湖坊諒平っていうブログ

貧しくも 富士より高し わがモチベ

アンダーラブ vol.2

2015-12-10 07:05:59 | 小説


 その次の週もレッスンがあり、奈々子も健二も参加した。レッスンでは奈々子は大活躍だった。ニコラ先生の難しい問題もみんな正解した。健二はよく理解できず、ただただ奈々子を尊敬した。例によってレッスンの後みんなでコーヒーを飲み、ニコラ先生と工藤さんは先に帰った。
 また奈々子と健二の二人になった。
「この前はどうも。時間、大丈夫ですか?」
と健二が聞いた。
「ええ、こちらこそありがとうございました。大丈夫ですよ。」
奈々子はにっこりした。そして、
「経済学部ってどんな勉強するんですか?」と尋ねた。
「そうですねえ、意外と幅広いんですよ、経済学部って。まず、中心となるのが経済原論、それに金融・財政・経済学史・経済政策・労働経済・計量経済学・国際経済・経済数学・統計学そのたもろもろ・・・」
「こんなことあげつらっても意味ないですよね。ごめんなさい。」
健二は苦笑した。奈々子もつられて笑った。
「ならこうしましょう。中心となる経済原論についてのみお話します。経済学には主に2つの体系があります。近代経済学とマルクス経済学。でも最近では大学で講義されるのはほとんど近代経済学、略して近経です。これにも主に2つの領域があります。ミクロ経済学とマクロ経済学。」
「へぇ~、なんだか難しそう。」
「ミクロ経済学って言うのは細かいところに視点を当てたものです。例えば1消費者とか1生産者、とか。あるいはそれらの交換について、市場(しじょう)って呼んでます。」
「市場、ってスーパーとかのことですか?」
「そうではありません。市場とは需要と供給、つまり財か何かを必要だとする人とそれを生産する人が価格というシグナルのもとに交換することを言います。例えば今ぼくたちは今喫茶店でコーヒーを飲んでいますよね。コーヒーが飲みたいぼくたちとコーヒーを提供したい喫茶店の主。その両者が一杯300円とか、そういった取り決めのもとお金とコーヒーを交換する、それが市場なんです。」
「へぇ。ちょっと面白そう。」
「ありがとうございます。一方のマクロ経済って言うのは経済全体に視点を当てたものなんです。例えば消費者全体・投資部門・政府。開放経済ならこれらに加えて輸出と輸入が加わります。ミクロ経済学でいっていた需要と供給は経済全体の総需要と総供給という視点で考えます。あと国全体の投資についてや、財政政策・金融政策、貨幣論、経済成長についても考えます。」
「難しそうですね。確か経済って数式も出てくるとか・・・?」
「おっしゃるとおり。数式が出てきますね。高等な数学を使った研究も多いですよ。数学者にして経済学者なんて人もいます。奈々子さん数学はお得意ですか?」
「いやあ、もう全然だめです。いつも赤点すれすれです。」
「ハハハ、ぼくもかつてはそうでした。ぼくは高校のときいったん問題の解き方を全部覚えこんでから実際に自分で解く、という勉強法で苦手を克服しました。これでG大の二次の数学、8割取れましたから。自己採点でですが。」
「私でもG大の経済、行けるでしょうか?」
「もちろんですとも。あなたなら行けそう。だからぼくもこんなお話、しておるんです。あっ、でもあなたは法学部志望でしたね。すみませんでした。」
「それはいいんです。でも数学って理系じゃありません? どうして文系なのに数学なんですか?」
「数学は何も理系に限ったものではありません。まあ、一種の哲学みたいなものです。これはぼくの大学時代の恩師の言葉なんですけどもね。ぼくもやはりそうだと思います。」
「ねぇ、もっと聞かせていただけません? 経済のお話。数学でもいいな。」
奈々子はもう興味津々だった。
「いいでしょう。経済と数学か・・・。そうだ、なら先程話したマクロ経済学の基本についてお話しましょう。」
健二は持参していたルーズリーフに数式を書き始めた。

 そうして健二は経済学の話をし、奈々子は熱心に聴いた。あっという間に30分が過ぎた。
「ダメだなあ、ぼくも勉強不足だ。まあ、大学卒業してもう何年もたってるからなあ。」
「そんなことないですよ。健二さんすごく詳しいです。何でもご存知です。そっか、経済学かあ。」
「G大学に来られたらいいですよ。法学部の学生も経済学部の授業、履修できます。」
「でも経済学って面白いけど役に立つかなあ。失礼ですけども。」
「そうですねえ、立つといえば立つし、立たないといえば役に立たない。でも、奈々子さん、こんなのどうです?」
そういって健二はまた別の話をしはじめた。
「ミクロ経済学でよくあるのが2財の選択の話です。例えばりんごとみかんとか。でもこれっていくらたとえ話とは言っても不自然ですよね。実際、世の中には何十万と財やサービスってありますから。でもこれならどうでしょう、奈々子さん。奈々子さんはレッスンのときにコーヒーをお召し上がりになり、レッスンのあとにおかわりをされた。いかがです?もう一杯。」
いや、もういらないです。と、奈々子は答えた。
「ならコーヒーよりお金を選択されたんです。コーヒーとお金、という2財からお金です。」
奈々子は笑顔を見せた。
「なるほど。それなら生活にも関係ありますね。」
「でしょう?かなり強引なたとえですが、こんな見方も出来んですよ。」
そういって健二はにっこりした。
その後二人は7時近くまで話しをし、ともに店を出た。
「今日は女房に遅くなるって行って出てきましたから大丈夫なんです。」
と、健二は言った。
「先週は奥さんに怒られたんですか?」
「ええ、ちょっとね。おかずが冷めた、って。」
さようなら、また来週!そういって二人は分かれた。




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