日本、韓国中国、インドとオーストラリア、ニュージランドの16カ国を対象として関税の自由化、サービス分野における規制緩和や投資障壁の撤廃を目的として協議が行われて来た。しかしインドは、中国の市場アクセスへの懸念につき対応されておらず、自国の農業・酪農、消費部門が影響を受けるとして参加を見送った。インドのモディ首相は、今回のRCEP合意について、関税の違いや貿易赤字、非関税障壁など、「インド国民の利益に照らし合わせ、肯定的な答えは得られなかった」との考えと伝えられている。
中国、インドを含むRCEPが実現すれば、世界の人口の約半分に当たる34億人、世界のGDPの約3割の20兆ドル、世界の貿易総額の約3割10兆ドルを占めるメガ地域経済圏となる。
インドを除く15カ国は、インドの参加を期待しつつも、2020年中の15カ国での発足を模索しているが、基本的に次の問題が内在しており、慎重な対応が求められる。
1、「社会主義市場経済」を標榜する中国との差は埋められるか
中国は「社会主義市場経済」を標榜しており、自由主義市場経済と異なり、基本的に中央統制経済を維持している。従って石油ガス、銀行その他の戦略性や公共性のある多数の基幹産業が政府(国務院)か共産党管理下の「国有企業」であり、補助金を含め政府や党からの実質的な支援を受けている。政府や党が100%株式を所有する中央企業などのように、その下に中央企業が持ち株会社として管理監督する子会社が多数存在する。従って表面上‘株式会社’となっていても国が保有或いは統制している企業体が存在する。
このように国家や共産党に補助金や直接管理で保護されている企業や産業が存在し、国内産業は保護、規制しつつ、海外市場や海外投資については自由貿易、多国間主義を求めるのは、衡平を著しく失する。このような企業、産業からの輸出については、輸入国側、投資受け入れ国が、輸出国側の補助金等の保護の度合いにより相応の関税を課す事を含め、一定の防護措置をとることを認めるべきであろう。そうでなければフェアーな競争とは言えない。スポーツに例えれば、筋肉増強剤を使用している選手と競争しているようなものだ。
この観点からすると、米国による中国に対する関税措置や貿易交渉姿勢は‘保護主義’などではなく、公正な要請と言えよう。
1990年代に入り急速に経済成長した中国は、2001年12月、世界貿易機関(WTO)に加入した。当時のおおよその見方は、13億人の巨大市場である中国貿易が自由化され、世界市場が拡大する一方、中国経済自体も国際経済秩序に組み込まれ、市場経済化を加速させるものと期待された。
その期待の一部は達成されたが、WTOへの加入により最も利益を得たのが中国であり、いわば独り勝ちの状況となっている。
中国は、WTO加入に際し金融の自由化、諸法制の整備などの是正が求められ、若干の改善は見られている。しかし中国は、体制上『社会主義市場経済』を標榜しそれを堅持しているので、先進工業諸国が採用している‘自由主義経済’や‘市場経済’とは異なり、上記の通り、国営基幹産業を含め、基本的に国家統制経済であり、国家の統制や国家補助、国家管理が強い。また実体上、元の為替レートや株価への統制や管理も行われ得る体制となっている。中国は、米国の通商交渉姿勢について、国際会議や記者会見等において、‘米国は保護主義的であり、自由貿易を支持する’などとしているが、国内で中央統制経済を維持しつつ、世界では自由貿易とは身勝手と言える。ASEAN諸国も、当面は中国経済の恩恵を受けているが、RCEPが発足すると国内産業が圧迫され、不利益の方が際立つ可能性がある。現在、世界貿易機関(WTO)の改革が検討されているが、国家補助を受けている企業や産業が世界市場に参入する場合の条件、外国為替や株式市場への直接的国家介入の節度、技術や特許など知的財産の国際的保護などが課題と言えよう。
中国は、国民総生産(GDP)において、既に米国に次ぐ世界第2位の経済大国となり、成長率が低下したと言っても年率6~7%の成長を維持し、2019年の世界経済成長率3.2%(OECD予測)の倍以上の成長率が予想されている。しかし中国は、国内で中央統制経済を維持する一方、世界での自由貿易を主張している。第2次世界戦争後の世界経済は、米国の経済力を軸とするものであり、70年代後半以降多極化の動きが見られるものの、基本的には米国経済が牽引力となって来た。しかしこのままでは、『社会主義市場経済』を採用している中国が、相対的に高い成長率を維持し続け、世界第1の経済大国となり、世界経済の中心となる可能性が高い。米国を中心とする国際経済秩序に、異質の経済体制を採る中国が加わり、単純化すれば、中国と米国という2つの経済圏による秩序に変容することになろう。
トランプ政権はその変化を認識し、経済分野のみならず、‘安全保障と外交政策’上の脅威ともなるとして、目に見える短期的な利益を模索しつつも、中・長期の国際経済秩序を見据えて中国に対応し始めていると言えよう。日本を含め世界は、この流れを見逃してはならない。
アジア地域の自由貿易地域となろうとしているRCEPを発足させるためには、本来であれば社会主義市場経済という特異な体制をとっている中国に対する参加条件を検討することが不可欠のようだ。中国を国際社会につなぎ止めて置くことは必要だが、WTOの過ちを繰り返してはならない。
2、インド不参加のRCEPは‘閉ざされた地域グループ’を生む
インドのモディ首相は、RCEP合意について、関税の相違や貿易赤字、非関税障壁などへの対応において「肯定的な答えは得られなかった」とし、合意出来ないとの姿勢である。特に、中国の安価な製品のほか、オーストラリアやニュージランドからの安価な農産品などが国内産業を圧迫することを懸念している。
中国への懸念は、補助金を含む産業保護という中央統制経済から発生することであるので、体制上の変化が無い限り、インドはRCEPに参加することはないであろう。RCEPがインド抜きで発足すると‘排他的な地域グループ’を生むこととなるので好ましくない。
他方インドの参加を促すためには、中国の補助金その他の産業保護の状況に応じて関税や投資規制等と設けることを認めることとするか、それとも中国が自由主義市場経済への転換を図るかあろう。それ無くしてRCEPを発足させることは時期尚早と言えよう。(2019/12/23)