シリーズ平成の空騒ぎ -株価暴落の場合(全体編)―
1.日本金融界への影響は限定的
1月4日の証券取引所の大発会以降、株価が大暴落し、乱高下しながら23日には日経平均13,000円を大幅に割り込んだ。2年4か月振りの低水準で、改革推進による景気回復の恩恵が消え、05年9月中旬の水準に逆戻りした形だ。 背景には、米国における低所得層向けの高金利住宅ローンであるサブプライム・ローン問題がある。 損失額について、米国当局は当初千億ドル(約11兆円)程度としていたが、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は議会証言において、場合により1,400億から1,500億ドル(約15-16兆円)規模に達するとの予想を示した。日米欧の主要金融機関21社の昨年来の損失が1,280億ドル強(約13兆6千億円)に達し、米国の大手銀行・証券会社の損失はその約6割、833億ドル(約8.8兆円内外)との報道(読売)もあり、バーナンキ議長が示した予想の範囲内だ。
米国における低所得層住宅・不動産バブルの崩壊であり、90年代の日本のバブル経済崩壊を思い出させるが、現時点での予想損失額は約15~16兆円規模でしかなく、日本のバブル崩壊時の不良債権100兆円規模よりもかなり少ない。しかも、日本経済への影響は部分的でしかない。金融庁の調査(大手銀行10行、地方銀行111行、455の信用金庫、信用組合を対象)では、07年9月末において、大手銀行の関連債権保有額が1.2兆円で大半を占め、地方銀行他は1,300億円となっている。この時点では表面化していないものもあるので、この数値を上回ることが予想されるが、その5割が損失となるとしても損失額は6千億円であり、バブル経済崩壊時と比較すると極めて限定的である。そうであるのに株式市場は何故うろたえ、空騒ぎするのだろうか。 大手銀行10行の自己資本は、07年3月末で合計23.3兆円、業務純益の合計が3.6兆円であったことを考えると、一部で影響を受けるとしてもマネージ出来ない数値ではない。逆に自己資本比率の低い日本の銀行が、自己資本を積み増す好機でもある。
米国経済の減速や円高による日本の輸出産業への間接的な影響が予想されるところだが、円高により関連輸入財コストが低下すると共に、海外直接投資関連の費用も低下するので、実体上輸出競争力にはそれ程大きな影響はないものと予想される。石油その他の輸入価格についても、本来であれば円高のメリットが消費者に還元されるべきだ。
2.迫られる米国の対応 -対応を誤れば「テロとの戦争」に経済面で敗北もー これに対し米国のFRBは、1月22日、緊急に0.75%の再利下げを実施した。また、ブッシュ大統領は景気対策を発表し、24日、1500億ドル規模の中・低所得層への所得税還付と設備投資優遇措置を柱とする景気刺激策につき議会と合意した。更に、ローン債権買取機構の設置などが検討されている。
米国が早期にこの問題を解決しなければ、6年間余にわたる「テロとの戦争」に経済面で負けることになり兼ねない。米国経済の象徴的存在であった世界貿易センターへのテロ攻撃は、短期的にせよ米国経済の混乱をも狙ったものであったが、米国が官民の総力を挙げて打撃を最小にし、経済成長を維持して来たことは賞賛に値する。米国経済が悪化して最も喜ぶのは国際テロ集団だ。米国は、今また早期且つ大胆な対策を必要としている。また先進主要各国や主要産油国は世界経済の下支えに努力し、金融面その他で協調すべきなのであろう。
テロとの戦いや日米間の協力は、軍事分野での給油活動などに限られるものではなく、経済分野での牽引力を発揮するなど、広い観点から検討されるべきであろう。もっとも、中長期には米国の財政節度の維持と経常収支の改善が課題となろう。
3.日本経済のリーダーシップが望まれる時
日本経済は、バブル経済崩壊以後も堅調な貿易黒字を維持し、外貨準備を積み上げている。製造業を中心として日本経済は底堅く、もっと自信を持っても良いのではないか。上述の通り、サブプライム・ローン問題についても日本への影響は限定的と見られる。
「日本売り」は何故起こっているのであろうか。
財界人の間でよく言われていることは、日本の株式市場で外国人投資家の比率が6割前後となっており、「その外国人投資家が、日本政治はリーダーシップを欠き、どちらに向かっているか分からない。改革は後退し、規制が未だに多く、将来への期待が薄れている」ということである。確かに外国人投資家は、売りが買いを上回る「売り越し」の傾向が色濃くなっている。日本経済への信頼性の低下は日本国民の間にも広がって行く恐れがある。
確かに、昨年9月に突然総理が交代し、5千万件余に及ぶ年金納付の記録漏れ問題も未だに解決の道筋が明らかにされず、また、揮発油税の暫定税率の問題も「財源の確保」の側面だけが強調され、石油・物価高への有効な対策は示されていない。株価は市場において変動するものであり、政府レベルで一喜一憂する必要はないが、改革路線の後退に伴い景気回復の動きも後退している状況であるので、石油・物価高を考慮しつつ、減税による民間の消費・投資の誘導を含め、具体的な対策を検討し、市場に明確なメッセージを発出することが緊要であろう。同時に、経済界も内外の信頼を高められるよう、果敢に産業力を発揮して欲しいものである。 (Copy Right Reserved)
1.日本金融界への影響は限定的
1月4日の証券取引所の大発会以降、株価が大暴落し、乱高下しながら23日には日経平均13,000円を大幅に割り込んだ。2年4か月振りの低水準で、改革推進による景気回復の恩恵が消え、05年9月中旬の水準に逆戻りした形だ。 背景には、米国における低所得層向けの高金利住宅ローンであるサブプライム・ローン問題がある。 損失額について、米国当局は当初千億ドル(約11兆円)程度としていたが、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は議会証言において、場合により1,400億から1,500億ドル(約15-16兆円)規模に達するとの予想を示した。日米欧の主要金融機関21社の昨年来の損失が1,280億ドル強(約13兆6千億円)に達し、米国の大手銀行・証券会社の損失はその約6割、833億ドル(約8.8兆円内外)との報道(読売)もあり、バーナンキ議長が示した予想の範囲内だ。
米国における低所得層住宅・不動産バブルの崩壊であり、90年代の日本のバブル経済崩壊を思い出させるが、現時点での予想損失額は約15~16兆円規模でしかなく、日本のバブル崩壊時の不良債権100兆円規模よりもかなり少ない。しかも、日本経済への影響は部分的でしかない。金融庁の調査(大手銀行10行、地方銀行111行、455の信用金庫、信用組合を対象)では、07年9月末において、大手銀行の関連債権保有額が1.2兆円で大半を占め、地方銀行他は1,300億円となっている。この時点では表面化していないものもあるので、この数値を上回ることが予想されるが、その5割が損失となるとしても損失額は6千億円であり、バブル経済崩壊時と比較すると極めて限定的である。そうであるのに株式市場は何故うろたえ、空騒ぎするのだろうか。 大手銀行10行の自己資本は、07年3月末で合計23.3兆円、業務純益の合計が3.6兆円であったことを考えると、一部で影響を受けるとしてもマネージ出来ない数値ではない。逆に自己資本比率の低い日本の銀行が、自己資本を積み増す好機でもある。
米国経済の減速や円高による日本の輸出産業への間接的な影響が予想されるところだが、円高により関連輸入財コストが低下すると共に、海外直接投資関連の費用も低下するので、実体上輸出競争力にはそれ程大きな影響はないものと予想される。石油その他の輸入価格についても、本来であれば円高のメリットが消費者に還元されるべきだ。
2.迫られる米国の対応 -対応を誤れば「テロとの戦争」に経済面で敗北もー これに対し米国のFRBは、1月22日、緊急に0.75%の再利下げを実施した。また、ブッシュ大統領は景気対策を発表し、24日、1500億ドル規模の中・低所得層への所得税還付と設備投資優遇措置を柱とする景気刺激策につき議会と合意した。更に、ローン債権買取機構の設置などが検討されている。
米国が早期にこの問題を解決しなければ、6年間余にわたる「テロとの戦争」に経済面で負けることになり兼ねない。米国経済の象徴的存在であった世界貿易センターへのテロ攻撃は、短期的にせよ米国経済の混乱をも狙ったものであったが、米国が官民の総力を挙げて打撃を最小にし、経済成長を維持して来たことは賞賛に値する。米国経済が悪化して最も喜ぶのは国際テロ集団だ。米国は、今また早期且つ大胆な対策を必要としている。また先進主要各国や主要産油国は世界経済の下支えに努力し、金融面その他で協調すべきなのであろう。
テロとの戦いや日米間の協力は、軍事分野での給油活動などに限られるものではなく、経済分野での牽引力を発揮するなど、広い観点から検討されるべきであろう。もっとも、中長期には米国の財政節度の維持と経常収支の改善が課題となろう。
3.日本経済のリーダーシップが望まれる時
日本経済は、バブル経済崩壊以後も堅調な貿易黒字を維持し、外貨準備を積み上げている。製造業を中心として日本経済は底堅く、もっと自信を持っても良いのではないか。上述の通り、サブプライム・ローン問題についても日本への影響は限定的と見られる。
「日本売り」は何故起こっているのであろうか。
財界人の間でよく言われていることは、日本の株式市場で外国人投資家の比率が6割前後となっており、「その外国人投資家が、日本政治はリーダーシップを欠き、どちらに向かっているか分からない。改革は後退し、規制が未だに多く、将来への期待が薄れている」ということである。確かに外国人投資家は、売りが買いを上回る「売り越し」の傾向が色濃くなっている。日本経済への信頼性の低下は日本国民の間にも広がって行く恐れがある。
確かに、昨年9月に突然総理が交代し、5千万件余に及ぶ年金納付の記録漏れ問題も未だに解決の道筋が明らかにされず、また、揮発油税の暫定税率の問題も「財源の確保」の側面だけが強調され、石油・物価高への有効な対策は示されていない。株価は市場において変動するものであり、政府レベルで一喜一憂する必要はないが、改革路線の後退に伴い景気回復の動きも後退している状況であるので、石油・物価高を考慮しつつ、減税による民間の消費・投資の誘導を含め、具体的な対策を検討し、市場に明確なメッセージを発出することが緊要であろう。同時に、経済界も内外の信頼を高められるよう、果敢に産業力を発揮して欲しいものである。 (Copy Right Reserved)