地球温暖化ー融ける氷海、氷河と荒れる気候変動は止められるか <再掲>
2015年3月14日から18日まで、第3回国連防災世界会議が仙台で開催された。東北大地震・大津波から5年目を迎えるこの時期に、大震災の経験と教訓をこの地から世界へ伝え、対応を考えることは大変意義があったと言えよう。他方、折しも南太平洋のバヌアツを大型サイクロン「パム」が襲い大きな被害を出していたが、根本的な原因の一つである荒れる気候変動、温暖化への対応については、途上国側は先進工業国の責任を強調し、国際的な対応を主張する先進工業国と対立し、抜本的な対応については平行線のままで終わった。しかしその間にも海水温は上がり、海流は変化し、地球の気候は悪化している。地殻変動は止められず、被害を防ぐしかないが、気候の劣化については世界が協力すれば止められる。気候の劣化に大きく影響する海や海流の温度や流れは、温度差に敏感な漁業資源にも影響する。何時までも平行線の議論をしている時ではなく、世界が具体的に行動する時期ではないのだろうか。世界のリーダーがこの問題に真剣に向き合うべき時のようだ。
国連の「気象変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第2作業部会は、横浜で地球温暖化の影響を検討し、2014年3月31日、報告書を取りまとめた。その中で「全ての大陸と海洋で、温暖化の重要な影響が観測されている」との認識の下で、“北極海の海氷や世界各地域における珊瑚礁は後戻り困難な影響を既に受けている”などとして生態系や人間社会への影響を指摘している。そして温暖化が進むリスクとして、世界的な気温の上昇、干ばつなどによる食糧生産の減少、大都市部での洪水、異常気象によるインフラ機能の停止などを盛り込んでいる。当コラムも、北極海の海氷の融解と縮小ブログでもこのような状況を2008年頃から指摘して来ているが、それが国際的に理解され始めたと言えよう。
日本の地球温暖化への取り組みについては、環境省は、日本の温室効果ガスの削減目標を2020年度までに2005年度比で3.8%減とする方針である。温室効果ガスの削減目標については、民主党政権が2020年度までに“1990年度比で25%削減”との目標を提示し、国連総会でも表明している。環境省の上記の目標は、基準年を2005年としているが、1990年度比で換算すると逆に約3%増となるとされており、後退感が否めない。政府当局は、‘原子力発電が再稼働されれば高い目標に修正する’としている趣であるが、果たして原子力発電頼みで良いのであろうか。
1、意見が分かれる地球温暖化の原因
温暖化の速度、原因などについては議論が分かれている。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。国連の「気候変動に関する政府間パネル」が出した07年の第4次評価報告書でも、“ヒマラヤの氷河は2035年までに解けてなくなる可能性が強い”と指摘している。同グループはゴア米元副大統領と共にノーベル賞を受賞したが、氷河学者からは300mもの厚さの氷河がそんなに早くは融けないとの疑問が呈され、同グループがそれを認めるなど、信憑性が疑われている。地球がミニ氷河期に入っているとの説もある。
2、荒れる世界の気候
どの説を取るかは別として、着実に進んでいる事実がある。北極海の氷原が夏期に融けて縮小していることだ。衛星写真でも、08年においては6月末頃までは陸地まで氷海で覆われていたが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能となる。その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。6、7年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。また南極大陸などでは氷原がとけ、南極海に流れ出し海洋の水位を上げている。
これは今起きている現実である。短期的には夏の一定期間航行が可能になり、商業航路や観光、北極圏開発のビジネスチャンスが広がる。
他方それは温暖化への警告でもある。北極の氷海縮小は、気流や海流による冷却効果を失わせ、地球温暖化を早め、海流や気流が激変し気候変動を激化させる恐れがある。氷海が融ければ白熊や微生物などの希少生物も死滅して行く。取り戻すことは出来ない。北極圏の環境悪化は、米、露など沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えている。
現在、日本はもとより世界各地で気流や海流の動きや温度がこれまでのパターンでは予測できない荒々しい動きを示しており、局地的な豪雨や突風・竜巻、日照りや干ばつ、豪雪や吹雪などにより従来の想定を越えた被害を出している。それが世界各地で今起こっている。地球環境は、近年経験したことがない局面に入っていると言えよう。
3、国際的な保護を必要とする北極圏と南極大陸
同時に忘れてはならないのは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。またヒマラヤやアルプス、キリマンジェロ等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
北極圏も南極同様、人類の共通の資産と位置付け、大陸棚の領有権や「線引き」の凍結や北極圏の一定の範囲を世界遺産に指定するなど、国際的な保護が必要だ。
4、必要とされる政府レベルの対応と生活スタイルの転換
それ以上に、地球温暖化の進行や気候変動の激化を食い止め、地球環境を保護、改善する必要性に今一度目を向けることが緊要ではないだろうか。それはこの地球自体を人類共通の遺産として保全することを意味する。
地球環境は、政府に委ねておけば良いというものではなく、家庭や産業自体が工夫、努力しなくては改善できない。比喩的に言うと、家庭で使用する電球を10個から7個にすれば日常生活にそれほど不自由することなく節電できる。企業やオフィスビルなどについても同様で、節電を図ればコスト削減にもなり、企業利益にもプラスとなる。レジ袋や必要以上の過剰な食物などを少なくして行けば生産に要するエネルギーの節約となる。また日本が環境技術先進国と言うのであれば、自然エネルギーの組織的な開発、活用や節エネ技術の更なる開発などで温室効果ガスの削減にそれぞれの立場から努力、貢献することが出来るのではないだろうか。またそのような努力から、地球環境にもプラスとなる生活スタイルやビジネスチャンスが生まれることが期待される。
しかし、政府や産業レベルでの対応は不可欠であろう。経済成長についても、温室効果ガスの減少を目標とし、再生可能エネルギーに重点を当てた成長モデルを構築する事が望まれる。原子力発電については、段階的に廃止することを明確にすると共に、再稼働に関しては、施設の安全性を確保する一方、各種の膨大な原子力廃棄物の最終的な処理方法を確立することがまず必要であろう。
その上でリーダーシップが期待されるのは、環境問題に関心が強い欧州諸国であるが、温暖化ガス排出量が世界の1位、2位を占める中国と米国の積極的な姿勢と取り組みが不可欠である。特に2期目を目指すトランプ米大統領が、地球環境問題について具体的な取り組み姿勢を示すべきと言えよう。
5、途上国開発援助の在り方の抜本的見直しの必要性
また途上国援助においても、従来型の重厚長大なインフラ開発・整備ではなく、再生可能エネルギーを使用するなど、温室効果ガスの排出が少ない経済社会の構築を目標とする開発モデルや政府開発援助(ODA)モデルとして行くことが望まれる。
国連自体も、経済社会理事会を中心として、アフリカ諸国の安定を含め必ずしも成功とは言えない「開発の10年」の見直しなど、途上国援助の在り方を抜本的に見直すと共の、世界食糧計画や難民高等弁務官など各種の専門機関を通じて相対的に潤沢に行われて来た人道援助や食糧援助についても、人口抑制の側面を含め抜本的、総合的に再検討する必要がありそうだ。そもそも援助する側もこれまでの高成長の維持は困難であり、経済的体力が低下しているので、これまでのような援助を継続して行くことは困難であろう。それに加え、温暖化問題への対応が必要となるので、国際的な調整が必要になっている。
各国ごとの援助姿勢についても、現在中国が、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が設立され、中国主導の「一帯一路」政策が推進される体制が整った。それが途上国における従来型の長大重工型、大量のエネルギー消費型のインフラ建設に投資されていくとすると地球環境の悪化に繋がることになるので、温室効果ガスの減少につながる環境改善インフラへの投資促進となることが望ましい。「一帯一路」政策もその在り方が再検討される必要があろう。中国自体も、これまでのような高成長、高エネルギー消費の経済成長を継続すれば、いずれ住めない大陸となる恐れもある。(2014.3.31./15.4.3.改定/19. 6.12.再改定)(All Rights Reserved.)
求められる「等級制」終身雇用形態の転換 (その1)(再掲)
総務省は、2013年2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。
また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。
被雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は 2014年には37.4%に達し、若干の上下動はあるものの、その後も37%台の高水準にある。
雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになる。日本の雇用慣行においては、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制がなお一般的であるため、中間的な本採用は少数であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があるため、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。
このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、非正規就労者は、自由な生活スタイルが可能となる一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。
その上、環太平洋経済連携(TPP)やEU等との経済連携により物・サービスの自由化が進み、労働力交流や対日投資も増加する中で、日本の労働生産性は先進工業国中最下位の状態が続いており、今後外国企業や外国人就業者に市場機会を奪われ、日本の産業が停滞して行くことが財界自身により危惧され始めている。日本の終身雇用制とそれに付随する新卒至上主義や定年制という雇用制度は、戦後の産業保護と円安為替レートにも支えられ、産業の安定的発展には寄与してきたものの、労働生産性は低迷しており、複雑多岐に亘る規制、規則、通達や労働慣行などによる労働生産性抑制要因と共に、「非正規就労者」が全体の平均賃金レベルを下げる結果を招いているのではないかとみられる。国際的競争がますます熾烈になると予想される今日、深刻な課題となっている。
1、望まれる職種・技能・技術を基準とした職階制雇用形態の普及
3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」
に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。
その解決策の1つが職種・技能・技術を基準とした職能制雇用形態への転換、普及である。
(1)閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態
現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。
終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。
職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。
(2)職種・技能を基準とした職能制雇用形態への転換、普及が不可欠
職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。欧米諸国で広く採用されている。
現在就労者の35%以上を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般職」「職能技術職」とすれば足りることであろう。
無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職能制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般職」と「職能技術職」に移行させることが望ましい。
(3)定年制は各種の弊害を生んでいる
正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になると共に、年金財源を圧迫する主要因にもなっている。
平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。長寿化を前提とすると、定年後の期間が従来よりも著しく長くなっているので、現在では「定年制度」は事実上の‘年限解雇’の制度となっているとも言える。
このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。
「正規就労者」もいずれは定年となるが、職能職階制を導入すれば、一定年齢以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となるため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっていると言えよう。
女性の社会進出の促進にしても、いろいろな問題が議論されているが、終身雇用の下での年功序列的な等級制度が続く限り、現実問題としてはなかなか進まないと見られている。多くの場合、出産や子育などで、一定期間年功序列のエスカレーターから外れてしまうからだ。女性の社会進出の促進のためにも、職種・技能に基づく職階制への転換が望まれる。
2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠 (その2に掲載)
(1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」
(2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」
(2020.1.7.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)
竹島問題を大所高所から解決すべき時 (総合編)(再掲)
韓国の李明博大統領は、8月10日、ヘリコプターで竹島(韓国名独島)に上陸し視察した。竹島は島根県に属するが、李承晩・大韓民国(韓国)大統領が、1952年1月18日、「海洋主権」を宣言し、周辺海域に「漁船立ち入り禁止線」、通称「李承晩ライン」を設定し、同島は韓国の支配下にあると一方的に宣言して以来、日韓間の喉もとの小骨となっている。
今回の李明博韓国大統領の竹島上陸は日韓関係にとって信頼関係を損ねる極めて深刻な行為であり、日本としても重大な決意を持って竹島問題の解決に努めるべきであろう。
1、日韓の古くからの接点、竹島(独島)の歴史
同島は、東西2つの岩礁島からなっており、日比谷公園と同程度の面積しかなく、また定住出来るような環境にはないが、1905年1月28日、日本政府は、閣議で「竹島」と命名し、「島根県隠岐島司」の所管とした。日本が、韓国(大韓帝国)を併合(1910年8月)した5年以上も前のことであり、日本の植民地支配や慰安婦問題などとは関係がない。
同島を巡る日韓両国の交流は、両国の沿岸漁民を中心として江戸時代初期頃からあり、この頃より周辺海域での接触、紛争が活発になって来たとの記録が残っている。また1849年、フランスの捕鯨船Liancourt号が同島を発見し、リアンクール島と名付け、その後日本では、「りゃんこ島」とか「リアンクール岩」とも呼ばれたことがあるようで、同島(岩礁)を巡る両国の交流の歴史にも混同がありそうだ。因みに、米国国務省がホーム・ページで公表している各国別地図では、日韓双方に、Liancourt Rocks(リアンコート岩礁)の名称で記載している。
同島が両国の古来からの接触の「最外延点」であるという歴史的背景を踏まえ、同島問題の解決を真剣に模索すべき時期に来たと言えよう。
2、「日韓新時代」は竹島(独島)問題の早期解決が鍵
竹島の帰属問題は、日本政府としては1954年、1962年に国際司法裁判所に付託することを韓国側に提案し来ているが、韓国政府が同意していないため実現していない。
今回についても韓国政府は、国際司法裁判所への付託を拒否する姿勢が伝えられている一方、これを受けて日本政府は、経済的影響を考慮し対応を慎重に検討するとしている。しかし韓国大統領の竹島上陸は、日韓両国政府の信頼関係を著しく損なう行動であるので、この行動が日韓関係に影響を与えないはずがない。竹島は日本の領土であるのでしっかりと主張し、短期的に両国関係に影響することがあるとしても、毅然としてあらゆる措置、対策を取るべきであろう。言葉や標語だけの外交や、問題先送りにより事態の改善をもたらすことはないことが、李大統領の今回の同島訪問で明らかになった。影響を恐れて従来のような事なかれ外交を繰り返すことは、韓国側に日本は従来通り何も出来ない、何もしないとの誤ったメッセージを送り、現状を事実上容認することになる恐れが強い。従来の措置を超える明確且つ具体的な措置を検討、実施すべきであろう。
領土の保全は、国家、国民の存立の基礎であり、安全保障、防衛の基本的な役割である。従って、韓国政府が竹島を巡る領有権問題で日本の利益を害する行動を継続するのであれば、日韓間の防衛協力については実務的な情報交換や信頼醸成措置程度に止める一方、日本自身の領土保全、安全保障に重点をシフトするなど、防衛政策の転換を真剣に検討すべきであろう。
他方、日韓両国は近年において経済の相互依存関係を強め、また民間レベルの文化・芸能交流などが深まっているので、このような民間レベルの日韓交流に影響を与えないよう留意しつつ、国際司法裁判所への付託を含め、首脳レベルでの協議を打診し、常に本件協議への門戸を開放しておく一方、一般的な首脳レベルでの交流を停止する。また日韓経済連携協議の凍結や金融・資本、高度技術分野などでの政府レベルの交流、協力を抑制するなど、竹島問題の解決に向けて明確なメッセージを送り続けるべきであろう。
但し2国間関係は相互の努力で発展するものであるので、日本だけではなく、韓国の官民もこの問題が民間レベルの交流に影響を与えないよう努力することを期待したい。この関連で、日韓間の議員交流を超党派での交流を含めもっと頻繁に行うことが望ましい。
この問題の解決なくして「日韓新時代」は実体が伴わない標語に過ぎない。
3、模索すべき大所高所からの解決策
米国国務省公開文書「1964年から68年米国の外交関係29編」に基づけば、同島の「日韓共同所有案」について、1965年5月17日、訪米した朴大統領(当時)に対し、ラスク米国務長官が、解決に向けての方策として提案したが、朴大統領は「あるまじきこと」として固辞した旨伝えられている。またその後、米国は韓国に対し同島問題を議題として韓日外相会談を提案したが、同大統領の受け入れるところにはならなかったとされている。
共同所有案にしても、共同管理・分割領有にしても、両国国内の世論等もあり困難が伴うと予想されるが、日韓関係は当時とは異なっている。日韓両国は、1965年6月22日に日韓基本条約を締結し、国交を正常化すると共に、戦後請求権問題も経済協力等の形で処理し、基本的な友好関係の枠組みもそれなりに確立しており、市民レベルの交流も盛り上がりを見せている。今後日韓関係が健全に発展するか、阻害されるかが、竹島問題解決への両国首脳のリーダーシップと大所高所からの英断に掛かっていると言えよう。(2012.08.14.)
(Copy Right Reserved.)(不許無断転載・引用)
Sanctions against Russia should be lifted to facilitate a recovery of the World economy
The earthquake of Magnitude 7.8 level occurred in southeastern Turkey and northwestern Syria on 6th February caused over 35 thousand deaths and left so many houses and buildings crushed on both sides. While expressing deep condolences and sympathy to those dead and their families, we should concentrate on the emergency relief, recovery of the lifelines and reconstructions. Especially in the cold winter season, people need shelter, heat and nutrition including milk for babies . However there appear many difficulties to deliver aid by private channels and NGOs as well as international organs. Among other things, shortage and soaring prices of energy & grain together with difficulties in bank transfers of money largely caused by the wide-ranging sanctions against Russia are making helping hands more difficult. And also the NATO initiated sanctions have been making the life in many developing countries more difficult.
Under the circumstances, I should like to propose a temporally lifting-up of the sanctions against Russia for about 3 months with the immediate effect. And along with it, also propose a temporally ceasefire between Russia and Ukraine to facilitate aid works in Turkey and Syria and for other humanitarian causes. To observe the ceasefire, the United Nations may be requested to send an international ceasefire observation mission.
3月28日、08年度予算は参議院で否決されたことを受けて、衆議院の優先性により成立した。しかし、歳入の裏付けの一つとなる道路特定財源問題については、3月27日、福田総理は、09年度予算での一般財源化を提案する一方、08年度からの暫定税率廃止を「現実無視の議論」として拒否した。29日の記者会見でも、「地方の財源確保」と共に「地球環境問題」への取り組みという新たな要素に触れつつ、「少なくとも今の暫定税率の水準は維持しなければならない」としている。
一般財源化に踏み込んだ点は評価出来るが、民主党を中心とする野党は、暫定税率の廃止を主張しており、3月末で暫定税率は廃止(ガソリン1リッター当たり25円強の減税)されることとなった。
与野党は、道路財源を除く租税特別措置については、5月末まで2ヶ月間延長する「つなぎ法案」に合意し、同法案は31日午後採択された。また、政府は、暫定税率廃止に伴う地方自治体の税収減を見越して、4月分として相当額(地方相当分600億円)を補填する意向を表明している。
08年度予算は既に成立しているので、少なくても5月末までは暫定税率など(約2.6兆円)を除き、国民生活の混乱は回避されることになる。しかし、これで基本的な問題が解決されたわけではなく、道路特定財源の08年度以降の取り扱いと、一般源化や財源の配分問題などについて国会の内外において与野党間で真剣に協議されなくてはならない。
1、徴税による所得の移転か減税による納税者への還元か
暫定税率2.6兆円分が廃止になると地方の道路事業への配分もなくなるので、多くの地方公共団体はその分地方予算に穴があくとして、暫定税率の維持を支持している。一部の地方道路事業は凍結され始めている。しかし、配分されても道路事業に特定されているので、全国のユーザー(納税者)から徴税された額は直接には道路建設業の所得として移転され、地方業者の所得となる。また、地方の財源確保の問題と道路に特定された暫定税率を維持することは別問題であり、地方の財源確保という観点からは事業を特定しない補助金や税源の地方への委譲などを制度として検討すべきなのであろう。
他方廃止されると、地方を含め、ユーザーにその分(ガソリン1リッターにつき約25円、軽油約17円など)還元される。ユーザーは、タクシー、バス、トラック等の運送・流通業者から、自家用車その他個人消費者に亘るので、地域に関係なく、納税者に還元される。地方の長距離輸送に従事している業者にも大きなコスト減となり、輸送・流通コストの削減効果もあり、物価高を抑える効果として一般国民に良い影響が期待される。この効果は地方住民にも共有され、家計がその分楽になり、消費を助けると共に、地方の輸送・流通業も潤い、事業所得税などとして地方公共団体にもある程度プラスになると期待される。
なお、石油価格を下げるとユーザーに自動車の使用を促進するようなものであり、「地球環境問題」への国際的な動きに反するとの指摘は、一面では正しいが、一層の原油高を容認することにもなり兼ねない。また消費者物価がじわりと上昇している中で、ユーザーが必要以上に石油消費を増やすことはないと予想される一方、暫定税率を維持し、ガソリンを喰う高速道路を造り続けることが「地球環境問題」に貢献するとも思えない。
日本のガソリンは安いという指摘も、米国よりも高いし、欧州ではガソリンよりも安いデイーゼルに需要が移っている。更に、欧米と日本の顕著な相違は、欧米では一部の例外を除き、道路は無料であるのに対し、日本においては暫定税率を長期に課し、税金で建設した高速度道路に高額の通行料を徴収しており、2重に国民の負担を強いていることであり、単純にガソリン価格のみを比較するのはフェアーではないのであろう。
これらの点は、国民経済の中でどのような分野、国民層に政策の重点を置くかという選択の問題だ。 (Copy Right Reserved.)
竹島問題を大所高所から解決すべき時 (総合編)(再掲)
韓国の李明博大統領は、8月10日、ヘリコプターで竹島(韓国名独島)に上陸し視察した。竹島は島根県に属するが、李承晩・大韓民国(韓国)大統領が、1952年1月18日、「海洋主権」を宣言し、周辺海域に「漁船立ち入り禁止線」、通称「李承晩ライン」を設定し、同島は韓国の支配下にあると一方的に宣言して以来、日韓間の喉もとの小骨となっている。
今回の李明博韓国大統領の竹島上陸は日韓関係にとって信頼関係を損ねる極めて深刻な行為であり、日本としても重大な決意を持って竹島問題の解決に努めるべきであろう。
1、日韓の古くからの接点、竹島(独島)の歴史
同島は、東西2つの岩礁島からなっており、日比谷公園と同程度の面積しかなく、また定住出来るような環境にはないが、1905年1月28日、日本政府は、閣議で「竹島」と命名し、「島根県隠岐島司」の所管とした。日本が、韓国(大韓帝国)を併合(1910年8月)した5年以上も前のことであり、日本の植民地支配や慰安婦問題などとは関係がない。
同島を巡る日韓両国の交流は、両国の沿岸漁民を中心として江戸時代初期頃からあり、この頃より周辺海域での接触、紛争が活発になって来たとの記録が残っている。また1849年、フランスの捕鯨船Liancourt号が同島を発見し、リアンクール島と名付け、その後日本では、「りゃんこ島」とか「リアンクール岩」とも呼ばれたことがあるようで、同島(岩礁)を巡る両国の交流の歴史にも混同がありそうだ。因みに、米国国務省がホーム・ページで公表している各国別地図では、日韓双方に、Liancourt Rocks(リアンコート岩礁)の名称で記載している。
同島が両国の古来からの接触の「最外延点」であるという歴史的背景を踏まえ、同島問題の解決を真剣に模索すべき時期に来たと言えよう。
2、「日韓新時代」は竹島(独島)問題の早期解決が鍵
竹島の帰属問題は、日本政府としては1954年、1962年に国際司法裁判所に付託することを韓国側に提案し来ているが、韓国政府が同意していないため実現していない。
今回についても韓国政府は、国際司法裁判所への付託を拒否する姿勢が伝えられている一方、これを受けて日本政府は、経済的影響を考慮し対応を慎重に検討するとしている。しかし韓国大統領の竹島上陸は、日韓両国政府の信頼関係を著しく損なう行動であるので、この行動が日韓関係に影響を与えないはずがない。竹島は日本の領土であるのでしっかりと主張し、短期的に両国関係に影響することがあるとしても、毅然としてあらゆる措置、対策を取るべきであろう。言葉や標語だけの外交や、問題先送りにより事態の改善をもたらすことはないことが、李大統領の今回の同島訪問で明らかになった。影響を恐れて従来のような事なかれ外交を繰り返すことは、韓国側に日本は従来通り何も出来ない、何もしないとの誤ったメッセージを送り、現状を事実上容認することになる恐れが強い。従来の措置を超える明確且つ具体的な措置を検討、実施すべきであろう。
領土の保全は、国家、国民の存立の基礎であり、安全保障、防衛の基本的な役割である。従って、韓国政府が竹島を巡る領有権問題で日本の利益を害する行動を継続するのであれば、日韓間の防衛協力については実務的な情報交換や信頼醸成措置程度に止める一方、日本自身の領土保全、安全保障に重点をシフトするなど、防衛政策の転換を真剣に検討すべきであろう。
他方、日韓両国は近年において経済の相互依存関係を強め、また民間レベルの文化・芸能交流などが深まっているので、このような民間レベルの日韓交流に影響を与えないよう留意しつつ、国際司法裁判所への付託を含め、首脳レベルでの協議を打診し、常に本件協議への門戸を開放しておく一方、一般的な首脳レベルでの交流を停止する。また日韓経済連携協議の凍結や金融・資本、高度技術分野などでの政府レベルの交流、協力を抑制するなど、竹島問題の解決に向けて明確なメッセージを送り続けるべきであろう。
但し2国間関係は相互の努力で発展するものであるので、日本だけではなく、韓国の官民もこの問題が民間レベルの交流に影響を与えないよう努力することを期待したい。この関連で、日韓間の議員交流を超党派での交流を含めもっと頻繁に行うことが望ましい。
この問題の解決なくして「日韓新時代」は実体が伴わない標語に過ぎない。
3、模索すべき大所高所からの解決策
米国国務省公開文書「1964年から68年米国の外交関係29編」に基づけば、同島の「日韓共同所有案」について、1965年5月17日、訪米した朴大統領(当時)に対し、ラスク米国務長官が、解決に向けての方策として提案したが、朴大統領は「あるまじきこと」として固辞した旨伝えられている。またその後、米国は韓国に対し同島問題を議題として韓日外相会談を提案したが、同大統領の受け入れるところにはならなかったとされている。
共同所有案にしても、共同管理・分割領有にしても、両国国内の世論等もあり困難が伴うと予想されるが、日韓関係は当時とは異なっている。日韓両国は、1965年6月22日に日韓基本条約を締結し、国交を正常化すると共に、戦後請求権問題も経済協力等の形で処理し、基本的な友好関係の枠組みもそれなりに確立しており、市民レベルの交流も盛り上がりを見せている。今後日韓関係が健全に発展するか、阻害されるかが、竹島問題解決への両国首脳のリーダーシップと大所高所からの英断に掛かっていると言えよう。(2012.08.14.)
(Copy Right Reserved.)(不許無断転載・引用)
給与増で国内消費増を図る経済モデルへの転換が急務
1、賃金上昇は歓迎も物価高騰で減殺
2023年7月に時給ベースの最低賃金が41円引き挙げられ、平均1002円となったことを歓迎する。反面、31年振りの4.2%レベルの引上げであり、31年もの長期に亘り最低賃金が抑えられて来たことを意味する。その上消費者物価が2020年比で総合5.2%増の高騰を示し、2013年以来の日銀のインフ目標2%を大きく上回る形となるので、実質賃金はマイナスとなる。
春闘による正規社員を中心とする賃上げ率も平均3.58%で、30年振りで歓迎されるが、反面賃金は30年以上低迷していたことを示すものである。その上政府・日銀が2013年以来容認して来た物価高騰で帳消しとなり、実質所得は2023年もマイナスとなることが予想される。
2、給与増で個人消費・需要増を図る経済モデルへの転換が必要
これは経済界が、高度経済成長期以来一貫して国民総生産(GDP)の6割前後を占める個人消費とそれを裏付ける給与増を二の次とし、外需(輸出)と政府支出の増加を優先して来たためと言えよう。外国為替も円安誘導が基調となって来たが、円安も輸出やインバウンドの海外観光客の増加にはプラスとなる一方、輸入価格の上昇により国内消費を抑制し、またドル・ベースの所得を引き下げ、所得の国際比較において順位を更に引き下げる結果となっている。
外需(輸出)と政府支出の増加に重点を置いて経済成長を図るという従来型の経済モデルは高度成長期以来経済を牽引して来たが、賃金の抑制と1,220兆円という国内総生産の2倍を上回る公的債務の増加を招き、政府支出も伸びきった状態になっている。
給与増は言うまでも無く企業、特に中小企業の利益を圧迫し経営側にとって悩ましい問題であるが、国内需要を支える給与増は今後の安定的経営に必要であるので、経済界全体として給与増(役員報酬を含む)により個人消費の増加を図ることの重要性を理解し、経済モデルの転換を図って行くことが不可欠となっている。
中小、零細企業の中には大手企業等の下請けとなっているものも少なくないが、大手企業は国内需要の底上げを図るため、中小、零細企業の賃上げの相当分を価格に反映することを容認することが望まれる。また政府は、中小、零細企業の賃上げを促進するため賃金改善調整金(仮称)を給付するなど、賃金増を促進する予算措置を講じることも不可欠であろう。
世界経済も不透明性を増すと共に、成長を牽引する国も多くを期待出来ない時期にあるので、給与増により個人消費・需要増を図る経済モデルへの転換が急務である。(2023.8.8.Copy Rights Reserved.)
地球温暖化対策で米国はリーダーシップを取れるか (その1)再掲
はじめに 厳戒態勢下のパリで開催されていた地球温暖化への対応に関する国連会議(COP21)は、12月12日、新たな枠組みを規定する「パリ協定」を採択した。温暖化の原因とされる炭酸ガス排出大国である米国や中国始め、先進工業国及び発展途上国を含む全ての国連加盟国が温室効果ガスの削減に取り組むことに同意した初めての枠組みなる歴史的な合意と言えよう。パリ協定は、米国等の不支持により形骸化した京都議定書を18年振りで塗り替えるもので、‘気温上昇を産業革命前に比べて摂氏1.5度の上昇に抑えるよう努力するとし、世界全体の温室効果ガスの排出量を減少させ、今世紀後半には実質的にゼロにするよう削減に取り組む’こととすると共に、‘途上国も含めた全ての国が5年毎に温室効果ガスの削減目標を国連に提出し、対策を進めることが義務付けている。’
しかしこの協定は、今後世界が温室効果ガス削減、温暖化抑制に向けての出発点でしかなく、炭酸ガス排出大国である米・中両国やEU、日本などの先進工業国、インド、ロシア、ブラジルなどの新興工業国などの主要炭酸ガス排出国がどのような削減計画を策定し、現実に実施するかに掛かっている。その観点からは、G20諸国が具体的にどのようにこの協定を具体化して行くかが注目される。その上で炭酸ガス排出大国である米国や中国が重要な役割を果たすことが期待されるが、今後の動向を見る参考として、今回の合意前から掲載している本稿を引き続き掲載したい。
現在、世界の気候は不安定な動きをする共に荒々しさと破壊力を強めている。温暖化の速度、原因などについては議論が分かれている。どの説を取るかは別として、着実に進んでいる事実がある。このブログでも述べてきたが、北極海の氷原が夏期に融けて縮小していることだ。北極海で起きていることは、南極大陸でも同様に大陸を覆う氷原や氷河が急速に融けている。それが海流の動きを変化させると共に、水温が上がり、上昇気流となり、気流に大きな変化とエネルギーを与えるのだろう。現在、日本はもとより世界各地で気流や海流の動きや温度がこれまでのパターンでは予測できない荒々しい動きを示しており、巨大なエネルギーとなって東アジアでの台風やカリブ沿岸でのハリケーン、そして南太平洋のサイクロンとして猛威を振るっている。また局地的な豪雨や突風・竜巻、日照りや干ばつ、豪雪や吹雪などにより従来の想定を越えた被害を出している。そして国連の専門家グループ(気象変動に関する政府間パネルーIPCC)により、干ばつなどによる食糧生産の減少、大都市部での洪水、異常気象によるインフラ機能の停止など、温暖化が進むリスクが指摘されている。地球環境は、近年経験したことがない局面に入っていると言えよう。
オバマ大統領は、就任以来地球温暖化問題に積極的に取り組む姿勢を示しているが、7月30日、“きれいな発電計画(Clean Power Plan)”を発表し、発電所から排出される“二酸化炭素を2030年までに2005年を水準として32%削減”することを表明した。オバマ大統領は、この削減目標を設定する一方、“きれいな発電計画”の枠組みの下で各州が独自の実施計画を進めることが可能であるとしつつ、これまで進められている太陽電池や風力発電などの再生可能エネルギー、エネルギー効率の促進をベースとして、‘きれいなエネルギー’を更に進めるための長期的な投資などの諸措置を掲げ、米国の気候変動への対応におけるリーダーシップを継続するとしている。
米国はブッシュ共和党政権以降、温暖化ガス削減に向けての数値目標設定に消極的であったことから、“二酸化炭素を2030年までに32%削減”する数値目標を掲げた“きれいな発電計画(Clean Power Plan)”は野心的で歴史的であるが、米国がこの計画を達成出来るのか、そして地球温暖化に対する国際的な取り組みにリーダーシップを発揮できるのかが注目されるところである。
2015年12月、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)がパリで開催予定であり、2020年以降の新しい温暖化対策の枠組みにつき審議されることになっている。温暖化ガス削減に向けての数値目標に合意している米・中両国、そして環境先進国とも言える欧州連合(EU)が中心となって新たな枠組みに合意点を見出せるのか。地球の将来は、米国をはじめとする各国のこの問題の重大性への理解と解決努力に掛かっていると言っても過言ではない。
1、米国は“きれいな発電計画”を実施に移せるか
オバマ政権のこのような二酸化炭素削減目標に対し、主として電力・石炭業界や共和党を中心として根強い反対がある。オバマ大統領の本件目標が発表された直後に、共和党系のウエスト・ヴァージニア州の検事総長から強い異議が唱えられており、共和党系の15州は共同して反対する姿勢が示されている。またブッシュ政権において米国環境保護庁の法律顧問を務めたR. マーテラ・グループなども活動を開始している。
既に2014年には、30余りの関係企業法律顧問やロビイスト、共和党戦略担当がワシントンにある米国商工会議所で定期的に会合し、オバマ政権から提案されるであろう温暖化防止規制の廃止に向けて法的戦略を検討して来ているようだ。オバマ政権は、2016年11月の大統領選挙まで残すところ1年数か月となっており、新たな法案を実現する期間が限られている上、米国議会は上下両院とも共和党が多数を占めているので“二酸化炭素を2030年までに32%削減”する数値目標を具体化するのは容易ではない。
もっとも、環太平洋経済連携協定(TPP)の大統領への交渉権限付与につき、民主党内で労働組合支持勢力が反対の姿勢を示していたのに対し、オバマ政権は共和党の支持勢力を取り込んで実現しているので、同大統領がリーダーシップを発揮する余地はある。この点は日本の国会運営においても、両院協議会などの弾力的な活用によって与野党間の協議を通じ対立点を調整することが望まれるところであり、学ぶべき点がありそうだ。
明年の米国の大統領選挙で共和党候補が勝利し、共和党政権が誕生することになれば地球温暖化問題への取り組みは振り出しに戻る可能性が強いので、オバマ大統領が残る1年強の任期において、どこまでリーダーシップを発揮できるか注目されるところである。
他方、温暖化防止規制に反対する業界や共和党グループとしても、激甚化する気候変動やその原因とされる地球温暖化への対応策を示す社会的責任があると共に、恐らく2016年11月の米国の大統領選挙の現実的な争点の一つとなって行くと見られるので、共和党としても対応が迫られることになろう。
2、二酸化炭素削減に関する米・中合意の行方 (その2に掲載)
3、注目される日本の環境対策 (その3に掲載)
(2015.8.27.)(All Rights Reserved.)
地球温暖化ー融ける氷海、氷河と荒れる気候変動は止められるか <再掲>
2015年3月14日から18日まで、第3回国連防災世界会議が仙台で開催された。東北大地震・大津波から5年目を迎えるこの時期に、大震災の経験と教訓をこの地から世界へ伝え、対応を考えることは大変意義があったと言えよう。他方、折しも南太平洋のバヌアツを大型サイクロン「パム」が襲い大きな被害を出していたが、根本的な原因の一つである荒れる気候変動、温暖化への対応については、途上国側は先進工業国の責任を強調し、国際的な対応を主張する先進工業国と対立し、抜本的な対応については平行線のままで終わった。しかしその間にも海水温は上がり、海流は変化し、地球の気候は悪化している。地殻変動は止められず、被害を防ぐしかないが、気候の劣化については世界が協力すれば止められる。気候の劣化に大きく影響する海や海流の温度や流れは、温度差に敏感な漁業資源にも影響する。何時までも平行線の議論をしている時ではなく、世界が具体的に行動する時期ではないのだろうか。世界のリーダーがこの問題に真剣に向き合うべき時のようだ。
国連の「気象変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第2作業部会は、横浜で地球温暖化の影響を検討し、2014年3月31日、報告書を取りまとめた。その中で「全ての大陸と海洋で、温暖化の重要な影響が観測されている」との認識の下で、“北極海の海氷や世界各地域における珊瑚礁は後戻り困難な影響を既に受けている”などとして生態系や人間社会への影響を指摘している。そして温暖化が進むリスクとして、世界的な気温の上昇、干ばつなどによる食糧生産の減少、大都市部での洪水、異常気象によるインフラ機能の停止などを盛り込んでいる。当コラムも、北極海の海氷の融解と縮小ブログでもこのような状況を2008年頃から指摘して来ているが、それが国際的に理解され始めたと言えよう。
日本の地球温暖化への取り組みについては、環境省は、日本の温室効果ガスの削減目標を2020年度までに2005年度比で3.8%減とする方針である。温室効果ガスの削減目標については、民主党政権が2020年度までに“1990年度比で25%削減”との目標を提示し、国連総会でも表明している。環境省の上記の目標は、基準年を2005年としているが、1990年度比で換算すると逆に約3%増となるとされており、後退感が否めない。政府当局は、‘原子力発電が再稼働されれば高い目標に修正する’としている趣であるが、果たして原子力発電頼みで良いのであろうか。
1、意見が分かれる地球温暖化の原因
温暖化の速度、原因などについては議論が分かれている。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。国連の「気候変動に関する政府間パネル」が出した07年の第4次評価報告書でも、“ヒマラヤの氷河は2035年までに解けてなくなる可能性が強い”と指摘している。同グループはゴア米元副大統領と共にノーベル賞を受賞したが、氷河学者からは300mもの厚さの氷河がそんなに早くは融けないとの疑問が呈され、同グループがそれを認めるなど、信憑性が疑われている。地球がミニ氷河期に入っているとの説もある。
2、荒れる世界の気候
どの説を取るかは別として、着実に進んでいる事実がある。北極海の氷原が夏期に融けて縮小していることだ。衛星写真でも、08年においては6月末頃までは陸地まで氷海で覆われていたが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能となる。その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。6、7年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。また南極大陸などでは氷原がとけ、南極海に流れ出し海洋の水位を上げている。
これは今起きている現実である。短期的には夏の一定期間航行が可能になり、商業航路や観光、北極圏開発のビジネスチャンスが広がる。
他方それは温暖化への警告でもある。北極の氷海縮小は、気流や海流による冷却効果を失わせ、地球温暖化を早め、海流や気流が激変し気候変動を激化させる恐れがある。氷海が融ければ白熊や微生物などの希少生物も死滅して行く。取り戻すことは出来ない。北極圏の環境悪化は、米、露など沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えている。
現在、日本はもとより世界各地で気流や海流の動きや温度がこれまでのパターンでは予測できない荒々しい動きを示しており、局地的な豪雨や突風・竜巻、日照りや干ばつ、豪雪や吹雪などにより従来の想定を越えた被害を出している。それが世界各地で今起こっている。地球環境は、近年経験したことがない局面に入っていると言えよう。
3、国際的な保護を必要とする北極圏と南極大陸
同時に忘れてはならないのは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。またヒマラヤやアルプス、キリマンジェロ等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
北極圏も南極同様、人類の共通の資産と位置付け、大陸棚の領有権や「線引き」の凍結や北極圏の一定の範囲を世界遺産に指定するなど、国際的な保護が必要だ。
4、必要とされる政府レベルの対応と生活スタイルの転換
それ以上に、地球温暖化の進行や気候変動の激化を食い止め、地球環境を保護、改善する必要性に今一度目を向けることが緊要ではないだろうか。それはこの地球自体を人類共通の遺産として保全することを意味する。
地球環境は、政府に委ねておけば良いというものではなく、家庭や産業自体が工夫、努力しなくては改善できない。比喩的に言うと、家庭で使用する電球を10個から7個にすれば日常生活にそれほど不自由することなく節電できる。企業やオフィスビルなどについても同様で、節電を図ればコスト削減にもなり、企業利益にもプラスとなる。レジ袋や必要以上の過剰な食物などを少なくして行けば生産に要するエネルギーの節約となる。また日本が環境技術先進国と言うのであれば、自然エネルギーの組織的な開発、活用や節エネ技術の更なる開発などで温室効果ガスの削減にそれぞれの立場から努力、貢献することが出来るのではないだろうか。またそのような努力から、地球環境にもプラスとなる生活スタイルやビジネスチャンスが生まれることが期待される。
しかし、政府や産業レベルでの対応は不可欠であろう。経済成長についても、温室効果ガスの減少を目標とし、再生可能エネルギーに重点を当てた成長モデルを構築する事が望まれる。原子力発電については、段階的に廃止することを明確にすると共に、再稼働に関しては、施設の安全性を確保する一方、各種の膨大な原子力廃棄物の最終的な処理方法を確立することがまず必要であろう。
その上でリーダーシップが期待されるのは、環境問題に関心が強い欧州諸国であるが、温暖化ガス排出量が世界の1位、2位を占める中国と米国の積極的な姿勢と取り組みが不可欠である。特に2期目を目指すトランプ米大統領が、地球環境問題について具体的な取り組み姿勢を示すべきと言えよう。
5、途上国開発援助の在り方の抜本的見直しの必要性
また途上国援助においても、従来型の重厚長大なインフラ開発・整備ではなく、再生可能エネルギーを使用するなど、温室効果ガスの排出が少ない経済社会の構築を目標とする開発モデルや政府開発援助(ODA)モデルとして行くことが望まれる。
国連自体も、経済社会理事会を中心として、アフリカ諸国の安定を含め必ずしも成功とは言えない「開発の10年」の見直しなど、途上国援助の在り方を抜本的に見直すと共の、世界食糧計画や難民高等弁務官など各種の専門機関を通じて相対的に潤沢に行われて来た人道援助や食糧援助についても、人口抑制の側面を含め抜本的、総合的に再検討する必要がありそうだ。そもそも援助する側もこれまでの高成長の維持は困難であり、経済的体力が低下しているので、これまでのような援助を継続して行くことは困難であろう。それに加え、温暖化問題への対応が必要となるので、国際的な調整が必要になっている。
各国ごとの援助姿勢についても、現在中国が、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が設立され、中国主導の「一帯一路」政策が推進される体制が整った。それが途上国における従来型の長大重工型、大量のエネルギー消費型のインフラ建設に投資されていくとすると地球環境の悪化に繋がることになるので、温室効果ガスの減少につながる環境改善インフラへの投資促進となることが望ましい。「一帯一路」政策もその在り方が再検討される必要があろう。中国自体も、これまでのような高成長、高エネルギー消費の経済成長を継続すれば、いずれ住めない大陸となる恐れもある。(2014.3.31./15.4.3.改定/19. 6.12.再改定)(All Rights Reserved.)
地球温暖化ー融ける氷海、氷河と荒れる気候変動は止められるか <再掲>
2015年3月14日から18日まで、第3回国連防災世界会議が仙台で開催された。東北大地震・大津波から5年目を迎えるこの時期に、大震災の経験と教訓をこの地から世界へ伝え、対応を考えることは大変意義があったと言えよう。他方、折しも南太平洋のバヌアツを大型サイクロン「パム」が襲い大きな被害を出していたが、根本的な原因の一つである荒れる気候変動、温暖化への対応については、途上国側は先進工業国の責任を強調し、国際的な対応を主張する先進工業国と対立し、抜本的な対応については平行線のままで終わった。しかしその間にも海水温は上がり、海流は変化し、地球の気候は悪化している。地殻変動は止められず、被害を防ぐしかないが、気候の劣化については世界が協力すれば止められる。気候の劣化に大きく影響する海や海流の温度や流れは、温度差に敏感な漁業資源にも影響する。何時までも平行線の議論をしている時ではなく、世界が具体的に行動する時期ではないのだろうか。世界のリーダーがこの問題に真剣に向き合うべき時のようだ。
国連の「気象変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第2作業部会は、横浜で地球温暖化の影響を検討し、2014年3月31日、報告書を取りまとめた。その中で「全ての大陸と海洋で、温暖化の重要な影響が観測されている」との認識の下で、“北極海の海氷や世界各地域における珊瑚礁は後戻り困難な影響を既に受けている”などとして生態系や人間社会への影響を指摘している。そして温暖化が進むリスクとして、世界的な気温の上昇、干ばつなどによる食糧生産の減少、大都市部での洪水、異常気象によるインフラ機能の停止などを盛り込んでいる。当コラムも、北極海の海氷の融解と縮小ブログでもこのような状況を2008年頃から指摘して来ているが、それが国際的に理解され始めたと言えよう。
日本の地球温暖化への取り組みについては、環境省は、日本の温室効果ガスの削減目標を2020年度までに2005年度比で3.8%減とする方針である。温室効果ガスの削減目標については、民主党政権が2020年度までに“1990年度比で25%削減”との目標を提示し、国連総会でも表明している。環境省の上記の目標は、基準年を2005年としているが、1990年度比で換算すると逆に約3%増となるとされており、後退感が否めない。政府当局は、‘原子力発電が再稼働されれば高い目標に修正する’としている趣であるが、果たして原子力発電頼みで良いのであろうか。
1、意見が分かれる地球温暖化の原因
温暖化の速度、原因などについては議論が分かれている。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。国連の「気候変動に関する政府間パネル」が出した07年の第4次評価報告書でも、“ヒマラヤの氷河は2035年までに解けてなくなる可能性が強い”と指摘している。同グループはゴア米元副大統領と共にノーベル賞を受賞したが、氷河学者からは300mもの厚さの氷河がそんなに早くは融けないとの疑問が呈され、同グループがそれを認めるなど、信憑性が疑われている。地球がミニ氷河期に入っているとの説もある。
2、荒れる世界の気候
どの説を取るかは別として、着実に進んでいる事実がある。北極海の氷原が夏期に融けて縮小していることだ。衛星写真でも、08年においては6月末頃までは陸地まで氷海で覆われていたが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能となる。その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。6、7年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。また南極大陸などでは氷原がとけ、南極海に流れ出し海洋の水位を上げている。
これは今起きている現実である。短期的には夏の一定期間航行が可能になり、商業航路や観光、北極圏開発のビジネスチャンスが広がる。
他方それは温暖化への警告でもある。北極の氷海縮小は、気流や海流による冷却効果を失わせ、地球温暖化を早め、海流や気流が激変し気候変動を激化させる恐れがある。氷海が融ければ白熊や微生物などの希少生物も死滅して行く。取り戻すことは出来ない。北極圏の環境悪化は、米、露など沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えている。
現在、日本はもとより世界各地で気流や海流の動きや温度がこれまでのパターンでは予測できない荒々しい動きを示しており、局地的な豪雨や突風・竜巻、日照りや干ばつ、豪雪や吹雪などにより従来の想定を越えた被害を出している。それが世界各地で今起こっている。地球環境は、近年経験したことがない局面に入っていると言えよう。
3、国際的な保護を必要とする北極圏と南極大陸
同時に忘れてはならないのは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。またヒマラヤやアルプス、キリマンジェロ等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
北極圏も南極同様、人類の共通の資産と位置付け、大陸棚の領有権や「線引き」の凍結や北極圏の一定の範囲を世界遺産に指定するなど、国際的な保護が必要だ。
4、必要とされる政府レベルの対応と生活スタイルの転換
それ以上に、地球温暖化の進行や気候変動の激化を食い止め、地球環境を保護、改善する必要性に今一度目を向けることが緊要ではないだろうか。それはこの地球自体を人類共通の遺産として保全することを意味する。
地球環境は、政府に委ねておけば良いというものではなく、家庭や産業自体が工夫、努力しなくては改善できない。比喩的に言うと、家庭で使用する電球を10個から7個にすれば日常生活にそれほど不自由することなく節電できる。企業やオフィスビルなどについても同様で、節電を図ればコスト削減にもなり、企業利益にもプラスとなる。レジ袋や必要以上の過剰な食物などを少なくして行けば生産に要するエネルギーの節約となる。また日本が環境技術先進国と言うのであれば、自然エネルギーの組織的な開発、活用や節エネ技術の更なる開発などで温室効果ガスの削減にそれぞれの立場から努力、貢献することが出来るのではないだろうか。またそのような努力から、地球環境にもプラスとなる生活スタイルやビジネスチャンスが生まれることが期待される。
しかし、政府や産業レベルでの対応は不可欠であろう。経済成長についても、温室効果ガスの減少を目標とし、再生可能エネルギーに重点を当てた成長モデルを構築する事が望まれる。原子力発電については、段階的に廃止することを明確にすると共に、再稼働に関しては、施設の安全性を確保する一方、各種の膨大な原子力廃棄物の最終的な処理方法を確立することがまず必要であろう。
その上でリーダーシップが期待されるのは、環境問題に関心が強い欧州諸国であるが、温暖化ガス排出量が世界の1位、2位を占める中国と米国の積極的な姿勢と取り組みが不可欠である。特に2期目を目指すトランプ米大統領が、地球環境問題について具体的な取り組み姿勢を示すべきと言えよう。
5、途上国開発援助の在り方の抜本的見直しの必要性
また途上国援助においても、従来型の重厚長大なインフラ開発・整備ではなく、再生可能エネルギーを使用するなど、温室効果ガスの排出が少ない経済社会の構築を目標とする開発モデルや政府開発援助(ODA)モデルとして行くことが望まれる。
国連自体も、経済社会理事会を中心として、アフリカ諸国の安定を含め必ずしも成功とは言えない「開発の10年」の見直しなど、途上国援助の在り方を抜本的に見直すと共の、世界食糧計画や難民高等弁務官など各種の専門機関を通じて相対的に潤沢に行われて来た人道援助や食糧援助についても、人口抑制の側面を含め抜本的、総合的に再検討する必要がありそうだ。そもそも援助する側もこれまでの高成長の維持は困難であり、経済的体力が低下しているので、これまでのような援助を継続して行くことは困難であろう。それに加え、温暖化問題への対応が必要となるので、国際的な調整が必要になっている。
各国ごとの援助姿勢についても、現在中国が、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が設立され、中国主導の「一帯一路」政策が推進される体制が整った。それが途上国における従来型の長大重工型、大量のエネルギー消費型のインフラ建設に投資されていくとすると地球環境の悪化に繋がることになるので、温室効果ガスの減少につながる環境改善インフラへの投資促進となることが望ましい。「一帯一路」政策もその在り方が再検討される必要があろう。中国自体も、これまでのような高成長、高エネルギー消費の経済成長を継続すれば、いずれ住めない大陸となる恐れもある。(2014.3.31./15.4.3.改定/19. 6.12.再改定)(All Rights Reserved.)
給与増で国内消費増を図る経済モデルへの転換が急務
1、賃金上昇は歓迎も物価高騰で減殺
2023年7月に時給ベースの最低賃金が41円引き挙げられ、平均1002円となったことを歓迎する。反面、31年振りの4.2%レベルの引上げであり、31年もの長期に亘り最低賃金が抑えられて来たことを意味する。その上消費者物価が2020年比で総合5.2%増の高騰を示し、2013年以来の日銀のインフ目標2%を大きく上回る形となるので、実質賃金はマイナスとなる。
春闘による正規社員を中心とする賃上げ率も平均3.58%で、30年振りで歓迎されるが、反面賃金は30年以上低迷していたことを示すものである。その上政府・日銀が2013年以来容認して来た物価高騰で帳消しとなり、実質所得は2023年もマイナスとなることが予想される。
2、給与増で個人消費・需要増を図る経済モデルへの転換が必要
これは経済界が、高度経済成長期以来一貫して国民総生産(GDP)の6割前後を占める個人消費とそれを裏付ける給与増を二の次とし、外需(輸出)と政府支出の増加を優先して来たためと言えよう。外国為替も円安誘導が基調となって来たが、円安も輸出やインバウンドの海外観光客の増加にはプラスとなる一方、輸入価格の上昇により国内消費を抑制し、またドル・ベースの所得を引き下げ、所得の国際比較において順位を更に引き下げる結果となっている。
外需(輸出)と政府支出の増加に重点を置いて経済成長を図るという従来型の経済モデルは高度成長期以来経済を牽引して来たが、賃金の抑制と1,220兆円という国内総生産の2倍を上回る公的債務の増加を招き、政府支出も伸びきった状態になっている。
給与増は言うまでも無く企業、特に中小企業の利益を圧迫し経営側にとって悩ましい問題であるが、国内需要を支える給与増は今後の安定的経営に必要であるので、経済界全体として給与増(役員報酬を含む)により個人消費の増加を図ることの重要性を理解し、経済モデルの転換を図って行くことが不可欠となっている。
中小、零細企業の中には大手企業等の下請けとなっているものも少なくないが、大手企業は国内需要の底上げを図るため、中小、零細企業の賃上げの相当分を価格に反映することを容認することが望まれる。また政府は、中小、零細企業の賃上げを促進するため賃金改善調整金(仮称)を給付するなど、賃金増を促進する予算措置を講じることも不可欠であろう。
世界経済も不透明性を増すと共に、成長を牽引する国も多くを期待出来ない時期にあるので、給与増により個人消費・需要増を図る経済モデルへの転換が急務である。(2023.8.8.Copy Rights Reserved.)
ガソリン税暫定税率の廃止は今後の日本の制度設計を考える好機(その1/3)(再掲)
一般財源化に踏み込んだ点は評価出来るが、民主党を中心とする野党は、暫定税率の廃止を主張しており、3月末で暫定税率は廃止(ガソリン1リッター当たり25円強の減税)されることとなった。
与野党は、道路財源を除く租税特別措置については、5月末まで2ヶ月間延長する「つなぎ法案」に合意し、同法案は31日午後採択された。また、政府は、暫定税率廃止に伴う地方自治体の税収減を見越して、4月分として相当額(地方相当分600億円)を補填する意向を表明している。
08年度予算は既に成立しているので、少なくても5月末までは暫定税率など(約2.6兆円)を除き、国民生活の混乱は回避されることになる。しかし、これで基本的な問題が解決されたわけではなく、道路特定財源の08年度以降の取り扱いと、一般源化や財源の配分問題などについて国会の内外において与野党間で真剣に協議されなくてはならない。
1、徴税による所得の移転か減税による納税者への還元か
暫定税率2.6兆円分が廃止になると地方の道路事業への配分もなくなるので、多くの地方公共団体はその分地方予算に穴があくとして、暫定税率の維持を支持している。一部の地方道路事業は凍結され始めている。しかし、配分されても道路事業に特定されているので、全国のユーザー(納税者)から徴税された額は直接には道路建設業の所得として移転され、地方業者の所得となる。また、地方の財源確保の問題と道路に特定された暫定税率を維持することは別問題であり、地方の財源確保という観点からは事業を特定しない補助金や税源の地方への委譲などを制度として検討すべきなのであろう。
他方廃止されると、地方を含め、ユーザーにその分(ガソリン1リッターにつき約25円、軽油約17円など)還元される。ユーザーは、タクシー、バス、トラック等の運送・流通業者から、自家用車その他個人消費者に亘るので、地域に関係なく、納税者に還元される。地方の長距離輸送に従事している業者にも大きなコスト減となり、輸送・流通コストの削減効果もあり、物価高を抑える効果として一般国民に良い影響が期待される。この効果は地方住民にも共有され、家計がその分楽になり、消費を助けると共に、地方の輸送・流通業も潤い、事業所得税などとして地方公共団体にもある程度プラスになると期待される。
なお、石油価格を下げるとユーザーに自動車の使用を促進するようなものであり、「地球環境問題」への国際的な動きに反するとの指摘は、一面では正しいが、一層の原油高を容認することにもなり兼ねない。また消費者物価がじわりと上昇している中で、ユーザーが必要以上に石油消費を増やすことはないと予想される一方、暫定税率を維持し、ガソリンを喰う高速道路を造り続けることが「地球環境問題」に貢献するとも思えない。
日本のガソリンは安いという指摘も、米国よりも高いし、欧州ではガソリンよりも安いデイーゼルに需要が移っている。更に、欧米と日本の顕著な相違は、欧米では一部の例外を除き、道路は無料であるのに対し、日本においては暫定税率を長期に課し、税金で建設した高速度道路に高額の通行料を徴収しており、2重に国民の負担を強いていることであり、単純にガソリン価格のみを比較するのはフェアーではないのであろう。
これらの点は、国民経済の中でどのような分野、国民層に政策の重点を置くかという選択の問題だ。 (Copy Right Reserved.)
給与増で国内消費増を図る経済モデルへの転換が急務
1、賃金上昇は歓迎も物価高騰で減殺
2023年7月に時給ベースの最低賃金が41円引き挙げられ、平均1002円となったことを歓迎する。反面、31年振りの4.2%レベルの引上げであり、31年もの長期に亘り最低賃金が抑えられて来たことを意味する。その上消費者物価が2020年比で総合5.2%増の高騰を示し、2013年以来の日銀のインフ目標2%を大きく上回る形となるので、実質賃金はマイナスとなる。
春闘による正規社員を中心とする賃上げ率も平均3.58%で、30年振りで歓迎されるが、反面賃金は30年以上低迷していたことを示すものである。その上政府・日銀が2013年以来容認して来た物価高騰で帳消しとなり、実質所得は2023年もマイナスとなることが予想される。
2、給与増で個人消費・需要増を図る経済モデルへの転換が必要
これは経済界が、高度経済成長期以来一貫して国民総生産(GDP)の6割前後を占める個人消費とそれを裏付ける給与増を二の次とし、外需(輸出)と政府支出の増加を優先して来たためと言えよう。外国為替も円安誘導が基調となって来たが、円安も輸出やインバウンドの海外観光客の増加にはプラスとなる一方、輸入価格の上昇により国内消費を抑制し、またドル・ベースの所得を引き下げ、所得の国際比較において順位を更に引き下げる結果となっている。
外需(輸出)と政府支出の増加に重点を置いて経済成長を図るという従来型の経済モデルは高度成長期以来経済を牽引して来たが、賃金の抑制と1,220兆円という国内総生産の2倍を上回る公的債務の増加を招き、政府支出も伸びきった状態になっている。
給与増は言うまでも無く企業、特に中小企業の利益を圧迫し経営側にとって悩ましい問題であるが、国内需要を支える給与増は今後の安定的経営に必要であるので、経済界全体として給与増(役員報酬を含む)により個人消費の増加を図ることの重要性を理解し、経済モデルの転換を図って行くことが不可欠となっている。
中小、零細企業の中には大手企業等の下請けとなっているものも少なくないが、大手企業は国内需要の底上げを図るため、中小、零細企業の賃上げの相当分を価格に反映することを容認することが望まれる。また政府は、中小、零細企業の賃上げを促進するため賃金改善調整金(仮称)を給付するなど、賃金増を促進する予算措置を講じることも不可欠であろう。
世界経済も不透明性を増すと共に、成長を牽引する国も多くを期待出来ない時期にあるので、給与増により個人消費・需要増を図る経済モデルへの転換が急務である。(2023.8.8.Copy Rights Reserved.)
竹島問題を大所高所から解決すべき時 (総合編)(再掲)
韓国の李明博大統領は、8月10日、ヘリコプターで竹島(韓国名独島)に上陸し視察した。竹島は島根県に属するが、李承晩・大韓民国(韓国)大統領が、1952年1月18日、「海洋主権」を宣言し、周辺海域に「漁船立ち入り禁止線」、通称「李承晩ライン」を設定し、同島は韓国の支配下にあると一方的に宣言して以来、日韓間の喉もとの小骨となっている。
今回の李明博韓国大統領の竹島上陸は日韓関係にとって信頼関係を損ねる極めて深刻な行為であり、日本としても重大な決意を持って竹島問題の解決に努めるべきであろう。
1、日韓の古くからの接点、竹島(独島)の歴史
同島は、東西2つの岩礁島からなっており、日比谷公園と同程度の面積しかなく、また定住出来るような環境にはないが、1905年1月28日、日本政府は、閣議で「竹島」と命名し、「島根県隠岐島司」の所管とした。日本が、韓国(大韓帝国)を併合(1910年8月)した5年以上も前のことであり、日本の植民地支配や慰安婦問題などとは関係がない。
同島を巡る日韓両国の交流は、両国の沿岸漁民を中心として江戸時代初期頃からあり、この頃より周辺海域での接触、紛争が活発になって来たとの記録が残っている。また1849年、フランスの捕鯨船Liancourt号が同島を発見し、リアンクール島と名付け、その後日本では、「りゃんこ島」とか「リアンクール岩」とも呼ばれたことがあるようで、同島(岩礁)を巡る両国の交流の歴史にも混同がありそうだ。因みに、米国国務省がホーム・ページで公表している各国別地図では、日韓双方に、Liancourt Rocks(リアンコート岩礁)の名称で記載している。
同島が両国の古来からの接触の「最外延点」であるという歴史的背景を踏まえ、同島問題の解決を真剣に模索すべき時期に来たと言えよう。
2、「日韓新時代」は竹島(独島)問題の早期解決が鍵
竹島の帰属問題は、日本政府としては1954年、1962年に国際司法裁判所に付託することを韓国側に提案し来ているが、韓国政府が同意していないため実現していない。
今回についても韓国政府は、国際司法裁判所への付託を拒否する姿勢が伝えられている一方、これを受けて日本政府は、経済的影響を考慮し対応を慎重に検討するとしている。しかし韓国大統領の竹島上陸は、日韓両国政府の信頼関係を著しく損なう行動であるので、この行動が日韓関係に影響を与えないはずがない。竹島は日本の領土であるのでしっかりと主張し、短期的に両国関係に影響することがあるとしても、毅然としてあらゆる措置、対策を取るべきであろう。言葉や標語だけの外交や、問題先送りにより事態の改善をもたらすことはないことが、李大統領の今回の同島訪問で明らかになった。影響を恐れて従来のような事なかれ外交を繰り返すことは、韓国側に日本は従来通り何も出来ない、何もしないとの誤ったメッセージを送り、現状を事実上容認することになる恐れが強い。従来の措置を超える明確且つ具体的な措置を検討、実施すべきであろう。
領土の保全は、国家、国民の存立の基礎であり、安全保障、防衛の基本的な役割である。従って、韓国政府が竹島を巡る領有権問題で日本の利益を害する行動を継続するのであれば、日韓間の防衛協力については実務的な情報交換や信頼醸成措置程度に止める一方、日本自身の領土保全、安全保障に重点をシフトするなど、防衛政策の転換を真剣に検討すべきであろう。
他方、日韓両国は近年において経済の相互依存関係を強め、また民間レベルの文化・芸能交流などが深まっているので、このような民間レベルの日韓交流に影響を与えないよう留意しつつ、国際司法裁判所への付託を含め、首脳レベルでの協議を打診し、常に本件協議への門戸を開放しておく一方、一般的な首脳レベルでの交流を停止する。また日韓経済連携協議の凍結や金融・資本、高度技術分野などでの政府レベルの交流、協力を抑制するなど、竹島問題の解決に向けて明確なメッセージを送り続けるべきであろう。
但し2国間関係は相互の努力で発展するものであるので、日本だけではなく、韓国の官民もこの問題が民間レベルの交流に影響を与えないよう努力することを期待したい。この関連で、日韓間の議員交流を超党派での交流を含めもっと頻繁に行うことが望ましい。
この問題の解決なくして「日韓新時代」は実体が伴わない標語に過ぎない。
3、模索すべき大所高所からの解決策
米国国務省公開文書「1964年から68年米国の外交関係29編」に基づけば、同島の「日韓共同所有案」について、1965年5月17日、訪米した朴大統領(当時)に対し、ラスク米国務長官が、解決に向けての方策として提案したが、朴大統領は「あるまじきこと」として固辞した旨伝えられている。またその後、米国は韓国に対し同島問題を議題として韓日外相会談を提案したが、同大統領の受け入れるところにはならなかったとされている。
共同所有案にしても、共同管理・分割領有にしても、両国国内の世論等もあり困難が伴うと予想されるが、日韓関係は当時とは異なっている。日韓両国は、1965年6月22日に日韓基本条約を締結し、国交を正常化すると共に、戦後請求権問題も経済協力等の形で処理し、基本的な友好関係の枠組みもそれなりに確立しており、市民レベルの交流も盛り上がりを見せている。今後日韓関係が健全に発展するか、阻害されるかが、竹島問題解決への両国首脳のリーダーシップと大所高所からの英断に掛かっていると言えよう。(2012.08.14.)
(Copy Right Reserved.)(不許無断転載・引用)
北朝鮮は米韓共同軍事演習への対抗措置を画策か!? (総合編)(再掲)
北朝鮮は、2013年12月、金正恩体制への反逆行為として張成沢国防副委員長を処刑するなど、その関係者、親族を粛清し、その後の動向が注目されていた。その中で1月16日、北朝鮮国防委員会は、南北朝鮮間に良好な環境を作り出すためとして、旧正月が始まる1月30日以前に相互に批判し挑発し合うことを止め、軍事的な行為を中止するよう提案すると共に、米韓両国の共同軍事演習の中止を訴えた。
更に1月24日、北朝鮮国防委は、国防委委員長でもある金正恩第一書記の特別な指示として、祖国統一の新たな段階を開くため上記の提案に言及しつつ韓国当局ほか関係方面に宛てた公開書簡を公表した。
韓国政府はこれを誠意あるものではないとして拒否したが、北朝鮮は池在中国大使が記者会見を行い、この提案は真摯なものであり支持するよう訴えた。中国当局からもプレッシャーが掛けられていることが伺える。
その後北朝鮮は、韓国との南北離散家族再開事業を実施(2月20日から6日間)した他、日朝間においても、日朝赤十字会談(3月19日)や日朝政府間協議(3月30日、31日)を行うなど、融和姿勢を示す一方、短、中距離のミサイルの日本海向け発射などの示威行為を行い、硬軟両用の姿勢を示しており、その真意が注目されている。
1、米韓合同軍事演習への反発をあらわにする北朝鮮の狙い
このような北朝鮮側の米韓共同軍事演習の中止提案に対し、北朝鮮側が張成沢国防副委員長他の血の粛清後国際的に孤立化していることを受けての融和策、或いは経済的困難を回避するための和解姿勢など、ステレオタイプのコメントが多く聞かれた。
無論そのような狙いがあることは否定するものではない。しかし上記の2度に渡る提案を読み進めると、具体的には次の2点を要求している。
(1) 南北間に良好な環境を作り出すため、当面、米韓合同軍事演習(フオール・イーグル、及びキー・リゾルブ)を中止すること。
(2) 北朝鮮としては‘朝鮮半島の非核化’を共通の目標と考えるが、朝鮮半島に‘第3国の核’を持ち込まないこと。北朝鮮の核は米国の核の抑止のためであり、自衛のためにほかならない。
この要求から分かるように、北朝鮮の当面の狙いは2月下旬から実施されている米韓合同軍事演習の中止である。提案が北朝鮮の軍事委員会の名でなされていることも、軍事的な思惑からであることを物語っている。そもそももし北朝鮮側が、真に韓国側との融和を希望するのであれば、公式ルートを通じ静かに接触し、韓国側が対話に応じた時点で公表するであろう。
米韓合同軍事演習は、長年に亘り実施されているもので、韓国内及びその周辺で行われる大規模な演習であるが、北朝鮮側はその都度最大級の批判を繰り返して来ている。国内的にも、TVや労働党機関紙その他で米国、及び韓国による北朝鮮侵略の準備であり、北朝鮮はそのような攻撃があれば南を焦土とするなどとして、過剰とも思える反応を行っている。2013年においても同様だ。
2、北朝鮮の融和姿勢は本当か
このような中にあって北朝鮮は、2月20日から6日間、南北離散家族再開事業を3年ぶりに実施した。また日朝間においても、3月19日、瀋陽において日本人遺骨収集等に関する日朝赤十字会談を行い、また2012年11月以降中断していた日朝政府間協議を3月30日、31日に北京で行うと共に、横田めぐみさんの両親と孫に当たるヘギョンさんとの面会をモンゴルで実現するなど、融和姿勢を示している。
これらの動きから、北朝鮮は、国内での食糧不足や経済困難、中国との関係の後退などから、韓国や日本との関係改善を狙っていると言われている。特に日本については、日朝交渉を通じる拉致被害者問題の進展や制裁措置の部分的な緩和による交流の促進などが期待されていると言われている。
しかし日朝政府間協議は、‘真摯で率直な協議’が行われ、協議の継続で合意したものの、再開時期にも合意していない。政府間関係で‘真摯で率直な協議’との表現は、それぞれの立場、問題点を言い合うことを意味しており、それぞれの思惑で進展を期待しつつも、基本的に一致点がなかったことを意味している。政府間協議後の4月1日、北朝鮮側の代表宋氏は記者の質問に対し、朝鮮総連本部の入札による売却決定を許可したことに対し、‘この問題の解決なくして、日本との関係進展は必要ない’とのコメントを日本語で行っている。北朝鮮側の当面の関心が朝鮮総連本部の建物にあったことが明らかだ。既に落札され承認されているので、売却自体は実施されることになろうが、賃貸への便宜や代替地の提供などを求めて来る可能性がある。朝総連は、かねてより北朝鮮の日本での大使館或いは代表部としての機能を果たしていたとされているが、日朝両国には正式な外交関係はないので、朝総連のこのような機能、活動は認められるべきではない。朝総連のあり方等は、平和条約交渉の過程で協議されるべきであろう。
一方、国連人権理事会が設置した北朝鮮人権調査委は、2月に報告書を公表し、北朝鮮の拉致を含む人権侵害行為に対し[人道に対する罪」として非難すると共に、安全保障理事会に対し、国際的な刑事司法の枠組みで北朝鮮指導者の責任追及を検討するよう促した。そして人権理事会は3月28日、北朝鮮の人権侵害を非難する決議を採択した。このように北朝鮮の人権侵害、人道違反に関しては、2013年12月の粛清を含め国際世論の批判が強まっていることから、国際世論を和らげるための融和姿勢が必要だったとも言える。また北朝鮮は、国連専門機関から毎年のように受けている食料などの人道支援を確保するためにも融和姿勢を示す必要がある。もっとも、一方で経済制裁を行いながら、北朝鮮への食料などの人道支援を実施することには、矛盾があり、実施するにしても、実際に貧困層の人々の口に届くような確実且つモニターシステムを確立することが不可欠と言えよう。
3、北朝鮮の真の狙いは核、ミサイル開発の促進?!
今回の北朝鮮側の一連の米韓合同軍事演習の中止要求が韓国側により拒否され、米韓合同軍事演習が行われたため、北朝鮮側は、米韓による戦争準備が行われているなどとして非難を強め、自国防衛の一環と称して長距離ロケットや核兵器の開発、実験を加速する可能性が強い。既に北朝鮮側は、日本海に向け短距離ミサイルの発射(2月27日)、そして中距離ミサイル・ノドンの発射(3月26日)を実施すると共に、黄海に向けロケット砲の発射(3月31日)を行っている。また、長距離ロケットの発射台を設置し始めており、ウラン濃縮も再開されているなどと伝えられているので、北朝鮮は、今後の重要日程に合わせてミサイル、核実験を強行する恐れが強い。
南北間の環境改善に向けての北朝鮮の提案は、強硬姿勢を合理化するための国際世論向けのジェスチュアーと見られる。北朝鮮が今回中距離ミサイルの発射を行ったことに関し、国連安保理は2013年1月の安保理制裁決議に反するとして非難したことに対し、北朝鮮はこれに抗議した上、‘新たな形の核実験を行うことも排除されない’との外務省声明を発表している。
確かに南北朝鮮は未だに“休戦状態”であるので、軍事的には合同軍事演習は必要であろう。しかし北朝鮮側の極端な反応が予想されるのにも拘らず、何故朝鮮半島周辺で毎年のように大規模な軍事演習を行うのか。北朝鮮側も、軍事演習自体を否定はしていない。米国内か朝鮮半島から遥か離れたところで行うように促している。北朝鮮の核及びミサイルの開発実験問題については、1990年代中頃より各種の努力がなされているが、朝鮮半島周辺における大規模な米韓合同軍事演習は、北朝鮮側に核、ミサイル開発加速への口実を与え、既成事実を重ねさせ、事態を悪化させて来ているのではないだろうかろうか。
それだけでなく、1953年7月に締結された南北間休戦協定以来60年を越える休戦状態が継続し、和平が成立しない限り北朝鮮の先軍政治が継続するので、毎年行われる米韓の合同軍事演習は、北朝鮮に先軍政治を継続する格好な口実を与える結果ともなっている。
軍事的観点だけでなく、総合的な判断が求められよう。
(2014.04.10.)(All Rights Reserved.)