解決策にはならないソマリア沖海賊対策のための自衛隊艦船派遣
3月14日、ソマリア沖での「海上警備行動」のため、海上自衛隊の護衛艦2隻が日本から約12,000キロ離れた同海域に派遣された。海上警備行動のためであるので海上保安庁の係官も乗船している。
国土交通省海事局による船舶運行・管理業者への調査では、「日本関係船」に限っても2,200隻にも及ぶ船舶が同海域での「警護」を希望しているという。それだけ同海域が日本の海運にとって重要かということを物語っていると共に、海賊の危険に晒されているということであり、心情的には同海域への海自の警護艦の派遣を支持したい。
自衛隊の任務については、わが国の防衛を主たる任務としつつ、必要に応じ「公共の秩序の維持に当たる」とし(自衛隊法第3条)、その上で国内での「治安活動」の発令(同法第78条)と共に、海上においても人命・財産の保護や治安維持のため「警備行動」を命じることが出来る旨規定している(同法第82条)。
しかし、ここに言う「治安活動」や「海上における警備行動」は、あくまでも領土、領海内と排他的経済水域、及び領海内等から接続水域への追跡の継続や急迫する危険等に対する行動を想定している。公海上に限るとしても、自衛隊艦船を日本から遠く離れた海外の海域に派遣し、「警備活動」や「警護活動」を行うことには無理がある。本来は、主務である防衛活動に伴って必要とされる治安活動、海上警備活動を意味し、外国人が乗船する外国籍の船による海賊という犯罪への対処は、法律の想定を超えた拡大解釈とも言える。ソマリア沖での海賊対策が容認されるのであれば、日本の調査捕鯨船への国際的環境保護団体シー・シェパードによる妨害活動やその他類似のケースにおいても、警備、警護のため自衛艦を世界の何処にでも派遣出来ることになる。武器による抑止や戦闘という行為には一見類似性はあるが、そのような海外での犯罪行為に対し、自衛隊は訓練を受けているわけでもなく、また、関連する国際法令につき教育を受けているわけでもない。
無論、第3国の領海にまで入り込んで「警備活動」は第3国の管轄権を犯すことになるので、海賊船が外国の領海に逃げ込めばそれ以上の行動は出来ず、一定の抑止効果はあるものの、イタチごっこの対処療法的な活動に終わり、抜本的な解決策にならない可能性がある。
具体的な職務や武器の使用などについては、海上保安庁法が準用されることになっているが、この海域の外国不審船に対し臨検が出来るわけでもないし、明確な海賊行為の疑いがあったとしても外国船に乗り込み、外国人を捜査、拘束等が出来るわけでもない。そのようなことを行えば、行為の善悪は別として、船や人の属する国と管轄権侵害等の問題を起こす恐れがあり、この面でも抜本的な解決策には繋がらず、海賊行為が撲滅されない限り半永久的に警備、警護活動を継続することにもなりかねない。
武器の使用基準や海上自衛隊員の安全の問題、第3国の船舶の救済等に関心が集中しているが、日本の遥か彼方の海域において、外国船、民間外国人による海賊という犯罪行為に対する自衛隊の警備活動などについて、対象となる犯罪行為や任務や権限の範囲などに関し法律を定めてることが不可欠であろう。明文化すること自体が重要ではなく、国会での審議を通じ国民の理解と合意を得て置くことが重要なのであろう。それがまたこれらの任務に就く自衛官の安全を確保することに繋がると共に、自衛隊の活動や権限についての文民統制をより明確にする上、行政当局の判断のみで自衛隊艦船の海外任務を発動する危うさを無くすことにもなる。その意味で、今国会に海賊対策法案が提出され審議されていることは評価される。しかし、それで同海域等における海賊問題が解決するものでもない。
数年前にマラッカ・シンガポール海峡で海賊行為が頻発した際、沿岸国のマレーシアやインドネシア等との協力、支援を基に海賊行為が沈静化した経緯がある。海賊行為の撲滅のためには、海賊の本拠地のある国や沿岸国の取締りと協力がなければ困難だ。日本としては、自衛隊艦船の派遣というハード・パワーに依存する前に、国内法制の整備や国民の合意を形成すると共に、内戦状態が続くソマリアは困難にしても、エジプトやアフリカ連合等やサウジアラビア、イエメン、オマーンなどの沿岸国を欧米諸国や国連などと共に支援し、同海域での海賊撲滅のための地域協力や機構を形成するよう働き掛けるなど、ソフト・パワーを発揮することが強く望まれる。その方が中・長期の効果は大きいであろう。
また、自衛艦等を派遣して短期的に海賊の危険を抑止することは仕方がないこととしても、同海域に海賊が出没し危険であることは海運業界等も十分承知のことであるので、業界としてもその危険を回避し、抑止する自己防衛努力が望まれる。時間や費用が掛かるが、ルートの変更やグループによる民間警備船の傭船、応分の費用負担等である。中長期に国家が1万キロ以上の海外に警護艦を派遣し、特定の産業活動を警護し続けることは困難であるし、国内における民間、個人による警備努力との衡平の問題も生じる。(09.03.) (All Rights Reserved.)
3月14日、ソマリア沖での「海上警備行動」のため、海上自衛隊の護衛艦2隻が日本から約12,000キロ離れた同海域に派遣された。海上警備行動のためであるので海上保安庁の係官も乗船している。
国土交通省海事局による船舶運行・管理業者への調査では、「日本関係船」に限っても2,200隻にも及ぶ船舶が同海域での「警護」を希望しているという。それだけ同海域が日本の海運にとって重要かということを物語っていると共に、海賊の危険に晒されているということであり、心情的には同海域への海自の警護艦の派遣を支持したい。
自衛隊の任務については、わが国の防衛を主たる任務としつつ、必要に応じ「公共の秩序の維持に当たる」とし(自衛隊法第3条)、その上で国内での「治安活動」の発令(同法第78条)と共に、海上においても人命・財産の保護や治安維持のため「警備行動」を命じることが出来る旨規定している(同法第82条)。
しかし、ここに言う「治安活動」や「海上における警備行動」は、あくまでも領土、領海内と排他的経済水域、及び領海内等から接続水域への追跡の継続や急迫する危険等に対する行動を想定している。公海上に限るとしても、自衛隊艦船を日本から遠く離れた海外の海域に派遣し、「警備活動」や「警護活動」を行うことには無理がある。本来は、主務である防衛活動に伴って必要とされる治安活動、海上警備活動を意味し、外国人が乗船する外国籍の船による海賊という犯罪への対処は、法律の想定を超えた拡大解釈とも言える。ソマリア沖での海賊対策が容認されるのであれば、日本の調査捕鯨船への国際的環境保護団体シー・シェパードによる妨害活動やその他類似のケースにおいても、警備、警護のため自衛艦を世界の何処にでも派遣出来ることになる。武器による抑止や戦闘という行為には一見類似性はあるが、そのような海外での犯罪行為に対し、自衛隊は訓練を受けているわけでもなく、また、関連する国際法令につき教育を受けているわけでもない。
無論、第3国の領海にまで入り込んで「警備活動」は第3国の管轄権を犯すことになるので、海賊船が外国の領海に逃げ込めばそれ以上の行動は出来ず、一定の抑止効果はあるものの、イタチごっこの対処療法的な活動に終わり、抜本的な解決策にならない可能性がある。
具体的な職務や武器の使用などについては、海上保安庁法が準用されることになっているが、この海域の外国不審船に対し臨検が出来るわけでもないし、明確な海賊行為の疑いがあったとしても外国船に乗り込み、外国人を捜査、拘束等が出来るわけでもない。そのようなことを行えば、行為の善悪は別として、船や人の属する国と管轄権侵害等の問題を起こす恐れがあり、この面でも抜本的な解決策には繋がらず、海賊行為が撲滅されない限り半永久的に警備、警護活動を継続することにもなりかねない。
武器の使用基準や海上自衛隊員の安全の問題、第3国の船舶の救済等に関心が集中しているが、日本の遥か彼方の海域において、外国船、民間外国人による海賊という犯罪行為に対する自衛隊の警備活動などについて、対象となる犯罪行為や任務や権限の範囲などに関し法律を定めてることが不可欠であろう。明文化すること自体が重要ではなく、国会での審議を通じ国民の理解と合意を得て置くことが重要なのであろう。それがまたこれらの任務に就く自衛官の安全を確保することに繋がると共に、自衛隊の活動や権限についての文民統制をより明確にする上、行政当局の判断のみで自衛隊艦船の海外任務を発動する危うさを無くすことにもなる。その意味で、今国会に海賊対策法案が提出され審議されていることは評価される。しかし、それで同海域等における海賊問題が解決するものでもない。
数年前にマラッカ・シンガポール海峡で海賊行為が頻発した際、沿岸国のマレーシアやインドネシア等との協力、支援を基に海賊行為が沈静化した経緯がある。海賊行為の撲滅のためには、海賊の本拠地のある国や沿岸国の取締りと協力がなければ困難だ。日本としては、自衛隊艦船の派遣というハード・パワーに依存する前に、国内法制の整備や国民の合意を形成すると共に、内戦状態が続くソマリアは困難にしても、エジプトやアフリカ連合等やサウジアラビア、イエメン、オマーンなどの沿岸国を欧米諸国や国連などと共に支援し、同海域での海賊撲滅のための地域協力や機構を形成するよう働き掛けるなど、ソフト・パワーを発揮することが強く望まれる。その方が中・長期の効果は大きいであろう。
また、自衛艦等を派遣して短期的に海賊の危険を抑止することは仕方がないこととしても、同海域に海賊が出没し危険であることは海運業界等も十分承知のことであるので、業界としてもその危険を回避し、抑止する自己防衛努力が望まれる。時間や費用が掛かるが、ルートの変更やグループによる民間警備船の傭船、応分の費用負担等である。中長期に国家が1万キロ以上の海外に警護艦を派遣し、特定の産業活動を警護し続けることは困難であるし、国内における民間、個人による警備努力との衡平の問題も生じる。(09.03.) (All Rights Reserved.)