内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

解決策にはならないソマリア沖海賊対策のための自衛隊艦船派遣

2009-04-29 | Weblog
解決策にはならないソマリア沖海賊対策のための自衛隊艦船派遣
 3月14日、ソマリア沖での「海上警備行動」のため、海上自衛隊の護衛艦2隻が日本から約12,000キロ離れた同海域に派遣された。海上警備行動のためであるので海上保安庁の係官も乗船している。
 国土交通省海事局による船舶運行・管理業者への調査では、「日本関係船」に限っても2,200隻にも及ぶ船舶が同海域での「警護」を希望しているという。それだけ同海域が日本の海運にとって重要かということを物語っていると共に、海賊の危険に晒されているということであり、心情的には同海域への海自の警護艦の派遣を支持したい。
 自衛隊の任務については、わが国の防衛を主たる任務としつつ、必要に応じ「公共の秩序の維持に当たる」とし(自衛隊法第3条)、その上で国内での「治安活動」の発令(同法第78条)と共に、海上においても人命・財産の保護や治安維持のため「警備行動」を命じることが出来る旨規定している(同法第82条)。
しかし、ここに言う「治安活動」や「海上における警備行動」は、あくまでも領土、領海内と排他的経済水域、及び領海内等から接続水域への追跡の継続や急迫する危険等に対する行動を想定している。公海上に限るとしても、自衛隊艦船を日本から遠く離れた海外の海域に派遣し、「警備活動」や「警護活動」を行うことには無理がある。本来は、主務である防衛活動に伴って必要とされる治安活動、海上警備活動を意味し、外国人が乗船する外国籍の船による海賊という犯罪への対処は、法律の想定を超えた拡大解釈とも言える。ソマリア沖での海賊対策が容認されるのであれば、日本の調査捕鯨船への国際的環境保護団体シー・シェパードによる妨害活動やその他類似のケースにおいても、警備、警護のため自衛艦を世界の何処にでも派遣出来ることになる。武器による抑止や戦闘という行為には一見類似性はあるが、そのような海外での犯罪行為に対し、自衛隊は訓練を受けているわけでもなく、また、関連する国際法令につき教育を受けているわけでもない。
無論、第3国の領海にまで入り込んで「警備活動」は第3国の管轄権を犯すことになるので、海賊船が外国の領海に逃げ込めばそれ以上の行動は出来ず、一定の抑止効果はあるものの、イタチごっこの対処療法的な活動に終わり、抜本的な解決策にならない可能性がある。
具体的な職務や武器の使用などについては、海上保安庁法が準用されることになっているが、この海域の外国不審船に対し臨検が出来るわけでもないし、明確な海賊行為の疑いがあったとしても外国船に乗り込み、外国人を捜査、拘束等が出来るわけでもない。そのようなことを行えば、行為の善悪は別として、船や人の属する国と管轄権侵害等の問題を起こす恐れがあり、この面でも抜本的な解決策には繋がらず、海賊行為が撲滅されない限り半永久的に警備、警護活動を継続することにもなりかねない。
武器の使用基準や海上自衛隊員の安全の問題、第3国の船舶の救済等に関心が集中しているが、日本の遥か彼方の海域において、外国船、民間外国人による海賊という犯罪行為に対する自衛隊の警備活動などについて、対象となる犯罪行為や任務や権限の範囲などに関し法律を定めてることが不可欠であろう。明文化すること自体が重要ではなく、国会での審議を通じ国民の理解と合意を得て置くことが重要なのであろう。それがまたこれらの任務に就く自衛官の安全を確保することに繋がると共に、自衛隊の活動や権限についての文民統制をより明確にする上、行政当局の判断のみで自衛隊艦船の海外任務を発動する危うさを無くすことにもなる。その意味で、今国会に海賊対策法案が提出され審議されていることは評価される。しかし、それで同海域等における海賊問題が解決するものでもない。
 数年前にマラッカ・シンガポール海峡で海賊行為が頻発した際、沿岸国のマレーシアやインドネシア等との協力、支援を基に海賊行為が沈静化した経緯がある。海賊行為の撲滅のためには、海賊の本拠地のある国や沿岸国の取締りと協力がなければ困難だ。日本としては、自衛隊艦船の派遣というハード・パワーに依存する前に、国内法制の整備や国民の合意を形成すると共に、内戦状態が続くソマリアは困難にしても、エジプトやアフリカ連合等やサウジアラビア、イエメン、オマーンなどの沿岸国を欧米諸国や国連などと共に支援し、同海域での海賊撲滅のための地域協力や機構を形成するよう働き掛けるなど、ソフト・パワーを発揮することが強く望まれる。その方が中・長期の効果は大きいであろう。
 また、自衛艦等を派遣して短期的に海賊の危険を抑止することは仕方がないこととしても、同海域に海賊が出没し危険であることは海運業界等も十分承知のことであるので、業界としてもその危険を回避し、抑止する自己防衛努力が望まれる。時間や費用が掛かるが、ルートの変更やグループによる民間警備船の傭船、応分の費用負担等である。中長期に国家が1万キロ以上の海外に警護艦を派遣し、特定の産業活動を警護し続けることは困難であるし、国内における民間、個人による警備努力との衡平の問題も生じる。(09.03.)    (All Rights Reserved.)
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解決策にはならないソマリア沖海賊対策のための自衛隊艦船派遣
 3月14日、ソマリア沖での「海上警備行動」のため、海上自衛隊の護衛艦2隻が日本から約12,000キロ離れた同海域に派遣された。海上警備行動のためであるので海上保安庁の係官も乗船している。
 国土交通省海事局による船舶運行・管理業者への調査では、「日本関係船」に限っても2,200隻にも及ぶ船舶が同海域での「警護」を希望しているという。それだけ同海域が日本の海運にとって重要かということを物語っていると共に、海賊の危険に晒されているということであり、心情的には同海域への海自の警護艦の派遣を支持したい。
 自衛隊の任務については、わが国の防衛を主たる任務としつつ、必要に応じ「公共の秩序の維持に当たる」とし(自衛隊法第3条)、その上で国内での「治安活動」の発令(同法第78条)と共に、海上においても人命・財産の保護や治安維持のため「警備行動」を命じることが出来る旨規定している(同法第82条)。
しかし、ここに言う「治安活動」や「海上における警備行動」は、あくまでも領土、領海内と排他的経済水域、及び領海内等から接続水域への追跡の継続や急迫する危険等に対する行動を想定している。公海上に限るとしても、自衛隊艦船を日本から遠く離れた海外の海域に派遣し、「警備活動」や「警護活動」を行うことには無理がある。本来は、主務である防衛活動に伴って必要とされる治安活動、海上警備活動を意味し、外国人が乗船する外国籍の船による海賊という犯罪への対処は、法律の想定を超えた拡大解釈とも言える。ソマリア沖での海賊対策が容認されるのであれば、日本の調査捕鯨船への国際的環境保護団体シー・シェパードによる妨害活動やその他類似のケースにおいても、警備、警護のため自衛艦を世界の何処にでも派遣出来ることになる。武器による抑止や戦闘という行為には一見類似性はあるが、そのような海外での犯罪行為に対し、自衛隊は訓練を受けているわけでもなく、また、関連する国際法令につき教育を受けているわけでもない。
無論、第3国の領海にまで入り込んで「警備活動」は第3国の管轄権を犯すことになるので、海賊船が外国の領海に逃げ込めばそれ以上の行動は出来ず、一定の抑止効果はあるものの、イタチごっこの対処療法的な活動に終わり、抜本的な解決策にならない可能性がある。
具体的な職務や武器の使用などについては、海上保安庁法が準用されることになっているが、この海域の外国不審船に対し臨検が出来るわけでもないし、明確な海賊行為の疑いがあったとしても外国船に乗り込み、外国人を捜査、拘束等が出来るわけでもない。そのようなことを行えば、行為の善悪は別として、船や人の属する国と管轄権侵害等の問題を起こす恐れがあり、この面でも抜本的な解決策には繋がらず、海賊行為が撲滅されない限り半永久的に警備、警護活動を継続することにもなりかねない。
武器の使用基準や海上自衛隊員の安全の問題、第3国の船舶の救済等に関心が集中しているが、日本の遥か彼方の海域において、外国船、民間外国人による海賊という犯罪行為に対する自衛隊の警備活動などについて、対象となる犯罪行為や任務や権限の範囲などに関し法律を定めてることが不可欠であろう。明文化すること自体が重要ではなく、国会での審議を通じ国民の理解と合意を得て置くことが重要なのであろう。それがまたこれらの任務に就く自衛官の安全を確保することに繋がると共に、自衛隊の活動や権限についての文民統制をより明確にする上、行政当局の判断のみで自衛隊艦船の海外任務を発動する危うさを無くすことにもなる。その意味で、今国会に海賊対策法案が提出され審議されていることは評価される。しかし、それで同海域等における海賊問題が解決するものでもない。
 数年前にマラッカ・シンガポール海峡で海賊行為が頻発した際、沿岸国のマレーシアやインドネシア等との協力、支援を基に海賊行為が沈静化した経緯がある。海賊行為の撲滅のためには、海賊の本拠地のある国や沿岸国の取締りと協力がなければ困難だ。日本としては、自衛隊艦船の派遣というハード・パワーに依存する前に、国内法制の整備や国民の合意を形成すると共に、内戦状態が続くソマリアは困難にしても、エジプトやアフリカ連合等やサウジアラビア、イエメン、オマーンなどの沿岸国を欧米諸国や国連などと共に支援し、同海域での海賊撲滅のための地域協力や機構を形成するよう働き掛けるなど、ソフト・パワーを発揮することが強く望まれる。その方が中・長期の効果は大きいであろう。
 また、自衛艦等を派遣して短期的に海賊の危険を抑止することは仕方がないこととしても、同海域に海賊が出没し危険であることは海運業界等も十分承知のことであるので、業界としてもその危険を回避し、抑止する自己防衛努力が望まれる。時間や費用が掛かるが、ルートの変更やグループによる民間警備船の傭船、応分の費用負担等である。中長期に国家が1万キロ以上の海外に警護艦を派遣し、特定の産業活動を警護し続けることは困難であるし、国内における民間、個人による警備努力との衡平の問題も生じる。(09.03.)    (All Rights Reserved.)
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 3月14日、ソマリア沖での「海上警備行動」のため、海上自衛隊の護衛艦2隻が日本から約12,000キロ離れた同海域に派遣された。海上警備行動のためであるので海上保安庁の係官も乗船している。
 国土交通省海事局による船舶運行・管理業者への調査では、「日本関係船」に限っても2,200隻にも及ぶ船舶が同海域での「警護」を希望しているという。それだけ同海域が日本の海運にとって重要かということを物語っていると共に、海賊の危険に晒されているということであり、心情的には同海域への海自の警護艦の派遣を支持したい。
 自衛隊の任務については、わが国の防衛を主たる任務としつつ、必要に応じ「公共の秩序の維持に当たる」とし(自衛隊法第3条)、その上で国内での「治安活動」の発令(同法第78条)と共に、海上においても人命・財産の保護や治安維持のため「警備行動」を命じることが出来る旨規定している(同法第82条)。
しかし、ここに言う「治安活動」や「海上における警備行動」は、あくまでも領土、領海内と排他的経済水域、及び領海内等から接続水域への追跡の継続や急迫する危険等に対する行動を想定している。公海上に限るとしても、自衛隊艦船を日本から遠く離れた海外の海域に派遣し、「警備活動」や「警護活動」を行うことには無理がある。本来は、主務である防衛活動に伴って必要とされる治安活動、海上警備活動を意味し、外国人が乗船する外国籍の船による海賊という犯罪への対処は、法律の想定を超えた拡大解釈とも言える。ソマリア沖での海賊対策が容認されるのであれば、日本の調査捕鯨船への国際的環境保護団体シー・シェパードによる妨害活動やその他類似のケースにおいても、警備、警護のため自衛艦を世界の何処にでも派遣出来ることになる。武器による抑止や戦闘という行為には一見類似性はあるが、そのような海外での犯罪行為に対し、自衛隊は訓練を受けているわけでもなく、また、関連する国際法令につき教育を受けているわけでもない。
無論、第3国の領海にまで入り込んで「警備活動」は第3国の管轄権を犯すことになるので、海賊船が外国の領海に逃げ込めばそれ以上の行動は出来ず、一定の抑止効果はあるものの、イタチごっこの対処療法的な活動に終わり、抜本的な解決策にならない可能性がある。
具体的な職務や武器の使用などについては、海上保安庁法が準用されることになっているが、この海域の外国不審船に対し臨検が出来るわけでもないし、明確な海賊行為の疑いがあったとしても外国船に乗り込み、外国人を捜査、拘束等が出来るわけでもない。そのようなことを行えば、行為の善悪は別として、船や人の属する国と管轄権侵害等の問題を起こす恐れがあり、この面でも抜本的な解決策には繋がらず、海賊行為が撲滅されない限り半永久的に警備、警護活動を継続することにもなりかねない。
武器の使用基準や海上自衛隊員の安全の問題、第3国の船舶の救済等に関心が集中しているが、日本の遥か彼方の海域において、外国船、民間外国人による海賊という犯罪行為に対する自衛隊の警備活動などについて、対象となる犯罪行為や任務や権限の範囲などに関し法律を定めてることが不可欠であろう。明文化すること自体が重要ではなく、国会での審議を通じ国民の理解と合意を得て置くことが重要なのであろう。それがまたこれらの任務に就く自衛官の安全を確保することに繋がると共に、自衛隊の活動や権限についての文民統制をより明確にする上、行政当局の判断のみで自衛隊艦船の海外任務を発動する危うさを無くすことにもなる。その意味で、今国会に海賊対策法案が提出され審議されていることは評価される。しかし、それで同海域等における海賊問題が解決するものでもない。
 数年前にマラッカ・シンガポール海峡で海賊行為が頻発した際、沿岸国のマレーシアやインドネシア等との協力、支援を基に海賊行為が沈静化した経緯がある。海賊行為の撲滅のためには、海賊の本拠地のある国や沿岸国の取締りと協力がなければ困難だ。日本としては、自衛隊艦船の派遣というハード・パワーに依存する前に、国内法制の整備や国民の合意を形成すると共に、内戦状態が続くソマリアは困難にしても、エジプトやアフリカ連合等やサウジアラビア、イエメン、オマーンなどの沿岸国を欧米諸国や国連などと共に支援し、同海域での海賊撲滅のための地域協力や機構を形成するよう働き掛けるなど、ソフト・パワーを発揮することが強く望まれる。その方が中・長期の効果は大きいであろう。
 また、自衛艦等を派遣して短期的に海賊の危険を抑止することは仕方がないこととしても、同海域に海賊が出没し危険であることは海運業界等も十分承知のことであるので、業界としてもその危険を回避し、抑止する自己防衛努力が望まれる。時間や費用が掛かるが、ルートの変更やグループによる民間警備船の傭船、応分の費用負担等である。中長期に国家が1万キロ以上の海外に警護艦を派遣し、特定の産業活動を警護し続けることは困難であるし、国内における民間、個人による警備努力との衡平の問題も生じる。(09.03.)    (All Rights Reserved.)
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 3月14日、ソマリア沖での「海上警備行動」のため、海上自衛隊の護衛艦2隻が日本から約12,000キロ離れた同海域に派遣された。海上警備行動のためであるので海上保安庁の係官も乗船している。
 国土交通省海事局による船舶運行・管理業者への調査では、「日本関係船」に限っても2,200隻にも及ぶ船舶が同海域での「警護」を希望しているという。それだけ同海域が日本の海運にとって重要かということを物語っていると共に、海賊の危険に晒されているということであり、心情的には同海域への海自の警護艦の派遣を支持したい。
 自衛隊の任務については、わが国の防衛を主たる任務としつつ、必要に応じ「公共の秩序の維持に当たる」とし(自衛隊法第3条)、その上で国内での「治安活動」の発令(同法第78条)と共に、海上においても人命・財産の保護や治安維持のため「警備行動」を命じることが出来る旨規定している(同法第82条)。
しかし、ここに言う「治安活動」や「海上における警備行動」は、あくまでも領土、領海内と排他的経済水域、及び領海内等から接続水域への追跡の継続や急迫する危険等に対する行動を想定している。公海上に限るとしても、自衛隊艦船を日本から遠く離れた海外の海域に派遣し、「警備活動」や「警護活動」を行うことには無理がある。本来は、主務である防衛活動に伴って必要とされる治安活動、海上警備活動を意味し、外国人が乗船する外国籍の船による海賊という犯罪への対処は、法律の想定を超えた拡大解釈とも言える。ソマリア沖での海賊対策が容認されるのであれば、日本の調査捕鯨船への国際的環境保護団体シー・シェパードによる妨害活動やその他類似のケースにおいても、警備、警護のため自衛艦を世界の何処にでも派遣出来ることになる。武器による抑止や戦闘という行為には一見類似性はあるが、そのような海外での犯罪行為に対し、自衛隊は訓練を受けているわけでもなく、また、関連する国際法令につき教育を受けているわけでもない。
無論、第3国の領海にまで入り込んで「警備活動」は第3国の管轄権を犯すことになるので、海賊船が外国の領海に逃げ込めばそれ以上の行動は出来ず、一定の抑止効果はあるものの、イタチごっこの対処療法的な活動に終わり、抜本的な解決策にならない可能性がある。
具体的な職務や武器の使用などについては、海上保安庁法が準用されることになっているが、この海域の外国不審船に対し臨検が出来るわけでもないし、明確な海賊行為の疑いがあったとしても外国船に乗り込み、外国人を捜査、拘束等が出来るわけでもない。そのようなことを行えば、行為の善悪は別として、船や人の属する国と管轄権侵害等の問題を起こす恐れがあり、この面でも抜本的な解決策には繋がらず、海賊行為が撲滅されない限り半永久的に警備、警護活動を継続することにもなりかねない。
武器の使用基準や海上自衛隊員の安全の問題、第3国の船舶の救済等に関心が集中しているが、日本の遥か彼方の海域において、外国船、民間外国人による海賊という犯罪行為に対する自衛隊の警備活動などについて、対象となる犯罪行為や任務や権限の範囲などに関し法律を定めてることが不可欠であろう。明文化すること自体が重要ではなく、国会での審議を通じ国民の理解と合意を得て置くことが重要なのであろう。それがまたこれらの任務に就く自衛官の安全を確保することに繋がると共に、自衛隊の活動や権限についての文民統制をより明確にする上、行政当局の判断のみで自衛隊艦船の海外任務を発動する危うさを無くすことにもなる。その意味で、今国会に海賊対策法案が提出され審議されていることは評価される。しかし、それで同海域等における海賊問題が解決するものでもない。
 数年前にマラッカ・シンガポール海峡で海賊行為が頻発した際、沿岸国のマレーシアやインドネシア等との協力、支援を基に海賊行為が沈静化した経緯がある。海賊行為の撲滅のためには、海賊の本拠地のある国や沿岸国の取締りと協力がなければ困難だ。日本としては、自衛隊艦船の派遣というハード・パワーに依存する前に、国内法制の整備や国民の合意を形成すると共に、内戦状態が続くソマリアは困難にしても、エジプトやアフリカ連合等やサウジアラビア、イエメン、オマーンなどの沿岸国を欧米諸国や国連などと共に支援し、同海域での海賊撲滅のための地域協力や機構を形成するよう働き掛けるなど、ソフト・パワーを発揮することが強く望まれる。その方が中・長期の効果は大きいであろう。
 また、自衛艦等を派遣して短期的に海賊の危険を抑止することは仕方がないこととしても、同海域に海賊が出没し危険であることは海運業界等も十分承知のことであるので、業界としてもその危険を回避し、抑止する自己防衛努力が望まれる。時間や費用が掛かるが、ルートの変更やグループによる民間警備船の傭船、応分の費用負担等である。中長期に国家が1万キロ以上の海外に警護艦を派遣し、特定の産業活動を警護し続けることは困難であるし、国内における民間、個人による警備努力との衡平の問題も生じる。(09.03.)    (All Rights Reserved.)
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 3月14日、ソマリア沖での「海上警備行動」のため、海上自衛隊の護衛艦2隻が日本から約12,000キロ離れた同海域に派遣された。海上警備行動のためであるので海上保安庁の係官も乗船している。
 国土交通省海事局による船舶運行・管理業者への調査では、「日本関係船」に限っても2,200隻にも及ぶ船舶が同海域での「警護」を希望しているという。それだけ同海域が日本の海運にとって重要かということを物語っていると共に、海賊の危険に晒されているということであり、心情的には同海域への海自の警護艦の派遣を支持したい。
 自衛隊の任務については、わが国の防衛を主たる任務としつつ、必要に応じ「公共の秩序の維持に当たる」とし(自衛隊法第3条)、その上で国内での「治安活動」の発令(同法第78条)と共に、海上においても人命・財産の保護や治安維持のため「警備行動」を命じることが出来る旨規定している(同法第82条)。
しかし、ここに言う「治安活動」や「海上における警備行動」は、あくまでも領土、領海内と排他的経済水域、及び領海内等から接続水域への追跡の継続や急迫する危険等に対する行動を想定している。公海上に限るとしても、自衛隊艦船を日本から遠く離れた海外の海域に派遣し、「警備活動」や「警護活動」を行うことには無理がある。本来は、主務である防衛活動に伴って必要とされる治安活動、海上警備活動を意味し、外国人が乗船する外国籍の船による海賊という犯罪への対処は、法律の想定を超えた拡大解釈とも言える。ソマリア沖での海賊対策が容認されるのであれば、日本の調査捕鯨船への国際的環境保護団体シー・シェパードによる妨害活動やその他類似のケースにおいても、警備、警護のため自衛艦を世界の何処にでも派遣出来ることになる。武器による抑止や戦闘という行為には一見類似性はあるが、そのような海外での犯罪行為に対し、自衛隊は訓練を受けているわけでもなく、また、関連する国際法令につき教育を受けているわけでもない。
無論、第3国の領海にまで入り込んで「警備活動」は第3国の管轄権を犯すことになるので、海賊船が外国の領海に逃げ込めばそれ以上の行動は出来ず、一定の抑止効果はあるものの、イタチごっこの対処療法的な活動に終わり、抜本的な解決策にならない可能性がある。
具体的な職務や武器の使用などについては、海上保安庁法が準用されることになっているが、この海域の外国不審船に対し臨検が出来るわけでもないし、明確な海賊行為の疑いがあったとしても外国船に乗り込み、外国人を捜査、拘束等が出来るわけでもない。そのようなことを行えば、行為の善悪は別として、船や人の属する国と管轄権侵害等の問題を起こす恐れがあり、この面でも抜本的な解決策には繋がらず、海賊行為が撲滅されない限り半永久的に警備、警護活動を継続することにもなりかねない。
武器の使用基準や海上自衛隊員の安全の問題、第3国の船舶の救済等に関心が集中しているが、日本の遥か彼方の海域において、外国船、民間外国人による海賊という犯罪行為に対する自衛隊の警備活動などについて、対象となる犯罪行為や任務や権限の範囲などに関し法律を定めてることが不可欠であろう。明文化すること自体が重要ではなく、国会での審議を通じ国民の理解と合意を得て置くことが重要なのであろう。それがまたこれらの任務に就く自衛官の安全を確保することに繋がると共に、自衛隊の活動や権限についての文民統制をより明確にする上、行政当局の判断のみで自衛隊艦船の海外任務を発動する危うさを無くすことにもなる。その意味で、今国会に海賊対策法案が提出され審議されていることは評価される。しかし、それで同海域等における海賊問題が解決するものでもない。
 数年前にマラッカ・シンガポール海峡で海賊行為が頻発した際、沿岸国のマレーシアやインドネシア等との協力、支援を基に海賊行為が沈静化した経緯がある。海賊行為の撲滅のためには、海賊の本拠地のある国や沿岸国の取締りと協力がなければ困難だ。日本としては、自衛隊艦船の派遣というハード・パワーに依存する前に、国内法制の整備や国民の合意を形成すると共に、内戦状態が続くソマリアは困難にしても、エジプトやアフリカ連合等やサウジアラビア、イエメン、オマーンなどの沿岸国を欧米諸国や国連などと共に支援し、同海域での海賊撲滅のための地域協力や機構を形成するよう働き掛けるなど、ソフト・パワーを発揮することが強く望まれる。その方が中・長期の効果は大きいであろう。
 また、自衛艦等を派遣して短期的に海賊の危険を抑止することは仕方がないこととしても、同海域に海賊が出没し危険であることは海運業界等も十分承知のことであるので、業界としてもその危険を回避し、抑止する自己防衛努力が望まれる。時間や費用が掛かるが、ルートの変更やグループによる民間警備船の傭船、応分の費用負担等である。中長期に国家が1万キロ以上の海外に警護艦を派遣し、特定の産業活動を警護し続けることは困難であるし、国内における民間、個人による警備努力との衡平の問題も生じる。(09.03.)    (All Rights Reserved.)
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 3月14日、ソマリア沖での「海上警備行動」のため、海上自衛隊の護衛艦2隻が日本から約12,000キロ離れた同海域に派遣された。海上警備行動のためであるので海上保安庁の係官も乗船している。
 国土交通省海事局による船舶運行・管理業者への調査では、「日本関係船」に限っても2,200隻にも及ぶ船舶が同海域での「警護」を希望しているという。それだけ同海域が日本の海運にとって重要かということを物語っていると共に、海賊の危険に晒されているということであり、心情的には同海域への海自の警護艦の派遣を支持したい。
 自衛隊の任務については、わが国の防衛を主たる任務としつつ、必要に応じ「公共の秩序の維持に当たる」とし(自衛隊法第3条)、その上で国内での「治安活動」の発令(同法第78条)と共に、海上においても人命・財産の保護や治安維持のため「警備行動」を命じることが出来る旨規定している(同法第82条)。
しかし、ここに言う「治安活動」や「海上における警備行動」は、あくまでも領土、領海内と排他的経済水域、及び領海内等から接続水域への追跡の継続や急迫する危険等に対する行動を想定している。公海上に限るとしても、自衛隊艦船を日本から遠く離れた海外の海域に派遣し、「警備活動」や「警護活動」を行うことには無理がある。本来は、主務である防衛活動に伴って必要とされる治安活動、海上警備活動を意味し、外国人が乗船する外国籍の船による海賊という犯罪への対処は、法律の想定を超えた拡大解釈とも言える。ソマリア沖での海賊対策が容認されるのであれば、日本の調査捕鯨船への国際的環境保護団体シー・シェパードによる妨害活動やその他類似のケースにおいても、警備、警護のため自衛艦を世界の何処にでも派遣出来ることになる。武器による抑止や戦闘という行為には一見類似性はあるが、そのような海外での犯罪行為に対し、自衛隊は訓練を受けているわけでもなく、また、関連する国際法令につき教育を受けているわけでもない。
無論、第3国の領海にまで入り込んで「警備活動」は第3国の管轄権を犯すことになるので、海賊船が外国の領海に逃げ込めばそれ以上の行動は出来ず、一定の抑止効果はあるものの、イタチごっこの対処療法的な活動に終わり、抜本的な解決策にならない可能性がある。
具体的な職務や武器の使用などについては、海上保安庁法が準用されることになっているが、この海域の外国不審船に対し臨検が出来るわけでもないし、明確な海賊行為の疑いがあったとしても外国船に乗り込み、外国人を捜査、拘束等が出来るわけでもない。そのようなことを行えば、行為の善悪は別として、船や人の属する国と管轄権侵害等の問題を起こす恐れがあり、この面でも抜本的な解決策には繋がらず、海賊行為が撲滅されない限り半永久的に警備、警護活動を継続することにもなりかねない。
武器の使用基準や海上自衛隊員の安全の問題、第3国の船舶の救済等に関心が集中しているが、日本の遥か彼方の海域において、外国船、民間外国人による海賊という犯罪行為に対する自衛隊の警備活動などについて、対象となる犯罪行為や任務や権限の範囲などに関し法律を定めてることが不可欠であろう。明文化すること自体が重要ではなく、国会での審議を通じ国民の理解と合意を得て置くことが重要なのであろう。それがまたこれらの任務に就く自衛官の安全を確保することに繋がると共に、自衛隊の活動や権限についての文民統制をより明確にする上、行政当局の判断のみで自衛隊艦船の海外任務を発動する危うさを無くすことにもなる。その意味で、今国会に海賊対策法案が提出され審議されていることは評価される。しかし、それで同海域等における海賊問題が解決するものでもない。
 数年前にマラッカ・シンガポール海峡で海賊行為が頻発した際、沿岸国のマレーシアやインドネシア等との協力、支援を基に海賊行為が沈静化した経緯がある。海賊行為の撲滅のためには、海賊の本拠地のある国や沿岸国の取締りと協力がなければ困難だ。日本としては、自衛隊艦船の派遣というハード・パワーに依存する前に、国内法制の整備や国民の合意を形成すると共に、内戦状態が続くソマリアは困難にしても、エジプトやアフリカ連合等やサウジアラビア、イエメン、オマーンなどの沿岸国を欧米諸国や国連などと共に支援し、同海域での海賊撲滅のための地域協力や機構を形成するよう働き掛けるなど、ソフト・パワーを発揮することが強く望まれる。その方が中・長期の効果は大きいであろう。
 また、自衛艦等を派遣して短期的に海賊の危険を抑止することは仕方がないこととしても、同海域に海賊が出没し危険であることは海運業界等も十分承知のことであるので、業界としてもその危険を回避し、抑止する自己防衛努力が望まれる。時間や費用が掛かるが、ルートの変更やグループによる民間警備船の傭船、応分の費用負担等である。中長期に国家が1万キロ以上の海外に警護艦を派遣し、特定の産業活動を警護し続けることは困難であるし、国内における民間、個人による警備努力との衡平の問題も生じる。(09.03.)    (All Rights Reserved.)
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解決策にはならないソマリア沖海賊対策のための自衛隊艦船派遣

2009-04-29 | Weblog
解決策にはならないソマリア沖海賊対策のための自衛隊艦船派遣
 3月14日、ソマリア沖での「海上警備行動」のため、海上自衛隊の護衛艦2隻が日本から約12,000キロ離れた同海域に派遣された。海上警備行動のためであるので海上保安庁の係官も乗船している。
 国土交通省海事局による船舶運行・管理業者への調査では、「日本関係船」に限っても2,200隻にも及ぶ船舶が同海域での「警護」を希望しているという。それだけ同海域が日本の海運にとって重要かということを物語っていると共に、海賊の危険に晒されているということであり、心情的には同海域への海自の警護艦の派遣を支持したい。
 自衛隊の任務については、わが国の防衛を主たる任務としつつ、必要に応じ「公共の秩序の維持に当たる」とし(自衛隊法第3条)、その上で国内での「治安活動」の発令(同法第78条)と共に、海上においても人命・財産の保護や治安維持のため「警備行動」を命じることが出来る旨規定している(同法第82条)。
しかし、ここに言う「治安活動」や「海上における警備行動」は、あくまでも領土、領海内と排他的経済水域、及び領海内等から接続水域への追跡の継続や急迫する危険等に対する行動を想定している。公海上に限るとしても、自衛隊艦船を日本から遠く離れた海外の海域に派遣し、「警備活動」や「警護活動」を行うことには無理がある。本来は、主務である防衛活動に伴って必要とされる治安活動、海上警備活動を意味し、外国人が乗船する外国籍の船による海賊という犯罪への対処は、法律の想定を超えた拡大解釈とも言える。ソマリア沖での海賊対策が容認されるのであれば、日本の調査捕鯨船への国際的環境保護団体シー・シェパードによる妨害活動やその他類似のケースにおいても、警備、警護のため自衛艦を世界の何処にでも派遣出来ることになる。武器による抑止や戦闘という行為には一見類似性はあるが、そのような海外での犯罪行為に対し、自衛隊は訓練を受けているわけでもなく、また、関連する国際法令につき教育を受けているわけでもない。
無論、第3国の領海にまで入り込んで「警備活動」は第3国の管轄権を犯すことになるので、海賊船が外国の領海に逃げ込めばそれ以上の行動は出来ず、一定の抑止効果はあるものの、イタチごっこの対処療法的な活動に終わり、抜本的な解決策にならない可能性がある。
具体的な職務や武器の使用などについては、海上保安庁法が準用されることになっているが、この海域の外国不審船に対し臨検が出来るわけでもないし、明確な海賊行為の疑いがあったとしても外国船に乗り込み、外国人を捜査、拘束等が出来るわけでもない。そのようなことを行えば、行為の善悪は別として、船や人の属する国と管轄権侵害等の問題を起こす恐れがあり、この面でも抜本的な解決策には繋がらず、海賊行為が撲滅されない限り半永久的に警備、警護活動を継続することにもなりかねない。
武器の使用基準や海上自衛隊員の安全の問題、第3国の船舶の救済等に関心が集中しているが、日本の遥か彼方の海域において、外国船、民間外国人による海賊という犯罪行為に対する自衛隊の警備活動などについて、対象となる犯罪行為や任務や権限の範囲などに関し法律を定めてることが不可欠であろう。明文化すること自体が重要ではなく、国会での審議を通じ国民の理解と合意を得て置くことが重要なのであろう。それがまたこれらの任務に就く自衛官の安全を確保することに繋がると共に、自衛隊の活動や権限についての文民統制をより明確にする上、行政当局の判断のみで自衛隊艦船の海外任務を発動する危うさを無くすことにもなる。その意味で、今国会に海賊対策法案が提出され審議されていることは評価される。しかし、それで同海域等における海賊問題が解決するものでもない。
 数年前にマラッカ・シンガポール海峡で海賊行為が頻発した際、沿岸国のマレーシアやインドネシア等との協力、支援を基に海賊行為が沈静化した経緯がある。海賊行為の撲滅のためには、海賊の本拠地のある国や沿岸国の取締りと協力がなければ困難だ。日本としては、自衛隊艦船の派遣というハード・パワーに依存する前に、国内法制の整備や国民の合意を形成すると共に、内戦状態が続くソマリアは困難にしても、エジプトやアフリカ連合等やサウジアラビア、イエメン、オマーンなどの沿岸国を欧米諸国や国連などと共に支援し、同海域での海賊撲滅のための地域協力や機構を形成するよう働き掛けるなど、ソフト・パワーを発揮することが強く望まれる。その方が中・長期の効果は大きいであろう。
 また、自衛艦等を派遣して短期的に海賊の危険を抑止することは仕方がないこととしても、同海域に海賊が出没し危険であることは海運業界等も十分承知のことであるので、業界としてもその危険を回避し、抑止する自己防衛努力が望まれる。時間や費用が掛かるが、ルートの変更やグループによる民間警備船の傭船、応分の費用負担等である。中長期に国家が1万キロ以上の海外に警護艦を派遣し、特定の産業活動を警護し続けることは困難であるし、国内における民間、個人による警備努力との衡平の問題も生じる。(09.03.)    (All Rights Reserved.)
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解決策にはならないソマリア沖海賊対策のための自衛隊艦船派遣

2009-04-29 | Weblog
解決策にはならないソマリア沖海賊対策のための自衛隊艦船派遣
 3月14日、ソマリア沖での「海上警備行動」のため、海上自衛隊の護衛艦2隻が日本から約12,000キロ離れた同海域に派遣された。海上警備行動のためであるので海上保安庁の係官も乗船している。
 国土交通省海事局による船舶運行・管理業者への調査では、「日本関係船」に限っても2,200隻にも及ぶ船舶が同海域での「警護」を希望しているという。それだけ同海域が日本の海運にとって重要かということを物語っていると共に、海賊の危険に晒されているということであり、心情的には同海域への海自の警護艦の派遣を支持したい。
 自衛隊の任務については、わが国の防衛を主たる任務としつつ、必要に応じ「公共の秩序の維持に当たる」とし(自衛隊法第3条)、その上で国内での「治安活動」の発令(同法第78条)と共に、海上においても人命・財産の保護や治安維持のため「警備行動」を命じることが出来る旨規定している(同法第82条)。
しかし、ここに言う「治安活動」や「海上における警備行動」は、あくまでも領土、領海内と排他的経済水域、及び領海内等から接続水域への追跡の継続や急迫する危険等に対する行動を想定している。公海上に限るとしても、自衛隊艦船を日本から遠く離れた海外の海域に派遣し、「警備活動」や「警護活動」を行うことには無理がある。本来は、主務である防衛活動に伴って必要とされる治安活動、海上警備活動を意味し、外国人が乗船する外国籍の船による海賊という犯罪への対処は、法律の想定を超えた拡大解釈とも言える。ソマリア沖での海賊対策が容認されるのであれば、日本の調査捕鯨船への国際的環境保護団体シー・シェパードによる妨害活動やその他類似のケースにおいても、警備、警護のため自衛艦を世界の何処にでも派遣出来ることになる。武器による抑止や戦闘という行為には一見類似性はあるが、そのような海外での犯罪行為に対し、自衛隊は訓練を受けているわけでもなく、また、関連する国際法令につき教育を受けているわけでもない。
無論、第3国の領海にまで入り込んで「警備活動」は第3国の管轄権を犯すことになるので、海賊船が外国の領海に逃げ込めばそれ以上の行動は出来ず、一定の抑止効果はあるものの、イタチごっこの対処療法的な活動に終わり、抜本的な解決策にならない可能性がある。
具体的な職務や武器の使用などについては、海上保安庁法が準用されることになっているが、この海域の外国不審船に対し臨検が出来るわけでもないし、明確な海賊行為の疑いがあったとしても外国船に乗り込み、外国人を捜査、拘束等が出来るわけでもない。そのようなことを行えば、行為の善悪は別として、船や人の属する国と管轄権侵害等の問題を起こす恐れがあり、この面でも抜本的な解決策には繋がらず、海賊行為が撲滅されない限り半永久的に警備、警護活動を継続することにもなりかねない。
武器の使用基準や海上自衛隊員の安全の問題、第3国の船舶の救済等に関心が集中しているが、日本の遥か彼方の海域において、外国船、民間外国人による海賊という犯罪行為に対する自衛隊の警備活動などについて、対象となる犯罪行為や任務や権限の範囲などに関し法律を定めてることが不可欠であろう。明文化すること自体が重要ではなく、国会での審議を通じ国民の理解と合意を得て置くことが重要なのであろう。それがまたこれらの任務に就く自衛官の安全を確保することに繋がると共に、自衛隊の活動や権限についての文民統制をより明確にする上、行政当局の判断のみで自衛隊艦船の海外任務を発動する危うさを無くすことにもなる。その意味で、今国会に海賊対策法案が提出され審議されていることは評価される。しかし、それで同海域等における海賊問題が解決するものでもない。
 数年前にマラッカ・シンガポール海峡で海賊行為が頻発した際、沿岸国のマレーシアやインドネシア等との協力、支援を基に海賊行為が沈静化した経緯がある。海賊行為の撲滅のためには、海賊の本拠地のある国や沿岸国の取締りと協力がなければ困難だ。日本としては、自衛隊艦船の派遣というハード・パワーに依存する前に、国内法制の整備や国民の合意を形成すると共に、内戦状態が続くソマリアは困難にしても、エジプトやアフリカ連合等やサウジアラビア、イエメン、オマーンなどの沿岸国を欧米諸国や国連などと共に支援し、同海域での海賊撲滅のための地域協力や機構を形成するよう働き掛けるなど、ソフト・パワーを発揮することが強く望まれる。その方が中・長期の効果は大きいであろう。
 また、自衛艦等を派遣して短期的に海賊の危険を抑止することは仕方がないこととしても、同海域に海賊が出没し危険であることは海運業界等も十分承知のことであるので、業界としてもその危険を回避し、抑止する自己防衛努力が望まれる。時間や費用が掛かるが、ルートの変更やグループによる民間警備船の傭船、応分の費用負担等である。中長期に国家が1万キロ以上の海外に警護艦を派遣し、特定の産業活動を警護し続けることは困難であるし、国内における民間、個人による警備努力との衡平の問題も生じる。(09.03.)    (All Rights Reserved.)
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シリーズ過剰反応―日本漢字能力検定協会の過剰料金、過剰利益問題

2009-04-25 | Weblog
シリーズ過剰反応―日本漢字能力検定協会の過剰料金、過剰利益問題

日本漢字能力検定協会が「公益法人」として認可されていながら、過剰な利益を挙げている上、ほとんどの資料等の発注が理事長や息子(副理事長)が経営している会社になされており、営利事業に近い事業活動がなされていたことが明るみに出た。
漢字検定の受験者は、最近のクイズ番組ブームや首相の誤読報道などで関心が高まり、2007年の受験者は270万人にも達している。にも拘わらず、上級に行くほど高くなる検定料は1級となると5,000円に設定されたままであるので、収入が大幅に膨らんだ。本来であれば、受験者が増えればコスト・ダウンも図れるので、漢字普及と漢字能力の向上という公益性から、料金を下げ、受験し易いようにするのが筋であろう。
そもそも「検定事業」は、漢字検定に限らず、国に代わって行う性格が強く、公益性は高い。日本漢字能力検定協会が漢字への関心を高め、普及した実績は評価して良いのであろう。年末に行われる清水寺での「今年の漢字」は、漢検が選択しており恒例になっている。08年を象徴する漢字は「変」であり、その前は「偽」であった。その年を象徴する漢字として興味深いが、皮肉なことに、漢検自体が「偽」であり、「変」であったことが明らかとなった。自分のことはなかなか分らない「他人事」であったのか、反省が足りなかったのか。
現在、前理事長・副理事長など前執行部の責任問題に焦点が集中しているが、過剰な反応が重要な問題から目をそらせる結果を招いている。旧役員は、「公益法人」としてのあり方を越えた「過剰利益、過剰利得」を得ていたということであるが、利用者が割高の検定料を支払わされ、利益の還元が行われなかったという以外に誰も過大な被害を受けたわけではない。また協会を「私物化」しているとの批判があるが、財団にせよ社団にせよ、その多くは特定個人やグループが出資した基本財産により設立され、役員もそれらの者が中心に運営されていることが多く、事業内容に公共性が高いか、営利性が無いかで判断される。重要なことは、可能な範囲で過剰利益・利得を回収することと利用者への利益の還元であろう。
もっとも漢字能力の普及は重要なことであるが、公的な「検定」が必要である否かは疑問であり、また、漢字能力を伸ばすための各種の教材、電子機器や習字塾など多くの機会があるし、漢字能力に等級を付ける実体上のメリットもないので、「検定協会」を廃止することも一つの選択肢としてあろう。また、「協会」組織を特定の個人、グループに任せないで、国語教材関係企業・団体を含めたより普遍的な組織に改編することも考えられる。しかし、いずれにしても「検定」事業を続けるのであれば、次の点が考慮されなくてはならないのであろう。
1、検定料の大幅な引き下げー利用者への利益還元
まず事業コストをカバーする程度に料金を大幅に引き下げるべきであろう。本来であれば、受験者が大幅に増加し、過剰利益が出始めた段階で検定料を引き下げ、利用者へ利益を還元して行くべきであった。公益法人であっても、利益を出す努力は評価すべきであるが、その利益を利用者、ユーザーに還元することが求められていると言える。本来であれば、監督官庁が年度末に提出される事業報告書などに基づき過剰利益を指摘し、値下げなどを指導すべきであったのであろう。しかし、多くの場合報告書は回覧された後、担当官のファイルに眠ってしまう。
同様のことがその他の公益法人でも起こっている可能性があるので、点検、監督の徹底が望まれる。また、事象的にはNHKなどについても類似のことが起こっている。高度成長期の70年代以降、テレビが飛躍的に普及し、受信料収入が6,500億円前後になり、本来であれば「公共放送」の観点から可なりの部分が値下げとして視聴者に還元されることが望ましかった。しかし事業拡大の方向に流れてしまったことにより、「公共放送」の肥大化と視聴者への負担継続という結果を招いている。テレビ受信契約は、68年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。各種の要因で1人世帯が増える中で、1人当たりの受信料の負担は増加していること、及び外国放送を含むテレビ番組の多様化などを勘案すると、受信料と共に「公共放送」のあり方も問われていると言えよう。事業計画を承認する国会の責任も問われよう。
2、事業決算報告書の開示と会計監査の徹底
 公益法人はその公益性から、補助金団体と共に、例えば年間事業費1千万円以上の団体については全て、決算報告書を開示、公表すべきであろう。
 また例えば年間事業費1億円以上の事業については、余剰利益の額を例えば1~3%以内に限定すると共に、公認会計士による監査を義務付けるなど、公正さと透明性の向上を図ることが望まれる。
3、資機材調達など、外注(アウトソーシング)の原則公開入札の徹底
 漢検協が各種の調達、印刷等を身内企業に割高の価格等で外注し、2重に利益を得ると共に、協会側には過剰コストを強いる結果となっている。
 アウトソーシングは、行政当局が政府関連機関に行い、また各政府関連機関も幅広く関連企業、団体等に行っているところであり、それ自体が問題ということではないが、公開入札にしないと割高の恣意的外注となる等の弊害が生じる可能性が強い。
 従って公益法人についても、例えば年間5百万円を越える調達については原則公開入札にすることが望まれる。
 もとより政府関連機関を含め、全ての政府関係事業については原則公開入札を徹底すべきであろう。
4、独立行政法人など政府関係機関の剰余金管理の徹底
独立行政法人、特別勘定事業を含む全ての政府関係機関・事業についても、適正な余剰金管理が不可欠である。そのためには認められる余剰利益の基準を定める必要があろう。個々の機関が多額の余剰金を抱えることになると、不必要な支出、浪費を促す可能性が強い一方、ニーズが変化しても特定の事業に公的資金が偏在、固定化し、他の必要な事業への資金の再配分を制限することにもなるので基本的に好ましくない。事業の種類にもよるが、余剰利益の額は原則として事業規模の1~3%以内とするなど、適正な管理が必要であろう。

 現在、電子政府など、政府事業のIT化や合理化が進められ、景気対策の一環としても多額の予算が投じられようとしているが、行政側の省力化などが重点となり、ユーザー側の利便性の向上、負担の削減の視点に欠ける場合が多い。例えば、インターネットによる税の申告e-taxの普及率が3%前後と低く、普及が進まないのは、ユーザー側の納税者にとっては、システムが複雑で手間が掛かり過ぎるからであろう。政府関係事業はもとよりであるが、公益・公共事業についても、ユーザー側の利便性、負担軽減に重点を置いた改善、改革が強く望まれる。それが行政サービス、公益・公共事業の本来の目的なのではなかろうか。(09.04.)
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シリーズ過剰反応―日本漢字能力検定協会の過剰料金、過剰利益問題

2009-04-25 | Weblog
シリーズ過剰反応―日本漢字能力検定協会の過剰料金、過剰利益問題

日本漢字能力検定協会が「公益法人」として認可されていながら、過剰な利益を挙げている上、ほとんどの資料等の発注が理事長や息子(副理事長)が経営している会社になされており、営利事業に近い事業活動がなされていたことが明るみに出た。
漢字検定の受験者は、最近のクイズ番組ブームや首相の誤読報道などで関心が高まり、2007年の受験者は270万人にも達している。にも拘わらず、上級に行くほど高くなる検定料は1級となると5,000円に設定されたままであるので、収入が大幅に膨らんだ。本来であれば、受験者が増えればコスト・ダウンも図れるので、漢字普及と漢字能力の向上という公益性から、料金を下げ、受験し易いようにするのが筋であろう。
そもそも「検定事業」は、漢字検定に限らず、国に代わって行う性格が強く、公益性は高い。日本漢字能力検定協会が漢字への関心を高め、普及した実績は評価して良いのであろう。年末に行われる清水寺での「今年の漢字」は、漢検が選択しており恒例になっている。08年を象徴する漢字は「変」であり、その前は「偽」であった。その年を象徴する漢字として興味深いが、皮肉なことに、漢検自体が「偽」であり、「変」であったことが明らかとなった。自分のことはなかなか分らない「他人事」であったのか、反省が足りなかったのか。
現在、前理事長・副理事長など前執行部の責任問題に焦点が集中しているが、過剰な反応が重要な問題から目をそらせる結果を招いている。旧役員は、「公益法人」としてのあり方を越えた「過剰利益、過剰利得」を得ていたということであるが、利用者が割高の検定料を支払わされ、利益の還元が行われなかったという以外に誰も過大な被害を受けたわけではない。また協会を「私物化」しているとの批判があるが、財団にせよ社団にせよ、その多くは特定個人やグループが出資した基本財産により設立され、役員もそれらの者が中心に運営されていることが多く、事業内容に公共性が高いか、営利性が無いかで判断される。重要なことは、可能な範囲で過剰利益・利得を回収することと利用者への利益の還元であろう。
もっとも漢字能力の普及は重要なことであるが、公的な「検定」が必要である否かは疑問であり、また、漢字能力を伸ばすための各種の教材、電子機器や習字塾など多くの機会があるし、漢字能力に等級を付ける実体上のメリットもないので、「検定協会」を廃止することも一つの選択肢としてあろう。また、「協会」組織を特定の個人、グループに任せないで、国語教材関係企業・団体を含めたより普遍的な組織に改編することも考えられる。しかし、いずれにしても「検定」事業を続けるのであれば、次の点が考慮されなくてはならないのであろう。
1、検定料の大幅な引き下げー利用者への利益還元
まず事業コストをカバーする程度に料金を大幅に引き下げるべきであろう。本来であれば、受験者が大幅に増加し、過剰利益が出始めた段階で検定料を引き下げ、利用者へ利益を還元して行くべきであった。公益法人であっても、利益を出す努力は評価すべきであるが、その利益を利用者、ユーザーに還元することが求められていると言える。本来であれば、監督官庁が年度末に提出される事業報告書などに基づき過剰利益を指摘し、値下げなどを指導すべきであったのであろう。しかし、多くの場合報告書は回覧された後、担当官のファイルに眠ってしまう。
同様のことがその他の公益法人でも起こっている可能性があるので、点検、監督の徹底が望まれる。また、事象的にはNHKなどについても類似のことが起こっている。高度成長期の70年代以降、テレビが飛躍的に普及し、受信料収入が6,500億円前後になり、本来であれば「公共放送」の観点から可なりの部分が値下げとして視聴者に還元されることが望ましかった。しかし事業拡大の方向に流れてしまったことにより、「公共放送」の肥大化と視聴者への負担継続という結果を招いている。テレビ受信契約は、68年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。各種の要因で1人世帯が増える中で、1人当たりの受信料の負担は増加していること、及び外国放送を含むテレビ番組の多様化などを勘案すると、受信料と共に「公共放送」のあり方も問われていると言えよう。事業計画を承認する国会の責任も問われよう。
2、事業決算報告書の開示と会計監査の徹底
 公益法人はその公益性から、補助金団体と共に、例えば年間事業費1千万円以上の団体については全て、決算報告書を開示、公表すべきであろう。
 また例えば年間事業費1億円以上の事業については、余剰利益の額を例えば1~3%以内に限定すると共に、公認会計士による監査を義務付けるなど、公正さと透明性の向上を図ることが望まれる。
3、資機材調達など、外注(アウトソーシング)の原則公開入札の徹底
 漢検協が各種の調達、印刷等を身内企業に割高の価格等で外注し、2重に利益を得ると共に、協会側には過剰コストを強いる結果となっている。
 アウトソーシングは、行政当局が政府関連機関に行い、また各政府関連機関も幅広く関連企業、団体等に行っているところであり、それ自体が問題ということではないが、公開入札にしないと割高の恣意的外注となる等の弊害が生じる可能性が強い。
 従って公益法人についても、例えば年間5百万円を越える調達については原則公開入札にすることが望まれる。
 もとより政府関連機関を含め、全ての政府関係事業については原則公開入札を徹底すべきであろう。
4、独立行政法人など政府関係機関の剰余金管理の徹底
独立行政法人、特別勘定事業を含む全ての政府関係機関・事業についても、適正な余剰金管理が不可欠である。そのためには認められる余剰利益の基準を定める必要があろう。個々の機関が多額の余剰金を抱えることになると、不必要な支出、浪費を促す可能性が強い一方、ニーズが変化しても特定の事業に公的資金が偏在、固定化し、他の必要な事業への資金の再配分を制限することにもなるので基本的に好ましくない。事業の種類にもよるが、余剰利益の額は原則として事業規模の1~3%以内とするなど、適正な管理が必要であろう。

 現在、電子政府など、政府事業のIT化や合理化が進められ、景気対策の一環としても多額の予算が投じられようとしているが、行政側の省力化などが重点となり、ユーザー側の利便性の向上、負担の削減の視点に欠ける場合が多い。例えば、インターネットによる税の申告e-taxの普及率が3%前後と低く、普及が進まないのは、ユーザー側の納税者にとっては、システムが複雑で手間が掛かり過ぎるからであろう。政府関係事業はもとよりであるが、公益・公共事業についても、ユーザー側の利便性、負担軽減に重点を置いた改善、改革が強く望まれる。それが行政サービス、公益・公共事業の本来の目的なのではなかろうか。(09.04.)
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シリーズ過剰反応―日本漢字能力検定協会の過剰料金、過剰利益問題

2009-04-25 | Weblog
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日本漢字能力検定協会が「公益法人」として認可されていながら、過剰な利益を挙げている上、ほとんどの資料等の発注が理事長や息子(副理事長)が経営している会社になされており、営利事業に近い事業活動がなされていたことが明るみに出た。
漢字検定の受験者は、最近のクイズ番組ブームや首相の誤読報道などで関心が高まり、2007年の受験者は270万人にも達している。にも拘わらず、上級に行くほど高くなる検定料は1級となると5,000円に設定されたままであるので、収入が大幅に膨らんだ。本来であれば、受験者が増えればコスト・ダウンも図れるので、漢字普及と漢字能力の向上という公益性から、料金を下げ、受験し易いようにするのが筋であろう。
そもそも「検定事業」は、漢字検定に限らず、国に代わって行う性格が強く、公益性は高い。日本漢字能力検定協会が漢字への関心を高め、普及した実績は評価して良いのであろう。年末に行われる清水寺での「今年の漢字」は、漢検が選択しており恒例になっている。08年を象徴する漢字は「変」であり、その前は「偽」であった。その年を象徴する漢字として興味深いが、皮肉なことに、漢検自体が「偽」であり、「変」であったことが明らかとなった。自分のことはなかなか分らない「他人事」であったのか、反省が足りなかったのか。
現在、前理事長・副理事長など前執行部の責任問題に焦点が集中しているが、過剰な反応が重要な問題から目をそらせる結果を招いている。旧役員は、「公益法人」としてのあり方を越えた「過剰利益、過剰利得」を得ていたということであるが、利用者が割高の検定料を支払わされ、利益の還元が行われなかったという以外に誰も過大な被害を受けたわけではない。また協会を「私物化」しているとの批判があるが、財団にせよ社団にせよ、その多くは特定個人やグループが出資した基本財産により設立され、役員もそれらの者が中心に運営されていることが多く、事業内容に公共性が高いか、営利性が無いかで判断される。重要なことは、可能な範囲で過剰利益・利得を回収することと利用者への利益の還元であろう。
もっとも漢字能力の普及は重要なことであるが、公的な「検定」が必要である否かは疑問であり、また、漢字能力を伸ばすための各種の教材、電子機器や習字塾など多くの機会があるし、漢字能力に等級を付ける実体上のメリットもないので、「検定協会」を廃止することも一つの選択肢としてあろう。また、「協会」組織を特定の個人、グループに任せないで、国語教材関係企業・団体を含めたより普遍的な組織に改編することも考えられる。しかし、いずれにしても「検定」事業を続けるのであれば、次の点が考慮されなくてはならないのであろう。
1、検定料の大幅な引き下げー利用者への利益還元
まず事業コストをカバーする程度に料金を大幅に引き下げるべきであろう。本来であれば、受験者が大幅に増加し、過剰利益が出始めた段階で検定料を引き下げ、利用者へ利益を還元して行くべきであった。公益法人であっても、利益を出す努力は評価すべきであるが、その利益を利用者、ユーザーに還元することが求められていると言える。本来であれば、監督官庁が年度末に提出される事業報告書などに基づき過剰利益を指摘し、値下げなどを指導すべきであったのであろう。しかし、多くの場合報告書は回覧された後、担当官のファイルに眠ってしまう。
同様のことがその他の公益法人でも起こっている可能性があるので、点検、監督の徹底が望まれる。また、事象的にはNHKなどについても類似のことが起こっている。高度成長期の70年代以降、テレビが飛躍的に普及し、受信料収入が6,500億円前後になり、本来であれば「公共放送」の観点から可なりの部分が値下げとして視聴者に還元されることが望ましかった。しかし事業拡大の方向に流れてしまったことにより、「公共放送」の肥大化と視聴者への負担継続という結果を招いている。テレビ受信契約は、68年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。各種の要因で1人世帯が増える中で、1人当たりの受信料の負担は増加していること、及び外国放送を含むテレビ番組の多様化などを勘案すると、受信料と共に「公共放送」のあり方も問われていると言えよう。事業計画を承認する国会の責任も問われよう。
2、事業決算報告書の開示と会計監査の徹底
 公益法人はその公益性から、補助金団体と共に、例えば年間事業費1千万円以上の団体については全て、決算報告書を開示、公表すべきであろう。
 また例えば年間事業費1億円以上の事業については、余剰利益の額を例えば1~3%以内に限定すると共に、公認会計士による監査を義務付けるなど、公正さと透明性の向上を図ることが望まれる。
3、資機材調達など、外注(アウトソーシング)の原則公開入札の徹底
 漢検協が各種の調達、印刷等を身内企業に割高の価格等で外注し、2重に利益を得ると共に、協会側には過剰コストを強いる結果となっている。
 アウトソーシングは、行政当局が政府関連機関に行い、また各政府関連機関も幅広く関連企業、団体等に行っているところであり、それ自体が問題ということではないが、公開入札にしないと割高の恣意的外注となる等の弊害が生じる可能性が強い。
 従って公益法人についても、例えば年間5百万円を越える調達については原則公開入札にすることが望まれる。
 もとより政府関連機関を含め、全ての政府関係事業については原則公開入札を徹底すべきであろう。
4、独立行政法人など政府関係機関の剰余金管理の徹底
独立行政法人、特別勘定事業を含む全ての政府関係機関・事業についても、適正な余剰金管理が不可欠である。そのためには認められる余剰利益の基準を定める必要があろう。個々の機関が多額の余剰金を抱えることになると、不必要な支出、浪費を促す可能性が強い一方、ニーズが変化しても特定の事業に公的資金が偏在、固定化し、他の必要な事業への資金の再配分を制限することにもなるので基本的に好ましくない。事業の種類にもよるが、余剰利益の額は原則として事業規模の1~3%以内とするなど、適正な管理が必要であろう。

 現在、電子政府など、政府事業のIT化や合理化が進められ、景気対策の一環としても多額の予算が投じられようとしているが、行政側の省力化などが重点となり、ユーザー側の利便性の向上、負担の削減の視点に欠ける場合が多い。例えば、インターネットによる税の申告e-taxの普及率が3%前後と低く、普及が進まないのは、ユーザー側の納税者にとっては、システムが複雑で手間が掛かり過ぎるからであろう。政府関係事業はもとよりであるが、公益・公共事業についても、ユーザー側の利便性、負担軽減に重点を置いた改善、改革が強く望まれる。それが行政サービス、公益・公共事業の本来の目的なのではなかろうか。(09.04.)
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シリーズ過剰反応―日本漢字能力検定協会の過剰料金、過剰利益問題

2009-04-25 | Weblog
シリーズ過剰反応―日本漢字能力検定協会の過剰料金、過剰利益問題

日本漢字能力検定協会が「公益法人」として認可されていながら、過剰な利益を挙げている上、ほとんどの資料等の発注が理事長や息子(副理事長)が経営している会社になされており、営利事業に近い事業活動がなされていたことが明るみに出た。
漢字検定の受験者は、最近のクイズ番組ブームや首相の誤読報道などで関心が高まり、2007年の受験者は270万人にも達している。にも拘わらず、上級に行くほど高くなる検定料は1級となると5,000円に設定されたままであるので、収入が大幅に膨らんだ。本来であれば、受験者が増えればコスト・ダウンも図れるので、漢字普及と漢字能力の向上という公益性から、料金を下げ、受験し易いようにするのが筋であろう。
そもそも「検定事業」は、漢字検定に限らず、国に代わって行う性格が強く、公益性は高い。日本漢字能力検定協会が漢字への関心を高め、普及した実績は評価して良いのであろう。年末に行われる清水寺での「今年の漢字」は、漢検が選択しており恒例になっている。08年を象徴する漢字は「変」であり、その前は「偽」であった。その年を象徴する漢字として興味深いが、皮肉なことに、漢検自体が「偽」であり、「変」であったことが明らかとなった。自分のことはなかなか分らない「他人事」であったのか、反省が足りなかったのか。
現在、前理事長・副理事長など前執行部の責任問題に焦点が集中しているが、過剰な反応が重要な問題から目をそらせる結果を招いている。旧役員は、「公益法人」としてのあり方を越えた「過剰利益、過剰利得」を得ていたということであるが、利用者が割高の検定料を支払わされ、利益の還元が行われなかったという以外に誰も過大な被害を受けたわけではない。また協会を「私物化」しているとの批判があるが、財団にせよ社団にせよ、その多くは特定個人やグループが出資した基本財産により設立され、役員もそれらの者が中心に運営されていることが多く、事業内容に公共性が高いか、営利性が無いかで判断される。重要なことは、可能な範囲で過剰利益・利得を回収することと利用者への利益の還元であろう。
もっとも漢字能力の普及は重要なことであるが、公的な「検定」が必要である否かは疑問であり、また、漢字能力を伸ばすための各種の教材、電子機器や習字塾など多くの機会があるし、漢字能力に等級を付ける実体上のメリットもないので、「検定協会」を廃止することも一つの選択肢としてあろう。また、「協会」組織を特定の個人、グループに任せないで、国語教材関係企業・団体を含めたより普遍的な組織に改編することも考えられる。しかし、いずれにしても「検定」事業を続けるのであれば、次の点が考慮されなくてはならないのであろう。
1、検定料の大幅な引き下げー利用者への利益還元
まず事業コストをカバーする程度に料金を大幅に引き下げるべきであろう。本来であれば、受験者が大幅に増加し、過剰利益が出始めた段階で検定料を引き下げ、利用者へ利益を還元して行くべきであった。公益法人であっても、利益を出す努力は評価すべきであるが、その利益を利用者、ユーザーに還元することが求められていると言える。本来であれば、監督官庁が年度末に提出される事業報告書などに基づき過剰利益を指摘し、値下げなどを指導すべきであったのであろう。しかし、多くの場合報告書は回覧された後、担当官のファイルに眠ってしまう。
同様のことがその他の公益法人でも起こっている可能性があるので、点検、監督の徹底が望まれる。また、事象的にはNHKなどについても類似のことが起こっている。高度成長期の70年代以降、テレビが飛躍的に普及し、受信料収入が6,500億円前後になり、本来であれば「公共放送」の観点から可なりの部分が値下げとして視聴者に還元されることが望ましかった。しかし事業拡大の方向に流れてしまったことにより、「公共放送」の肥大化と視聴者への負担継続という結果を招いている。テレビ受信契約は、68年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。各種の要因で1人世帯が増える中で、1人当たりの受信料の負担は増加していること、及び外国放送を含むテレビ番組の多様化などを勘案すると、受信料と共に「公共放送」のあり方も問われていると言えよう。事業計画を承認する国会の責任も問われよう。
2、事業決算報告書の開示と会計監査の徹底
 公益法人はその公益性から、補助金団体と共に、例えば年間事業費1千万円以上の団体については全て、決算報告書を開示、公表すべきであろう。
 また例えば年間事業費1億円以上の事業については、余剰利益の額を例えば1~3%以内に限定すると共に、公認会計士による監査を義務付けるなど、公正さと透明性の向上を図ることが望まれる。
3、資機材調達など、外注(アウトソーシング)の原則公開入札の徹底
 漢検協が各種の調達、印刷等を身内企業に割高の価格等で外注し、2重に利益を得ると共に、協会側には過剰コストを強いる結果となっている。
 アウトソーシングは、行政当局が政府関連機関に行い、また各政府関連機関も幅広く関連企業、団体等に行っているところであり、それ自体が問題ということではないが、公開入札にしないと割高の恣意的外注となる等の弊害が生じる可能性が強い。
 従って公益法人についても、例えば年間5百万円を越える調達については原則公開入札にすることが望まれる。
 もとより政府関連機関を含め、全ての政府関係事業については原則公開入札を徹底すべきであろう。
4、独立行政法人など政府関係機関の剰余金管理の徹底
独立行政法人、特別勘定事業を含む全ての政府関係機関・事業についても、適正な余剰金管理が不可欠である。そのためには認められる余剰利益の基準を定める必要があろう。個々の機関が多額の余剰金を抱えることになると、不必要な支出、浪費を促す可能性が強い一方、ニーズが変化しても特定の事業に公的資金が偏在、固定化し、他の必要な事業への資金の再配分を制限することにもなるので基本的に好ましくない。事業の種類にもよるが、余剰利益の額は原則として事業規模の1~3%以内とするなど、適正な管理が必要であろう。

 現在、電子政府など、政府事業のIT化や合理化が進められ、景気対策の一環としても多額の予算が投じられようとしているが、行政側の省力化などが重点となり、ユーザー側の利便性の向上、負担の削減の視点に欠ける場合が多い。例えば、インターネットによる税の申告e-taxの普及率が3%前後と低く、普及が進まないのは、ユーザー側の納税者にとっては、システムが複雑で手間が掛かり過ぎるからであろう。政府関係事業はもとよりであるが、公益・公共事業についても、ユーザー側の利便性、負担軽減に重点を置いた改善、改革が強く望まれる。それが行政サービス、公益・公共事業の本来の目的なのではなかろうか。(09.04.)
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日本漢字能力検定協会が「公益法人」として認可されていながら、過剰な利益を挙げている上、ほとんどの資料等の発注が理事長や息子(副理事長)が経営している会社になされており、営利事業に近い事業活動がなされていたことが明るみに出た。
漢字検定の受験者は、最近のクイズ番組ブームや首相の誤読報道などで関心が高まり、2007年の受験者は270万人にも達している。にも拘わらず、上級に行くほど高くなる検定料は1級となると5,000円に設定されたままであるので、収入が大幅に膨らんだ。本来であれば、受験者が増えればコスト・ダウンも図れるので、漢字普及と漢字能力の向上という公益性から、料金を下げ、受験し易いようにするのが筋であろう。
そもそも「検定事業」は、漢字検定に限らず、国に代わって行う性格が強く、公益性は高い。日本漢字能力検定協会が漢字への関心を高め、普及した実績は評価して良いのであろう。年末に行われる清水寺での「今年の漢字」は、漢検が選択しており恒例になっている。08年を象徴する漢字は「変」であり、その前は「偽」であった。その年を象徴する漢字として興味深いが、皮肉なことに、漢検自体が「偽」であり、「変」であったことが明らかとなった。自分のことはなかなか分らない「他人事」であったのか、反省が足りなかったのか。
現在、前理事長・副理事長など前執行部の責任問題に焦点が集中しているが、過剰な反応が重要な問題から目をそらせる結果を招いている。旧役員は、「公益法人」としてのあり方を越えた「過剰利益、過剰利得」を得ていたということであるが、利用者が割高の検定料を支払わされ、利益の還元が行われなかったという以外に誰も過大な被害を受けたわけではない。また協会を「私物化」しているとの批判があるが、財団にせよ社団にせよ、その多くは特定個人やグループが出資した基本財産により設立され、役員もそれらの者が中心に運営されていることが多く、事業内容に公共性が高いか、営利性が無いかで判断される。重要なことは、可能な範囲で過剰利益・利得を回収することと利用者への利益の還元であろう。
もっとも漢字能力の普及は重要なことであるが、公的な「検定」が必要である否かは疑問であり、また、漢字能力を伸ばすための各種の教材、電子機器や習字塾など多くの機会があるし、漢字能力に等級を付ける実体上のメリットもないので、「検定協会」を廃止することも一つの選択肢としてあろう。また、「協会」組織を特定の個人、グループに任せないで、国語教材関係企業・団体を含めたより普遍的な組織に改編することも考えられる。しかし、いずれにしても「検定」事業を続けるのであれば、次の点が考慮されなくてはならないのであろう。
1、検定料の大幅な引き下げー利用者への利益還元
まず事業コストをカバーする程度に料金を大幅に引き下げるべきであろう。本来であれば、受験者が大幅に増加し、過剰利益が出始めた段階で検定料を引き下げ、利用者へ利益を還元して行くべきであった。公益法人であっても、利益を出す努力は評価すべきであるが、その利益を利用者、ユーザーに還元することが求められていると言える。本来であれば、監督官庁が年度末に提出される事業報告書などに基づき過剰利益を指摘し、値下げなどを指導すべきであったのであろう。しかし、多くの場合報告書は回覧された後、担当官のファイルに眠ってしまう。
同様のことがその他の公益法人でも起こっている可能性があるので、点検、監督の徹底が望まれる。また、事象的にはNHKなどについても類似のことが起こっている。高度成長期の70年代以降、テレビが飛躍的に普及し、受信料収入が6,500億円前後になり、本来であれば「公共放送」の観点から可なりの部分が値下げとして視聴者に還元されることが望ましかった。しかし事業拡大の方向に流れてしまったことにより、「公共放送」の肥大化と視聴者への負担継続という結果を招いている。テレビ受信契約は、68年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。各種の要因で1人世帯が増える中で、1人当たりの受信料の負担は増加していること、及び外国放送を含むテレビ番組の多様化などを勘案すると、受信料と共に「公共放送」のあり方も問われていると言えよう。事業計画を承認する国会の責任も問われよう。
2、事業決算報告書の開示と会計監査の徹底
 公益法人はその公益性から、補助金団体と共に、例えば年間事業費1千万円以上の団体については全て、決算報告書を開示、公表すべきであろう。
 また例えば年間事業費1億円以上の事業については、余剰利益の額を例えば1~3%以内に限定すると共に、公認会計士による監査を義務付けるなど、公正さと透明性の向上を図ることが望まれる。
3、資機材調達など、外注(アウトソーシング)の原則公開入札の徹底
 漢検協が各種の調達、印刷等を身内企業に割高の価格等で外注し、2重に利益を得ると共に、協会側には過剰コストを強いる結果となっている。
 アウトソーシングは、行政当局が政府関連機関に行い、また各政府関連機関も幅広く関連企業、団体等に行っているところであり、それ自体が問題ということではないが、公開入札にしないと割高の恣意的外注となる等の弊害が生じる可能性が強い。
 従って公益法人についても、例えば年間5百万円を越える調達については原則公開入札にすることが望まれる。
 もとより政府関連機関を含め、全ての政府関係事業については原則公開入札を徹底すべきであろう。
4、独立行政法人など政府関係機関の剰余金管理の徹底
独立行政法人、特別勘定事業を含む全ての政府関係機関・事業についても、適正な余剰金管理が不可欠である。そのためには認められる余剰利益の基準を定める必要があろう。個々の機関が多額の余剰金を抱えることになると、不必要な支出、浪費を促す可能性が強い一方、ニーズが変化しても特定の事業に公的資金が偏在、固定化し、他の必要な事業への資金の再配分を制限することにもなるので基本的に好ましくない。事業の種類にもよるが、余剰利益の額は原則として事業規模の1~3%以内とするなど、適正な管理が必要であろう。

 現在、電子政府など、政府事業のIT化や合理化が進められ、景気対策の一環としても多額の予算が投じられようとしているが、行政側の省力化などが重点となり、ユーザー側の利便性の向上、負担の削減の視点に欠ける場合が多い。例えば、インターネットによる税の申告e-taxの普及率が3%前後と低く、普及が進まないのは、ユーザー側の納税者にとっては、システムが複雑で手間が掛かり過ぎるからであろう。政府関係事業はもとよりであるが、公益・公共事業についても、ユーザー側の利便性、負担軽減に重点を置いた改善、改革が強く望まれる。それが行政サービス、公益・公共事業の本来の目的なのではなかろうか。(09.04.)
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日本漢字能力検定協会が「公益法人」として認可されていながら、過剰な利益を挙げている上、ほとんどの資料等の発注が理事長や息子(副理事長)が経営している会社になされており、営利事業に近い事業活動がなされていたことが明るみに出た。
漢字検定の受験者は、最近のクイズ番組ブームや首相の誤読報道などで関心が高まり、2007年の受験者は270万人にも達している。にも拘わらず、上級に行くほど高くなる検定料は1級となると5,000円に設定されたままであるので、収入が大幅に膨らんだ。本来であれば、受験者が増えればコスト・ダウンも図れるので、漢字普及と漢字能力の向上という公益性から、料金を下げ、受験し易いようにするのが筋であろう。
そもそも「検定事業」は、漢字検定に限らず、国に代わって行う性格が強く、公益性は高い。日本漢字能力検定協会が漢字への関心を高め、普及した実績は評価して良いのであろう。年末に行われる清水寺での「今年の漢字」は、漢検が選択しており恒例になっている。08年を象徴する漢字は「変」であり、その前は「偽」であった。その年を象徴する漢字として興味深いが、皮肉なことに、漢検自体が「偽」であり、「変」であったことが明らかとなった。自分のことはなかなか分らない「他人事」であったのか、反省が足りなかったのか。
現在、前理事長・副理事長など前執行部の責任問題に焦点が集中しているが、過剰な反応が重要な問題から目をそらせる結果を招いている。旧役員は、「公益法人」としてのあり方を越えた「過剰利益、過剰利得」を得ていたということであるが、利用者が割高の検定料を支払わされ、利益の還元が行われなかったという以外に誰も過大な被害を受けたわけではない。また協会を「私物化」しているとの批判があるが、財団にせよ社団にせよ、その多くは特定個人やグループが出資した基本財産により設立され、役員もそれらの者が中心に運営されていることが多く、事業内容に公共性が高いか、営利性が無いかで判断される。重要なことは、可能な範囲で過剰利益・利得を回収することと利用者への利益の還元であろう。
もっとも漢字能力の普及は重要なことであるが、公的な「検定」が必要である否かは疑問であり、また、漢字能力を伸ばすための各種の教材、電子機器や習字塾など多くの機会があるし、漢字能力に等級を付ける実体上のメリットもないので、「検定協会」を廃止することも一つの選択肢としてあろう。また、「協会」組織を特定の個人、グループに任せないで、国語教材関係企業・団体を含めたより普遍的な組織に改編することも考えられる。しかし、いずれにしても「検定」事業を続けるのであれば、次の点が考慮されなくてはならないのであろう。
1、検定料の大幅な引き下げー利用者への利益還元
まず事業コストをカバーする程度に料金を大幅に引き下げるべきであろう。本来であれば、受験者が大幅に増加し、過剰利益が出始めた段階で検定料を引き下げ、利用者へ利益を還元して行くべきであった。公益法人であっても、利益を出す努力は評価すべきであるが、その利益を利用者、ユーザーに還元することが求められていると言える。本来であれば、監督官庁が年度末に提出される事業報告書などに基づき過剰利益を指摘し、値下げなどを指導すべきであったのであろう。しかし、多くの場合報告書は回覧された後、担当官のファイルに眠ってしまう。
同様のことがその他の公益法人でも起こっている可能性があるので、点検、監督の徹底が望まれる。また、事象的にはNHKなどについても類似のことが起こっている。高度成長期の70年代以降、テレビが飛躍的に普及し、受信料収入が6,500億円前後になり、本来であれば「公共放送」の観点から可なりの部分が値下げとして視聴者に還元されることが望ましかった。しかし事業拡大の方向に流れてしまったことにより、「公共放送」の肥大化と視聴者への負担継続という結果を招いている。テレビ受信契約は、68年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。各種の要因で1人世帯が増える中で、1人当たりの受信料の負担は増加していること、及び外国放送を含むテレビ番組の多様化などを勘案すると、受信料と共に「公共放送」のあり方も問われていると言えよう。事業計画を承認する国会の責任も問われよう。
2、事業決算報告書の開示と会計監査の徹底
 公益法人はその公益性から、補助金団体と共に、例えば年間事業費1千万円以上の団体については全て、決算報告書を開示、公表すべきであろう。
 また例えば年間事業費1億円以上の事業については、余剰利益の額を例えば1~3%以内に限定すると共に、公認会計士による監査を義務付けるなど、公正さと透明性の向上を図ることが望まれる。
3、資機材調達など、外注(アウトソーシング)の原則公開入札の徹底
 漢検協が各種の調達、印刷等を身内企業に割高の価格等で外注し、2重に利益を得ると共に、協会側には過剰コストを強いる結果となっている。
 アウトソーシングは、行政当局が政府関連機関に行い、また各政府関連機関も幅広く関連企業、団体等に行っているところであり、それ自体が問題ということではないが、公開入札にしないと割高の恣意的外注となる等の弊害が生じる可能性が強い。
 従って公益法人についても、例えば年間5百万円を越える調達については原則公開入札にすることが望まれる。
 もとより政府関連機関を含め、全ての政府関係事業については原則公開入札を徹底すべきであろう。
4、独立行政法人など政府関係機関の剰余金管理の徹底
独立行政法人、特別勘定事業を含む全ての政府関係機関・事業についても、適正な余剰金管理が不可欠である。そのためには認められる余剰利益の基準を定める必要があろう。個々の機関が多額の余剰金を抱えることになると、不必要な支出、浪費を促す可能性が強い一方、ニーズが変化しても特定の事業に公的資金が偏在、固定化し、他の必要な事業への資金の再配分を制限することにもなるので基本的に好ましくない。事業の種類にもよるが、余剰利益の額は原則として事業規模の1~3%以内とするなど、適正な管理が必要であろう。

 現在、電子政府など、政府事業のIT化や合理化が進められ、景気対策の一環としても多額の予算が投じられようとしているが、行政側の省力化などが重点となり、ユーザー側の利便性の向上、負担の削減の視点に欠ける場合が多い。例えば、インターネットによる税の申告e-taxの普及率が3%前後と低く、普及が進まないのは、ユーザー側の納税者にとっては、システムが複雑で手間が掛かり過ぎるからであろう。政府関係事業はもとよりであるが、公益・公共事業についても、ユーザー側の利便性、負担軽減に重点を置いた改善、改革が強く望まれる。それが行政サービス、公益・公共事業の本来の目的なのではなかろうか。(09.04.)
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日本漢字能力検定協会が「公益法人」として認可されていながら、過剰な利益を挙げている上、ほとんどの資料等の発注が理事長や息子(副理事長)が経営している会社になされており、営利事業に近い事業活動がなされていたことが明るみに出た。
漢字検定の受験者は、最近のクイズ番組ブームや首相の誤読報道などで関心が高まり、2007年の受験者は270万人にも達している。にも拘わらず、上級に行くほど高くなる検定料は1級となると5,000円に設定されたままであるので、収入が大幅に膨らんだ。本来であれば、受験者が増えればコスト・ダウンも図れるので、漢字普及と漢字能力の向上という公益性から、料金を下げ、受験し易いようにするのが筋であろう。
そもそも「検定事業」は、漢字検定に限らず、国に代わって行う性格が強く、公益性は高い。日本漢字能力検定協会が漢字への関心を高め、普及した実績は評価して良いのであろう。年末に行われる清水寺での「今年の漢字」は、漢検が選択しており恒例になっている。08年を象徴する漢字は「変」であり、その前は「偽」であった。その年を象徴する漢字として興味深いが、皮肉なことに、漢検自体が「偽」であり、「変」であったことが明らかとなった。自分のことはなかなか分らない「他人事」であったのか、反省が足りなかったのか。
現在、前理事長・副理事長など前執行部の責任問題に焦点が集中しているが、過剰な反応が重要な問題から目をそらせる結果を招いている。旧役員は、「公益法人」としてのあり方を越えた「過剰利益、過剰利得」を得ていたということであるが、利用者が割高の検定料を支払わされ、利益の還元が行われなかったという以外に誰も過大な被害を受けたわけではない。また協会を「私物化」しているとの批判があるが、財団にせよ社団にせよ、その多くは特定個人やグループが出資した基本財産により設立され、役員もそれらの者が中心に運営されていることが多く、事業内容に公共性が高いか、営利性が無いかで判断される。重要なことは、可能な範囲で過剰利益・利得を回収することと利用者への利益の還元であろう。
もっとも漢字能力の普及は重要なことであるが、公的な「検定」が必要である否かは疑問であり、また、漢字能力を伸ばすための各種の教材、電子機器や習字塾など多くの機会があるし、漢字能力に等級を付ける実体上のメリットもないので、「検定協会」を廃止することも一つの選択肢としてあろう。また、「協会」組織を特定の個人、グループに任せないで、国語教材関係企業・団体を含めたより普遍的な組織に改編することも考えられる。しかし、いずれにしても「検定」事業を続けるのであれば、次の点が考慮されなくてはならないのであろう。
1、検定料の大幅な引き下げー利用者への利益還元
まず事業コストをカバーする程度に料金を大幅に引き下げるべきであろう。本来であれば、受験者が大幅に増加し、過剰利益が出始めた段階で検定料を引き下げ、利用者へ利益を還元して行くべきであった。公益法人であっても、利益を出す努力は評価すべきであるが、その利益を利用者、ユーザーに還元することが求められていると言える。本来であれば、監督官庁が年度末に提出される事業報告書などに基づき過剰利益を指摘し、値下げなどを指導すべきであったのであろう。しかし、多くの場合報告書は回覧された後、担当官のファイルに眠ってしまう。
同様のことがその他の公益法人でも起こっている可能性があるので、点検、監督の徹底が望まれる。また、事象的にはNHKなどについても類似のことが起こっている。高度成長期の70年代以降、テレビが飛躍的に普及し、受信料収入が6,500億円前後になり、本来であれば「公共放送」の観点から可なりの部分が値下げとして視聴者に還元されることが望ましかった。しかし事業拡大の方向に流れてしまったことにより、「公共放送」の肥大化と視聴者への負担継続という結果を招いている。テレビ受信契約は、68年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。各種の要因で1人世帯が増える中で、1人当たりの受信料の負担は増加していること、及び外国放送を含むテレビ番組の多様化などを勘案すると、受信料と共に「公共放送」のあり方も問われていると言えよう。事業計画を承認する国会の責任も問われよう。
2、事業決算報告書の開示と会計監査の徹底
 公益法人はその公益性から、補助金団体と共に、例えば年間事業費1千万円以上の団体については全て、決算報告書を開示、公表すべきであろう。
 また例えば年間事業費1億円以上の事業については、余剰利益の額を例えば1~3%以内に限定すると共に、公認会計士による監査を義務付けるなど、公正さと透明性の向上を図ることが望まれる。
3、資機材調達など、外注(アウトソーシング)の原則公開入札の徹底
 漢検協が各種の調達、印刷等を身内企業に割高の価格等で外注し、2重に利益を得ると共に、協会側には過剰コストを強いる結果となっている。
 アウトソーシングは、行政当局が政府関連機関に行い、また各政府関連機関も幅広く関連企業、団体等に行っているところであり、それ自体が問題ということではないが、公開入札にしないと割高の恣意的外注となる等の弊害が生じる可能性が強い。
 従って公益法人についても、例えば年間5百万円を越える調達については原則公開入札にすることが望まれる。
 もとより政府関連機関を含め、全ての政府関係事業については原則公開入札を徹底すべきであろう。
4、独立行政法人など政府関係機関の剰余金管理の徹底
独立行政法人、特別勘定事業を含む全ての政府関係機関・事業についても、適正な余剰金管理が不可欠である。そのためには認められる余剰利益の基準を定める必要があろう。個々の機関が多額の余剰金を抱えることになると、不必要な支出、浪費を促す可能性が強い一方、ニーズが変化しても特定の事業に公的資金が偏在、固定化し、他の必要な事業への資金の再配分を制限することにもなるので基本的に好ましくない。事業の種類にもよるが、余剰利益の額は原則として事業規模の1~3%以内とするなど、適正な管理が必要であろう。

 現在、電子政府など、政府事業のIT化や合理化が進められ、景気対策の一環としても多額の予算が投じられようとしているが、行政側の省力化などが重点となり、ユーザー側の利便性の向上、負担の削減の視点に欠ける場合が多い。例えば、インターネットによる税の申告e-taxの普及率が3%前後と低く、普及が進まないのは、ユーザー側の納税者にとっては、システムが複雑で手間が掛かり過ぎるからであろう。政府関係事業はもとよりであるが、公益・公共事業についても、ユーザー側の利便性、負担軽減に重点を置いた改善、改革が強く望まれる。それが行政サービス、公益・公共事業の本来の目的なのではなかろうか。(09.04.)
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