歳入構成が争点となる09年度予算
1月5日、通常国会が開催され、経済後退の中で今年度第2次補正予算に次いで09年度予算が審議される。
第2次補正については、石油安・物価安の中での2兆円を越える定額給付金の取り扱いなどを含め歳出の適当が審議されている。しかし、ネット・ベースで約4.8兆円規模の補正予算において、歳出の中身だけでなく、その根拠となる歳入の構成が問題となる。今年度の税収は、急速な景気後退のため、7.1兆円強の税収不足が計上されており、それを埋めるために、いわゆる「埋蔵金」(特別会計の余剰金)などの「税外収入」の他は、7.2兆円強の公債、即ち新たな国の借金で賄ことになっている。生活対策の一つとして総額2兆円強が家計に交付されるが、「景気対策」は必要としても、第2次補正のツケは国民、正確には次世代の負担となることを忘れてはならない。仮に、2兆円超の定額給付金を行わなければ、他の必要な施策に当てることも出来るが、その分だけ国の借金を減らし、次世代の負担増を回避することも出来る。
それ以上に、「景気対策」優先政策のため09年度予算規模を拡大するとしても、歳出を支える歳入のあり方が大きな問題となろう。
1、増加する国債依存度
第2次補正後に明年度予算が審議されることになるが、景気対策を継続する観点から、約88.5兆円、対前年度6.6%増の積極予算となっている。
しかし、税収についは、景気の後退から前年度当初見積もりから約7.5兆円減の46.1兆円の低水準となる。従って、税収不足を特別会計からの受け入れ(余剰金)など約5兆円の税外収入の他、33.3兆円の公債で賄うことになり、公債依存度は37.6%(08年度30.5%)と30%ラインを大幅に越えるものになっている。
改革を通じて経済成長を誘導した小泉政権において、06年7月、財政政策に関する基本方針として2011年度において国及び地方の基礎的財政収支(プライマリー・バランス)を黒字化することを決定している。国債発行額については明示されていないが、06年度において各年度30兆円未満に抑制する方針が決定されており、その後その方針は維持されて来た。
しかし、現在審議されている2次補正がそのまま採択されれば、公債発行額は今08年度から30兆円ラインを約2.5兆円上回ることになる。政府の経済予測では、現時点でゼロ成長と予想されているが、経済が回復しなければ09年度に新たな補正も必要となり、更なる公債発行が必要となる恐れがある。政府は、2011年度のプライマリー・バランスの達成を「努力目標」として維持するとはしているものの、事実上の政策転換と言えよう。
日本の公的債務は既に800兆円を越えており、GDP比は先進工業国の中では際立って高く、180%を超えている。金融危機の対応などに追われた米国ブッシュ政権を引き継ぐオバマ新政権は、1兆ドル規模の財政赤字を引き継ぐことになるとされているが、その米国も公的債務残高のGDP比は60%台でしかない。イタリアについては120%となっているが、独、仏、英なども60%前後に止まっている。
公債の発行による財政出動は不況時の景気対策の財源を確保する上で有効であるが、2つの意味合いがある。一つは、いずれ国民負担となる財源の政府関連事業や産業分野への再配分であり、もう一つは負担の次世代への転嫁である。従って、「景気対策」は不可欠であるが、公債への過度の依存は避けることが望ましい。特に既に公債依存度が際立って高く、少子高齢化と環境上の制約で今後相当期間は高成長は期待出来ないことを考慮すると公債への依存は極力抑制することが望ましい。
2、歳出を圧迫している国債費
利子支払いを含む国債費は既に20兆円規模に達し、09年度一般会計(政府案)の約23%にも達し、政策経費に当たる一般歳出の39%に相当する。その約半分前後が利子支払いであり、財政圧迫要因となっている。
公債を発行し、景気対策を実施することはある意味で誰にでも出来るが、それを継続すれば次年度の財政を更に圧迫し、次世代の負担は増加することを考慮すべきであろう。従って、一定の公債発行は止むを得ないが、景気対策を実施する上で、財政規律を維持し、財政健全化を着実に図って行くことが望まれる。
3、膨らむ社会保険関係費
09年度歳出予算において顕著なのは、景気対策の一環として公共事業、特に住宅都市地域環境整備を中心とする事業費が前年比5%増、中小企業対策費7.3%増となっている他は、社会保障関係費が14%増の約25兆円となっていることである。医療介護分野の不足や雇用対策の必要性が叫ばれる中で、年金医療介護の他生活保護や保健衛生対策などにも重点が置かれていることは評価される。
しかし、社会保険関係費の一般歳出に占める比率は52%強に上り、後年度負担として継続することが懸念される。厚生労働省が統合されたメリットを実現するため、更に管理系統の統合・再編、重複する地方事務所の統廃合や地方公共団体との重複業務の削減など、抜本的な簡素化や効率化を図るべきであろう。また、各業務での無駄の排除や意味のある効率化と具体的にサービスを受けた利用者の負担増などを真剣に検討して行くべきであり、安易な歳出増は避けることが望ましいな。大きな福祉・大きな負担か、適度の福祉・適度の負担とするかにつき国民に問うべきなのであろう。
現在、政府与党において、将来の歳入確保の観点から消費税増税が検討されており、2011年度に向けて「必要な法的措置」を行うとの内容で調整が行われている。それがどのような文言となろうとも、現時点で消費税増税の方針が関連法案に明記されれば、景気対策や福祉のため財源が足りなければ赤字公債を含む公債を発行し、公的債務が更に膨張しても将来の消費税増税で返済すれば良いとの安易な姿勢に傾くことになろう。更に、公的債務が膨張すればするほど高率の増税を合理化する恐れもある。
4、問われる「経済緊急対応予備費」の必要性
予備費3、500億円に加え、「経済緊急対応予備費」として1兆円が計上されている。本年の経済情勢については、1月20日に就任したオバマ米新大統領の下での景気対策の規模と迅速性にもよるが、金融危機から派生した経済的2次被害として輸出産業を中心とする製造業への影響が広がり、マイナス成長となることが懸念されている。従ってそのような状況に機動的に対応できるように通常の予備費の他に「経済緊急対応予備費」を計上して置くことも一つの考え方である。しかし、その規模が1兆円と大規模であり、通常の予備費を越える予算措置については、必要であれば補正予算の形で具体的な事業内容を明らかにし、国会審議を経て行うことが望ましい。
09年は先進工業国のほとんどにおいてマイナス成長が予想され、米国発の金融危機から実物経済の悪化に発展する流れとなっている。金融被害の相対的に小さかった日本についても、1月22日、日銀は、経済的2次被害の広がりから、今08年度及び09年度の実質経済成長率をそれぞれマイナス1.8%、マイナス2.0%へと大幅に下方修正した。他方、09年度政府予算案では成長率ゼロを前提としているので、税収が当初予想より更に減少する可能性がある。そうなれば、今08年度はもとより09年度には、当初予算以上に赤字国債を含む国債発行による歳入補填を強いられる恐れがある。見通しの甘さを問われることにもなろうが、結果として更に公債発行が積み上げられ、それが更に財政を圧迫すると共に、将来世代への負担を増加させる恐れがある。
このような経済危機においては、財政支出への過度の依存や日銀による金融措置のみでは対応には限界があり、産業・金融界が自らの問題として難局克服に取り組むと共に、経営者団体、労組、地方公共団体、研究者・機関、その他団体・個人が、それぞれの人的、資金的資源を動員して対処するとの姿勢が不可欠であろう。それを誘導するのが政府の最大の役割とも言えようが、政府が国民の大多数の支持を得ていることが前提となる。(09.01.25.) (Copy Right Reserved.)
1月5日、通常国会が開催され、経済後退の中で今年度第2次補正予算に次いで09年度予算が審議される。
第2次補正については、石油安・物価安の中での2兆円を越える定額給付金の取り扱いなどを含め歳出の適当が審議されている。しかし、ネット・ベースで約4.8兆円規模の補正予算において、歳出の中身だけでなく、その根拠となる歳入の構成が問題となる。今年度の税収は、急速な景気後退のため、7.1兆円強の税収不足が計上されており、それを埋めるために、いわゆる「埋蔵金」(特別会計の余剰金)などの「税外収入」の他は、7.2兆円強の公債、即ち新たな国の借金で賄ことになっている。生活対策の一つとして総額2兆円強が家計に交付されるが、「景気対策」は必要としても、第2次補正のツケは国民、正確には次世代の負担となることを忘れてはならない。仮に、2兆円超の定額給付金を行わなければ、他の必要な施策に当てることも出来るが、その分だけ国の借金を減らし、次世代の負担増を回避することも出来る。
それ以上に、「景気対策」優先政策のため09年度予算規模を拡大するとしても、歳出を支える歳入のあり方が大きな問題となろう。
1、増加する国債依存度
第2次補正後に明年度予算が審議されることになるが、景気対策を継続する観点から、約88.5兆円、対前年度6.6%増の積極予算となっている。
しかし、税収についは、景気の後退から前年度当初見積もりから約7.5兆円減の46.1兆円の低水準となる。従って、税収不足を特別会計からの受け入れ(余剰金)など約5兆円の税外収入の他、33.3兆円の公債で賄うことになり、公債依存度は37.6%(08年度30.5%)と30%ラインを大幅に越えるものになっている。
改革を通じて経済成長を誘導した小泉政権において、06年7月、財政政策に関する基本方針として2011年度において国及び地方の基礎的財政収支(プライマリー・バランス)を黒字化することを決定している。国債発行額については明示されていないが、06年度において各年度30兆円未満に抑制する方針が決定されており、その後その方針は維持されて来た。
しかし、現在審議されている2次補正がそのまま採択されれば、公債発行額は今08年度から30兆円ラインを約2.5兆円上回ることになる。政府の経済予測では、現時点でゼロ成長と予想されているが、経済が回復しなければ09年度に新たな補正も必要となり、更なる公債発行が必要となる恐れがある。政府は、2011年度のプライマリー・バランスの達成を「努力目標」として維持するとはしているものの、事実上の政策転換と言えよう。
日本の公的債務は既に800兆円を越えており、GDP比は先進工業国の中では際立って高く、180%を超えている。金融危機の対応などに追われた米国ブッシュ政権を引き継ぐオバマ新政権は、1兆ドル規模の財政赤字を引き継ぐことになるとされているが、その米国も公的債務残高のGDP比は60%台でしかない。イタリアについては120%となっているが、独、仏、英なども60%前後に止まっている。
公債の発行による財政出動は不況時の景気対策の財源を確保する上で有効であるが、2つの意味合いがある。一つは、いずれ国民負担となる財源の政府関連事業や産業分野への再配分であり、もう一つは負担の次世代への転嫁である。従って、「景気対策」は不可欠であるが、公債への過度の依存は避けることが望ましい。特に既に公債依存度が際立って高く、少子高齢化と環境上の制約で今後相当期間は高成長は期待出来ないことを考慮すると公債への依存は極力抑制することが望ましい。
2、歳出を圧迫している国債費
利子支払いを含む国債費は既に20兆円規模に達し、09年度一般会計(政府案)の約23%にも達し、政策経費に当たる一般歳出の39%に相当する。その約半分前後が利子支払いであり、財政圧迫要因となっている。
公債を発行し、景気対策を実施することはある意味で誰にでも出来るが、それを継続すれば次年度の財政を更に圧迫し、次世代の負担は増加することを考慮すべきであろう。従って、一定の公債発行は止むを得ないが、景気対策を実施する上で、財政規律を維持し、財政健全化を着実に図って行くことが望まれる。
3、膨らむ社会保険関係費
09年度歳出予算において顕著なのは、景気対策の一環として公共事業、特に住宅都市地域環境整備を中心とする事業費が前年比5%増、中小企業対策費7.3%増となっている他は、社会保障関係費が14%増の約25兆円となっていることである。医療介護分野の不足や雇用対策の必要性が叫ばれる中で、年金医療介護の他生活保護や保健衛生対策などにも重点が置かれていることは評価される。
しかし、社会保険関係費の一般歳出に占める比率は52%強に上り、後年度負担として継続することが懸念される。厚生労働省が統合されたメリットを実現するため、更に管理系統の統合・再編、重複する地方事務所の統廃合や地方公共団体との重複業務の削減など、抜本的な簡素化や効率化を図るべきであろう。また、各業務での無駄の排除や意味のある効率化と具体的にサービスを受けた利用者の負担増などを真剣に検討して行くべきであり、安易な歳出増は避けることが望ましいな。大きな福祉・大きな負担か、適度の福祉・適度の負担とするかにつき国民に問うべきなのであろう。
現在、政府与党において、将来の歳入確保の観点から消費税増税が検討されており、2011年度に向けて「必要な法的措置」を行うとの内容で調整が行われている。それがどのような文言となろうとも、現時点で消費税増税の方針が関連法案に明記されれば、景気対策や福祉のため財源が足りなければ赤字公債を含む公債を発行し、公的債務が更に膨張しても将来の消費税増税で返済すれば良いとの安易な姿勢に傾くことになろう。更に、公的債務が膨張すればするほど高率の増税を合理化する恐れもある。
4、問われる「経済緊急対応予備費」の必要性
予備費3、500億円に加え、「経済緊急対応予備費」として1兆円が計上されている。本年の経済情勢については、1月20日に就任したオバマ米新大統領の下での景気対策の規模と迅速性にもよるが、金融危機から派生した経済的2次被害として輸出産業を中心とする製造業への影響が広がり、マイナス成長となることが懸念されている。従ってそのような状況に機動的に対応できるように通常の予備費の他に「経済緊急対応予備費」を計上して置くことも一つの考え方である。しかし、その規模が1兆円と大規模であり、通常の予備費を越える予算措置については、必要であれば補正予算の形で具体的な事業内容を明らかにし、国会審議を経て行うことが望ましい。
09年は先進工業国のほとんどにおいてマイナス成長が予想され、米国発の金融危機から実物経済の悪化に発展する流れとなっている。金融被害の相対的に小さかった日本についても、1月22日、日銀は、経済的2次被害の広がりから、今08年度及び09年度の実質経済成長率をそれぞれマイナス1.8%、マイナス2.0%へと大幅に下方修正した。他方、09年度政府予算案では成長率ゼロを前提としているので、税収が当初予想より更に減少する可能性がある。そうなれば、今08年度はもとより09年度には、当初予算以上に赤字国債を含む国債発行による歳入補填を強いられる恐れがある。見通しの甘さを問われることにもなろうが、結果として更に公債発行が積み上げられ、それが更に財政を圧迫すると共に、将来世代への負担を増加させる恐れがある。
このような経済危機においては、財政支出への過度の依存や日銀による金融措置のみでは対応には限界があり、産業・金融界が自らの問題として難局克服に取り組むと共に、経営者団体、労組、地方公共団体、研究者・機関、その他団体・個人が、それぞれの人的、資金的資源を動員して対処するとの姿勢が不可欠であろう。それを誘導するのが政府の最大の役割とも言えようが、政府が国民の大多数の支持を得ていることが前提となる。(09.01.25.) (Copy Right Reserved.)