日・ロ共同経済活動の早期実施を期待する
2016年12月15、16日、プーチン・ロシア大統領が訪日し、山口県と東京で安倍首相との一連の首脳協議が行われた後、首相官邸で共同記者会見が行われ、今次協議の結果などが報告された。
1、 平和条約締結に向けて出発点となる北方4島での日・ロ共同経済活動
両国首脳は、2016年12月16日、共同記者会見に際し声明を発出し、「択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島における日本とロシアによる共同経済活動に関する協議を開始する」ことに合意し、この協議が、「平和条約の締結に向けた重要な一歩になり得ること」を相互に確認したことを明らかにした。
2016年12月のプーチン大統領の訪日に際しては、この他、日本の旧島民の墓参等に際する4島訪問手続きの簡素化、及び8項目の協力プランに沿って、医療・保健、エネルギー、産業多様化、極東開発、先端技術協力等の分野で合計12の文書に署名し、またウラジオストック等での都市づくり、生産管理に関する訪日研修、極東での温室野菜栽培事業、農産物乾燥保存技術等など、企業等が行うプロジェクトに関して68件の文書に署名された。これらはいわば‘日・ロ間の平和条約締結に向けての環境作り’、或いは平和条約の果実の前倒しとも言える措置であるが、今次会談の最大の進展は、‘特別な制度の下での北方四島での日・ロ共同経済活動’について合意したことであろう。
2、日・ロ共同経済活動の早期実施が不可欠
‘北方四島での日・ロ共同経済活動’は、平和条約に関する両国の立場を害さず、「特別な制度」の下で実施されることになっている。即ち両国の北方4島の領土権に関する立場を害することのない「特別な制度」の下で実施されることになるが、領土権がぶつかり合うことのない「国際的な特区」或いは自由貿易地域的な取り決めが必要となると見られる。この点で日・ロ政府当局間が双方の立場に固執すれば長期に亘る協議となる恐れがあり、更に平和条約締結が遠のく恐れがあるが、首脳間で十分協議の上で合意したことであるので、一両年中にも「特別な制度」での取り決めに合意し、実施に移すことが不可欠である。
3、 日本の旧島民地権者の地権回復が緊要
日・ロ共同経済活動は、‘漁業,海面養殖,観光,医療,環境その他の分野’を含む分野で進められることになるが、具体的な活動に当たって施設や道路等のインフラ整備が行われることになろう。そのため4島の各所で土地が収容、利用されることになると予想されるので、旧島民及びその後継者の地権が侵害される恐れがある。
従って、日・ロ共同経済活動の実施に当たっては、旧島民の地権をまず保護する必要があろう。
今次会談で、日本の旧島民の墓参等に際し4島訪問手続きの簡素化が行われることは歓迎されるとことであるが、日・ロ共同経済活動が実施されるに際し、日本の旧島民の地権(4島における土地登記者及びその相続者等)を回復、或いは代替物件の提供が不可欠であろう。旧島民は1万7千人ほどであったが、ソ連の軍事支配の下で強制的に退去させられたものである。これらの島民はほとんどが軍人ではなく、首都東京から1,000キロ以上も離れ、戦争や戦闘には関与していない一般市民(シビリアン)であったので、シビリアンが所有、相続している土地、不動産は一定の保護、補償がなされるべきであろう。
国家の領土権は、国家と国家の間の問題であり、シビリアンである個人の地権、所有権とは異なり、個人の土地、財産所有権の問題であるので、責任ある国家としてはそれを尊重する義務がある。国家間の戦争において、戦闘に関与していない一般市民の生まれ、育った故郷に平穏に住む権利を奪うことは、今日の国際通念において人道上も、人権の上でも容認されて良いものではない。プーチン大統領は、現在北方4島に住んでいるロシア人の生活があることを強調している。しかしソ連が占領する以前からこれら4島に住んでいた日本人の旧島民が1万7千名ほどおり、日・ロ共同経済活動と並行して、或いはその一環として、それら島民が故郷に住む権利を回復すべきであろう。プーチン大統領も、ロシア人の生活だけでなく、日本の旧島民の気持ちは十分に分かるであろう。
日・ロ間には‘平和条約’こそないが、戦闘は終結し、1956年には外交関係が再開し、事実上の平和は維持されており、その中で北方4島において共同経済活動を実施しようとしている。事実上の平和が維持されている今日、4島に住んでいた日本の旧島民及びその家族が故郷に住む権利、そして地権の回復か代替地の提供が早期に行われることが強く期待される。(2017.1.5.)(Copy Rights Reserved.)